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2020年3月13日 (金)

聴き終わった後に「苦み」が

Title:Be Up A Hello
Musician:Squarepusher

Squarepusherの5年ぶりとなるニューアルバム・・・・・・というと、かなり「意外」と感じる方も多いのではないでしょうか。基本的にSquarepusherはワーカホリックという印象もあり、しょっちゅうアルバムをリリースしている、という印象もある彼。実際、昨年には彼が作曲を手掛け、オルガン奏者James McVinnieが演奏を手掛けた「All Night Chroma」というアルバムがリリースされていますし、2017年には彼が率いるバンドShobaleader One名義でもアルバムをリリースしています。そんなこともあって、5年ぶりのアルバム・・・といっても「久しぶり」という感覚はほとんどありません。

とはいえ、実際にSquarepusher名義でリリースされたのは2015年の「Damogen Furies」以来となりますので、Squarepusherとしては久しぶりとなるアルバム。そして今回のアルバムはドラムンベースがさく裂している、ある意味、実にSquarepusherらしいアルバムに仕上がっています。ここ最近は、例えばShobaleader Oneのようなバンドとしてのアルバムでしたり、前作「Damogen Furies」もワンテイクでの録音にこだわった作品だったりと、趣向をこらした作品、あえていえばちょっと「脇道」にそれた作品が続いていました。

しかし本作は彼の王道路線とも言っていい作品。例えば「Nervelevers」などは細かなビートがヘヴィーに繰り広げられる、まさにSquarepusherらしいハードコアな作品。「Vortrack」も細かい波形を描くリズムが楽曲をつんざく、彼らしい、強烈なリズムの楽曲に仕上がっています。まさに今回のアルバムは、5年待ったかいのあった、Squarepusherらしいサウンドが楽しめる作品と言えるでしょう。

そしてそんなサウンドが強烈に耳をつんざく中、今回のアルバムの大きな特徴はポップなメロディーラインが流れた曲が目立つ、ということでしょう。Squarepusherとポップ・・・ある意味、「真逆」というべき関係、とも言えるかもしれません。しかし1曲目「Oberlove」は、彼らしいドリルンベースのサウンドが流れる中、確実にシンセでのポップなメロディーラインが流れており、「エレクトロポップ」とすら表現できそうな作品になっています。続く「Hitsonu」も、わかりやすいポップなメロディーラインこそないものの、軽快なエレクトロサウンドが流れる曲となっており、いい意味で聴きやすいナンバーに仕上がっています。

特に印象的だったのが中盤の「Detroit People Mover」。エレクトロノイズが流れつつ、ミディアムテンポで聴かせるサウンドは哀愁感すら感じられ、ともすれば「歌謡曲的」とすら感じるメロディーが聴こえてくるような楽曲に仕上がっていました。もっとも、このようなポップなメロディーライン、実はいままでの彼の曲の根底には、このようなポップスセンスが裏付けされており、それがSquarepusherのサウンドを魅力的にさせていたのではないか・・・今回のアルバムを聴いて、あらためて彼の楽曲の魅力を再認識したように感じます。

さらに全体的にポップに仕上がった、といっても決して陳腐という印象は受けません。それはそれらの楽曲も含めて、彼の個性がいかんなく発揮された強烈なサウンドとリズムが常に流れていたからでしょう。いろいろな趣向を凝らしたアルバムをリリースした後にたどり着いた今回のアルバム。サウンドからも今まで以上の勢いを感じられ、「王道路線」とはいえ、そこにマンネリ感はありませんでした。

そしてそんなポップなアルバムであるにも関わらず、ラストを締めくくる「80 Ondula」は非常に暗く、不気味でメタリックなエレクトロサウンドで締めくくられており、「いやらしい」聴後感を覚える作品になっています。ある意味、とても甘いドリンクを飲みだしたと思ったら、最後にどこか苦みが残ったような・・・。ただ、この最後に残る苦みがまた大きなインパクトになりとても魅力的。そう感じるアルバムになっていました。

まさに快心の傑作という印象の強い今回のアルバム。いい意味で最初の聴きやすさとサウンドの王道さから、Squarepusherをこれから聴き始めようとする人にもピッタリな作品だったのはないでしょうか。しかし、聴き終わった後に感じる「苦み」から、やはり彼がただものではないと感じさせますし、次のアルバムも期待できそう。彼らしさがつまった傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

SQUAREPUSHER 過去の作品
Just a Souvenir
SHOBALEADER ONE-d'DEMONSTRATOR
UFABULUM
Music for Robots(Squarepusher x Z-Machines)
Damogen Furies


ほかに聴いたアルバム

Suite for Max Brown/Jeff Parker

ポストロックバンド、トータスのメンバーであり、自身もジャズギタリストとして活動しているJeff Parkerの新作。エレクトロサウンドの要素が強く、ファンキーな作品でよりブラック色の強い作品やメタリックな作品などバラエティー豊富な作品が魅力的。ダイナミックなバンドサウンドを聴かせるような曲もあるが、王道路線とも言うべきモダンジャズの要素が強く、基本、エレピで軽快なサウンドを聴かせる作品となっています。トータスのメンバーによる…という名前のイメージから来るような、実験的な要素よりも、いい意味で聴きやすさのある作品でした。

評価:★★★★★

Have We Met/Destroyer

カナダのインディーロックバンドによる12枚目となるアルバム。語るような渋みのあるボーカルでゆっくりと聴かせつつ、エレクトロサウンドを取り入れたニューウェーヴ風の楽曲が魅力的。その渋みのあるボーカルもあり、哀愁感を漂わせつつゆっくりとスケール感を持って聴かせる楽曲がメイン。最初は地味な印象もありいまひとつピンと来ないままアルバムを聴き進めていったのですが、いつのまにかその歌声とサウンドにはまっていってしまう、そんな作品でした。

評価:★★★★★

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