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2020年3月21日 (土)

真面目な電気グルーヴ

本日は最近読んだ音楽関連の書籍に関する紹介。今回は、電気グルーヴが機材専門誌「Sound&Recording Magazine」で受けたインタビューを中心にまとめたムック誌「電気グルーヴのSound & Recording 〜PRODUCTION INTERVIEWS 1992-2019」です。

電気グルーヴというと、一般誌などでのインタビューでは人を食ったような発言などでユーモラスなものが多い印象ですが、この「Sound&Recording Magazine」ではうってかわって、そのようなユーモラスな発言は皆無。機材専門誌ということもあり、あくまでも使用した機材や録音方法などの話がメイン。そのため、初期から今に至るまで、一般的な彼らのイメージとは異なる、音楽に対して非常に真摯な、真面目な電気グルーヴの姿を読むことが出来ます。

本誌では、基本的にアルバム毎に順を追ってインタビューを掲載。アルバムによっては当時、インタビューを受けていない作品もあったため、そのようなアルバムも今回あらためてインタビューを行っています。その上で最後には「30年の音楽活動を振り返って」という最新の総括的なインタビューが行われている構成となっています。

話としては比較的専門的な話がメイン。私はといえば、シーケンサーやリズムマシーンとかがどのようなものか・・・という程度しか知らないずぶの素人。それだけにインタビューを読んでもおもしろくないのではないか、と懸念していたのですが、しかしとんでもない、読んでいて非常に興味深い内容になっていって、一気に読み進むことが出来ました。確かに、登場する機材などはほとんど知らないのですが、アルバム毎にそれらの機材をどのように使っていったか、という話は機材に詳しくなくてもとても興味深く読むことが出来ます。

このような機材や録音方法の話は他の音専誌ではなかなか読むことが出来ませんし、また登場する機材も写真で紹介されており、詳しく知らないとはいえ、写真をながめるだけでワクワクしてしまいます。石野卓球のスタジオの話もいままで詳しく知りませんでしたし、「Takkyu Studio」の写真が載っているのもうれしい限り。また、初期の彼らは様々な機材をうれしそうに作品の中で使い、一種の「機材オタク」みたいな感もあったのですが、年齢を経るにつれ、機材の進歩もあるのですが、徐々に最低限の機材に絞っていっている感じも、彼らがミュージシャンとして熟練されていく感もあり、おもしろさを感じます。特に「TROPICAL LOVE」はなんと、私の手元のiphoneにもインストールされているAPPLE GarageBandでほとんど作成されたというエピソードには、まさに「弘法、筆を選ばず」という言葉が浮かんできました。

さて、そんな興味深いインタビュー集ですが、あえてこの時期に発売される、という点も今回注目すべき点でしょう。ご存じの通り、昨年、ピエール瀧が覚せい剤所持で逮捕。現在もまだ、電気グルーヴの音源は発売停止の状態となっており、音楽活動も止まったままとなっています。そのような中であえて電気グルーヴの本を発売するというあたりに、これは、以前「電気グルーヴのメロン牧場ー死神は花嫁<6>」の感想でも書いたのですが、レコード会社のような安易な販売停止処分という処置を取らない、表現・言論の自由に対する出版業界の矜持を感じます。

今回、なんと本の中で使用されているCDのジャケットが写真ではなくイラストが使用されています。これはおそらく、CDジャケットに対して権利を有するソニーレコードが、ジャケット写真の使用を認めなかったためでしょう。出版社とは真逆の、レコード会社のあまりのケツの穴の小ささを感じさせる、情けない事例になってしまいました。

ちなみにアルバム「30」のインタビューの時に、インタビュアーが30年、活動を続ける秘訣を聴いているのですが、それに対するピエール瀧の回答として「オマエの卓球を探せ!そして仲良くやれ!以上。」(p103)と回答しているのですが、この回答が例の事件以降も有効であり、いままで以上に重みを増している点に感慨深く思ってしまいます。また、「30年の音楽活動を振り返って」ではピエール瀧ももちろんインタビューに参加。彼の最新の写真も収録されており、なんだかんだいっても彼の血色のよい穏やかな表情がうつった写真にうれしくなってしまいます。

そのインタビューでは「30周年の活動期間が短かったので『31』というアルバムを出そうと思っています。」(p109)なんていうとてもうれしい発言も。さらに今後の活動を聴かれ、まずは石野卓球が「とりあえず、サンレコのこの本と『メロン牧場』(ロッキング・オン)っていう出版業界のサポートで再始動できたので感謝しています。」(p111)と礼を述べているあたりに、なにげに彼の誠実な人柄もうかがえます。この2人は本当に人の食った発言をしつつも、音楽に対しては至って真摯かつ真面目な発言ばかりなんですよね。そういう意味でも彼らの人柄も感じられるインタビュー集。ファンなら必読です!

そういえば、電気グルーヴで思い出したのですが、先日、覚せい剤保持容疑で逮捕されて先日起訴された槇原敬之ですが、今に至ってもCDは販売停止になっておらず、配信も継続しています。おそらく彼は自身のレーベルを持っている影響なんでしょう。もともと覚せい剤逮捕でCD回収という悪弊が恒例になったのは、最初の槇原敬之逮捕に伴うCD回収がきっかけという説があります。もし、この状態が続けば、皮肉なことですが槇原敬之の2度目の逮捕が彼が最初につくった悪弊がなくなることになりそう。槇原敬之の逮捕は非常に残念なのですが、もしCD回収、配信停止がなくなれば、そのことだけは、今回の逮捕の「よかったこと」かもしれないですね。

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