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2020年2月 7日 (金)

昭和の香りがプンプン

Title:井上順のプレイボーイ講座12章
Musician:小西康陽とプレイボーイズ

先日、pizzicato fiveのベスト盤をリリースしたばかりの小西康陽。そんな彼の最新作は、なんと1969年にリリースされ、ジャパニーズラウンジの名盤として知られる前田憲男とプレイボーイズ「円楽のプレイボーイ講座12章」のオマージュ。元となった「円楽の~」は、かの先代三遊亭円楽のギザな語り口によりプレイボーイの心得を語りつつ、バックでジャジーなサウンドが流れる構成のアルバムなのですが、本作も同様の構成。プレイボーイの心得を語るのは、元スパイダーズのメンバーで、俳優として活躍している井上順。バックには小西康陽とプレイボーイズによるラウンジミュージックが流れる構成のアルバムとなっています。

そんな本作は、ジャケット写真からしてもそうなのですが、終始昭和の香りがプンプンとたちこめるアルバム。本作のシナリオを手掛けるのは昭和の事象に造詣の深い漫談家の寒空はだか。一話についてひとりの女性との出会いやエピソードを描いているのですが、まさに昭和30年、40年代あたりの昭和の東京の雰囲気を映し出すような風景描写や単語の選択が見事。「6月 須田町のいずみ」なんかは、神田須田町でのエピソードを取り上げられているのですが、当時、神田須田町は各地からの都電路線が集約されているような場所だったそうで、こういう令和の今では完全に忘れ去られたような場所がサラリと出てくるあたり、昭和の空気をしっかりと詰め込んでいることを感じます。単語的にもよく登場するのが女の子を表現する「カワイ子ちゃん」という言葉。これも完全に昭和的ですね。こんな単語を聴いたのは一体何年ぶりだろう…。

バックに流れるラウンジのサウンドも、実に昭和的。ジャズギタリスト田辺充邦が全編に編曲・演奏として参加しているのですが、最近はやりのソウルやHIP HOPの要素を取り込んだエレクトロジャズとはまさしく対極を行くような、まさに昔ながらの昭和風の喫茶店で流れてくるようなジャズ。童謡の「一月一日」からはじまり、ザ・スパイダーズの楽曲で井上順がソロで歌った「なんとなくなんとなく」や、ご存じPizzicato Fiveの「東京は夜の七時」。さらには同じく井上順の「お世話になりました」などをジャズ風にカバー。ベタともいえるジャズアレンジとなっており、このベタさも含めて非常に昭和の雰囲気を強く感じる作品になっています。

そんな昭和のなつかしさを漂わせる洒落た雰囲気がムンムンと漂ってくる本作ですが、正直言うと、一歩間違えれば「時代遅れのダサい作品」になりうる可能性もある、絶妙なバランスの上で成り立っているアルバムになっています。例えば前述の「カワイ子ちゃん」という表現も、普通に使えばかなり寒い表現ですし、出会った女性との物語も一歩間違えれば、おじさんのウザい昔話になる可能性もあります。ラウンジのジャズにしても、ポピュラーミュージックのジャズアレンジという点自体、一歩間違えればBGMとして流されてしまいそうな陳腐なイージーリスニングになる危険性もあります。

ただ、そういう「一歩間違えると一気にダサくなるようなパーツ」を見事に組み合わせて、カッコいい作品に仕上げているのは、小西康陽のプロデューサーとしての実力、センスの良さでしょうし、また、今回のアルバムに参加している人たちの絶妙なセンスの良さによる部分が大きいように思います。例えば井上順のナレーションも、もっと若い俳優を起用すれば、おそらく不自然な昭和感が嫌味になってしまいそうです。彼の、ほどよくプレイボーイらしくも、ほどほどに枯れた味のある声によるナレーションだったからこそ、嫌味なく、昭和の雰囲気がよく伝わるナレーションとなったのではないでしょうか。

それだけに、ここで語られているような同じ内容を、会社の飲み会などで50歳過ぎにおやじが語ったとしても、おそらく老害おやじの戯言として、若い世代が一気に引いてしまうのは間違いなしなので要注意(笑)。ちなみにジャケット写真の女性はサイパージャパンダンサーズというアイドルグループのJUNON。彼女のどこか昭和な感じもする雰囲気もアルバムにピッタリマッチ。ここらへんの人選も見事。いろいろな面が絶妙なバランスで成り立っている、センスの良さを強く感じる昭和のアルバムでした。

評価:★★★★★

小西康陽(PIZZICATO ONE) 過去の作品
ATTRACTIONS! KONISHI YASUHARU Remixes 1996-2010
11のとても悲しい歌(PIZZICATO ONE)
わたくしの二十世紀(PIZZICATO ONE)
なぜ小西康陽のドラマBGMは テレビのバラエティ番組で よく使われるのか。


ほかに聴いたアルバム

to the MOON e.p./Yogee New Waves

Yogee New Wavesの新作は表題曲含む5曲入りのEP盤。フォーキーなシティポップで、ドリーミーな雰囲気漂う楽曲、という方向性はいままでのYogeeと同様。ただ、その方向性を愚直に進めた結果、徐々にYogee New Wavesらしさが出てきているような感があります。いままでの作品ではインパクトの弱さが気になっていたのですが、5曲入りという短さもあるかもしれませんが、彼らの独特な作風が妙に耳に残る作品に。次回作が楽しみになってくる作品でした。

評価:★★★★★

Yogee New Waves 過去の作品
WAVE
SPRING CAVE e.p.
BLUEHARLEM

MAN STEALS THE STARS/SOIL&“PIMP”SESSIONS

約1年半ぶりとなるSOIL&"PIMP"SESSIONSのニューアルバム。数多くのゲストシンガーが参加した前作から一転、全編インストとなった本作。ムーディーな雰囲気のメロが目立つ半面、分厚いサウンドが押し寄せるようなダイナミックなサウンドやエレクトロ路線の楽曲も。良く言えばバラエティー豊富な作風となっているのですが、バンドとしての軸が定められず、若干迷走している感も。「デスジャズ」を標ぼうしていた以前ような「怪しさ」は皆無となってしまっており、バンドとしての方向性を見失っている感じもします。前作もそうだったのですが、もうちょっと彼らの軸足を定めた方がいいのではないか…そう感じたアルバムでした。

評価:★★★

SOIL&"PIMP"SESSIONS 過去の作品
PLANET PIMP
SOIL&"PIMP"SESSIONS presents STONED PIRATES RADIO
MAGNETIC SOIL
"X"Chronicle of SOIL&"PIMP"SESSINS
Brothers & Sisters
BLACK TRACK
DAPPER

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