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2020年3月 7日 (土)

美しい歌を聴かせる

Title:oar
Musician:角銅真実

東京芸大音楽学部器楽科を卒業。その後は舞台や映画への楽曲提供やパーカッショニストとしてceroや原田知世のライブサポートなどにも参加してきた女性シンガーソングライター。今、大きな注目を集めている女性シンガーの一人。本作は、そんな新進気鋭のシンガーソングライターである彼女のメジャーデビュー作となります。

そんな注目のアルバムである本作なのですが、まず今回のアルバムでの最大の特徴となるのが、あくまでも彼女の歌声に焦点を絞ったアルバムである、という点でしょう。彼女の歌声はとても静かなウィスパーボイス気味のボーカル。いわゆる「美声」とはちょっと違った感じなのですが、妙に惹きつけられる魅力を持った歌声になっています。どこかはかなげで幻想的な雰囲気すら感じさせるボーカルを主軸に組み立てている曲がメインのため、全体的にファンタジックな雰囲気の漂う楽曲が魅力的。かつ、アコースティックギターやピアノ、ストリングスをメインとしたアコースティックなサウンドで彼女の歌声を引き立てます。

そんな彼女の歌声が特に際立っていたのが、今回のアルバムに収録されている「いかれたBaby」ではないでしょうか。かのFishmansの名曲のカバーなのですが、ピアノをメインとしたアレンジに静かに聴かせる彼女のボーカルが実に涙腺を刺激するカバーになっています。ダビーなアレンジが印象に残る原曲の中から、素晴らしいメロディーラインという本質のみを取り出したようなカバーとなっており、原曲の素晴らしさを再認識できると共に、彼女のボーカリストとしての表現力の素晴らしさも感じることが出来るカバーになっています。

もちろんオリジナルアルバムも優れたポップチューンが多く収録されています。彼女の歌を聴かせることに主眼を置いたような楽曲であるため、ともすればメロディーラインについてはちょっと地味な印象も否定できないのですが、例えば「寄り道」などは、かなりしっかりとしたフックの効いたメロディーラインが流れており、派手なアレンジを施せば、ヒットチャートでも勝負できそうという印象を受けます。そういう意味では「ソングライター」としての彼女の才もしっかりと感じることが出来ます。

さらに歌詞の世界もまた、彼女の歌声を引き立てるような、シンプルで、かつあえて隙間を残したような世界観を構築しており、強い印象が残ります。具体的な言葉を綴り、その歌詞の中の風景をしっかりと描写しながらも、そこに描かれず、リスナーの想像にゆだねるような部分が多く、この歌詞の世界がまた、彼女の歌の大きな魅力のように感じました。

また、サウンドの方もシンプルなアコースティックサウンド、といっても決して平平凡凡な内容ではありません。彼女と同じ東京芸大出身のジャズドラマー、石若駿(King Gnuの元メンバーだそうです)やギタリストの中村大史、西田修大など、こちらも新進気鋭の実力派が参加しており、例えば「わたしの金曜日」は、明るさを感じる軽快でちょっとジャジーなピアノやストリングスの音色が見事ですし、「6月の窓」などもアコースティックな作風ながらもさりげないジャジーなピアノが楽曲に奥深さを与えています。サウンドの側面からもしっかりと彼女の実力を下支えしています。

決して派手なアルバムではありませんが、間違いなく彼女の才能を感じさせる傑作アルバム。今年のベスト盤候補が早くも登場か?とも思えるような作品でした。これからの活躍が本当に楽しみになってくる1枚。ちなみに苗字の読み方はそのまま「かくどう」だそうで、珍しい名前。ただ、これからその名前を聞く機会は増えそうです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Beautiful People/久保田利伸

約4年ぶりとなるニューアルバム。御年57歳となるベテランシンガーだけに目新しさは感じなく、良くも悪くも安定感のあるアルバムになっているのですが、ファンキーなサウンドにはアラ還とは思えない若々しさと現役感があり、一方、メロウに聴かせる楽曲については、キャリアなりの表現力、深みを感じさせる点、そんじょそこらの若手では出せない味わいを感じさせるアルバムになっていました。

評価:★★★★

久保田利伸 過去の作品
Timeless Fly
Gold Skool
THE BADDEST~Hit Parade~
L.O.K.
THE BADDEST~Collaboration~
3周まわって素でLive!~THE HOUSE PARTY! ~

0/Superfly

約4年半ぶりとなるSuperflyのニューアルバムは、正直言って、「どうしちゃったんだろう?」と思うようなポップな作風に。Superflyといえばルーツ志向のゴリゴリのロックなサウンドを出しつつ、ちょっとベタなメロという組み合わせがユニークだったのですが、そのルーツ志向路線はGLIM SPANKYに売り渡しちゃったの??と思うほどの爽やかなポップ路線にシフトしてしまっています。今回、ほぼ全曲、作曲は越智志帆が手掛けているのですが、彼女の音楽的志向は実はこういうポップ路線だったのでしょうか。結果としてSuperflyらしさがほとんどなくなってしまい、平凡なJ-POPアルバムになってしまっているのが実に残念。ただ、ほぼ全曲越智志帆が作詞作曲を手掛けているということは、今後はこういう路線にシフトしてしまうのでしょうか…。

評価:★★★

Superfly 過去の作品
Superfly
Box Emotions
Wildflower&Cover Songs:Complete Best 'TRACK3'
Mind Travel
Force
Superfly BEST
WHITE
黒い雫 & Coupling Songs:`Side B`
Superfly 10th Anniversary Greatest Hits “LOVE, PEACE&FIRE”

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