エチオ・ジャズ、マリの音楽、HIP HOPの融合
Title:Visions Of Selam
Musician:Arat Kilo,Mamani Keita,Mike Ladd
今回紹介するアルバムも、2019年の各種メディアが選出したベストアルバムのうち、まだ聴いていなかった1枚を後追いで聴いた作品。本作は、パリを拠点に活躍するエチオ・ジャズ(エチオピアの伝統的な音楽とジャズを融合させた音楽)を奏でるグループArat Kiloを中心とした異色のコラボにより生みだされたアルバムで、コラボレーションを組んだのは、アフリカはマリの女性シンガーMamani Keitaと、Arat Kiloと同じくパリを拠点として活動するHIP HOPミュージシャン、Mike Laddの3人。エチオピア、マリの音楽にHIP HOPが加わったコラボレーション。タイトルの「Selam」とはエチオピアの公用語、アムハラ語で「平和」を意味するそうで、まさに様々な異なるタイプのミュージシャンと手を組んだコラボは音楽を通じての「平和」を表現している、と言えるかもしれません。
そんな3人のコラボは、それぞれの音楽のジャンルがガッチリと重なりあい、見事な化学反応を果たした素晴らしいコラボに仕上がっています。力強いホーンセッションとリズムをグルーヴィーに奏でるArat Kiloのエチオ・ジャズにのる、Mike Laddのトライバルな雰囲気を漂わせるラップとMamani Keitaの伸びやかなボーカルの組み合わせがしっかりとマッチ。おそらくそんな3人の持ち味が最もいかされた1曲が「Soul Flood」。Arat Kiloのフリーキーさも感じさせるジャズセッションに、ラップと歌がしっかりとマッチしています。
終盤の「Vizeplio」もその3人の持ち味が生かされたナンバーでしょう。バンドのグルーヴィーなサウンドに、Mike LaddとMamani Keitaのコールアンドレスポンスのような掛け合いがのる、疾走感あふれる楽曲。聴いていてなによりも身体が動き出しそうな、リズミカルな楽曲に仕上がっています。
ほかにも「Dou Coula」では、郷愁を感じさせるMamani Keitaの伸びやかな歌声と、Mike Laddの語るような渋いラップが印象に残るナンバーに。こちらは楽曲の「歌」の部分に主軸を置いたような楽曲になっています。「Dia Barani」ではMike Laddが歌にも挑戦。彼の渋いボーカルから絞り出すように歌われる哀愁感あふれる歌声が非常に魅力的に感じます。
一方で「Nafqot」はダビーなサウンドを聴かせるインストのナンバーで、Arat Kiloがまさに主役を務めるような楽曲。ちょっと妖艶さを感じさせるダブのアレンジが魅力的なナンバーになっており、ほかの曲とはまた異なるArat Kiloの魅力を伝えてくる楽曲に仕上がっています。
そんな3組のミュージシャンがそれぞれの持ち味をしっかりと出した楽曲が並ぶアルバムになった本作ですが、ひとつ大きな特徴だったのが、個性豊かな3組が奏でるアルバムであるにも関わらず、それぞれの個性が決してぶつかり合いにならずに、ちゃんとお互いの持ち味を尊重しあいながらコラボしているという点でした。例えばMike LaddとMamani Keitaの掛け合いにしても、この手のコラボでありがちな、緊迫感あるスリリングな掛け合いというよりも(それはそれで魅力的ではありますが)、お互いがしっかり相手を立てているようなデゥオになっており、そこにある種の緊迫感みたいなものは感じません。まさにタイトルの「Selam」=「平和」の通り、メンバー全員が音楽を楽しんでいるような、そんなアルバムに仕上がっていました。
まさに理想的なコラボとなっていた今回のアルバム。年間ベストに選出されるのも納得の傑作アルバムだったと思います。また、このメンバーでのライブがあったらとても気持ちいいんだろうなぁ、とも感じてしまう心地よさ。このコラボ、本作限りなのでしょうか。それだとしたらちょっともったいない・・・。是非、このメンバーで2枚目、3枚目が聴いてみたい、そう強く感じたアルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Bad Vibes Forever/XXXTentacion
2018年に銃撃により、わずか20歳という若さでこの世を去ったアメリカのラッパーXXXTentacion。例の如く、死後も未発表曲でアルバムがリリースされ続けているのですが、これがその死後にリリースされた2枚目となるアルバム。HIP HOPというよりも、哀愁感たっぷりのメロを聴かせる歌モノがメインで、楽曲的にもトラップからロックまで幅広い作風が魅力的。HIP HOPという枠組みを超えて楽しめるアルバムになっているのですが、全25曲というのはちょっと多すぎかも…。1曲あたり1、2分程度の短い曲がメインなので、25曲とはいえ1時間弱という短さなのですが、それでもバラエティーの多さもあって、この曲数だとちょっとゴチャゴチャしてしまったような感じがします。以前のアルバムは、それこそ30分程度か、前作「SKINS」に至っては20分弱という内容だっただけに、簡潔に楽しめたのですが、今回は未発表曲を詰め込み過ぎたような感があります。もうちょっとすっきりと整理してほしかったなぁ。
評価:★★★★
WHO/THE WHO
世界のロック史を代表するバンドによる約13年ぶりとなるニューアルバム。ダイナミックなサウンドに力強いボーカルは現役感たっぷりで、間違いなくオールドファンにとっては、まだ現役バリバリで活動するメンバーの姿がうれしいアルバムになっている…のですが、やはり楽曲的には昔ながらのロックを体現化しました、といった感じで、良くも悪くも「骨董品」といった印象も。サイケやロックンロール、ブルースロックなども内包した幅広い音楽性を聴かせる点はさすがですが、なんか、昔ながらのロックシーンの「同窓会」的なアルバムといった印象も…。
評価:★★★★
THE WHO 過去の作品
Endless Wire
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