勢いのあるバンドの勢いのあるアルバム
Title:CEREMONY
Musician:King Gnu
昨年からシングル「白日」がロングヒットを記録。特に昨年末の紅白歌合戦出場を機に、一気にお茶の間レベルにまで知名度を広げたバンドKing Gnu。そんな中でリリースされたちょうど1年ぶりとなるニューアルバムが本作。まさに絶妙なタイミングでリリースされたアルバムで、当然のようにBillboard Hot Albumsでも1位を獲得し、大ヒットを記録しています。
楽曲的にもイントロとアウトロ、及びよびインターリュードとなっている3曲と家入レオに提供した曲のセルフカバー「Overflow」及び締め切り1週間前に急きょ作成されたというバラードナンバー「壇上」を除く全曲にタイアップがついているという、まさに彼らの勢いを象徴するかのようなラインナップ。そのため、インパクトのある聴き応えあるシングル曲が並んでいるかのような構成となっており、今、最も勢いのあるバンドによる勢いのあるアルバムという内容となっています。
さて、前作「Sympa」の時のレビューにも書いたのですが、King Gnuというバンドは昨今の非J-POP的なシティポップブームの流れの中で登場したバンドでありつつ、一方で非常にJ-POP的なバンドである、という特徴を持っています。例えば大ヒット中の「白日」にしても軽快なソウル風のポップチューンでありつつ、サビは比較的わかりやすく耳障りのよいメロディーラインが入ってきますし、「小さな惑星」や「Overflow」にしても比較的シンプルでポップなギターロックチューンに仕上げられています。また「傘」などはかなり哀愁感あるメロディーラインが歌謡曲のテイストすら感じさせます。もっとも、この曲の哀しげなメロディーラインは実に深く印象に残る展開になっており、作曲をつとめる常田大希のメロディーセンスの才を感じさせる楽曲となっています。
どうも日本では、新しい音楽のシーンが浸透しはじめた時、最初は音楽的にストイックでルーツ志向が強いようなミュージシャンがデビューしてくるのですが、徐々に「歌謡曲的」な要素が強くなってしまい、良くも悪くもJ-POP的になっていまい、最後はシーン全体が平凡になってしまってつまらなくなる…というサイクルに陥ってしまうことが少なくありません。ただ、一方で、歌謡曲的な要素を入れて、一気にお茶の間レベルに浸透しはじめた頃のミュージシャンというのは非常に勢いがあるおもしろいミュージシャンが少なくありません。ロックに「歌謡曲」的な要素を加味して一気に売れたBOOWYなんかがその典型例のように感じます。
上にも書いた通り、King Gnuも徐々にシーンに浸透してきたロックにソウルやジャズのフィーリングを加えた、現代のシティポップムーブメントの中で、一気に「歌謡曲」的な要素を強めたバンド、ように感じます。そういう意味では彼らは実に勢いのあるおもしろいバンド、とも言えるのかもしれません。ただ一方で、前作「Sympa」でも感じたような、売れ線のJ-POP的であるゆえの「ベタさ」が気にかかる部分は少なくありません。
そんなこともあって、正直なところ、King Gnuというバンドの評価は「実力派」なのか「ハイプ」なのか、いまだに私の中で評価が定まっていない部分があり、「保留」としているのですが、ただ一方、このアルバムにだけ関して言えば、まさに彼らの勢いそのまま体現化された作品に仕上がっていたと思います。例えば「飛行艇」にしても、ダイナミックなバンドサウンドにはベタさはあるものの、それ以上にカッコよさが勝った作品になっていましたし、「傘」にしても歌謡曲的な楽曲だったのですが、なによりもメロディーの良さがまずは先に立つ楽曲に仕上がっていました。
この勢いが次も続くのか、それとも…。次回作もこれだけの作品が作れれば、彼らの実力は間違いなく「本物」なのでしょう。そういう意味でも今後の動向が気になるバンドなのは間違いありません。さて、2020年もKing Gnuの1年となるのか?
評価:★★★★★
King Gnu 過去の作品
Sympa
ほかに聴いたアルバム
ジャパニーズポップス/キンモクセイ
2002年にシングル「二人のアカボシ」が大ヒットを記録。その年の紅白歌合戦にも出演を決めるなど、話題を集めたバンド、キンモクセイ。その後、2008年に活動を休止したものの、2018年に活動を再開。このたび約12年9カ月ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。King Gnuもその紹介に「シティポップ」という表現を使っていますが、彼らの楽曲もそんな「シティポップ」の枠組みに入るタイプの楽曲。ただ一方で、非常に懐かしい歌謡曲的なテイストも強いバンドでした。久々のニューアルバムでもそんな方向性は変わらず。若干、これといったキラーチューンがない点は気になるのですが、一方で月日を重ね、音楽的にはより老成された感も垣間見れるアルバムに。今後は本格的に活動を続けるのでしょうか。これからの活躍にも注目したいところです。
評価:★★★★
キンモクセイ 過去の作品
ベストコンディション~kinmokusei single collection~
GODBREATH BUDDHACESS/舐達麻
2019年各種メディアのベストアルバムを後追いで聴いた1枚。本作はMUSIC MAGAZINE誌、日本のラップ/ヒップホップ部門で1位を獲得したアルバム。埼玉は熊谷の3人組ラップクルーによる作品。彼らの作品を聴くのはこれがはじめてなのですが、メロウに聴かせるトラックに対して、ヤバさを感じるダークなラップの対比が非常におもしろい作品。確かに高評価も納得な作品でした。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2020年」カテゴリの記事
- 円熟味の増した傑作アルバム(2020.12.28)
- 自由度の高い音楽性(2020.12.27)
- いつもの彼女とは異なるサウンド(2020.12.26)
- Gotchの才が発揮されたソロ3枚目(2020.12.25)
- 今の時代を描いたミニアルバム(2020.12.22)
コメント