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2020年2月 9日 (日)

ソロならではの作品が目立つ

Title:The Best Of Keiichi Sokabe -The Rose Years 2004-2019-
Musician:曽我部恵一

先日、サニーデイ・サービスに新メンバーが加入。さらには久々の新曲も配信になり、サニーデイも復活。ますます積極的な活動が目立つ曽我部恵一ですが、このタイミングで曽我部恵一のベストアルバムがリリースされました。基本的には自身のレーベル、ROSE RECORDSからリリースされた作品を集めた本作。ただ、曽我部恵一のオールタイムベストではなく、曽我部恵一ソロ名義及び曽我部恵一BANDの曲、要するに、曽我部恵一がソロで活動した曲が収録したベスト盤となっています。

曽我部恵一のソロ曲については、以前からサニーデイ・サービスに比べると非常にプライベートな要素の強い作品、ちょっと悪い言い方をすると内向きな作品が多い、という印象を受けてきました。実際、曽我部恵一ソロ作にはサニーデイとしては発表できないようなタイプの作品も少なくありません。もっとも典型的な事例が社会派な歌詞。もともと彼のソロデビューシングル「ギター」でも「戦争にはちょっと反対さ」という一節が登場し、当時、大きな話題となりました(本作は残念ながらROSE RECORDSからの曲ではないため、本作には未収録です)。

今回のアルバムの中でも社会派という点ではもっともインパクトが残ったのが「街の冬」という作品。生活保護の申請を断り続ける貧しい姉妹を描いたとてももの悲しい作品。以前、札幌で実際に起こった、知的障害のある妹を世話していた姉が病死し、のちに妹も凍死したというとても悲しい事件に基づいて曲だそうです。生活保護制度について声高に叫ぶような作品ではないのですが、非常にもの悲しく、そして美しい作品に仕上げられており、曽我部恵一なりに社会に対して踏み込んだ作品となっています。

さらには基本的には歌詞の題材に用いただけなのですが、「汚染水」という、福島原発問題を彷彿させる単語を用いた曲などもあり、政治的に無臭なサニーデイの曲とは異なり、社会派な部分にあえて突っ込むのはやはり曽我部恵一のソロ作だからこそ、なのでしょう。

一方でソロらしいプライベイトな作品といえば「おとなになんかならないで」でしょう。彼の子供に向けて歌われた歌で、コンサートでの音源をそのまま使っているらしく、冒頭に子供の声も登場。これは、本当の彼の子供でしょうか?ただ、自分の子供に対して歌われるパパとして暖かいメッセージが込められた曲で、こちらもほんわかしてくるような曲となっています。

サウンド的にも打ち込みのリズムでラップを取り入れた「サマー・シンフォニー」や、レゲエのリズムを取り入れた「LOVE-SICK」など、こちらもソロならではの挑戦を感じさせる曲もあります。また、後藤まりことのデゥオによる吉田拓郎の「結婚しようよ」のカバーなどといったユニークな試みもあります。ただ基本的には曽我部恵一ソロ名義の、アコースティックでフォーキーな作品と曽我部恵一BAND名義のギターロックがメイン。ただ、この点においては、ここ最近、HIP HOPに傾倒している彼なので、今後のソロ作品ではさらなる挑戦心を感じさせる曲も増えてきそうです。

曽我部恵一のソロ作というと、正直言って、内向きな印象の作品が多く、サニーデイと比べると今一つ、という印象がありました。実際、今回のベスト盤でもサニーデイに比べると好き勝手に演っている曲が多く、内向きという印象はぬぐえません。ただ、やはりベスト盤に収録されるような代表曲が並んでいるだけに、楽曲の出来は文句なし。ある意味、サニーデイ以上に曽我部恵一というミュージシャンのコアな部分を垣間見れるような作品が並んでいたように感じます。曽我部恵一のソロ作は多岐に及んでいるため、なかなか追いかけるもの大変なだけに、彼のソロ活動を概観できるという意味でも、お勧めのベスト盤です。

ちなみに…今回本作は、配信(ダウンロード、ストリーミング)、CD、LPと3種類リリースされています。おもしろいのは基本的にCD収録曲は(ミックス違いはあるものの)全て配信曲に含まれている一方、LPの選曲は一部配信(及びCD)と異なる点。曽我部恵一関連の作品は、ここ最近、配信かLPのみという形態が多かったのですが、本作も、配信か、もしくはLP(CDはあくまでおまけ)という扱いなのでしょう。こういう点でも曽我部恵一の一種の主張が垣間見れて興味深く感じました。

評価:★★★★★

曽我部恵一 過去の作品
キラキラ!(曽我部恵一BAND)
ハピネス!(曽我部恵一BAND)
ソカバンのみんなのロック!(曽我部恵一BAND)
Sings
けいちゃん
LIVE LOVE
トーキョー・コーリング(曽我部恵一BAND)
曽我部恵一 BEST 2001-2013
My Friend Keiichi
ヘブン
There is no place like Tokyo today!


ほかに聴いたアルバム

コペルニクス/秦基博

途中、ベスト盤のリリースを挟みつつ、約4年ぶりとなる秦基博のニューアルバム。オリジナルアルバムでは前作となる「青の光景」では、「秦基博第2章」とも言うべき、大きな成長を感じされれたアルバムですが、本作も今まで以上にスケール感を覚える作品になっており、ミュージシャンとしての成長を感じられる作品になっています。基本的にシンプルなポップソングながらもファンキーな「LOVE LETTER」や、シティポップ風の「漂流」などバリエーションも増え、ベスト盤リリース後の秦基博のさらなる一歩を感じさせるアルバムになっていました。

評価:★★★★★

秦基博 過去の作品
コントラスト
ALRIGHT
BEST OF GREEN MIND '09
Documentary
Signed POP
ひとみみぼれ
evergreen
青の光景
All Time Best ハタモトヒロ

TSUTAYA RENTAL SELECTION 2015-2018/Official髭男dism

Tsutaya_higedan 

昨年、「Pretender」が大ヒットを記録し、一躍人気ミュージシャンの仲間入りを果たしたOfficial髭男dism。その後リリースされたアルバム「Traveler」も大ヒットを記録していますが、そのタイミングでリリースされたTSUTAYAでのレンタルオンリーでリリースされたベスト盤。彼らの過去の代表曲が収録されており、ヒゲダン入門としては最適な1枚。彼らの以前の作品を聴くと、初期の頃からブラックミュージックの要素を上手く組み込みつつ、しっかりとポップにまとめあげている高い音楽性に気が付きます。以前からブレイクの最右翼と言われていた彼らですが、あらためて以前から優れたポップミュージシャンだったんだな、ということに気が付くベスト盤でした。

評価:★★★★★

Official髭男dism 過去の作品
エスカパレード
Traveler

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