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2020年3月31日 (火)

共に歩む

Title:BRIGHT NEW WORLD
Musician:Little Glee Monster

昨年末まで3年連続紅白に出演。さらに本作はBillboard Hot Albums及びオリコンの週間ランキングで1位を獲得するなど、高い人気を確固たるものとしているLittle Glee Monster。本作は「FLAVE」から約1年ぶりとなるニューアルバムなのですが、昨年12月には5曲入りのEP「I Feel The Light」をリリース。その表題曲ではなんと、EARTH,WIND&FIREをフューチャーし、大きな話題となりました。

今回、その「I Feel The Light」も収録したフルアルバムとなったのですが、ひとつ大きな特徴としてはこの曲もそうなのですが、いままでのJ-POP路線を主軸にしながらも、徐々にファンク、ソウル、R&Bなどを取り入れた洋楽路線にシフトしつつある、ということがあげられます。EW&Fバリのファンキーな「I Feel The Light」を筆頭に、続く「Baby Baby」も軽快なファンクポップに仕上げていますし、「In Your Calling」ではゴスペルの要素も感じさせます。

その洋楽シフトが顕著なのが作家陣。軽快なポップチューン「Symphony」では「バッド・デイ〜ついてない日の応援歌」の大ヒットでおなじみのDaniel Powterが参加。「move on」「SPIN」ではアメリカのEDMミュージシャンMelanie Fontanaが参加するなど、海外の作家陣が参加しています。

ただ、ここで注目したいのが、彼女たちが今回、いきなり本格的なソウルやR&Bに挑戦している…訳ではない、という点です。基本的に同作に収録されている先行シングル「ECHO」「君に届くまで」はどちらも王道的なJ-POPソング。また、Daniel Powterの書くメロディーラインは日本人にとって親和性が強く、「Symphony」も至ってオーソドックスなポップチューンになっています。Melanie Fontanaにしても、BTSやTwiceなどのK-POP勢への楽曲提供でおなじみのミュージシャンで、かつては倖田來未に楽曲を提供した経歴もあるなど、本格的にR&Bを書くミュージシャンというよりも、ティーンズ向けのポップソングが主戦場といった作家。彼らが参加した曲にしても、おそらく洋楽を全く聴かないような日本の中高生世代にとって難なく受け入れられそうなポップソングとなっています。

おそらく本格的に洋楽へシフト、というよりも彼女たちの主なファン層である、ソウルやR&Bになじみのない中高生層に、徐々にソウルやR&Bへ親しみを持ってもらうために、少しずつ洋楽方面にシフトしている、といった印象を受けます。そういう意味ではLittle Glee Monsterの制作者側で、徐々に彼女たちのファン層の「耳」を育てていこう、という長期的な戦略すら感じます。

そして肝心のLittle Glee Monster自体も、少しずつですが成長を感じます。以前から指摘している通り、彼女たちはボーカリストとして技巧的な側面では優れているものの、表現力という点ではかなり厳しいものがありました。しかし、何作かアルバムをリリースし、また彼女たちも少しずつ年齢を重ねるにつれ、徐々にボーカリストとしての表現力がついてきたように感じます。今回のアルバムも、技巧に頼った平坦な歌い方から、徐々に感情のこもった歌い方にシフトそているようにも感じました。そういう意味でも彼女たちの成長を感じます。

思えばLittle Glee Monsterというミュージシャンは、同じ世代のファンにとっては、共に成長していくことを感じられるミュージシャンと言えるかもしれません。そして同時に、彼女たちの歌う楽曲を通じて、ファンも徐々に育っていく、そんなファンにとっては共に歩んでいくことができるミュージシャンなのではないでしょうか。おそらく意図的に、徐々に本格派路線にシフトしていく戦略と、そして徐々に成長していく彼女たちのボーカリストとしての力量を今回のアルバムで目の当たりにすることにより、そんなことを考えてしまいました。

いい意味で彼女たちはレコード会社や事務所の側からも上手い具合に大事に育てられている、そんな感も受けます。まだまだボーカリストとしては未熟な部分の多い彼女たちですが、これからの成長が実に楽しみにもなってきます。10年後の彼女たちがとても楽しみ…そう感じるオリジナルアルバムでした。

評価:★★★★

Little Glee Monster 過去の作品
Joyful Monster
juice
FLAVA
I Feel The Light


ほかに聴いたアルバム

POOL e.p./the band apart

2018年に結成20年を迎えたthe band apart。ベスト盤のリリースなどもあり、その活動に一つ、区切りをつけました。そして2019年にはじめてリリースしたのが4曲入りのEP盤。「POOL」というイメージからかどうかはわからないのですが、ちょっと「夏」を感じさせるような(リリースは10月ですが・・・)爽やかなシティポップチューン4曲が並んでいます。20周年記念のベスト盤を聴いた時、変わらないthe band apartの楽曲のクオリティの高さを再認識したのですが、今回のEP盤も、あらためて彼らの楽曲の変わらないクオリティの高さを認識させられる4曲となっていました。

評価:★★★★★

the band apart 過去の作品
Adze of penguin
shit
the Surface ep
SCENT OF AUGUST
街の14景
謎のオープンワールド
1(the band apart(naked))
Memories to Go
前へ(□□□ feat.the band apart)
2(the band apart(naked))
20years

White White/XIIX

UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介と、米津玄師やゆずなどのサポートベーシストとしても活躍している須藤優が結成したユニットによるデビューアルバム。基本的にはUNISON SQUARE GARDENの延長線上にあるようなポップなメロディーを主軸としたユニットですが、UNISONに比べると、メロウでポップなシティポップ寄りの楽曲が並びます。斎藤宏介の特徴的な甲高いボーカルが耳に残るため、どうしてもUNISONに似ていると感じてしまう部分はあるのですが、UNISONとは異なる方向性の挑戦も確実に感じられるユニットです。

評価:★★★★

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