柴田、暴走しまくり
Title:週刊青春
Musician:忘れらんねえよ
2018年にベースの梅津拓也が脱退し、ついに柴田隆浩の1人バンドとなってしまったパンクバンド、忘れらんねえよ。もともと、決定的にもてない男性の、あまりに明け透けな心の叫びをそのまま歌にする、いわばルサンチマンの塊のようなバンドでしたが、柴田隆浩のソロバンドとなってからは、その方向性でさらに暴走。ソロになって初となるミニアルバムだった前作「あいつロングシュート決めてあの娘が歓声をあげてそのとき俺は家にいた」では、多分、人によっては完全に引いてしまうくらいの、もてない男性の心の叫びをそのまま歌詞にした楽曲が並んでおり、柴田隆浩がおそらくバンドで本当に歌いたかったことをそのまま楽曲にしたような作品が並んでいました。
そしてそれに続く本作についても、完全に柴田隆浩の暴走が続いています。例えばタイトルからしてかなり露骨な「YouTuberになればモテると聞いた」では、学生生活の中でいわゆる「二軍」扱いされた彼のイタイまでの日常がかなりリアルに描かれており、
「放課後 夕暮れ光差す教室で
あの娘は一軍の男たちとはしゃいでいる
それはダメ そんなの恋が始まっちゃうじゃんか
俺は思わずそこに近づいていく
『なんだよ柴田』山崎が言う 俺は答える
『いや?なんだか楽しそうだな?って思ってw』
しーん 重苦しい空気
汗が出る 夕焼けが灼熱のようだ
変わりたい 変わりたい 俺変わりたいよ」
(「YouTuberになればモテると聞いた」より 作詞 柴田隆浩)
というフレーズだけでも、まさに情景とその空気感を痛々しいまでに感じることが出来ます。また、誰もかれもみんなもともとは精子だった、と元も子もない、しかしある種の真実をついた下ネタソング「みんなもともと精子」もある意味、柴田隆浩らしい視点が魅力的。さらには「愛情も才能も怒りも憎しみも/あの娘に俺は分からねえ」と歌う「あの娘に俺が分かってたまるか」も、自意識が暴走しまくっているあたりも、いかにもモテない男子の「あるある」な話で、リアルさを強く感じてしまいます。
かと思えば一方では「なつみ」のように一人の女性に対する思いをストレートに歌い上げるラブソングがあったり、「だっせー恋ばっかしやがって」というような、モテない男子に対する力強いエールを歌い上げる曲もあったりと、単なる柴田隆浩のルサンチマンが暴走するだけではなく、しっかりと彼なりのメッセージが込められた心に響く曲も何曲も収録されています。
そんな彼の思いがのせられているのは非常にストレートでパンクなギターロック。比較的シンプルなバンドサウンドがメインとなっており、サウンド的にバリエーションがある訳ではありません。しかし、力強くノイジーなギターサウンドは、柴田隆浩のあふれるまでの思いをのせるのにまさにピッタリ。こういう痛いまでの思いを発現することこそ、ロックンロールという音楽の醍醐味ではないでしょうか。間違いなく実にロックらしいロックと言えるかもしれません。
ただちょっと残念だったのが前作のミニアルバム「あいつロングシュート決めてあの娘が歓声をあげてそのとき俺は家にいた」から表題曲を含め3曲も重複して収録されていた点。ひょっとして「あいつロングシュート~」は事実上のシングルという扱いだったのかもしれませんが、ただ結果としてその3曲は、このアルバムの中でも特にインパクトの強い楽曲となってしまっており、その3曲を超えるだけのインパクトがあった曲が新曲にあったか、と言われると若干微妙に感じてしまうほど…。そういう意味ではちょっと残念に感じてしまいました。
もし「あいつロングシュート~」からの3曲がこのアルバムが初出となる新曲だったら、間違いなく2019年を代表する傑作アルバムになっていたと思うんですが…。それを差し引いても、柴田隆浩のルサンチマンが爆発しまくっている、ある意味、これこそがロックだろ!と言いたくなるような傑作アルバムに仕上がっています。つまんない「フェス」向けのバンドがロックを名乗っていたり、完全に事務所に作られたような女性アイドルグループがパンクだの名乗ったり、そんな偽物の「ロックミュージシャン」たちをロックメディアを名乗る媒体が妙に持ち上げていたりと、完全にロックがロックじゃなくなってしまった今こそ、「これがロックだよ!」とそんなつまんない連中の鼻先につきつけて、耳の穴をかっぽじって爆音で聴かせてやりた、そんなアルバム。間違いなく、ロックとして評価されるべき作品です。
評価:★★★★★
忘れらんねえよ 過去の作品
忘れらんねえよ
空を見上げても空しかねえよ
あの娘のメルアド予想する
犬にしてくれ
忘れらんねえよのこれまでと、これから。
俺よ届け
僕にできることはないかな
あいつロングシュート決めてあの娘が歓声をあげてそのとき俺は家にいた
ほかに聴いたアルバム
平凡!/栗コーダーカルテット
栗コーダーカルテットと言うと、いつも脱力感満載のユニークなカバー曲など、飛び道具がアルバムに収録されています。ただ本作はそのようなカバーはなく、リコーダーやアコギなどで暖かくも脱力感あるサウンドを聴かせてくれるのですが、楽曲としては平凡じゃないか・・・・・・とここまで思って「はっ!」と思いました。だから今回のアルバムタイトルが「平凡!」なのかぁ・・・・・・。もっとも、「飛び道具」がないため、パッと聴いて「平凡」に感じる曲でも、内容的にはリコーダーやアコギの音が上手く折り重なり、しっかりと栗コーダーらしいサウンドを作り上げており、楽曲として決して「平凡」ではありません。そういう意味でもアルバムタイトルに「平凡!」とつけるあたりに、逆に彼らの自負心も感じられる、そんなアルバムでした。
評価:★★★★★
栗コーダーカルテット 過去の作品
15周年ベスト
夏から秋へ渡る橋
渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)
遠くの友達
生渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)
羊どろぼう
ウクレレ栗コーダー2~UNIVERSAL 100th Anniversary~
あの歌 この歌
20周年ベスト
ひろコーダー☆栗コーダー(谷山浩子と栗コーダーカルテット)
KURICORDER QUARTET ON AIR NHK RECORDINGS
I Feel The Light/Little Glee Monster
昨年末は3年連続の紅白出場を果たすなど、人気グループとして地位を確立させてきているLittle Glee Monsterの新作は5曲入りのEP盤。表題曲はなんとEarth,Wind&Fireをゲストに迎えての作品。さらにはキャロルキングの「You've Got A Friend」やFor Realの「You Don't Know Nothin'」のカバー曲が収録されるなど、全体的に洋楽テイスト、R&Bテイストが強く、コーラスグループとしての矜持を感じさせるアルバムに。もっとも、技巧的には上手いのですが、ボーカリストとしての表現力はかなり弱く、大きな課題となっているのは相変わらず。もっとも、メンバー全員が20歳そこそこという彼女たちなだけに、あと10年後が楽しみといった感じなのですが。
評価:★★★★
Little Glee Monster 過去の作品
Joyful Monster
juice
FLAVA
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コメント
うわあ!週刊青春大絶賛だ!ファンとして嬉しい!今回の忘れらんねえよのアルバム明らかに演奏の熱量とか作詞力が前作からパワーアップしてますよね!これからの忘れらんねえよが本当に楽しみ!
投稿: オジャオジャ | 2020年2月17日 (月) 20時17分
>オジャオジャさん
どうもありがとうございます。このアルバム、本当にいいアルバムだったと思います。特に「踊れひきこもり」などは聴けば聴くほど、彼のエッセンスが凝縮された、傑作だとあらためて感じてしまいます。これからの活躍が本当に楽しみです!
投稿: ゆういち | 2020年2月28日 (金) 00時16分