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2020年2月

2020年2月29日 (土)

若干19歳のミャンマー期待のシンガー

Title:Mingalar Akhar Daw
Musician:Khin Poe Panchi

Mingalar

また今回も、2019年に各種メディアでベストアルバムとして取り上げられた作品のうち、未聴の作品を後追いで聴いた1枚。今回もMusic Magazine誌ワールドミュージック部門年間ベストで3位にランクインした1枚。ミャンマーの女性歌手による新作で、ミャンマーの仏教歌謡を歌うミュージシャン。かわいらしいジャケット写真も魅力的ですが、若干19歳だそうで、期待の若手シンガーといった感じでしょうか。

「仏教歌謡」というと、なんか非常に堅苦しいイメージがあるのですが、しかし楽曲を聴いても小難しい感じは全くしません。むしろまずは彼女の透き通るような歌声にまずは惹かれます。アルバムの冒頭を飾る「Min Ga Lar Ah Hkar Taw」からまず、アコギや笛の音色をベースにした美しいサウンドをバックにゆっくりと歌う彼女の歌声に、まずは強い印象を受けさせられました。若干19歳の彼女なのですが、いい意味で落ち着いており、感情もたっぷり。「Buddha Ta Na Se Yan Te Da Tu」(タイトルからして「仏教歌謡」と一発でわかるようなタイトルですが)もピアノも入ったさわやかなサウンドをバックにメロウな歌声を優しく聴かせてくれており、歌手としての実力を感じさせます。

そのほかも「Myat Thaw Ta Yar Nar Kyarr Par」など、のびやかな歌声でメロディアスに聴かせてくれるようなポップな作風の曲が多く、堅苦しさは皆無。「仏教歌謡」ということで歌詞の中身的にはちょっと堅苦しい部分もあるのかもしれませんが、少なくとも、素直に歌を楽しむ点では非常に優しくも美しい彼女の歌声を楽しめるポップな曲が並んでいます。

一方、このアルバムが個人的にとてもユニークに感じたのは、サウンドの面で意外と凝った部分が目立つ点でした。ミャンマーの歌謡曲ということもあり、「Myat Ta Ya Na Gon」「Ba Wa Tan Ta Yar」など太鼓のリズムやシンセの音色などでエキゾチックな雰囲気を醸し出していた前半。そしてこの太鼓をベースとしたリズムが非常にユニークあふれてくるのが中盤から後半にかけて。まず「Ya Ta Nar Pa Ni Ta」では彼女の優しい歌声が印象に残るナンバーなのですが、バックに流れる太鼓のリズムが非常にユニーク。どこかタブラのようなリズム感を覚えるのは、地続きであるインド方面からの影響もあるのでしょうか?

「Met Lann Ko Shar」なんかも複雑な太鼓のリズムに、笛(?)やピアノの音色が複雑にからむサウンドが印象的なナンバー。そんな複雑なサウンドをものともしないような彼女の歌声によりポップにまとめ上げられているのが印象的です。そしてラストの「Kaung Thaw Lu」はソフトロックすら彷彿とさせてくれそうな、爽やかで軽快なポップチューン。いままでのエキゾチックさはほとんどなく、コンテンポラリーな作風になっており、彼女の音楽性の意外な広さを感じさせつつ、後味のよい爽快さを感じつつ、アルバムを聴き終えることが出来ました。

19歳という若さながらも表現力あふれるボーカルで、ミャンマー歌謡というエキゾチックな雰囲気を残しつつ、私たちにとってもとても聴きいやすいポップな作風にまとめあげている傑作アルバム。ちょっと凝った太鼓の音色も心地よく、最後まで楽しませてくれるアルバムでした。年間3位も納得のアルバム。サブスクでも聴けるようですので、興味のある方は是非。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

The Soft Bulletin: Live at Red Rocks (feat. The Colorado Symphony & André de Ridder)/The Flaming Lips

2016年5月26日にコロラド州レッド・ロックス円形野外劇場で André de Ridder指揮により、コロラドのオーケストラ The Colorado Symphony と行った、1999年にリリースしたアルバム「The Soft Bulletin」の完全再現ライブの模様を収録したライブアルバム。オーケストラアレンジによる分厚いサウンドに、所々に入るバンドサウンドが心地よい、一言で言えば多幸感あふれるアルバム。The Flaming Lipsといえば、ドリーミーな世界観が魅力的なバンドですが、その心地よい夢見心地が、オーケストラにより、より増幅されたライブ盤となっていました。

評価:★★★★★

THE FLAMING LIPS 過去の作品
EMBRYONIC
The Dark Side Of The Moon
THE FLAMING LIPS AND HEADY FWENDS(ザ・フレーミング・リップスと愉快な仲間たち)
THE TERROR
With a Little Help From My Fwends
Oczy Mlody
GREATEST HITS VOL.1
King's Mouth:Music and Songs

A Good Time/DaVido

DaVidoことDavid Adedeji Adelekeはアメリカ生まれのナイジェリア人シンガーソングライター。本作ではシンプルなラテンのリズムで爽快感あるサウンドとメロディーラインを聴かせてくれます。ただ一方ではメロディーラインにはどこか哀愁感を漂わせつつ、比較的シンプルなポップソングが多く、いい意味で聴きやすさを感じます。心地よく楽しめる良作でした。

評価:★★★★★

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2020年2月28日 (金)

勢いのあるバンドの勢いのあるアルバム

Title:CEREMONY
Musician:King Gnu

昨年からシングル「白日」がロングヒットを記録。特に昨年末の紅白歌合戦出場を機に、一気にお茶の間レベルにまで知名度を広げたバンドKing Gnu。そんな中でリリースされたちょうど1年ぶりとなるニューアルバムが本作。まさに絶妙なタイミングでリリースされたアルバムで、当然のようにBillboard Hot Albumsでも1位を獲得し、大ヒットを記録しています。

楽曲的にもイントロとアウトロ、及びよびインターリュードとなっている3曲と家入レオに提供した曲のセルフカバー「Overflow」及び締め切り1週間前に急きょ作成されたというバラードナンバー「壇上」を除く全曲にタイアップがついているという、まさに彼らの勢いを象徴するかのようなラインナップ。そのため、インパクトのある聴き応えあるシングル曲が並んでいるかのような構成となっており、今、最も勢いのあるバンドによる勢いのあるアルバムという内容となっています。

さて、前作「Sympa」の時のレビューにも書いたのですが、King Gnuというバンドは昨今の非J-POP的なシティポップブームの流れの中で登場したバンドでありつつ、一方で非常にJ-POP的なバンドである、という特徴を持っています。例えば大ヒット中の「白日」にしても軽快なソウル風のポップチューンでありつつ、サビは比較的わかりやすく耳障りのよいメロディーラインが入ってきますし、「小さな惑星」や「Overflow」にしても比較的シンプルでポップなギターロックチューンに仕上げられています。また「傘」などはかなり哀愁感あるメロディーラインが歌謡曲のテイストすら感じさせます。もっとも、この曲の哀しげなメロディーラインは実に深く印象に残る展開になっており、作曲をつとめる常田大希のメロディーセンスの才を感じさせる楽曲となっています。

どうも日本では、新しい音楽のシーンが浸透しはじめた時、最初は音楽的にストイックでルーツ志向が強いようなミュージシャンがデビューしてくるのですが、徐々に「歌謡曲的」な要素が強くなってしまい、良くも悪くもJ-POP的になっていまい、最後はシーン全体が平凡になってしまってつまらなくなる…というサイクルに陥ってしまうことが少なくありません。ただ、一方で、歌謡曲的な要素を入れて、一気にお茶の間レベルに浸透しはじめた頃のミュージシャンというのは非常に勢いがあるおもしろいミュージシャンが少なくありません。ロックに「歌謡曲」的な要素を加味して一気に売れたBOOWYなんかがその典型例のように感じます。

上にも書いた通り、King Gnuも徐々にシーンに浸透してきたロックにソウルやジャズのフィーリングを加えた、現代のシティポップムーブメントの中で、一気に「歌謡曲」的な要素を強めたバンド、ように感じます。そういう意味では彼らは実に勢いのあるおもしろいバンド、とも言えるのかもしれません。ただ一方で、前作「Sympa」でも感じたような、売れ線のJ-POP的であるゆえの「ベタさ」が気にかかる部分は少なくありません。

そんなこともあって、正直なところ、King Gnuというバンドの評価は「実力派」なのか「ハイプ」なのか、いまだに私の中で評価が定まっていない部分があり、「保留」としているのですが、ただ一方、このアルバムにだけ関して言えば、まさに彼らの勢いそのまま体現化された作品に仕上がっていたと思います。例えば「飛行艇」にしても、ダイナミックなバンドサウンドにはベタさはあるものの、それ以上にカッコよさが勝った作品になっていましたし、「傘」にしても歌謡曲的な楽曲だったのですが、なによりもメロディーの良さがまずは先に立つ楽曲に仕上がっていました。

この勢いが次も続くのか、それとも…。次回作もこれだけの作品が作れれば、彼らの実力は間違いなく「本物」なのでしょう。そういう意味でも今後の動向が気になるバンドなのは間違いありません。さて、2020年もKing Gnuの1年となるのか?

評価:★★★★★

King Gnu 過去の作品
Sympa


ほかに聴いたアルバム

ジャパニーズポップス/キンモクセイ

2002年にシングル「二人のアカボシ」が大ヒットを記録。その年の紅白歌合戦にも出演を決めるなど、話題を集めたバンド、キンモクセイ。その後、2008年に活動を休止したものの、2018年に活動を再開。このたび約12年9カ月ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。King Gnuもその紹介に「シティポップ」という表現を使っていますが、彼らの楽曲もそんな「シティポップ」の枠組みに入るタイプの楽曲。ただ一方で、非常に懐かしい歌謡曲的なテイストも強いバンドでした。久々のニューアルバムでもそんな方向性は変わらず。若干、これといったキラーチューンがない点は気になるのですが、一方で月日を重ね、音楽的にはより老成された感も垣間見れるアルバムに。今後は本格的に活動を続けるのでしょうか。これからの活躍にも注目したいところです。

評価:★★★★

キンモクセイ 過去の作品
ベストコンディション~kinmokusei single collection~

GODBREATH BUDDHACESS/舐達麻

2019年各種メディアのベストアルバムを後追いで聴いた1枚。本作はMUSIC MAGAZINE誌、日本のラップ/ヒップホップ部門で1位を獲得したアルバム。埼玉は熊谷の3人組ラップクルーによる作品。彼らの作品を聴くのはこれがはじめてなのですが、メロウに聴かせるトラックに対して、ヤバさを感じるダークなラップの対比が非常におもしろい作品。確かに高評価も納得な作品でした。

評価:★★★★★

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2020年2月27日 (木)

活動休止前最後のベストが1位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週の1位は2020年12月いっぱいで活動を休止するグループのベスト盤が獲得しています。

今週、初登場で1位を獲得したのはavexの男女混合ダンスグループAAA「AAA 15th Anniversary All Time Best -thanx AAA lot-」が獲得しました。CD販売数1位、ダウンロード数36位、PCによるCD読取数10位。メンバーそれぞれのソロ活動も目立っており、かつ元メンバーの浦田直也の暴行事件という不祥事もあり、活動継続も難しくなってきたのでしょうか。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上11万5千枚で1位初登場。オリジナルアルバムとしての前作「COLOR A LIFE」の7万枚(1位)よりはアップ。前作「AAA 10th ANNIVERSARY BEST」の8万5千枚(1位)よりもアップしています。

2位はKing Gnu「CEREMONY」が先週より同順位をキープ。ダウンロード数は1位から2位にダウンしてしまいましたが、PCによるCD読取数は先週から変わらず1位。CD販売数が6位から3位と再びアップしており、まだまだロングヒットは続きそうです。

3位初登場は韓国の男性アイドルグループBTSの韓国でのニューアルバム「Map Of The Soul:7」。ダウンロード数で1位を獲得し、ダウンロードでの順位のみで見事ベスト3入りを果たしています。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位にはEXILEの派生ユニット、EXILE THE SECONDのベストアルバム「EXILE THE SECOND THE BEST」がランクイン。CD販売数は2位ながらもダウンロード数29位、PCによるCD読取数33位で総合順位は4位にとどまっています。オリコンでは初動売上2万6千枚で2位初登場。前作「Highway Star」の3万4千枚(3位)からダウン。

6位には日韓合同の女性アイドルグループIZ*ONE 「BLOOM*IZ」が初登場。昨日のHot100でも取り上げましたが、彼女たちが結成された日韓合同オーディション番組「PRODUCE48」で投票操作疑惑報道があり、その結果、延期となっていた彼女たちのデビューアルバムが6位初登場。韓国盤のためHot AlbumsではCD販売数は対象外となったのですが、ダウンロード数3位、PCによるCD読取数45位で総合順位はベスト10入り。オリコンでは初動売上2万枚で3位にランクインしています。

7位初登場は女性シンガーソングライターmilet「Prover/Tell me」。詳細なプロフィールを明らかにしていない「謎」が売りのシンガーソングライターによる7枚目となるEP。CD販売数7位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数100位で、総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上5千枚で11位初登場。前作「Drown/You&I」の3千枚(25位)よりアップ。オリコンでもデジタルアルバムで8位、合算チャートでは10位にランクインしており、配信先行型の売上となっています。

8位には中性的な雰囲気を漂わせる奇抜なスタイルで話題のロックバンド、女王蜂「BL」がランクイン。CD販売数5位、ダウンロード数7位、PCによるCD読取数39位。オリコンでは初動売上7万枚で6位初登場。前作「+」の6千枚(5位)からアップしています。

9位は女性アイドルグループBLACKNAZARENE「ADMIRATION」が初登場。CD販売数4位ながらもほかのチャートは圏外となり総合順位はこの位置に。いままで配信でのリリースはありましたが、本作が初のミニアルバムかつCDでのリリース作となります。オリコンでは初動売上8千枚で5位初登場。

初登場組最後は10位の藤井風「もうええわEP」。中学時代にアップしたYou Tube動画が大きな話題となり、またSpotifyの選出する2020年注目のミュージシャン「Early Noise 2020」にも選出され、話題の男性ミュージシャンによる2枚目となる配信限定のEP。ダウンロード数で4位にランクインし、配信限定ながらもベスト10ヒットを果たしました。

今週の初登場盤は以上。一方、ロングヒット組ですが、まだまだ強いOfficial髭男dism「Traveler」。今週は6位から5位に再びアップ。ただダウンロード数は3位から5位にダウン。まだまだヒットは望めるものの、若干、勢いは後退しています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年2月26日 (水)

ヒゲダンの活躍は目立つものの…

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

相変わらずヒゲダン旋風が吹き荒れているHot100。しかし、今週1位はとりあえずAKB系に明け渡しています。

今週1位は日向坂46「ソンナコトナイヨ」が獲得。CD販売数及びPCによるCD読取数で1位、ダウンロード数4位、ストリーミング数49位、ラジオオンエア数14位、Twitterつぶやき数8位、You Tube再生回数73位。ストリーミングやYou Tubeが解禁されていますが、CD売上に比べて順位が極端に低いのがロングヒット曲とは真逆の傾向にあります。オリコン週間シングルランキングでは初動売上55万8千枚で1位初登場。前作「こんなに好きになっちゃっていいの?」の47万7千枚(1位)からアップ。

そして2位はOfficial髭男dism「I LOVE…」が先週よりワンランクダウンながらも2位をキープ。ダウンロード数及びストリーミング数は1位、ラジオオンエア数及びPCによるCD読取数2位、You Tube再生回数3位とロングヒットの様相を見せています。そして3位にも「Pretender」がワンランクながらもベスト3をキープ。こちらはYou Tube再生回数及びカラオケ歌唱回数で1位を獲得。ダウンロード数7位、ストリーミング数3位と上位をキープしており、ヒットはまだまだ続きそう。さらに「宿命」は先週の9位からワンランクダウンで10位だったものの、これでヒゲダンは3曲同時ベスト10入り。残念ながら「イエスタデイ」は10位から11位にダウンしてしまったものの、まだまだヒゲダンの活躍は続きそうです。

続いて4位以下の初登場曲ですが、今週の初登場曲は1曲のみ。それが6位にランクインしてきた日韓合同の女性アイドルグループIZ*ONE「FIESTA」。彼女たちが結成された日韓合同オーディション番組「PRODUCE48」で投票操作疑惑報道があり、その結果、昨年の11月に予定されていたアルバムの発売が延期され、活動休止状態だった彼女たち。その後、活動再開がアナウンスされ、先日、延期されていたアルバム「BLOOM*IZ」がリリースされていたのですが、同作に収録されていたのが本作。ダウンロード数26位、ストリーミング数17位でしたが、Twitterつぶやき数2位、You Tube再生回数6位が順位を引き上げ、総合順位でも6位にランクインしてきました。

一方、今週はベスト10返り咲きも1曲。ジャニーズ系男性アイドルSixTONES「Imitation Rain」が先週の13位から9位にアップ。2週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。ただ、CD販売数8位→10位、PCによるCD読取数3位→4位、Twitterつぶやき数2位→3位と個別の順位はいずれもランクダウンしています。また、同時デビューで話題となったSnow Man「D.D.」はベスト10ヒットを続けており、今週も7位にランクインしています。

またロングヒット曲ですが、まずはLiSA「紅蓮華」。今週は4位にランクイン。ダウンロード数は4位から2位にアップ。ストリーミング数も4位をキープしているほか、いままで低順位だったYou Tube再生回数も18位とジワリと順位をあげてきており、徐々に支持層の広がりを感じさせます。同曲が主題歌となっているアニメ「鬼滅の刃」も漫画ともども、大ヒットを記録しており、この曲のロングヒットもまだ続きそうです。

そしてKing Gnu「白日」は今週3位から5位にダウン。ダウンロード数も6位から8位にダウンしています。ただストリーミング数及びYou Tube再生回数の2位は先週から同順位を維持しており、まだロングヒットは続きそう。さらに「どろん」も6位から8位にダウンしたもののベスト10をキープ。2週連続の2曲同時ランクインとなっています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2020年2月25日 (火)

より生々しく

Title:燦々 ひとりでに
Musician:カネコアヤノ

 Sansann

今、最も注目を集めている女性シンガーソングライターのひとり、カネコアヤノ……と知ったかなことを言いつつ、私も彼女をはじめて知ったのは昨年9月にリリースした「燦々」から。その素晴らしい内容に一気にはまってしまいました。そして本作は、その「燦々」を全編アコースティックアレンジで再録音したアルバム。前作「祝祭」も同じような全編弾き語りアルバムをリリースしており、そのほかにも弾き語りアルバムを数作リリースしている彼女。バンドサウンドと弾き語りは、どちらも彼女の音楽に欠かせないスタイル、といった感じなのでしょうか。

もともと、オリジナルの「燦々」でも、その日常を描いた歌詞が強いインパクトを残したアルバムだったのですが、一方では最小限の音で最大限の世界観を構築している、そのサウンドも大きな魅力となっているアルバムでした。それだけにアコースティックアレンジのアルバムがどのような形になるのか、楽しみであると同時に不安もあったのですが…結果として彼女の書く、メロディーと歌詞だけでもこれだけ魅力的だったのか!とあらためて驚かされるアルバムに仕上がっていました。

まずメロディーライン自体に、予想していた以上に惹かれました。オリジナルアルバムのライブ評でも「明け方」「ごめんね」を取り上げてメロディーラインの良さについて記載したのですが、この2曲に限らず、どの曲も妙にメロディーラインに惹かれる曲が並んでいます。決してわかりやすい派手なサビがあるわけでもありません。しかし、聴いていて耳を離せなく、ついつい聴いてしまうようなメロディーラインの曲が並んでいます。派手さはないが人を惹きつけるメロディーを書ける、これは彼女が本当の意味でのメロディーメイカーとしての実力を持っているということでしょう。このアルバムではその実力がより明確になっていたように感じます。

そして歌詞。こちらもオリジナルでもリアリティーある歌詞、特に肉感のある歌詞が大きな魅力に感じました。これがアコースティックアレンジになることにより、より前面に押し出されたように感じます。

「かみつきたい 散らかしたい
安いお酒でキスでもしたい」
(「かみつきたい」より 作詞 カネコアヤノ)

「布と皮膚 布と皮膚 布と皮膚
交互になぞった
眠れない夜にそっと
布と皮膚 交互になぞった」
(「布と皮膚」より 作詞 カネコアヤノ)

「プレゼントボックスのりぼんを
体のかたちが変わっても
焦ってほどいていたい」
(「りぼんのてほどき」より 作詞 カネコアヤノ)

など、微妙なエロティシズムも感じる肉感に、リアリティーある男女の描写が強い印象に残る作品が並びます。オリジナルアルバムでも感じた彼女の魅力でしたが、この弾き語りアルバムではその魅力がより強調されていました。

また、さらに力強さを感じる彼女のボーカルも弾き語りのアルバムではより前面に押し出されており、アルバムの魅力のひとつを構成しています。オリジナルとはまた異なる、ある意味、カネコアヤノのコアな部分に触れる、そんなアルバムだったように感じます。

確かに、サウンドを強調したオリジナルだと、なかなかこういうメロディーや歌詞、カネコアヤノの歌という魅力の部分は、もちろん感じることが出来るのですが、後ろに隠れがちだよなぁ。そんな中で、あえてもう1枚、弾き語りでアルバムを作ってしまうあたり、彼女がメロディーや歌詞、歌といった部分にもしっかりとプライオリティーを置いているということを感じさせるのと同時に、ミュージシャンとしての強いこだわりも感じさせます。カネコアヤノの魅力がより伝わるアルバム。個人的にますます彼女に注目したくなった1枚でした。

評価:★★★★★

カネコアヤノ 過去の作品
燦々

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2020年2月24日 (月)

あいかわらず目が離せない!

Title:もう紅白に出してくれない
Musician:ゴールデンボンバー

2019年の紅白歌合戦出場者発表の日に突如、公表された今回のアルバムタイトル。その絶妙なタイミングに個人的にもめちゃくちゃ受けてしまったのですが、まさにそういうタイミングで、こういうアルバムタイトルを発表する彼らのアイディアの豊富さ、センスの良さに、まずは強く感心してしまいます。特に、彼らのそのセンスの良さと、なにより行動力に感心させられたのが昨年4月1日の「令和」のリリース。あらかじめ元号の部分以外を録音しておき、元号が発表となった直後に残りの部分を録音。そしてその日のうちに新元号を読み込んだ歌をリリースする、というスピード感とそしてユーモアセンスが強く印象に残りました。元号ネタでは同じ4月1日にGLAYが「元号」という曲をリリースを発表したり、清竜人が令和への改元日に「REIWA」というアルバムをリリースしましたが、残念ながらゴールデンボンバーのアイディアの前には、完全にかすんでしまいました。

さらに彼らのアイディアやその行動力はユーモアな部分のみに限りません。おととしの12月には、かつてライブ会場限定でリリースとなり廃盤となっていたためネット上で高値で取引されていたアルバム「音楽が僕らを駄目にする」「The Golden J-POPS」「恋愛宗教論」を無料配信。このような人気ミュージシャンの昔の音源が高値で取引される現象は彼らだけに限らないのですが、その行動力とファンを思う気持ちにも感心させられました。これに続くミュージシャンは残念ながら今のところいないのですが・・・。

さて、そんな活動の勢いの衰えない彼らの、約2年ぶりとなるニューアルバムは、まず話題の「令和」からスタート。トランシーでリズミカルな楽曲は、新たな時代のはじまりを祝福するような曲調…なのですが、サウンド的にはかなり「平成」的なのはわざとでしょうか。さらに「ガガガガガガガ」は特撮マニアの女の子を主人公としたNHKドラマの主題歌。ドラマの世界観に沿ったような、誰にも理解されないような趣味についてうたったような曲が、多くのマニア層の共感を呼んでいます。

その後も「LINEのBGMにしてるとモテる曲」も、ちょっとこじゃれたエレクトロ風のナンバーで、英語詞のメロウなナンバーとなっており、タイトル通り、完全におしゃれな雰囲気を狙った曲。「暴れ曲」はタイトル通り、ライブで暴れることを意図したような、デス声も登場するメタル調のナンバーと、ユーモラスな楽曲が目立ちます。歌詞の面でもタイトル通り、顔を化粧でごまかしている女の子が、いかにスッピンをごまかすかの悲哀を歌った「私すっぴんブスだから」や好きな子の過去を思い悩む「ぺしみずみ」など、彼ららしいユニークな視点の楽曲も目立ちます。

ただ、アルバム全体としては、タイトル通りの傑作だった前作「キラーチューンしかねえよ」に比べると、勢いは落ちてしまった感は否めません。全体的には平凡なJ-POPといった感じのナンバーが並び、特に前半は勢いがあったのですが、後半はちょっとダレてしまった感があります。全16曲65分というボリュームだったのですが、もう3、4曲削って、50分程度の長さに絞った方がよかったような気がします。そういう意味ではちょっと残念に感じる作品でした。

もっとも、とはいえ一時期ほどではないにしろ、まだまだ高い人気を誇る彼ら。特に2019年は「令和」が話題になりましたし、NHKドラマの主題歌も歌いましたし、2019年は十分、紅白に出演させてあげてもよかったと思うのですが…もっとも、このアルバムを出すためにわざと紅白を辞退したのでは?というのはちょっとうがちすぎか。ただ、そろそろまた彼らのパフォーマンスを紅白で見せてくれてもいいと思うんですけどね~。来年こそは、是非!

評価:★★★★

ゴールデンボンバー 過去の作品
ゴールデン・アワー~下半期ベスト2010~
ゴールデン・アルバム
NO MUSIC NO WEAPON
キラーチューンしかねえよ
音楽が僕らを駄目にする
The Golden J-POPS
恋愛宗教論

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2020年2月23日 (日)

エチオピアのベテランシンガーによる新作

Title:Chewa
Musician:Aster Aweke

毎年、1月から2月あたりに各種メディアで前年度のベストアルバムに選定された作品の中で、まだ聴いていなかった作品のチェックを行っているのですが、今回紹介する作品はそれで聴いてみたアルバム。MUSIC MAGAZINE誌の年間ベストワールドミュージック部門の第1位となったアルバム。エチオピアの女性シンガー、Aster Awekeのニューアルバムです。

1959年生まれで現在、60歳となるベテラン女性シンガーの彼女。80年代から90年代にかけてはアメリカを拠点にも活動していたそうですが、97年からは故郷エチオピアに拠点を戻し、変わらぬ活動を続けています。今回のアルバムは約6年ぶりとなるニューアルバムとなったようです。

エチオピアのポップソングといえば、こぶしを利かせた哀愁感たっぷりのメロディーラインが特徴的で、どこか日本の演歌にも通じるような、日本人にとってもどこか懐かしさを感じさせるフレーズが特徴的。今回のアルバムでも1曲目の「Nafkot」からいきなりこぶしの利いたボーカルで哀愁感たっぷりに歌い上げるスタイルがまず耳に残ります。女性に対して若干失礼な表現かもしれませんが、60年という月日を重ねた円熟味を感じる表現力たっぷりのボーカルが大きな魅力。どちらかというとハイトーン気味で、ドスを利かせたといった感じではないのですが、透き通ったような歌声で繰り広げる感情たっぷりのボーカルが耳に残るアルバムとなっています。

ただ、こぶしを利かせた哀愁感たっぷりのフレーズは日本人とって、どこか琴線に触れる部分はあるものの、全体的にはアラブの色合いの濃いサウンドやフレーズが印象に残ります。「Tiwsta」も演歌ばりの哀愁感たっぷりのメロやサックスのむせびなくような音色を聴かせてくれるのですが、アラビアンな空気が匂いたつ楽曲に、日本人にとっては強いエキゾチックな雰囲気も感じさせます。「Widdid」も、軽快なメロディーを聴かせるナンバーなのですが、こちらもアラブ色の強いポップスに。ただこの異国情緒にあふれるサウンドも大きな魅力、と言えるのかもしれません。

ブルージーなギターとピアノでしんみり聴かせるAster流のブルースナンバーとも言える「Yewedede」は、まさにその彼女の表現力をあますところなく聴かせる楽曲の真骨頂といった感じでしょうか。その反面、終盤は比較的ポップで明るいナンバーが続き、ラスト2曲の「Fasiledes」「Lib Weled」はむしろポップで明るい軽快なナンバーで締めくくられています。そのためアルバムを聴き終わった感じとしてはむしろ明るい印象を受けるような作品になっていました。

サウンド的には打ち込みのサウンドが中心になっているのですが、こちらは正直言ってちょっと安っぽい感じのサウンドに。あえて彼女のボーカルをメインにするために控えめなサウンドにしているのかもしれませんが、彼女のボーカルを支えるにしても、ちょっと物足りなさも感じる部分もありました。この点はちょっと残念だったかもしれません。

ただ全体的には感情たっぷりのボーカルをしっかりと聴かせるオーソドックスなポップチューンといった感じがしました。これが年間1位か…と思うと、目新しさもなく、2019年という時代性も感じられず、物足りなさも感じてしまいます。いや、良作であることは間違いないので、聴いて損のない作品だとは思うのですが…。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

Cotillions/William Patrick Corgan

William Patrick Corganって誰だよ?と一瞬思うかもしれませんが、こちら、かのスマッシング・パンプキンズのボーカル、ビリー・コーガンによるソロアルバム。アコースティックなサウンドをバックに、スマパンを彷彿とさせるメランコリックなメロディーラインのポップスを聴かせてくれるアルバム。バンドサウンドで分厚く装飾されたスマパンの楽曲から、コアなメロディーラインの部分のみを取り出したアルバム、とった印象。まさに美メロという表現がピッタリの、ビリー・コーガンのメロディーメイカーとしての魅力を存分に感じさせてくれるアルバムになっています……が、比較的似ているような曲が並んでおり、かつ全17曲61分というのはちょっと長すぎたかも。45分程度の長さに留めれば傑作アルバムだったと思うのですが…。

評価:★★★★

Hidden History Of The Human Race/Blood Incantation

アメリカのデスメタルバンドによる2枚目のアルバム。終始、デス声が流れる中、ヘヴィーでダイナミックなバンドサウンドが流れる作品。わずか4曲入りのアルバムで、正直なところ、特に複雑に展開するような構成もないのですが、変な様式美などに陥ることなく、迫力あるサウンドを終始楽しめる良作に仕上がっていました。

評価:★★★★

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2020年2月22日 (土)

むしろ完成版より良いのでは?

今日紹介するのは、イギリスのロックバンドKeaneが配信オンリーでリリースしているデモ音源を集めたEPシリーズ。既に第1弾は紹介していますので、今日は第2弾と第3弾の紹介です。

Title:Retroactive-EP2
Musician:Keane

Keane2

まずは第2弾。「Perfect Symmetry」に収録されている「Again&Again」「Better Than This」、「Strangeland」収録の「In Your Own Time」、さらには初収録の音源となる「Glass Bottles」 の全4曲が収録されています。

Title:Retroactive-EP3
Musician:Keane

Retroactive3

そしてこちらは第3弾。「Strangeland」の表題曲ながらもなぜかボーナストラックの収録となっている「Strangeland」、「Perfect Symmetry」収録の「The Lovers Are Losing」、「Hope and Fears」収録の「This Is The Last Thing」「Sunshine」の4曲が収録されています。

今回のデモ音源は、いわばKeaneの楽曲の原型が収録されているアルバム。彼らのコアな部分があらわれた作品と言えるのですが、はっきり言ってしまって、完成版の音源よりも良いのでは?とすら感じてしまうような曲がチラホラ見受けられました。

特にその傾向が顕著だったのが、今回、2枚のEPで3曲が収録されている「Perfect Symmetry」収録の作品。このアルバム、ニューウェーブのテイストを取り込んだアルバムで、はっきりいって個人的には凡作だと思っているのですが、シンプルなアレンジとなっているデモ音源では、Keaneのメロディーセンスがしっかりと感じられる楽曲に仕上がっています。特に「Again&Again」は、爽やかながらも切ないメロでKeaneのメロディーの素晴らしさが再認識されられる作品に仕上がっていました。

そのほかも「Strangeland」もアコギのみで聴かせるアレンジで、ボーカル含めてちょっと泥臭さを感じるのですが、シンプルなアレンジでメロディーをしっかりと聴かせる曲となっているため、非常に彼らの良さがよく出ています。「Hope and Fears」収録の2曲については、比較的、デモ音源と完成版が近い印象もあり、これはどちらもしっかりとKeaneらしさが出ている作品になっていました。

さらに素晴らしかったのが今回初収録となった「Glass Bottles」。感情たっぷりのピアノの美しさが絶品の傑作となっており、なぜいままでリリースされなかったのが不思議にすら感じました。

Keaneは、そのメロディーラインのすばらしさに定評があるものの、どうも彼らがバンドとして挑戦したがるのか、せっかくの素材の持ち味が台無しになってしまうようなアレンジのアルバムを時々リリースしてくる悪い癖があります。「Perfect Symmetry」などはその代表的な作品ですが、最新アルバム「Cause and Effect」も正直、Keaneの良さがいまひとつ感じにくいアルバムでした。しかしそんな中、デモ音源を集めたむしろこちらのEP盤の方こそ、Keaneの良さが実感できるようにすら感じました。少々アレンジに粗さもあるのですが、それを差し引いてもKeaneの素晴らしさを実感できる内容。率直なところ、彼らの良さはその素晴らしいメロディーラインにあるのだから、アレンジをあまりいじくることなく、シンプルなアレンジの方がいいと思うんだけどなぁ。デモ音源集というとファンズアイテムの様相が強いのですが、本作に関しては広いリスナー層にお勧めできる傑作でした。

評価:どちらも★★★★★

KEANE 過去の作品
Perfect Symmetry
NIGHT TRAIN
Strangeland
The Best Of Keane
Retroactive-EP1
Cause and Effect


ほかに聴いたアルバム

Surrender(20th Anniversary Edition)/The Chemical Brothers

1999年にリリースされ、The Chemical Brothersの代表作の一つとして名高い「Surrender」。そのリリース20周年を記念して"20th Anniversary Edition"がリリースされました。当時のオリジナルアルバムの他、当時リリースされたリミックスなどを収録したCDがついた2枚組。さらに"The Secret Psychedelic Mixes"と称された、未発表のリミックス盤や、2000年のグラストンベリーフェスティバルでのライブの模様やプロモビデオを収録したDVDがついたCD3枚組+DVDの組み合わせなどがリリースがリリースされています。

「Surrender」といえば、収録曲の「Hey Boy,Hey Girl」が日本でも大ヒットを記録し、The Chemica Brothersの名前が一躍知られるようになった作品。個人的にもはじめてThe Chemical Brothersのアルバムを買って聴いたのが本作なのですが、あれからもう20年も経つのか…と感慨に浸ってしまいます。しかし、今聴いてもエレクトロサウンドにロッキンな要素がほどよく加わった作品は、気分がどんどんと高揚していきます。本作から流れるサウンドは、今流行の音ではないものの、今聴いても決して古臭さは感じません。おそらく今のリスナーが聴いても十分楽しめるサウンドではないでしょうか。特にロック的な要素が強く含まれている点も、当時、幅広い層に支持された大きな理由でしょう。ボリューミーな本作はさすがにファンズアイテム的な要素が強いのですが、それを差し引いても、アルバム本編だけでも今なお多くのリスナーに聴いてほしいと感じる傑作アルバムです。

評価:★★★★★

The Chemical Brothers 過去の作品
Brotherhood
Further(邦題:時空の彼方へ)
HANNA
Born In The Echoes
No Geography

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2020年2月21日 (金)

ロットンへの愛情を強く感じる

Title:ROTTENGRAFFTY Tribute Album ~MOUSE TRAP~

2019年にデビュー20周年を迎えたロックバンド、ROTTENGRAFFTY。2015年にリリースしたミニアルバム「Life is Beautiful」がバンドで初となるベスト10ヒットを記録するなど、ここ数年、人気が上昇してきています。そんな彼らのデビュー20周年を記念してリリースされたのがこのトリビュートアルバム。Dragon Ashや10-FEET、ヤバイTシャツ屋さんといった豪華なメンバーがロットンの曲をカバーしています。

そんな今回のトリビュートアルバムなのですが、率直に言ってしまうとROTTENGRAFFTYのオリジナルより良いんではないか?と思ってしまうほどの出来栄えでした。ROTTENGRAFFTYのアルバムは、何作か聴いているのですが、正直言ってしまうといずれのアルバムも「これ」といった作品ではなく、個人的にはさほどいいな、と思っているバンドではありませんでした。そのため今回のトリビュートアルバムも聴くきっかけとしてはロットンのトリビュートだから、というよりも参加しているメンバーに惹かれた部分があり、曲そのものに関してはさほど期待はしていませんでした。

しかし今回参加しているミュージシャンはそれぞれ、ロットンの曲をしっかりと解釈し、それぞれバンドとしての個性をしっかり色つけしていた非常によく出来たカバーに仕上がっていたと思います。分厚いサウンドで彼ららしいパンクロックに仕上げている10-FEETの「金色グラフィティー」からスタートし、男女ツインボーカルがちょうどよいインパクトとなっているヤバTの「D.A.N.C.E.」に、洋楽テイストの強いミクスチャーに仕上げているcoldrainの「エレベイター」、そして軽快なパンクロックに仕上げているキュウソネコカミの「e for 20」など、それぞれ各個人のオリジナルナンバーだと言われても違和感ないくらい、しっかりとバンドとしての個性を曲に反映させつつ、原曲の魅力もしっかり保った良カバーに仕上げています。

また、Dragon Ashの「マンダーラ」ではポエトリーリーディングに近いスタイルのラップでロットンへの思いを語ったり、コミックバンドの四星球の「響く都」ではコントが入り、ロットンをコミカルに紹介しつつそんな中にロットンへの愛情を感じさせたりと、バンドのROTTENGRAFFTYへの愛情も強く感じさせるナンバーになっています。彼らに限らず、それぞれのバンドの良さをいかしつつ、原曲の良さをしっかり保ったカバーにしっかり仕上げている点も、バンドそれぞれのロットンへの愛情を強く感じさせるトリビュートアルバムになっていました。

ラストを締めくくる上田剛士の「THIS WORLD」のへヴィーなエレクトロサウンドによるリミックスも上田剛士らしいアレンジになっており見事。最後の最後まで参加メンバーそれぞれの個性がしっかり生かされた良質なトリビュートアルバムになっていました。しかし、正直、上にも書いた通り、ロットンの曲はいままでさほど良いと思ったことが少なかったのですが、これだけカバーが良いというのは、それだけ原曲にもしっかりと魅力があるという点。あらためてロットンの曲を聴き直そうかな、そうとまで思わせてくれるトリビュートアルバムになっていました。ちなみにロットン自身、2月にベスト盤をリリースしています。そちらもチェックしてみたくなる、そんなアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

SOLEIL in STEREO/SOLEIL

噂の美少女ボーカリスト、それいゆ率いるバンドSOLEIL。残念ながら彼女が学業に専念するということで活動休止となってしまったのですが、そんなSOLEILのラストアイテムとして、バンドの1stアルバムと2ndアルバムの全曲をステレオミックスとして収録したリミックスアルバムがリリース。それも単なるステレオ化した音源ではなく、初期から中期のビートルズのステレオ録音を意識した、極端に音を左右に振られたステレオミックスを再現。最後の最後までこだわりたっぷりの仕事ぶりを楽しませてくれます。もちろん、全編60年代のキュートなガールズポップ、ロックンロールを体現化した楽曲は実に魅力的。あまりにも早い活動休止は非常に残念に感じます…が、一方では昨年5月、メンバーだった中森泰弘が、「やれることはやり切った」と脱退してしまったのですが、確かにやはり楽曲のバリエーションとしては限界がありますし、マンネリ化する前のこのタイミングでの活動休止は、タイミングとしてはちょうどよかったのかなぁ、なんて思うことも。ただ、一度、ライブに行きたかったな…。

評価:★★★★★

SOLEIL 過去の作品
My Name is SOLEIL
SOLEIL is Alright
LOLIPOP SIXTEEN

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2020年2月20日 (木)

例の事件の影響で・・・

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今でもなお、引き続き世間を騒がしている槇原敬之の覚せい剤所持による逮捕というニュース。今週、この事件の影響で、なんと彼のベストアルバム「SMILING~THE BEST OF NORIYUKI MAKIHARA」が9位にランクイン。特にダウンロード数は2位という結果となり、本作は1997年のリリースであるため、ビルボードチャートでは初となるベスト10ヒットとなっています。おそらく、逮捕の影響により彼のCDが回収されたり配信が中止されることを見越しての駆け込み需要なのでしょう。ただ、彼は何枚もベスト盤をリリースされており、2010年にも2枚組のベスト盤をリリースしているのですが、今回一番売れたのが一番最初のベスト盤というのはちょっと複雑な印象も。

今のところ、彼の作品についてCD回収や配信停止という事態にはなっていないようです。ネット上では覚せい剤使用についてちょっと異常ともいえる糾弾も目立つ反面、作品については罪がないと、CD回収や配信停止に対して批判的な意見も少なくありません。個人的にも当然、CD回収や配信停止は単なるレコード会社側の保身的行為以上でも以下でもないと思っているため、こんなバカバカしい慣習は一切やめるべきだと思っているのですが、今回のケースではどうなるのでしょうか…。

さて、そんな今週のチャートで1位を獲得したのは、女性6人組のボーカルグループLittle Glee Monster「BRIGHT NEW WORLD」でした。CD販売数1位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数10位。昨年末まで3年連続紅白出場と絶好調の彼女たち。先行EPにも収録されていましたが、本作ではEarth,Wind&Fireとのコラボ作も収録されるなど、意欲的な活動が続いています。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上4万枚で1位初登場。直近のEP盤「I Feel The Light」の1万4千枚(5位)からはアップ。ただし、オリジナルとして前作である「FLAVA」の初動5万2千枚(1位)からはダウンしています。

2位はHot100でも大活躍中のKing Gnu「CEREMONY」が先週から同順位をキープ。CD販売数は6位に下がってしまいましたが、ダウンロード数、PCによるCD読取数共に1位をキープしており、まだまだロングヒットは続きそうです。

3位にはEve「Smile」がランクイン。動画投稿サイトの歌唱動画で注目を集め、その後、いわゆるボカロPとしても人気を博した男性シンガーソングライター。前作「おとぎ」ではポスト米津玄師的にプッシュされていましたが、続く「Smile」も大ヒットを記録しています。CD販売数2位、ダウンロード数8位、PCによるCD読取数13位。オリコンでは初動売上2万7千枚で2位初登場。前作「おとぎ」の2万枚(6位)からアップしています。

4位には女性4人組バンドSCANDAL「kiss from the darkness」がランクイン。CD販売数5位、ダウンロード数9位、PCによるCD読取数22位。オリコンでは初動売上1万7千枚で5位初登場。前作「HONEY」の2万2千枚(3位)よりダウン。

5位初登場は韓国の男性アイドルグループATEEZ「TREASURE EP. Map To Answer」。CD販売数で3位でしたが、そのほかのチャートは圏外となり、総合順位でもこの位置に。オリコンでは初動売上1万8千枚で3位初登場。直近の韓国盤「Treasure Epilogue:Action To Answer」の1千枚(31位)からは大幅アップ。前作「TREASURE EP. EXTRA:Shift The Map」の1万3千枚(9位)からもアップしています。

7位はFANTASTICS from EXILE TRIBE「FANTASTIC9」が初登場。LDH所属の男性ダンスグループで本作がアルバムではデビュー作となります。CD販売数は4位ながらもダウンロード数54位、PCによるCD読取数35位で総合順位もこの位置に。オリコンでは初動売上1万8千枚で4位初登場。

8位には、まさかの復活となります。Chara+YUKI「echo」がランクイン。CD販売数及びダウンロード数7位、PCによるCD読取数38位。オリコンでは初動売上1万2千枚で7位初登場。1999年に、当時、活動休止中だったJUDY AND MARYのボーカルYUKIとCharaがコラボ。シングル「愛の火 3つ オレンジ」をリリースし、大きな話題となりました。ただ、当時は、「売れ線の人気バンド」ジュディマリのボーカルと、「サブカル系の実力派シンガー」Charaのコラボというイメージがあり、YUKIの側が、自らを「実力派のシンガー」として認めさせようとして組んだコラボ、という印象がぬぐえず、シングルも正直言っていまひとつという印象を受けました。そのためか、このコラボはわずかシングル1枚で消滅。その後、当時はアルバムなどがリリースされることはありませんでした。しかしあれから20年。CharaはともかくYUKIの方はボーカリストとして大きく成長し、イメージも大きく変化しました。そんな中でのコラボ復活。20年前のシングル曲「愛の火 3つ オレンジ」もリメイクして収録されています。アルバムはまだ聴いていませんが、20年の月日を経て、どのような成長を感じられるのでしょうか。また待望のライブツアーも予定されており、今後、このユニットは継続していくのでしょうか?楽しみです。

最後10位にはアイドル的人気を誇るカナダのシンガー、Justin Bieber「Changes」がランクイン。CD販売数は16位に留まりましたが、ダウンロード数で4位を記録し、総合順位ではベスト10入りを果たしています。オリコンでは初動売上3千枚で16位初登場。前作「Purpose」の1万3千枚(7位)からダウンしています。

今週の初登場盤は以上。そしてロングヒットですが、Official髭男dism「Traveler」は今週は4位から6位にダウン。ただダウンロード数は先週と変わらず3位をキープしており、まだまだ人気のほどを感じます。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年2月19日 (水)

今週もヒゲダン大活躍

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

先週に引き続き、今週もヒゲダンの活躍が目立つチャートとなりました。

今週、Official髭男dism「I LOVE...」が見事2週連続の1位を獲得。CDリリースにあわせてCD販売数が5位にランクイン。ストリーミング数が1位にアップし、さらにラジオオンエア数、PCによるCD読取数がいずれも1位を獲得。You Tube再生回数も3位にアップ。ダウンロード数は先週から変わらず2位だったものの、多くのチャートで上位に食い込んできました。Twitterつぶやき数は55位、カラオケ歌唱回数は45位と奮いませんでしたが、特にカラオケ歌唱回数は今後のヒットで上位にランクアップしていきそうです。ちなみにオリコン週間シングルランキングでも今週、初動売上1万5千枚で5位初登場。前作「宿命」の7千枚(15位)よりアップしています。

さらに今週は2位も「Pretender」がランクインし、2週連続で1、2フィニッシュを達成。ストリーミング数は1位から3位、ダウンロード数も4位から7位とダウンしたものの、You Tube再生回数、カラオケ歌唱回数は共に1位をキープしており、まだまだ根強い人気を感じさせます。そして「宿命」も先週の10位から9位にアップしたほか、今週はなんと「イエスタデイ」が先週の11位からワンランクアップで5週ぶりのベスト10返り咲き。これでなんとベスト10にOfficial髭男dismの曲が4曲同時にランクインするという結果になりました。

その圧倒的な強さを誇るOfficial髭男dismに対抗しているのがKing Gnu。今週も「白日」は3位をキープ。ダウンロード数は5位から6位にダウンしたもののYou Tube再生回数は2位をキープ。さらにストリーミング数が3位から2位にアップしており、先週1度抜かれた「Pretender」を抜き返しました。

さらに今週、King Gnuはさらに1曲「どろん」が先週の33位からランクアップ。6位にランクインし、ベスト10入りを達成しています。最新アルバム「CEREMONY」収録の楽曲で、映画「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」主題歌となっているナンバー。先日、「ミュージックステーション」でこの曲が歌われた影響もあり、ダウンロード数が圏外から13位、You Tube再生回数も8位にランクイン。ストリーミング数も16位から12位にランクインし、初のベスト10入りとなりました。

今週、ベスト10初登場はこのKing Gnuの「どろん」1曲のみ。ほかにロングヒット曲ではLiSA「紅蓮華」が5位から4位にアップ。ダウンロード数はワンランクダウンながらも4位、ストリーミング数も先週と変わらず4位をキープ。カラオケ歌唱回数は5位からついに2位にアップと、ロングヒットを続けています。

そんな訳で今週のベスト10は以上・・・なのですが、今週、ベスト10のうち、CD販売数でベスト10入りしているのがヒゲダンの新曲と7位にランクインしているSnow Man「D.D.」(CD販売数4位)の2曲のみという事態になっており、ますますCDの実売とヒットの実態が乖離しているチャートとなってきています。

ただ一方、CD販売数で3位に入っている桑田佳祐&The Pin Boys「悲しきプロボウラー」が総合順位では16位に留まるなど、ちょっと残念な結果にもなっています。同曲はラジオオンエア数でも2位、PCによるCD読取数でも12位にランクインしており、正直、ちょっとHot100はストリーミング数やYou Tube再生回数に比重を置きすぎなんじゃないのか??と感じない部分はないでもありません。

そしてちょっと厳しい話だと「悲しきプロボウラー」はダウンロード数では30位、ストリーミング数ではサブスクが解禁されているにも関わらず圏外という結果になっています。比較的、CDアイテムにも重きを置いた販売戦略になっているとはいえ、ネット系が弱いというのは、ファン層が比較的高年齢という影響も大きいのでしょう。他にも似たような例では氷川きよしもシングルではCD販売数が上位に来ても、総合順位ではネット系の順位が奮わないため上位に入ってこれない、という現象がみられます。そういう意味でも、中高年のファンの多いミュージシャンにとって、今のHot100の集計方法は上位をなかなか狙いにくい状況であり、そういう意味では、今の方法でも「全てのヒットを正確に」捉えているかは微妙な部分があるのは否めません。ただ、CDという形態が、今後ますます時代遅れになっていくという点だけは間違いなさそうですが...。

明日は、シングルに比べると、まだCDの売上がヒットとリンクしているHot Albums!

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2020年2月18日 (火)

ただただ残念です。

Title:The Best of Listen To The Music
Musician:槇原敬之

当サイトで取り上げるアルバムは、基本的には私ゆういちが聴いた順番に取り上げています。そのため、このタイミングでこのアルバムを取り上げるのは全くの偶然。例の事件が起きる前に、ちょうどこのアルバムを聴いていたからであって、決して、例の事件が起きたからあえて取り上げた訳ではありません。ただ、やはりこのタイミングでこのアルバムを取り上げるからには、例の事件について言及しないわけにはいきません。そう、槇原敬之、覚せい剤所持で逮捕。21年前に彼がおなじく覚せい剤所持で逮捕された時も、非常に強い衝撃を受けました。特にあの時は、槇原敬之といえば覚せい剤というイメージとはかけ離れたイメージを持っていたミュージシャンだっただけに、ショックは今以上でした。ちなみにその直後に予定されていたライブツアーも中止になったのですが、実はその時のライブチケットを事前に確保しており、中止により払い戻しの憂き目に会いました…。

それから21年。田代まさしやら岡村靖幸やら、何度も覚せい剤で逮捕される芸能人が相次ぐ中、槇原敬之はその後、逮捕というニュースもなく、無事更生したもの・・・・・・と思っていただけに今回の逮捕は非常にショックでしたし、また非常に残念に感じます。前回の逮捕から20年以上の月日がたっているだけに、依存症だったのかどうなのかは今の段階ではわかりませんが、再び手を出してしまったあたりに月並みな言い方ですが覚せい剤の怖さも感じてしまいます。今回のニュースに関しては、ただただ残念…その一言です。

ただ、今回の槇原敬之逮捕のニュースに合わせて、Twitterのトレンドに岡村靖幸の名前があがってきたのにはただただ苦笑いしてしまいました。もうね、岡村ちゃんのファンは、いつニュース速報に「岡村靖幸、逮捕」の文字が出てきてしまうか、ヒヤヒヤしながら過ごしているんですよね(苦笑)。Twitterのトレンドに彼の名前が登場すると「まさか!」と思ってしまいますし…。でも、彼も最後の逮捕からもう10年も経つんですよね。今度こそ立ち直ってほしいのですが・・・・・・。

そんなニュースがありつつも、このアルバムも感想も。本作は、彼がいままで3作リリースしてきたカバーアルバム「Listen To The Music」の中から代表曲を取り上げたベスト盤。山下達郎や松任谷由実、中島みゆきや大江千里など、シンガーソングライター系のミュージシャンのカバーが多く、ある意味、彼と同じような系統のミュージシャンの曲が目立ちます。基本的には彼が敬愛してきたミュージシャンたちのカバーが多いだけに、原曲をおおきくいじることなく、素直に歌い上げた、(あの事件の後にこういう言葉を使うのは違和感はあるのですが)「真面目な」カバーが目立ちます。

ただ、一方でちょっと爽やかすぎる印象を受けてしまうカバーもあり、それが特に顕著だったのが美輪明宏の「ヨイトマケの唄」のカバー。社会の底辺について歌った曲にしては、あまりに彼の歌声は軽すぎます。それでちょっと思い当ってしまうのは、彼が最初の覚せい剤事件の逮捕後に手掛けてきた「ライフソング」と言われる人生をテーマとしたような楽曲群。正直言って、人間性の表の部分だけにスポットがあてられている薄っぺらくて説教臭い曲が多く、個人的には好きじゃない曲が多いのですが、ただ、この「ヨイトマケの唄」の軽いカバーにしてもそうなのですが、彼のスタンスとしてどうも人間性の影の部分から目を背けている…というか「否定」しているような印象を受けてしまいます。そんな彼が覚せい剤に手を染めているあたりに、槇原敬之もどうしもようもない「闇」をかんじてしまって仕方ないのですが…今回の逮捕を受けての印象になってしまうのですが、どうもこの軽い雰囲気のカバーが気になってしまいました。

逆に非常に彼のカバーがマッチしていたのが大江千里の「Rain」、そして今回のカバーベストにあらたに収録されたフジファブリックの「若者のすべて」。どちらも非常に切ない楽曲なのですが、槇原敬之のボーカルは、間違いなくこの手の切ない雰囲気の曲に合っているんですね。どちらも素晴らしいカバーに仕上がっていました。カバーという観点からも、彼に合っているのはやはり切ないラブソングなんだな、ということを再認識しました。

3月には、セルフカバーも予定されていましたが、残念ながら販売中止でしょう。彼の次の作品はいつになるのか、全くわかりませんし、残念ながらいまはまだ期待する段階ではないでしょう。ただいまはしっかりと罪を償い、もし依存症になっているのならばしかるべき治療を受けて欲しいと願うばかりです。本当に今回のニュースはただただ残念で仕方ありません。

評価:★★★★★

槇原敬之 過去の作品
悲しみなんて何の役に立たないと思っていた
Personal Soundtracks
Best LOVE
Best LIFE

不安の中に手を突っ込んで
NORIYUKI MAKIHARA SYMPHONY ORCHESTRA CONCERT CELEBRATION 2010~SING OUT GLEEFULLY!~
Heart to Heart
秋うた、冬うた。
Dawn Over the Clover Field

春うた、夏うた。
Listen To The Music 3
Lovable People
Believer
Design&Reason


ほかに聴いたアルバム

熊木杏里 LIVE “ホントのライブベスト版 15th篇" ~An's Choice~/熊木杏里

2018年3月24日に行われた東京国際フォーラム ホールCでのライブ「熊木杏里 LIVE “ホントのライブベスト版 15th篇"」より、厳選された14曲を収録したライブアルバム。アコースティックなサウンドをベースとした暖かいポップソングが魅力的。CD音源で聴いてしまうと、若干、楽曲の幅の狭さが気になる部分はあるのですが、ライブで聴いたら、その歌声の魅力に没頭できるんだろうな、とは感じます。個人的にはMCを含めた完全収録で聴きたかったような印象も受けるのですが。

評価:★★★★

熊木杏里 過去の作品
ひとヒナタ
はなよりほかに
風と凪
and...life
光の通り道

飾りのない明日
群青の日々
殺風景~15th Anniversary Edition~
人と時

HEART/a flood of circle

a flood of circleの新作は、新曲5曲+ライブ音源10曲入りの「ミニアルバム」。今回、新たな試みとして、いままで彼らの曲の作詞作曲を担当してきた佐々木亮介含めメンバー全員が曲を持ち寄り、それぞれ1曲づつを担当。最後の1曲はメンバー全員によって曲を作成した、という意欲作になっています。ただ、その意欲は買いたいのですが、楽曲の出来としては正直言っていまひとつ。a flood of circleの良さを生かし切れていない、平凡なポップソングになってしまっています。まあ、今回は新たな試みだった、ということで割り切ってしまうのが良いのでしょうが…a flood of circleの熱心なファン以外には少々おすすめしにくいアルバム。次はフルアルバムの中の1曲、みたいな形で、徐々に他のメンバーも曲も収録する形の方が良いように思うのですが。

評価:★★★

a flood of circle 過去の作品
泥水のメロディー
BUFFALO SOUL
PARADOX PARADE
ZOOMANITY
LOVE IS LIKE A ROCK'N'ROLL
FUCK FOREVER
I'M FREE
GOLDEN TIME
ベストライド
"THE BLUE"-AFOC 2006-2015-
NEW TRIBE
a flood of circle
CENTER OF THE EARTH

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2020年2月17日 (月)

70年代に一世を風靡したグループ

Title:ALICE ALL TIME COMPLETE SINGLE COLLECTION 2019
Musician:アリス

今回紹介するのは、かなり毛色の違うグループです。主に1970年代後半に活躍し、「冬の稲妻」「チャンピオン」などが大ヒットを記録し、一世を風靡した3人組フォークグループ、アリス。このグループ自体にあまりなじみがなくても、メンバーである谷村新司や堀内孝雄はその後も第一線で活動を続けているので、もっと若い世代でもご存じでしょう・・・・・・といっても、私自身、アリスが活動を続けていた時期は、まだ産まれていないか、ほとんど赤ちゃんだった頃なので、リアルタイムではなじみがありません。じゃあ、なんで聴いてみようかと思ったのは、実は私の両親、特に父親がよく聴いていて、子どもの頃、家族でのドライブの中でよく車の中で聴かされていた記憶があるから。2019年に6年ぶりに再始動したそうですが、そんな中、初となるオールタイムシングルコレクションがリリースされたため、これを機に一度聴いてみよう、と思い立ち、聴いてみた次第です。

ただ、大ヒット曲の「冬の稲妻」や「チャンピオン」などは、昔、車の中で聴いていた…とは違う文脈で、「懐かしのヒット曲」的な扱いで耳なじみありましたし、正直言って、聴いていてあまり「懐かしい」という感情は沸いてきませんでした。が、そんな私の耳にとまったのがDisc3に収録されている「BURAI」。1987年の再結成の際にリリースされたシングルで、当時、テレビ番組などで歌ったようですが、オリコン最高位34位とお世辞にもヒット曲とは言えないこの曲ですが、完全に聞き覚えがありました。ちょうど私が小学生だった頃。おそらく親が聴いていたのを聴いていたんだろうなぁ…という感情がわいてきて、どこか懐かしさすら感じてしまいました。

そんな個人的な思いはありつつ、ただ一方では率直な感想としては、良くも悪くも、いかにも日本の売れ線のグループだな、というのが彼らのシングルを通して聴いた最大の感想でした。一応ジャンル的にはフォークグループなのですが、60年代フォークのような社会派な側面は皆無。また、海外のフォークソングからの影響はほとんど感じません。また、特に後期の作品になるとロックやニューミュージック的な要素は強くなるのですが、こちらに関してもルーツを感じるような要素はほとんどありません。様々な音楽のジャンルを詰め込みながらも、ルーツをほとんど感じることが出来ないというのは、今の売れ線のJ-POPと同じ傾向。良くも悪くも実に日本的といった感じもします。

またフォークグループとしてスタートしながら、楽曲的には完全に歌謡曲。楽曲によってはムード歌謡曲や、さらに演歌に近いものすらあり、ここもスタートラインがフォークだろうがロックだろうが、行き着く先は歌謡曲になってしまう、という日本のヒットソングの宿命的なものを感じてしまいます。堀内孝雄なんかは、ソロデビュー後は演歌歌手となっていくのですが、いまから聴くと、この時代から演歌だったよなぁ…ということも感じてしまいます。

こうやって音楽を聴くのが好き、というのは親の、特に父親の影響が強いのですが、正直言って音楽的な趣味はほとんど引き継がなかったなぁ、というのはこのアルバムを聴いてあらためて感じてしまいました。とはいえ、一時代を築いたグループ。なんだかんだいっても今でも聴かせる曲は少なくありませんし、そこはたくさんのヒット曲を持っている彼ら。インパクトは十分。リアルタイムで聴いていた…という方はさすがに当サイトを見てくださっている方であまり多くないかもしれませんが、私みたいに「親が聴いていた」という方はチェックしてみても損はないかもしれません。意外なところで懐かしさも感じるかも。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

NOW WAVE/渡辺俊美&THE ZOOT16

TOKYO No.1 SOUL SETの渡辺俊美のソロアルバム。THE ZOOT16は彼のソロユニットなのですが、本作の名義上はTHE ZOOT16を「率いての作品」という形になっています。基本的な路線はいつもと同様で、ラテンテイストをふんだんに詰め込み、時にはジャジーなサウンドも加えた哀愁感たっぷりのメロディーラインを聴かせてくれます。目新しさはありませんが、その歌声も含めて、完全に彼の世界を構築しているといった感じ。ただ、Disc2としてインストがついているのですが、これが単なるカラオケになっていたのがちょっと残念…。

評価:★★★★

THE ZOOT16(渡辺俊美) 過去の作品
ヒズミカル
Z16
としみととしみ(渡辺俊美)

ゲンズブールに愛されて/DJ後藤まりこ

後藤まりこの新作は、「DJ後藤まりこ」名義でのリリースとなる、全編エレクトロの作品。彼女らしい破天荒でパンキッシュなナンバーも多い反面、アイドルばりの彼女の声を生かしたようなポップな曲も目立つ作品に。ただ、全体的には彼女のアバンギャルド的な要素は鳴りを潜めてしまい、悪くはないもののいまひとつおとなしくまとまってしまった感もあるアルバムに。良くも悪くもエレクトロサウンドを入れたことによってサウンドとして聴きやすくなり、ポップな側面が前に押し出されたアルバムになっていました。

評価:★★★★

後藤まりこ 過去の作品
299792458
m@u
こわれた箱にりなっくす

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2020年2月16日 (日)

柴田、暴走しまくり

Title:週刊青春
Musician:忘れらんねえよ

2018年にベースの梅津拓也が脱退し、ついに柴田隆浩の1人バンドとなってしまったパンクバンド、忘れらんねえよ。もともと、決定的にもてない男性の、あまりに明け透けな心の叫びをそのまま歌にする、いわばルサンチマンの塊のようなバンドでしたが、柴田隆浩のソロバンドとなってからは、その方向性でさらに暴走。ソロになって初となるミニアルバムだった前作「あいつロングシュート決めてあの娘が歓声をあげてそのとき俺は家にいた」では、多分、人によっては完全に引いてしまうくらいの、もてない男性の心の叫びをそのまま歌詞にした楽曲が並んでおり、柴田隆浩がおそらくバンドで本当に歌いたかったことをそのまま楽曲にしたような作品が並んでいました。

そしてそれに続く本作についても、完全に柴田隆浩の暴走が続いています。例えばタイトルからしてかなり露骨な「YouTuberになればモテると聞いた」では、学生生活の中でいわゆる「二軍」扱いされた彼のイタイまでの日常がかなりリアルに描かれており、

「放課後 夕暮れ光差す教室で
あの娘は一軍の男たちとはしゃいでいる
それはダメ そんなの恋が始まっちゃうじゃんか
俺は思わずそこに近づいていく
『なんだよ柴田』山崎が言う 俺は答える
『いや?なんだか楽しそうだな?って思ってw』
しーん 重苦しい空気
汗が出る 夕焼けが灼熱のようだ
変わりたい 変わりたい 俺変わりたいよ」
(「YouTuberになればモテると聞いた」より 作詞 柴田隆浩)

というフレーズだけでも、まさに情景とその空気感を痛々しいまでに感じることが出来ます。また、誰もかれもみんなもともとは精子だった、と元も子もない、しかしある種の真実をついた下ネタソング「みんなもともと精子」もある意味、柴田隆浩らしい視点が魅力的。さらには「愛情も才能も怒りも憎しみも/あの娘に俺は分からねえ」と歌う「あの娘に俺が分かってたまるか」も、自意識が暴走しまくっているあたりも、いかにもモテない男子の「あるある」な話で、リアルさを強く感じてしまいます。

かと思えば一方では「なつみ」のように一人の女性に対する思いをストレートに歌い上げるラブソングがあったり、「だっせー恋ばっかしやがって」というような、モテない男子に対する力強いエールを歌い上げる曲もあったりと、単なる柴田隆浩のルサンチマンが暴走するだけではなく、しっかりと彼なりのメッセージが込められた心に響く曲も何曲も収録されています。

そんな彼の思いがのせられているのは非常にストレートでパンクなギターロック。比較的シンプルなバンドサウンドがメインとなっており、サウンド的にバリエーションがある訳ではありません。しかし、力強くノイジーなギターサウンドは、柴田隆浩のあふれるまでの思いをのせるのにまさにピッタリ。こういう痛いまでの思いを発現することこそ、ロックンロールという音楽の醍醐味ではないでしょうか。間違いなく実にロックらしいロックと言えるかもしれません。

ただちょっと残念だったのが前作のミニアルバム「あいつロングシュート決めてあの娘が歓声をあげてそのとき俺は家にいた」から表題曲を含め3曲も重複して収録されていた点。ひょっとして「あいつロングシュート~」は事実上のシングルという扱いだったのかもしれませんが、ただ結果としてその3曲は、このアルバムの中でも特にインパクトの強い楽曲となってしまっており、その3曲を超えるだけのインパクトがあった曲が新曲にあったか、と言われると若干微妙に感じてしまうほど…。そういう意味ではちょっと残念に感じてしまいました。

もし「あいつロングシュート~」からの3曲がこのアルバムが初出となる新曲だったら、間違いなく2019年を代表する傑作アルバムになっていたと思うんですが…。それを差し引いても、柴田隆浩のルサンチマンが爆発しまくっている、ある意味、これこそがロックだろ!と言いたくなるような傑作アルバムに仕上がっています。つまんない「フェス」向けのバンドがロックを名乗っていたり、完全に事務所に作られたような女性アイドルグループがパンクだの名乗ったり、そんな偽物の「ロックミュージシャン」たちをロックメディアを名乗る媒体が妙に持ち上げていたりと、完全にロックがロックじゃなくなってしまった今こそ、「これがロックだよ!」とそんなつまんない連中の鼻先につきつけて、耳の穴をかっぽじって爆音で聴かせてやりた、そんなアルバム。間違いなく、ロックとして評価されるべき作品です。

評価:★★★★★

忘れらんねえよ 過去の作品
忘れらんねえよ
空を見上げても空しかねえよ
あの娘のメルアド予想する
犬にしてくれ
忘れらんねえよのこれまでと、これから。
俺よ届け
僕にできることはないかな
あいつロングシュート決めてあの娘が歓声をあげてそのとき俺は家にいた


ほかに聴いたアルバム

平凡!/栗コーダーカルテット

栗コーダーカルテットと言うと、いつも脱力感満載のユニークなカバー曲など、飛び道具がアルバムに収録されています。ただ本作はそのようなカバーはなく、リコーダーやアコギなどで暖かくも脱力感あるサウンドを聴かせてくれるのですが、楽曲としては平凡じゃないか・・・・・・とここまで思って「はっ!」と思いました。だから今回のアルバムタイトルが「平凡!」なのかぁ・・・・・・。もっとも、「飛び道具」がないため、パッと聴いて「平凡」に感じる曲でも、内容的にはリコーダーやアコギの音が上手く折り重なり、しっかりと栗コーダーらしいサウンドを作り上げており、楽曲として決して「平凡」ではありません。そういう意味でもアルバムタイトルに「平凡!」とつけるあたりに、逆に彼らの自負心も感じられる、そんなアルバムでした。

評価:★★★★★

栗コーダーカルテット 過去の作品
15周年ベスト
夏から秋へ渡る橋
渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)

遠くの友達
生渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)
羊どろぼう
ウクレレ栗コーダー2~UNIVERSAL 100th Anniversary~
あの歌 この歌
20周年ベスト
ひろコーダー☆栗コーダー(谷山浩子と栗コーダーカルテット)
KURICORDER QUARTET ON AIR NHK RECORDINGS

I Feel The Light/Little Glee Monster

昨年末は3年連続の紅白出場を果たすなど、人気グループとして地位を確立させてきているLittle Glee Monsterの新作は5曲入りのEP盤。表題曲はなんとEarth,Wind&Fireをゲストに迎えての作品。さらにはキャロルキングの「You've Got A Friend」やFor Realの「You Don't Know Nothin'」のカバー曲が収録されるなど、全体的に洋楽テイスト、R&Bテイストが強く、コーラスグループとしての矜持を感じさせるアルバムに。もっとも、技巧的には上手いのですが、ボーカリストとしての表現力はかなり弱く、大きな課題となっているのは相変わらず。もっとも、メンバー全員が20歳そこそこという彼女たちなだけに、あと10年後が楽しみといった感じなのですが。

評価:★★★★

Little Glee Monster 過去の作品
Joyful Monster
juice
FLAVA

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2020年2月15日 (土)

芸人へのプロデュース作が特に秀逸

Title:ARBEIT
Musician:TOWA TEI

昨年2019年にデビュー25周年を迎えたTOWA TEI。自身のソロ活動以外にも、METAFIVEとしての活動やSWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINEとしての活動など積極的な活動が目立つ彼ですが、本作はそんな彼のいわゆるアウトサイドワーク集。もともと様々なミュージシャンに対して積極的にプロデュースやリミックスを行っている彼ですが、そんな彼がプロデュースやリミックスを手掛けた曲が収録されている企画盤になっています。

特に今回の作品集の中でも目立ったのは、彼がプロデュースした吉本興業の芸人の曲たち。もともと以前、彼自身のマネジメントを吉本興業が手掛けていた時期があったそうで、その流れなのでしょうか、吉本興業の芸人の曲のプロデュースを数多く手掛けています。ただ、その曲がどれも実に秀逸。今田耕司がKOJI 1200名義でリリースした「NOW ROMANTIC」もある意味、少々ベタさを感じるニューロマ風の曲のちょっといかがわしい雰囲気が今田耕司の芸人イメージにもマッチ。板尾創路の「SHONEN B」も彼らしいシュールな歌詞と、おしゃれなラウンジ風のアレンジが絶妙に合っているのが不思議。さらにダウンタウンがGEISHA GIRLS名義でリリースした「KICK&LOUD」も、オールドスクールなサンプリングにのせてラップする破天荒なダウンタウンのラップが非常にユニーク。最近ではすっかり大物となってしまい、大御所の御意見番芸人みたいになってしまったダウンタウン(というよりも松本人志)ですが、そういえばこの破天荒さが彼らの大きな魅力だったよなぁ…と思いだしてしまいました。

これら芸人とのコラボは、テイと吉本興業とのつながりによるものなのでしょうが、一方ではSWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINEの最新作ではバカリズムをメンバーとして迎えていたりしますし、また、TOWA TEIがセルフポートレートとして用いている、サングラスに、親指と人差し指をあごの下において決めるポーズも見方によってはコミカル。なにげに彼自身、お笑いに対して深い造詣を持っているのでしょうか。まただからこそ、あれだけ上手くお笑い芸人とのコラボが可能になったのかもしれません。

もちろん、そんな芸人とのコラボ以外についても秀逸なコラボ作がならんでいます。基本的にはハウスやラウンジ、エレクトロポップの曲がメイン。ディスコ風でリズミカルなハウスナンバー「2AM」や、Pizzicato Fiveのリミックス「CATHY」などが印象に残ります。ただ一方ではリミックスとして参加したミュージシャンは実に多種多様。スチャダラパーやキリンジ、小泉今日子にCharaなど、様々な豪華なミュージシャンとコラボしています。

そんな中、今回はじめて知ったのがラストに収録されているNOKKOの「人魚」。1994年に大ヒットしたナンバーなのですが、これってオリジナルがTOWA TEIプロデュースだったんですね…今回はじめて知りました。非常に幻想的な雰囲気が印象的な楽曲なのですが、正直言って、TOWA TEIのイメージは皆無。彼の意外な仕事ぶりを今回のアルバムで知ることが出来ました。

純粋にTOWA TEIの新作的な感覚でも楽しめた今回のアルバム。彼の仕事を通じて、その才能をあらためて感じることが出来たアルバムになっていました。これから、どんな彼のあらたな作品が生まれてくるのか…ますます楽しみになるアウトワーク集でした。

評価:★★★★★

TOWA TEI 過去の作品
BIG FUN
MACH2012
LUCKY
CUTE
EMO

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2020年2月14日 (金)

25年の歩み

Title:G25 -Beautiful Harmony-
Musician:ゴスペラーズ

今年、デビュー25周年を迎える5人組コーラスグループ、ゴスペラーズ。今回、彼らのその活動を総括するシングルコレクションがリリース。1994年にリリースしたデビューシングル「Promise」から、昨年リリースした現時点での最新シングル「VOXers」までの全57枚に及ぶシングルが5枚組のCDに収録されているというボリューミーな内容となっています。ちなみに彼らは5年前にも「G20」というタイトルでオールタイムベストをリリースしたばかりなのですが…まあ、「G20」がシングルにこだわらないベスト盤、こちらはあくまでもシングルコレクションという違いでしょう。ある意味、彼らの「顔」ともいえるシングルを、ただ発売順に並べている構成になっているため、ゴスペラーズがその時々に、どのように見られており、そしてそんな中でどのように活動していったかという遍歴が、よくわかる内容になっています。

ゴスペラーズと言えば、今では押しも押されぬ日本を代表するコーラスグループとしてその名を知られていますが、デビューしてからブレイクするまで、比較的長い時間がかかってしまったグループでした。1994年のデビューから、初のヒット作となった「永遠に」まで約6年。いまでこそ音楽シーン全体が停滞してしまったため、ブレイクまで5年や6年がかかるミュージシャンも少なくありませんし、また、デビューから20年30年とたったミュージシャンもゴロゴロいる中で、デビュー6年目はまだまだ「若手」扱いかもしれません。しかし当時、デビュー6年目といえば既に中堅の域。さらに彼らは「知る人ぞ知る」的な扱いではなく、むしろずっと「ブレイク最右翼」として扱われており、メンバーが「笑っていいとも」にレギュラーで出演していたり、楽曲が当時大人気だったニュース番組「ニュースステーション」のテーマ曲として起用されたりと、事務所やレコード会社側からもかなりプッシュされていたミュージシャンで、当時でも「何で彼らは売れないんだ??」とかなり疑問だったのを記憶しています。

そして今となってこのブレイク前の時期の作品のシングルを聴いてみると、非常にJ-POP的であり、いかにも「売れ線」を狙ったように感じます。3枚目のシングルとなった「Winter Cheers! ~ winter special」なんかも、いかにもJ-POP的なポップチューン。少々露骨とも言えるブレイク狙いを感じてしまいますが、一方でこの時期の作品にはコーラスグループとしてのゴスペラーズの良さが反映されているか、と言われると微妙な作品が並んでいます。彼らがデビューした直後の90年代半ばは、まだ彼らのようなコーラスグループやあるいはR&Bというジャンルがヒットシーンに受け入れられておらず、そのような中で彼らを売るために、あえてコーラス色やR&B色を薄くしたような楽曲をシングルとして持ってきたのでしょう。

ただ一方、ブレイク直後の「永遠に」「ひとり」といった、彼らを代表するヒット曲は、むしろ彼らの持ち味であるコーラスや、R&B的な側面を強く押し出した曲調となっています。そういう意味では、彼らは彼らの良さをより前に出したからこそブレイクできた、と言える訳で、「売れ線」を意識したような曲では売れず、素直に彼ららしさを出した曲でブレイクした、というのは皮肉的でもあり、かつデビュー直後のレコード会社や事務所側の見る目のなさも感じてしまいます…。もっとも、この間にMISIAや宇多田ヒカルのブレイクがあり、R&Bというジャンルが一種のブームとなってきた、という時代の変化もあるため、単純に「見る目のなさ」とだけは言えない部分もあるのですが…。

ちなみに特に転機となったのは1999年にリリースした「熱帯夜」。この曲はさほど売れてはいないのですが、ブラックさがグッと増し、彼らのソウル的な側面が前に出てきた作品になっており、このアルバムでもDisc2以降、グッと雰囲気が変わってきます。ただ、何気に個人的には、ブレイク前の作品でアニメソングであり、かつポップ色の強い「BOO〜おなかが空くほど笑ってみたい〜」とか結構好きだったりするのですが…(なにげに阿久悠と筒美京平という超豪華な作家陣の組み合わせなのも要注目です)。

しかし、その後、Disc3あたり(2003年~2008年の作品)で楽曲はマンネリ気味となってしまいます。決して悪い作品ではないのですが、いかにもゴスペラーズらしいといった感じの曲が並んでおり、良くも悪くも目新しさがなくなってきてしまうのがこの時期。人気的にはちょうど絶頂期だっただけに、いかにもゴスペラーズらしい作品をシングルとして求められたということでしょうか。Disc4の時期あたりまで、そんな悪くはないけど、マンネリ気味といった雰囲気の作品が続きます。

ところがそれがグッとおもしろくなってきているのが最近の作品。無難なポップにまとめあげられていたDisc2~3頃の作品と比べると、グッとソウルやR&Bの要素が増し、彼らなりのルーツ回帰とあらたな挑戦も感じられます。例えば「クリスマス・クワイア」などはタイトルから想像できるようなゴスペルの要素を取り入れた作品。その名前とは裏腹に、ゴスペル風の曲があまりなかった彼らにとって、シングルでこのような曲をリリースすること自体、大きな挑戦に感じます。

実際、直近作「What The World Needs Now」はそれほどではなかったものの、前々作「Soul Renaissance」はブラックミュージックの要素を強めた作風のアルバムをリリースしており、ベテランとなった今でも続く彼らの挑戦心を感じることが出来ます。実際、前述の通り、最近の曲になるにつれて、再び楽曲のおもしろさも増しており、今後の活躍が楽しみになってくる彼ら。一時期はコーラスグループがブームとなり、彼らのようなコーラスグループが次々とデビューしてきましたが、気が付けば、残ったのは再び彼らくらいになってしまった今、それだけ彼らが他とは異なる傑出した実力を持っているからこそ、これだけ長い活躍が続くのでしょう。これからも彼らの活躍が楽しみです。

評価:★★★★★

ゴスペラーズ 過去の作品
The Gospellers Works
Hurray!
Love Notes II
STEP FOR FIVE
ハモ騒動~The Gospellers Covers~
The Gospellers Now
G20
Soul Renaissance
What The World Needs Now

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2020年2月13日 (木)

こちらはジャニ系が1位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

Hot Albumsはジャニーズ系が1位獲得です。

今週1位を獲得したのはジャニーズ系男性アイドルグループSexy Zone「POP×STEP!?」。CD販売数1位、PCによるCD読取数3位。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上13万1千枚で1位を獲得。前作「PAGES」の12万1千枚(1位)からアップしています。

2位はKing Gnu「CEREMONY」が先週の3位からワンランクアップ。CD販売数は3位ながらもダウンロード数及びPCによるCD読取数で共に1位を獲得し、まだまだ強さを感じる結果になっています。Hot100の「白日」共々、ロングヒットを記録しそうです。

3位には韓国の女性アイドルグループTWICE「&TWICE」が10週ぶりにベスト10返り咲き。これはK-POP勢おなじみの、収録曲を追加(とはいってもたった1曲…)し、DVDの内容も変更したリパッケージアルバム「&TWICE-Repackage-」がリリースされた影響。ダウンロード数31位、PCによるCD読取数27位に対してCD販売数が2位にランクインし、ベスト10に返り咲いています。ちなみにオリコンでも今週2位に返り咲き。このアコギな商法はかなり問題だと思うんですが…。

続いて4位以下の初登場盤です。まず6位にアメリカのパンクバンドGREEN DAY「Father of All...」がランクイン。前作「Revolution Radio」から約3年4か月ぶりとなるニューアルバム。CD販売数9位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数57位。ちなみに正式タイトルは「Father of All Motherfuckers」なのですが、最後の単語が禁止用語ということで、上記タイトルのように略されて紹介されているようです。オリコンでは初動売上5千枚で9位初登場。前作の1万2千枚(8位)よりダウン。

7位には女性シンガー大原櫻子「Passion」がランクイン。CD販売数6位、ダウンロード数19位、PCによるCD読取数88位。オリコンでは初動売上7千枚で7位初登場。直近作はベスト盤「CAM ON!~5th Anniversary Best~」で、同作の1万7千枚(4位)からダウン。またオリジナルアルバムとしての前作「Enjoy」の1万9千枚(7位)よりもダウンしています。

8位初登場は女性アイドルグループBiS「LOOKiE」がランクイン。CD販売数は4位だったものの、他のランキングが圏外となり総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上8千枚で6位初登場。前作「Brand-new idol Society」の5千枚(9位)からアップ。

9位には、韓国の男性アイドルグループSS501でも活躍しているキム・ヒョンジュンのソロアルバム「月と太陽と君の歌」が初登場。CD販売数は5位だったもののダウンロード数98位、PCによるCD読取数はランク圏外となり総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上9千枚で4位初登場。前作「5th Anniversary The Best」の5千枚(16位)からアップしています。

最後10位には5人組のパフォーマンスグループ、東京ゲゲゲイ「キテレツメンタルワールド」がランクイン。ダンスに演劇、映像や音楽などを駆使してパフォーマンスを披露する5人組のグループ。CD販売数8位、ダウンロード数23位。オリコンでは初動売上6千枚で8位初登場。前作「黒猫ホテル」の2千枚(26位)から大きくアップしています。

今週の初登場盤は以上。一方、ロングヒット盤ですが、Official髭男dism「Traveler」は、今週さらに5位から4位にアップ。先週4位にダウンしたダウンロード数も3位に盛り返しており、まだまだロングヒットは続きそうです。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年2月12日 (水)

ヒゲダンの躍進、再び

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

2020年もヒゲダンの年になるのでしょうか?

今週、1位を獲得したのはOfficial髭男dism「I LOVE...」。2月12日にCDシングルがリリースされたのですが、それに先立ち、先週の6位からランクアップし、初の1位獲得となりました。ダウンロード数は1位から2位にダウンしたものの、ストリーミング数は3位をキープ。You Tube再生回数も12位から6位に再び上昇。さらにラジオオンエア数も5位から2位にアップし、総合順位では見事1位獲得となりました。

さらに2位にはOfficial髭男dism「Pretender」が先週の3位からワンランクアップで2位を獲得。特にストリーミング数は先週の2位から1位と見事に1位返り咲き。You Tube再生回数及びカラオケ歌唱回数も1位獲得と、相変わらずの強さを見せつけています。そして今週、「宿命」が11位から10位にランクアップし、3週ぶりにベスト10返り咲き。これでヒゲダンの曲はベスト10に3曲同時ランクインとなりました。2019年のJ-POPシーンを席巻したOfficial髭男dismですが、その勢いは今年も続きそうです。

そんなヒゲダンに比べて若干一時期の勢いは落ちてきたのがKing Gnu「白日」。とはいえ今週もワンランクダウンで3位をキープ。ストリーミング数1位はヒゲダンに明け渡したものの2位を維持。ダウンロード数も2位から5位にダウンしたものの、You Tube再生回数は先週から変わらず2位をキープしています。ただし、「Teenager Forever」は今週12位にダウン。残念ながら2週同時ベスト10入りは果たせませんでした。

続いて4位以下の初登場曲ですが、今週、初登場曲は1曲のみ。それが4位にランクインした米津玄師「パプリカ」。昨年、主に未就学児を中心に爆発的なヒットを記録した「パプリカ」。昨年のレコード大賞も受賞し大きな話題となりましたが、本作は、その作詞作曲プロデュースを手掛けた米津玄師によるセルフカバー。以前からYou Tubeなどで既に聴くことが出来たのですが、このたび配信が解禁。ダウンロード数で1位を獲得し、見事ベスト10入りです。ただラジオオンエア数も9位につけたものの、You Tube再生回数26位、Twitterつぶやき数31位とさすがにいまさら感も否めず。ここからのロングヒットは少々厳しいかもしれません。

一方、今週も目立つのがロングヒット勢。ヒゲダンやKing Gnuもロングヒットを続けていますが、ほかのロングヒット勢も目立ちます。まずLiSA「紅蓮華」が8位から5位にランクアップ。ダウンロード数が6位から3位、ストリーミング数も6位から4位にアップ。PCによるCD読取数4位、Twitterつぶやき数7位、カラオケ歌唱回数5位と勢いが続いています。

さらに菅田将暉「まちがいさがし」も先週から変わらず9位をキープ。ストリーミング数は先週と変わらず9位。ダウンロード数は9位から11位にダウンしたものの、You Tube再生回数は5位から4位にアップし、ベスト10の土俵際とはいえ、まだまだロングヒットを続けています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2020年2月11日 (火)

伝説の「名作」に捧げるコンピ

Title:NEW GENE, inspired from Phoenix

その血を飲めば、永遠の命が与えられると言われる伝説の鳥、火の鳥。その「鳥」をめぐる人間の生と死を描いた手塚治虫の代表作「火の鳥」。手塚治虫の生誕90周年だった2019年に、この「火の鳥」をテーマとしたコンピレーションアルバムがリリースされました。参加ミュージシャンが浅井健一にGLIM SPANKY、Shing02や七尾旅人、ドレスコーズとかなり豪華な面子…なのですが、ある意味、音楽ファン的にかなり壺にはまるような人選。この手のコンピレーションにありそうな、いかにも「売るために選ばれた」ような、お茶の間レベルまで知られているような売れ線ミュージシャンの参加はありませんし、ここ最近、よくありがちなアイドル勢の参加もありません。

さらに今回のコンピレーションがまたすごいことが、全曲が書下ろしの新曲という点。既発表曲の中で、「火の鳥」というテーマに合いそうな曲をセレクトした、という感じではありません。また、さらにすごいことは、どのミュージシャンもお付き合い程度に手ごろな「未発表曲」を提供した、といった感じではなく、どの曲も明確に「火の鳥」を素材とした新曲を書いてきています。企画した側の力の入れようもよくわかりますし、また、「火の鳥」をテーマとして、これだけ多くのミュージシャンが新曲を提供してくるあたり、「火の鳥」という漫画が多くの人たちの支持を受けていたということが実によくわかります。

そんな今回のアルバムは、いきなりベンジーからスタート。「HONESTY GOBLIN」では彼らしい不気味に鳴り響くギターサウンドの中で、独特の美意識が展開される楽曲に、まずは耳を惹きつけられます。続くGLIM SPANKYの「Circle of Time」も彼女たちらしいヘヴィーなギターリフで、「火の鳥」で描かれるテーマをかなりストレートに歌詞におこした楽曲になっています。

その後も「火の鳥」をテーマとして個性的な曲が並ぶ本作。Sauce81&Shing02の「藝術編(The Artist)」は、ある芸術家を主人公として描かれるShing02流の「火の鳥」。ひとつの物語りとして展開しており、その内容に惹きつけられます。TeddyLoid&Kizuna AI「Fireburst」は、バーチャルアイドルのKizuna AIをフューチャーしたエレクトロチューン。この近未来的な雰囲気もまた、「火の鳥」…という以上に手塚治虫のイメージと重なる部分があります。

「Human is」もオーストリアのミュージシャン、クリスチャン・フェネスの奏でるインプロビゼーションのエレクトロサウンドにのせて、やくしまるえつこのポエトリーリーディングが流れる印象的な作品に。さらにエレクトロな作風から一転し、アコースティックな曲調となる七尾旅人の「火の鳥のうた」も、実に美しい作品。タイトル通り、ストレートに火の鳥について歌った火の鳥賛歌とも言うべき曲で、個人的に今回のコンピレーションの中で、もっとも印象に残った作品でした。

これらの曲はもちろんですが、その他の曲も参加ミュージシャンの個性がさく裂しているような曲が並んでおり、コンピレーション全体として様々なタイプの曲が並ぶ作品になっているのですが、そんなバラバラな曲が並んでいる事実もまた、このアルバムの大きな魅力になっています。まさに上でも書いた通り、このコンピレーションを企画した人の熱い思いと、ミュージシャンたちの「火の鳥」という作品に対する思いがわかる傑作アルバム。久しぶりに「火の鳥」をまた読みたくなってきました…。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Piercing/小袋成彬

Kobukuro

デビューアルバムだった前作「分離派の夏」が宇多田ヒカルプロデュースということで大きな話題となった男性シンガーソングライターの2作目。ハイトーンボイスで美しく聴かせるボーカルも魅力的ですし、HIP HOPというフィルターを通したような、今風なR&Bも魅力的。前作同様、その実力を感じさせるのは間違いないのですが、これも前作同様、全体的にいろいろな要素を詰め込みすぎているという印象も…。才能があるがゆえに、いろいろとやりたいことが先走ってしまっている感があります。ちなみに2作目となる本作は、なんとCDリリースはなく配信オンリー。ここにもある意味、時代を感じます…。

評価:★★★★

小袋成彬 過去の作品
分離派の夏

CROSS/LUNA SEA

再結成後3枚目、通算10作目となるLUNA SEAのニューアルバム。再結成後の彼らの作品は、ポップな側面を全面に押し出したアルバムが多く、個人的にはちょっと物足りなさを感じているのですが、今回のアルバムも残念ながらその方向性でポップにまとまっているアルバム。もっといえば、河村隆一のボーカルによる耽美性がさらに強調されたアルバムになっており、そういう意味でも、良くも悪くも「ヴィジュアル系」っぽいアルバムに仕上がっていました。ファンとして求む方向性はこちらの方なのかなぁ。

評価:★★★

LUNA SEA 過去の作品
COMPLETE BEST
LUNA SEA
A WILL
25th Anniversary Ultimate Best-THE ONE-
NEVER SOLD OUT 2

LUV

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2020年2月10日 (月)

まるで新たなオリジナルアルバムのような「ライブ盤」

Title:workshop 2
Musician:OGRE YOU ASSHOLE

Workshop2

昨年も大傑作アルバム「新しい人」をリリース。相変わらずバンドとして快進撃を続けるORGE YOU ASSHOLE。オリジナルアルバムでは極限まで音を減らしながらも、独特なグルーヴ感を奏でるサウンドを聴かせてくれる彼らですが、彼らはオリジナルとライブでは大きくアレンジを変えてくることでも知られています。2014年には、そんなライブアレンジのアルバム「workshop」をリリースした彼ら。その後、もともとはライブ会場限定で2017年にリリースされたのが本作。その後、ようやく昨年、サブスクリプション限定で音源がリリースされ、遅ればせながら本作を聴いてみました。

今回のアルバムは、正確に言うと「ライブ盤」ではなく「ライブアレンジアルバム」。彼らのオリジナル曲がライブを通じて育ち、新たな楽曲に成長した結果を残したアルバムとなっています。もともとのリリースが前々作「ハンドルを放つ前に」の後にリリースされたこともあって、収録曲は同作の曲がメインとなっているのですが、例えば1曲目、タイトルチューンの「ハンドルを放つ前に」はシンプルなサウンドでタイトに仕上げた原曲に比べると、ノイジーなギターが不気味な雰囲気を生み出している、原曲とはまた異なる感じでサイケな雰囲気に仕上がっています。「頭の体操」も、サウンドの構成は原曲から大きな変化はないものの、原曲に比べて、ギターのリバーブを強めることにより、ドリーミーな雰囲気の曲に仕上げられています。

また、もちろん「ハンドルを放つ前に」以前の楽曲も収録されており、例えば「100年後」に収録されていた「黒い窓」は、ブルージーなギターが加わり、より哀愁感の強まったアレンジに仕上げられていますし、「フォグランプ」収録の「ワイパー」は原曲と同様にサイケなアレンジながらも、サウンドのバランスがより良くなり、ドリーミーな雰囲気がより強まったようなアレンジになっています。さらには「タニシ」に至っては2005年のデビューアルバム収録のナンバー。こちらに関しては原曲と比べると、純粋にバンドとしてのスキルの上達が感じられる楽曲に仕上がっています。

まさにここら辺の曲に関しては、数多くのライブでの演奏を経ることにより徐々に熟成されてきた、といった印象がピッタリ来るようなアレンジに。バンドとしての成長も感じられますし、よくよく聴くと、音の構成などは原曲から大きな変化はないものの、エフェクトのかけ方や全体の中でのバランスをよりうまく取っていることにより、楽曲としても、またバンドとしても間違いなく成長していることを感じさせるアレンジに仕上がっています。

さらに最後を締めくくる「あの気分でもう一度」はCR-5000ver.としてエレクトロのサウンドを取り入れたアレンジに。基本的にはOGREらしいサイケなアレンジにまとまっているものの、バンドとしての挑戦も感じられるようなナンバーに。おそらくオリジナルアルバムの中に入れるとすると、この手のアレンジは浮いてしまうだけに、今回のライブアレンジアルバムの中に入れたのでしょう。時系列的には同作の次にリリースされる「新しい人」ではエレクトロサウンドを導入しているのですが、今から考えると、この曲で挑戦したエレクトロアレンジが、そのまま次回作へと受け継がれたということになるのでしょう。そう考えると、非常に興味深い1曲ということにもなります。

ライブアレンジアルバムということですが、ある意味、オリジナルアルバムにも匹敵するような内容ともいえるアルバムとも言えます。こういう形で楽曲を成長させるあたりにも、彼らの楽曲に対する強いこだわりも感じさせます。あらためて彼らのバンドとしてのすごさを感じる作品でした。

評価:★★★★★

OGRE YOU ASSHOLE 過去の作品
しらないあいずしらせる子
フォグランプ
浮かれている人
homely
100年後
confidential
ペーパークラフト
WORKSHOP
ハンドルを放つ前に
新しい人


ほかに聴いたアルバム

COMINATCHA!!/WANIMA

西武ドームでのライブも成功させたWANIMAのニューアルバム。読みにくいタイトルですが「カミナッチャ」と読むそうです。キャバレーロック風の曲やピアノでしんみり聴かせるナンバーなどバリエーションを持たせつつ、とことん明るく前向きなパンクロックチューンという方向性は、以前よりもさらにWANIMA流として確立してきた感じが。最近は、ネット上でいわゆる「リア充」のアイコン的な用いられ方がしている向きもあるそうですが、確かに、良くも悪くも全く影な部分を感じさせない雰囲気のアルバムになっていました。

評価:★★★★

WANIMA 過去の作品
Are You Coming?
Everybody!!

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2020年2月 9日 (日)

ソロならではの作品が目立つ

Title:The Best Of Keiichi Sokabe -The Rose Years 2004-2019-
Musician:曽我部恵一

先日、サニーデイ・サービスに新メンバーが加入。さらには久々の新曲も配信になり、サニーデイも復活。ますます積極的な活動が目立つ曽我部恵一ですが、このタイミングで曽我部恵一のベストアルバムがリリースされました。基本的には自身のレーベル、ROSE RECORDSからリリースされた作品を集めた本作。ただ、曽我部恵一のオールタイムベストではなく、曽我部恵一ソロ名義及び曽我部恵一BANDの曲、要するに、曽我部恵一がソロで活動した曲が収録したベスト盤となっています。

曽我部恵一のソロ曲については、以前からサニーデイ・サービスに比べると非常にプライベートな要素の強い作品、ちょっと悪い言い方をすると内向きな作品が多い、という印象を受けてきました。実際、曽我部恵一ソロ作にはサニーデイとしては発表できないようなタイプの作品も少なくありません。もっとも典型的な事例が社会派な歌詞。もともと彼のソロデビューシングル「ギター」でも「戦争にはちょっと反対さ」という一節が登場し、当時、大きな話題となりました(本作は残念ながらROSE RECORDSからの曲ではないため、本作には未収録です)。

今回のアルバムの中でも社会派という点ではもっともインパクトが残ったのが「街の冬」という作品。生活保護の申請を断り続ける貧しい姉妹を描いたとてももの悲しい作品。以前、札幌で実際に起こった、知的障害のある妹を世話していた姉が病死し、のちに妹も凍死したというとても悲しい事件に基づいて曲だそうです。生活保護制度について声高に叫ぶような作品ではないのですが、非常にもの悲しく、そして美しい作品に仕上げられており、曽我部恵一なりに社会に対して踏み込んだ作品となっています。

さらには基本的には歌詞の題材に用いただけなのですが、「汚染水」という、福島原発問題を彷彿させる単語を用いた曲などもあり、政治的に無臭なサニーデイの曲とは異なり、社会派な部分にあえて突っ込むのはやはり曽我部恵一のソロ作だからこそ、なのでしょう。

一方でソロらしいプライベイトな作品といえば「おとなになんかならないで」でしょう。彼の子供に向けて歌われた歌で、コンサートでの音源をそのまま使っているらしく、冒頭に子供の声も登場。これは、本当の彼の子供でしょうか?ただ、自分の子供に対して歌われるパパとして暖かいメッセージが込められた曲で、こちらもほんわかしてくるような曲となっています。

サウンド的にも打ち込みのリズムでラップを取り入れた「サマー・シンフォニー」や、レゲエのリズムを取り入れた「LOVE-SICK」など、こちらもソロならではの挑戦を感じさせる曲もあります。また、後藤まりことのデゥオによる吉田拓郎の「結婚しようよ」のカバーなどといったユニークな試みもあります。ただ基本的には曽我部恵一ソロ名義の、アコースティックでフォーキーな作品と曽我部恵一BAND名義のギターロックがメイン。ただ、この点においては、ここ最近、HIP HOPに傾倒している彼なので、今後のソロ作品ではさらなる挑戦心を感じさせる曲も増えてきそうです。

曽我部恵一のソロ作というと、正直言って、内向きな印象の作品が多く、サニーデイと比べると今一つ、という印象がありました。実際、今回のベスト盤でもサニーデイに比べると好き勝手に演っている曲が多く、内向きという印象はぬぐえません。ただ、やはりベスト盤に収録されるような代表曲が並んでいるだけに、楽曲の出来は文句なし。ある意味、サニーデイ以上に曽我部恵一というミュージシャンのコアな部分を垣間見れるような作品が並んでいたように感じます。曽我部恵一のソロ作は多岐に及んでいるため、なかなか追いかけるもの大変なだけに、彼のソロ活動を概観できるという意味でも、お勧めのベスト盤です。

ちなみに…今回本作は、配信(ダウンロード、ストリーミング)、CD、LPと3種類リリースされています。おもしろいのは基本的にCD収録曲は(ミックス違いはあるものの)全て配信曲に含まれている一方、LPの選曲は一部配信(及びCD)と異なる点。曽我部恵一関連の作品は、ここ最近、配信かLPのみという形態が多かったのですが、本作も、配信か、もしくはLP(CDはあくまでおまけ)という扱いなのでしょう。こういう点でも曽我部恵一の一種の主張が垣間見れて興味深く感じました。

評価:★★★★★

曽我部恵一 過去の作品
キラキラ!(曽我部恵一BAND)
ハピネス!(曽我部恵一BAND)
ソカバンのみんなのロック!(曽我部恵一BAND)
Sings
けいちゃん
LIVE LOVE
トーキョー・コーリング(曽我部恵一BAND)
曽我部恵一 BEST 2001-2013
My Friend Keiichi
ヘブン
There is no place like Tokyo today!


ほかに聴いたアルバム

コペルニクス/秦基博

途中、ベスト盤のリリースを挟みつつ、約4年ぶりとなる秦基博のニューアルバム。オリジナルアルバムでは前作となる「青の光景」では、「秦基博第2章」とも言うべき、大きな成長を感じされれたアルバムですが、本作も今まで以上にスケール感を覚える作品になっており、ミュージシャンとしての成長を感じられる作品になっています。基本的にシンプルなポップソングながらもファンキーな「LOVE LETTER」や、シティポップ風の「漂流」などバリエーションも増え、ベスト盤リリース後の秦基博のさらなる一歩を感じさせるアルバムになっていました。

評価:★★★★★

秦基博 過去の作品
コントラスト
ALRIGHT
BEST OF GREEN MIND '09
Documentary
Signed POP
ひとみみぼれ
evergreen
青の光景
All Time Best ハタモトヒロ

TSUTAYA RENTAL SELECTION 2015-2018/Official髭男dism

Tsutaya_higedan 

昨年、「Pretender」が大ヒットを記録し、一躍人気ミュージシャンの仲間入りを果たしたOfficial髭男dism。その後リリースされたアルバム「Traveler」も大ヒットを記録していますが、そのタイミングでリリースされたTSUTAYAでのレンタルオンリーでリリースされたベスト盤。彼らの過去の代表曲が収録されており、ヒゲダン入門としては最適な1枚。彼らの以前の作品を聴くと、初期の頃からブラックミュージックの要素を上手く組み込みつつ、しっかりとポップにまとめあげている高い音楽性に気が付きます。以前からブレイクの最右翼と言われていた彼らですが、あらためて以前から優れたポップミュージシャンだったんだな、ということに気が付くベスト盤でした。

評価:★★★★★

Official髭男dism 過去の作品
エスカパレード
Traveler

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2020年2月 8日 (土)

予想外の傑作

Title:ジェニーハイストーリー
Musician:ジェニーハイ

例の不倫騒動でお茶の間レベルにまで知名度を広めてしまったゲスの極み乙女。の川谷絵音。数多くのバンドを掛け持ちしていることでも知られる彼は、他にもindigo la End(むしろこちらが本籍地かもしれませんが)やichikoro、ゲスのバンドメンバーである休日課長のバンドであるDADARAYのプロデュースに、さらに自身のソロプロジェクトと、まさにワーカホリックぶりが目立っています。本作は、そんなワーカホリックな彼が新たに参加しているバンドプロジェクト。BSスカパー!で放送されていたバラエティー番組「BAZOOKA!!!」から登場したバンドで、番組レギュラーである小藪千豊、野生爆弾のくっきー!、女性バンドtricotの中嶋イッキュウの3人に、プロデューサー及びギタリストとして川谷絵音が参加。さらにキーボードに現代音楽家の新垣隆が参加し、異色のバンドとして誕生しました。

完全にテレビ番組から登場した企画モノのバンドで、川谷絵音が参加しているということで、まあそれなりに期待はしていたのですが、とはいえ、片手間な企画モノだし…というイメージを持ちながら聴いてみました。しかし、結果としてかなり予想外の傑作となっていてビックリ。テレビ番組の企画モノのためか、あるいはバンドメンバーとして芸人が参加しているからかわかりませんが、音楽系メディアではほとんど無視という状況ですが、しかし、先日紹介した2019年の私的ベストアルバムでも10位にランクインさせたように、個人的には2019年を代表するようなレベルの傑作アルバムだと思います。

まず楽曲の印象としてはゲスとIndigoを足して2で割った感じ、といったイメージがあります。例えば1曲目「シャミナミ」などは哀愁感たっぷりの歌謡曲的なメロや失恋をテーマに女性の感情を歌った歌詞の内容はまさにIndigo la End風。「不便な可愛げ」でもテンポよいリズムに乗って、感傷的なメロディーラインを聴かせてくれます。最後を締めくくる「まるで幸せ」もしんみり感情たっぷりに聴かせる楽曲はIndigo la Endを彷彿とさせます。

一方、「ジェニーハイラプソディー」「ヘチマラップ」はエレクトロサウンドにのせてラップを繰り広げるようなスタイルはゲスを彷彿とさせます。ただ、このサウンドに関しては、ある種、ゲス以上に挑戦的。Indigoもゲスも有名になって、それぞれ「Indigoらしさ」「ゲスらしさ」を求められるようになった(と思われる)今、川谷絵音はそのどちらでもない、このジェニーハイで、Indigoやゲスでは出来ないようなサウンドに挑戦しようとしているようにすら感じます。

そして今回、サウンド面に関して楽曲の中で大きなインパクトとなっているのが新垣隆のピアノ。新垣隆といえば、その名前を知られるようになったのが、例の交響曲HIROSHIMAでブレイクした佐村河内守のゴーストライター問題で、彼のゴーストライターだったということでその名前が取りざたされたことから。ただもともと優れた作曲家、ピアニストとしても彼自身、知られていたようで、今回の作品の中でも印象的なピアノが所々に登場し、作品に大きなインパクトを残しています。特に印象的だったのが「ダイエッター典子」のピアノで、非常にアグレッシブかつフリーキーなピアノを披露。まずそのピアノの音色が強く印象に残る楽曲に仕上がっていました。

さらに歌詞にしても非常に挑戦的。「ジェニーハイラプソディー」では、その新垣隆に対して「ゴーストライター!」と揶揄していますし、さらには「ヘチマラップ」では「何で謝らないの?謝っても許さないけど」「コンプライアンス万歳!」などと、ある意味、例の不倫騒動に対して舌を出しているような挑発的な歌詞を披露していますし、また、「ダイエッター典子」ではダイエットに挑戦するも失敗していく女性の姿を、さらには「グータラ節」ではタイトル通り、グータラな女の子の本音を、コミカルに描いている。そのコミカルな歌詞から、てっきり、芸人勢が作詞に参加しているのかと思いきや、作詞名義は「ジェニーハイ」ではなく、しっかり「川谷絵音」なんですよね。非常に自由度が高く、ある意味挑発的ともとれる歌詞は、企画モノとはいえ地上波ではなくBSスカパー!でのバラエティー番組だから、といったところかもしれません。

そんな訳で、メンバーそれぞれ、というよりも川谷絵音がジェニーハイというバンドで自由に遊びまくり、さらに新垣隆がそこに彩りを添えたような、そんなアルバムに仕上がっていました。企画モノとしてバカにするなかれ。川谷絵音の才能がいかんなく発揮された傑作アルバムです。企画モノなので今後、バンドとして継続するかかなり微妙ですし、継続したとしてもこれだけ自由度の高い作品を作り続けられるのかはかなり疑問なのですが…もし次も出たら、とてもうれしいのですが…さてさて。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

BEGINライブ大全集2/BEGIN

BEGINのライブの中からベストアクトを収録したライブベストの第2弾。BEGINというと沖縄音楽というイメージも強く、実際、このアルバムの中のDisc1は、そんな沖縄音楽から強い影響を受けた楽曲が並んでいるのですが、Disc2についてはブルースやソウルなど、ルーツ志向の強い楽曲が並んでいます。というか、このライブ盤を聴くまで、彼らがここまでブルースやソウルなどと言ったジャンルに強い影響を受けているとは思わなかった…。BEGIN流のブルースは、まさに王道のブルースに彼らなりにブルースを解釈した歌詞がのっており非常にユニーク。サムクックに言及して、その歌い方を真似る場面などもあったり、彼らのルーツに対する深い造詣を伺わせます。なにげにBEGINのライブ、一度行きたくなりました。彼らの魅力がしっかりと伝わるライブ盤でした。

評価:★★★★★

BEGIN 過去の作品
3LDK
ビギンの島唄 オモトタケオ3
ビギンの島唄 オモトタケオのがベスト
トロピカルフーズ
Potluck Songs
BEGIN ガジュマルベスト

弾き語りツアー2019 "Time in the Garage" Live at 中野サンプラザ 2019.06.13/斉藤和義

また恒例の斉藤和義のライブアルバム。今回のライブツアーについては、名古屋公演に参加しました。基本的にMC部分がカットされています。以前から、斉藤和義のライブ盤は、MCも含めた完全版を聴きたいのに、と思っていたのですが、名古屋公演ではセンチュリーホールのこと「せ〇ずりーホール」と叫んだり、ウォシュレットがなかったことから「アナ〇が崩壊しています」と語ったり、下ネタ満載で、そりゃあ、MC部分含めてリリースできないはずだわ(笑)と思ってしまいました。そんな訳で、曲の部分だけ抽出してしっかりと聴かせるライブ盤に。ただ、やはり生で見ると、そんな下ネタMCも含めて、ライブの魅力が構成されているだけに、曲の部分だけ抽出されるとやはり物足りなさも。さすがにMCを含めた完全版はリリースが難しいのでしょうが(笑)。

評価:★★★★

斉藤和義 過去の作品
I (LOVE) ME
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Collection "B" 1993~2007
月が昇れば
斉藤“弾き語り”和義 ライブツアー2009≫2010 十二月 in 大阪城ホール ~月が昇れば 弾き語る~
ARE YOU READY?
45 STONES
ONE NIGHT ACOUSTIC RECORDING SESSION at NHK CR-509 Studio
斉藤
和義

Kazuyoshi Saito 20th Anniversary Live 1993-2013 “20<21" ~これからもヨロチクビ~ at 神戸ワールド記念ホール2013.8.25
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2014"RUMBLE HORSES"Live at ZEPP TOKYO 2014.12.12
風の果てまで
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで” Live at 日本武道館 2016.5.22
斉藤和義 弾き語りツアー2017 雨に歌えば Live at 中野サンプラザ 2017.06.21
Toys Blood Music
歌うたい25 SINGLES BEST 2008~2017
Kazuyoshi Saito LIVE TOUR 2018 Toys Blood Music Live at 山梨コラニー文化ホール2018.06.02
KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 Live at 日本武道館 2018.09.07
小さな夜~映画「アイネクライネナハトムジーク」オリジナルサウンドトラック~

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2020年2月 7日 (金)

昭和の香りがプンプン

Title:井上順のプレイボーイ講座12章
Musician:小西康陽とプレイボーイズ

先日、pizzicato fiveのベスト盤をリリースしたばかりの小西康陽。そんな彼の最新作は、なんと1969年にリリースされ、ジャパニーズラウンジの名盤として知られる前田憲男とプレイボーイズ「円楽のプレイボーイ講座12章」のオマージュ。元となった「円楽の~」は、かの先代三遊亭円楽のギザな語り口によりプレイボーイの心得を語りつつ、バックでジャジーなサウンドが流れる構成のアルバムなのですが、本作も同様の構成。プレイボーイの心得を語るのは、元スパイダーズのメンバーで、俳優として活躍している井上順。バックには小西康陽とプレイボーイズによるラウンジミュージックが流れる構成のアルバムとなっています。

そんな本作は、ジャケット写真からしてもそうなのですが、終始昭和の香りがプンプンとたちこめるアルバム。本作のシナリオを手掛けるのは昭和の事象に造詣の深い漫談家の寒空はだか。一話についてひとりの女性との出会いやエピソードを描いているのですが、まさに昭和30年、40年代あたりの昭和の東京の雰囲気を映し出すような風景描写や単語の選択が見事。「6月 須田町のいずみ」なんかは、神田須田町でのエピソードを取り上げられているのですが、当時、神田須田町は各地からの都電路線が集約されているような場所だったそうで、こういう令和の今では完全に忘れ去られたような場所がサラリと出てくるあたり、昭和の空気をしっかりと詰め込んでいることを感じます。単語的にもよく登場するのが女の子を表現する「カワイ子ちゃん」という言葉。これも完全に昭和的ですね。こんな単語を聴いたのは一体何年ぶりだろう…。

バックに流れるラウンジのサウンドも、実に昭和的。ジャズギタリスト田辺充邦が全編に編曲・演奏として参加しているのですが、最近はやりのソウルやHIP HOPの要素を取り込んだエレクトロジャズとはまさしく対極を行くような、まさに昔ながらの昭和風の喫茶店で流れてくるようなジャズ。童謡の「一月一日」からはじまり、ザ・スパイダーズの楽曲で井上順がソロで歌った「なんとなくなんとなく」や、ご存じPizzicato Fiveの「東京は夜の七時」。さらには同じく井上順の「お世話になりました」などをジャズ風にカバー。ベタともいえるジャズアレンジとなっており、このベタさも含めて非常に昭和の雰囲気を強く感じる作品になっています。

そんな昭和のなつかしさを漂わせる洒落た雰囲気がムンムンと漂ってくる本作ですが、正直言うと、一歩間違えれば「時代遅れのダサい作品」になりうる可能性もある、絶妙なバランスの上で成り立っているアルバムになっています。例えば前述の「カワイ子ちゃん」という表現も、普通に使えばかなり寒い表現ですし、出会った女性との物語も一歩間違えれば、おじさんのウザい昔話になる可能性もあります。ラウンジのジャズにしても、ポピュラーミュージックのジャズアレンジという点自体、一歩間違えればBGMとして流されてしまいそうな陳腐なイージーリスニングになる危険性もあります。

ただ、そういう「一歩間違えると一気にダサくなるようなパーツ」を見事に組み合わせて、カッコいい作品に仕上げているのは、小西康陽のプロデューサーとしての実力、センスの良さでしょうし、また、今回のアルバムに参加している人たちの絶妙なセンスの良さによる部分が大きいように思います。例えば井上順のナレーションも、もっと若い俳優を起用すれば、おそらく不自然な昭和感が嫌味になってしまいそうです。彼の、ほどよくプレイボーイらしくも、ほどほどに枯れた味のある声によるナレーションだったからこそ、嫌味なく、昭和の雰囲気がよく伝わるナレーションとなったのではないでしょうか。

それだけに、ここで語られているような同じ内容を、会社の飲み会などで50歳過ぎにおやじが語ったとしても、おそらく老害おやじの戯言として、若い世代が一気に引いてしまうのは間違いなしなので要注意(笑)。ちなみにジャケット写真の女性はサイパージャパンダンサーズというアイドルグループのJUNON。彼女のどこか昭和な感じもする雰囲気もアルバムにピッタリマッチ。ここらへんの人選も見事。いろいろな面が絶妙なバランスで成り立っている、センスの良さを強く感じる昭和のアルバムでした。

評価:★★★★★

小西康陽(PIZZICATO ONE) 過去の作品
ATTRACTIONS! KONISHI YASUHARU Remixes 1996-2010
11のとても悲しい歌(PIZZICATO ONE)
わたくしの二十世紀(PIZZICATO ONE)
なぜ小西康陽のドラマBGMは テレビのバラエティ番組で よく使われるのか。


ほかに聴いたアルバム

to the MOON e.p./Yogee New Waves

Yogee New Wavesの新作は表題曲含む5曲入りのEP盤。フォーキーなシティポップで、ドリーミーな雰囲気漂う楽曲、という方向性はいままでのYogeeと同様。ただ、その方向性を愚直に進めた結果、徐々にYogee New Wavesらしさが出てきているような感があります。いままでの作品ではインパクトの弱さが気になっていたのですが、5曲入りという短さもあるかもしれませんが、彼らの独特な作風が妙に耳に残る作品に。次回作が楽しみになってくる作品でした。

評価:★★★★★

Yogee New Waves 過去の作品
WAVE
SPRING CAVE e.p.
BLUEHARLEM

MAN STEALS THE STARS/SOIL&“PIMP”SESSIONS

約1年半ぶりとなるSOIL&"PIMP"SESSIONSのニューアルバム。数多くのゲストシンガーが参加した前作から一転、全編インストとなった本作。ムーディーな雰囲気のメロが目立つ半面、分厚いサウンドが押し寄せるようなダイナミックなサウンドやエレクトロ路線の楽曲も。良く言えばバラエティー豊富な作風となっているのですが、バンドとしての軸が定められず、若干迷走している感も。「デスジャズ」を標ぼうしていた以前ような「怪しさ」は皆無となってしまっており、バンドとしての方向性を見失っている感じもします。前作もそうだったのですが、もうちょっと彼らの軸足を定めた方がいいのではないか…そう感じたアルバムでした。

評価:★★★

SOIL&"PIMP"SESSIONS 過去の作品
PLANET PIMP
SOIL&"PIMP"SESSIONS presents STONED PIRATES RADIO
MAGNETIC SOIL
"X"Chronicle of SOIL&"PIMP"SESSINS
Brothers & Sisters
BLACK TRACK
DAPPER

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2020年2月 6日 (木)

Hot Albumsでもグラミーで話題のあのミュージシャンが…

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

まず1位は例のラッププロジェクトのアルバムが獲得です。

今週1位初登場は、声優によるラッププロジェクト、ヒプノシスマイクからMAD TRIGGER CREW「MAD TRIGGER CREW -Before The 2nd D.R.B-」がランクインです。横浜を拠点として活動をしているという設定のグループによる2年ぶりのアルバム。CD販売数1位、ダウンロード数2位、PCによるCD読取数3位で、総合順位は1位獲得。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上4万9千枚を獲得し、初登場1位に。MAD TRIGGER CREW・麻天狼名義でリリースされた前作「MAD TRIGGER CREW VS 麻天狼」の7万2千枚(1位)からダウンしています。

2位初登場は韓国の男性アイドルグループSUPER JUNIOR「I Think U」。CD販売数2位、ダウンロード数10位、PCによるCD読取数31位。メンバーの兵役などもあり、メンバーのソロでの活躍が続いていた彼ら。日本盤としては約6年半ぶりとなるアルバムとなりました。オリコンでは初動売上4万3千枚で2位初登場。直近作は韓国盤「Time Slip」の初動売上1万枚(7位)で同作よりはアップ。ただ前作「Hero」の10万2千枚(2位)からは本作がミニアルバムだったということもありますが、大きくダウンしてしまいました。

3位は先週まで2週連続1位だったKing Gnu「CEREMONY」が2ランクダウンながらもベスト3をキープ。CD販売数及びダウンロード数は3位にダウンしましたが、PCによるCD読取数はCDレンタル解禁の影響か1位にアップ。まだまだヒットは続きそうです。

続いて4位以下の初登場盤ですが、まず4位に、Hot100でも「Bad Guy」がランクインしたアメリカの女性シンガーソングライターBillie Eilish「WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?」が先週の18位からランクアップし、初のベスト10ヒットとなりました。Hot100でも紹介しましたが、先週発表となったグラミー賞で最優秀アルバム賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞の主要4部門を制覇。一気に知名度をあげた彼女がHot Albumでもベスト10入りです。CD販売数15位、PCによるCD読取数75位、そしてダウンロード数では見事1位を獲得しています。

6位には斉藤和義「202020」がランクイン。本作が20枚目となるアルバムで、タイトルはそのまま「2020年」にリリースした「20」枚目のアルバムだったから、だそうです。CD販売数5位、ダウンロード数14位、PCによるCD読取数23位。オリコンでは初動売上1万3千枚で4位初登場。前作はライブアルバム「斉藤和義 弾き語りツアー2019 Time in the Garage Live at 中野サンプラザ 2019.06.13」で、同作の2千枚(24位)からは大幅アップ。オリジナルアルバムとしては前作となる「Toys Blood Music」の1万9千枚(1位)からはダウンしています。

7位初登場は男性アイドルグループ ぶらっくしーぷしんどろーむ。 「アンチテエゼ」がランクイン。CD販売数4位ながらも、ほかはランク圏外で総合順位も7位に留まっています。「元祖過激派ラウド系メンズアイドル」ということですので、BiSHとか、あの辺の女性アイドルグループの男性版といったイメージでしょうか。オリコンでは初動売上1万1千枚で5位初登場。

9位にはHKT48のメンバー、森保まどかによるソロピアノアルバム「私の中の私」が入ってきました。CD販売数は6位ながら、ダウンロード数53位、PCによるCD読取数は圏外となり、総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上7千枚で7位初登場となっています。

最後に10位にはパンクロックバンド、キュウソネコカミのミニアルバム「ハリネズイズム」がランクイン。CD販売数は7位でしたが、ダウンロード数圏外、PCによるCD読取数78位で、総合順位ではギリギリのベスト10入りとなりました。オリコンでは初動売上8千枚で6位初登場。前作「ギリ平成」(13位)から横ばいです。

今週の初登場は以上でしたが、一方ロングヒット組では、Official髭男dism「Traveler」は7位から5位にランクアップ。ただし、ダウンロード数は3位から4位、PCによるCD読取数は1位から2位へと若干のダウンとなっています。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年2月 5日 (水)

再びロングヒット系が躍進

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

先週は多くのアイドル系新譜がランクインした影響で、ロングヒット系が軒並みランクダウンしましたが、今週は再びロングヒット勢の躍進が目立ちました。

ただ、そんな中で1位を獲得したのはAKB48の姉妹グループで瀬戸内地域を拠点に活動を行うSTU48「無謀な夢は覚めることがない」が初登場でランクイン。CD販売数1位、ラジオオンエア数15位、PCによるCD読取数11位、Twitterつぶやき数16位。オリコンでは初動売上28万7千枚で1位初登場。前作「大好きな人」の25万4千枚(1位)からアップしています。

2位には先週4位にダウンしたKing Gnu「白日」が2位に返り咲き。もっともダウンロード数3位、ストリーミング数1位、You Tube再生回数2位は先週から変わらず。初登場曲が少なかった影響で相対的に順位を上げてきたようです。ちなみに「Teenager Forever」は今週、8位から10位にダウン。ストリーミング数は3位から4位に、ダウンロード数は9位から13位に、You Tube再生回数は5位から9位に軒並みダウン。厳しい結果となっています。

そして3位にはOfficial髭男dism「Pretender」が先週の5位からこちらも3位に返り咲き。ただ、こちらもYou Tube再生回数及びカラオケ歌唱回数1位、ストリーミング数2位、ダウンロード数4位は先週から変わらず。こちらもまだまだロングヒットが続きそう。一方、「I LOVE...」も7位から6位にアップ。今週、ダウンロード数は2位から1位に、ストリーミング数は4位から3位にアップ。ロングヒットの兆しが見えます。ただし、You Tube再生回数が9位から12位にダウンしているのが気にかかるのですが。

続いて4位以下の初登場曲ですが、今週の初登場は1曲のみ。それが先週の21位からランクアップし、初のベスト10ヒットとなったBillie Eilish「Bad Guy」。アメリカの若干18歳の女性シンガーソングライター。先週発表となったグラミー賞で最優秀アルバム賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞の主要4部門を制覇し、大きな話題となった彼女。ティーンエイジャーの率直な本音を表現するシンガーとして、昨年、音楽シーンを席巻したのですが、その知名度が、日本にもようやく及んできた形で、一気にヒットとなりました。ダウンロード数5位、ストリーミング数7位、ラジオオンエア数1位、You Tube再生回数で4位を獲得。ラジオオンエア数1位は、あきらかにグラミー受賞というニュース性によるもの。You Tube再生回数はおそらくグラミー賞受賞ではじめて彼女を知ったような方が、どのような曲か聴いてみた結果でしょう。これがさらにロングヒットに結びつくかどうか、来週以降の動向も気にかかります。

さて、King Gnuとヒゲダンが再び躍進した今週のHot100でしたが、ほかのロングヒット曲は…まずLiSA「紅蓮華」は今週9位から8位に再度ランクアップ。ダウンロード数及びストリーミング数6位、PCによるCD読取数4位、カラオケ歌唱回数5位が目立つ一方、You Tube再生回数44位とロングヒットの割りには伸びていないのが気になります。また菅田将暉「まちがいさがし」も10位から9位にアップ。ダウンロード数及びストリーミング数は9位、You Tube再生回数5位、カラオケ歌唱回数7位とランクインしている指標ではいずれも上位にランクインしています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2020年2月 4日 (火)

2019年ベストアルバム(邦楽編)その2

4日間にわたってお送りしてきました私的ベストアルバムも今日が最後。邦楽編の1位から5位の紹介です。

5位 エアにに/長谷川白紙

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今、最も注目を集めるシンガーソングライターの最新作。非常な奇妙なジャケットも目につくのですが、サウンド的にも最新のジャズの要素を取り入れつつ、複雑な構成となっている楽曲が印象に残ります。ただ、それにも関わらずメロディーライン自体はポップにまとめあげており、全体的には広いリスナー層にアピールできそうなポピュラリティーをしっかりと確保。このバランスの良さも見事でしょう。今後、さらに注目が集まりそうな傑作アルバムでした。

4位 新しい人/OGRE YOU ASSHOLE

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アルバムをリリースする毎に傑作をリリースし続けるOGRE YOU ASSHOLEの新作。今回も極限までそぎ落としたシンプルなサウンドの中で最高にサイケデリックな雰囲気を醸し出す曲を聴かせてくれているのですが、その中で今回のアルバムで特徴的だったがOGRE流ディスコサウンドとも言うべき4つ打ちの楽曲。スペーシーなサウンドで軽くトリップ感を味わえるような独特のグルーヴが産みだされており、彼らの新たな魅力を感じさせるサウンドを作り出していました。

3位 30/電気グルーヴ

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今年を代表する傑作ながら、ピエール瀧の逮捕により、いまだに聴くことが出来ない「幻の作品」となっている本作。結成30周年を記念してリリースされた本作は、彼らの過去のターニングポイントになった曲を現在の視点から「リメイク」した作品になっており、電気グルーヴの活動を俯瞰するのは非常に優れた1枚であると同時に、彼らの実力をいかんなく感じられる傑作アルバムになっていました。レンタルでは普通に聴くことが出来るため、是非、そちらでチェックして欲しい文句なしの傑作。しかしソニーは、いつまでこの愚行を続けるのか…。

2位 cherish/KIRINJI

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先日、KIRINJIが現在のバンド形態での活動を今年末で終了する旨のアナウンスを行いました。元々、スーパーグループ的なバンドだっただけに、長くは続かないだろうなぁ、と思っていただけに意外性はなかったのですが、最新作はバンドとしての攻めの姿勢を強く感じ、次回作が楽しみだっただけにその点は非常に残念。ただ一方で、エレクトロサウンドと生音を見事に融合させ、今のKIRINJIとしてのサウンドの到達点を示した傑作アルバムだった本作をリリースした今、バンドとしてやれることはやりつくしたのかなぁ、とも思うような作品でした。

1位 PUNK/CHAI

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もう文句なしの2019年を代表する最高傑作アルバム。聴いた当時に「このアルバムを評価せずに、どのアルバムを評価するの?」と書いたのですが、その気持ちは今も変わっていません。足腰のしっかりしたバンドサウンドにカラッとした、邦楽ばなれした、しかししっかりとポピュラリティーを保ったメロディーラインが大きな特徴。なんと本作はかのPitchforkで「BEST NEW MUSIC」を獲得。さらに年間ベストアルバムで46位という快挙を達成しています。洋楽邦楽の枠組みを超えて2019年を代表する傑作アルバムです。

そんな訳であらためてベスト10を振り返ると…

1位 PUNK/CHAI
2位 cherish/KIRINJI
3位 30/電気グルーヴ
4位 新しい人/OGRE YOU ASSHOLE
5位 エアにに/長谷川白紙
6位 834.194/サカナクション
7位 三毒史/椎名林檎
8位 Section#11/THE BAWDIES
9位 underground/SPARTA LOCALS
10位 ジェニーハイストーリー/ジェニーハイ

他のベスト盤候補としては…

あいつロングシュート決めてあの娘が歓声をあげてそのとき俺は家にいた/忘れらんねえよ
ALL THE LIGHT/GRAPEVINE
HOCHONO HOUSE/細野晴臣
ドロン・ド・ロンド/チャラン・ポ・ランタン
THE ANYMAL/Suchmos
9999/THE YELLOW MONKEY
労働なんかしないで 光合成だけで生きたい/スガシカオ
Ride On Time/田我流
MOROHA IV/MOROHA
THA BLUE HERB/THA BLUE HERB
LOLIPOP SIXTEEN/SOLEIL
燦々/カネコアヤノ
音の門/国府達矢
スラップスティックメロディ/国府達矢
スターシャンク/Cocco
見っけ/スピッツ
KYO/m-flo
井上順のプレイボーイ講座12章/小西康陽とプレイボーイズ

12月末の暫定版の時は、年間ベストクラスの傑作が少なかった…と書いたのですが、ただ、特に12月リリースのアルバムで傑作も目立ち、結果としては文句なしの傑作がしっかり並ぶ10枚になっていたように感じます。ベテラン(電気グルーヴ、KIRINJI、椎名林檎)、中堅(サカナクション、THE BAWDIES、OGRE YOU ASSHOLE)、若手(CHAI、長谷川白紙)がバランスよく名前を並べているベスト10となっており、そういう意味でも今の日本のミュージックシーンがしっかりと活況を帯びたものになっている証拠でしょう。今年もおそらくいろいろな傑作がリリースされてくるでしょうが、今からとても楽しみです。

ちなみに過去のベストアルバムは

2007年 年間1 
2008年 年間1  上半期
2009年 年間1  上半期
2010年 年間1  上半期
2011年 年間1  上半期
2012年 年間1  上半期
2013年 年間1  上半期
2014年 年間1  上半期
2015年 年間1  上半期
2016年 年間1  上半期
2017年 年間1  上半期
2018年 年間1  上半期
2019年 上半期

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2020年2月 3日 (月)

2019年ベストアルバム(邦楽編)その1

昨日までのベストアルバム(洋楽編)に続き、今日からは邦楽編です。

10位 ジェニーハイストーリー/ジェニーハイ

テレビのバラエティー番組から登場した企画モノユニット。ゲスの極み乙女/indego la Endなどで活躍している川谷絵音がプロデュースを担当している他、お笑い芸人2人が参加しているノベルティー色が強いバンドなのですが、川谷絵音の才能がさく裂しているゲスとindegoを足して2で割ったような作風が非常にユニーク。加えて、現代音楽家で、かの佐村河内守事件で知られる新垣隆がキーボードとして参加。彼の奏でるキーボードのメロも強いインパクトを与えており、企画モノユニットだからこその自由度が感じられます。正直、企画モノゆえか、音楽雑誌等には完全に無視に近い状況なのですが、アルバムの内容としてはかなりの傑作となっており、文句なしに2019年を代表する傑作アルバムに仕上がっていたと思います。

9位 underground/SPARTA LOCALS

聴いた当時の感想はこちら

2000年代に大きな注目を集めた福岡出身のインディーロックバンドの復帰作。デビュー当初を彷彿とさせるようなエッジの効いたギターサウンドを聴かせてくれており、若干勢いが落ちた感じのあった解散前に比べると、一気に勢いが復活した感のあるアルバムに仕上がっていました。一度の解散が彼らにとって全く無駄ではなかった、新たなSPARTA LOCALS復活を感じさせる傑作アルバム。これからの彼らの活躍も非常に楽しみになる作品です。

8位 Section#11/THE BAWDIES

聴いた当時の感想はこちら

ルーツ志向のロックンロールを真摯に継承し続けるTHE BAWDIES。その中でも彼らなりの個性やバリエーションを持たせるために、様々な試みを行っていた彼ら。その結果、ここ最近の作品は残念ながら初期の作品のように、ロックンロールの初期衝動をあまり感じさせないようなアルバムが続いていたのですが、今回のアルバムはまさに久々の快心作といえる傑作に。ロックンロールの初期衝動を感じさせつつ、モータウンビートやファンクなど、彼らの幅広い音楽性も感じさせる傑作アルバムに仕上がっていました。

7位 三毒史/椎名林檎

聴いた当時の感想はこちら

男性ミュージシャンとのデゥオと自身のみの作品を交互に並べる、いわば企画盤的な構成となっている椎名林檎の新作。「生と死」をテーマとしたコンセプチャルな歌詞を軸に、癖のある男性ボーカルが数多く参加する中で、そんな男性陣を物ともせず、彼女の個性をしっかりと出し、しっかりと椎名林檎の作品として仕上げてくるあたり、彼女の高い実力を感じさせます。まさに彼女にしか作りえなかった傑作アルバムです。

6位 834.194/サカナクション

聴いた当時の感想はこちら

2枚組となっている本作は、まさに意欲作という表現がピッタリとくる作品。アルバムタイトルは東京と、彼らが活動を開始した札幌の距離をあらわしている数値だそうで、2枚の作品は、それぞれ外を意識してポップな作品を集めた「東京」と、自分の好きに曲作りを行った「札幌」という構成になっています。まさにポップなサカナクションと、挑戦的なサカナクションという、彼らの二面性をアルバムの中でしっかりと表現できた傑作アルバムに。サカナクションの魅力が存分に発揮された作品となっています。

とりあえずは10位から6位は以上の通り。明日は5位からの紹介です。

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2020年2月 2日 (日)

2019年ベストアルバム(洋楽編)その2

昨日に引き続き洋楽私的ベストアルバムの第2弾。今日は5位から1位の紹介です。

5位 Live In London/Mavis Staples

聴いた当時の感想はこちら

ソウルグループのThe Staple Singersのメンバーとして数多くのヒット曲を生み出してきたソウル界のリビング・レジェンド、Mavis Staples。齢80歳という年齢ながらも、まだまだ若いものには負けないとばかりに現役感あふれる力強いボーカルを聴かせてくれます。さらに年齢を重ねたからこそ生み出せる豊かな表現力も見事。今年はアルバム「We Get By」もリリースしていますが、こちらも文句なしの傑作でした。

4位 MAGDALENE/FKA Twigs

聴いた当時の感想はこちら

各種メディアで軒並みベストアルバムにあげられた傑作アルバム「LP1」から5年。その間、彼女が経験してきた様々な苦労・痛みを表現した内省的な作品となった本作ですが、そんな彼女の心境をあらわしているのか、シンプルなエレクトロサウンドが特徴的だった前作からうってかわって、分厚いエレクトロサウンドが特徴的になっています。ただ一方、そんな中で流れる彼女の歌声は非常に優しく美しく、強い印象を受ける作品に。聴き終わった後にはむしろ暖かさすら感じさせる、そんな傑作アルバムに仕上がっていました。

3位 Pony/Rex Orange County

日本でも話題となってきているイギリスで、いや世界的に今、最も注目を集めるシンガーソングライター。日本人の琴線にも触れそうな、暖かくも懐かしさを感じさせるメロディーラインが大きな魅力に。一方ではリズムマシーンを用いたサウンドやラップなどを取り入れる音楽性、さらには音楽活動的にHIP HOP系のミュージシャンとのコラボを行っていたりして、単純に「ポップなメロを書くSSW」とはちょっと異なる、今時感があります。今後にも大きな期待を持てるSSWの誕生です。

2位 Cuz I Love You/Lizzo

自分のありのままの体型を受け入れて愛そう、というボディポジティブムーブメントの象徴的なミュージシャン。そのふくやかなボディーから繰り広げられるパワフルなボーカルが大きな魅力。またサウンド的にもトラップのような今時の音を取り入れつつも、全体的にレトロな雰囲気の、懐かしさを感じさせるサウンドが特徴的。ちょっとベタさがありつつも、それゆえに耳馴染みのあるサウンドが大きな魅力となっています。本作では本国アメリカでも大きなブレイクし、これからの活躍も期待できそうです。

1位 Jaime/Brittany Howard

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Alabama Shakesのボーカリストによる初のソロアルバム。こちらもLizzo同様のダイナマイト姉ちゃんによるパワフルなボーカルが魅力的な作品。キーボードにロバート・クラスパーを迎えるなど、全体的にはジャズ寄りとなった作品なのですが、Alabama Shakes同様に、ルーツ志向を感じつつも今のサウンドをしっかり取り入れた作風が大きな魅力となっています。もちろん彼女の緩急つけた表現力豊かなボーカルもアルバムの大きな魅力に。文句なしの傑作アルバムでした。

そんな訳であらためてベスト10を振り返ると…

1位 Jaime/Brittany Howard
2位 Cuz I Love You/Lizzo
3位 Pony/Rex Orange County
4位 MAGDALENE/FKA Twigs
5位 Live In London/Mavis Staples
6位 When I Get Home/Solange
7位 Africa Speaks/SANTANA
8位 Weezer(Black Album)/Weezer
9位 Patience/Mannequin Pussy
10位 Two Hands/Big Thief

12月の暫定版の時も書いた通り、突出した傑作は少ない…といった感じなのですが、それでも10枚、文句なしの傑作アルバムを選ぶことが出来ました。ただ今年は全体的に女性の活躍が目立ったように思います。上位5枚のうち4枚まで女性ボーカルですし、私的ベスト10にはあげませんでしたが、各種メディアで軒並みベスト盤として選ばれたLana Del Reyの「Norman Fucking Rockwell!」や、おそらく2019年に一番注目を集めたであろうBillie Eilishなど、女性陣の活躍が目立った1年となりました。

さて、ほかのベスト盤候補としては…

Assume From/James Blake
Bobbie Gentry's The Delta Sweete Revisited/Mercury Rev
Everything Not Saved Will Be Lost Pt.1/Foals
No Geography/The Chemical Brothers
Life Metal/Sunn O)))
HOMECOMING:THE LIVE ALBUM/Beyonce
U.F.O.F./Big Thief
Spirit/Rhye
LEGACY!LEGACY!/Jamila Woods
False Alarm/TWO DOOR CINAME CLUB
We Get By/Mavis Staples
Schlagenheim/black midi
Weezer(Teal Album)/Weezer
Duck/Kaiser Chiefs
i,i/Bon Iver
Basking In The Glow/Oso Oso
Norman Fucking Rockwell!/Lana Del Rey
Jesus Is King/Kanye West

今年はどんな名盤に出会えるでしょうか。多くのミュージシャンたちの活躍に期待したいところです。

2007年 年間
2008年 年間 上半期
2009年 年間 上半期
2010年 年間 上半期
2011年 年間 上半期
2012年 年間 上半期
2013年 年間 上半期
2014年 年間 上半期
2015年 年間 上半期
2016年 年間 上半期
2017年 年間 上半期
2018年 年間1  上半期
2019年 上半期

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2020年2月 1日 (土)

2019年ベストアルバム(洋楽編)その1

今年も恒例の私的ベストアルバムの紹介です。まずは洋楽の10位から6位まで。

10位 Two Hands/Big Thief

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ニューヨーク、ブルックリンを拠点として活動しているインディーロックバンド。フォーキーでかつシンプルな、美しいメロディーラインが耳を惹くバンドで、メロディーの良さゆえに、日本でも注目を集め始めています。実は今年、もう1枚アルバム「U.F.O.F.」をリリースしており、どちらも名盤。ただ、アコースティックなサウンドがメインの「U.F.O.F.」に比べて、バンドサウンドをより前に押し出した本作の方が、個人的にはより多彩な音楽性も楽しめて良かったように感じます。

9位 Patience/Mannequin Pussy

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こちらもアメリカ発のインディーロックバンド。荒削りでパンキッシュなサウンドがカッコよい、まさにロックの初期衝動を体現化したようなグループ。いまだにこんなバンドがいるんだ、と驚かされるような、80年代のパンクロックそのままというスタイル。一方、メロディーラインは至ってポップにまとまっており、こちらも日本での注目度は高まりそう。HIP HOP勢に押され気味なアメリカにおいて、ロックもまだまだ元気なんだ、ということを主張するような1枚でした。

8位 Weezer(Black Album)/Weezer

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まるでギャグのようなジャケット写真も目立つアメリカのパワーポップバンドWeezerの最新作。「パワーポップバンド」と書いたものの、本作ではパワーポップ色は皆無。ロックな作風よりもポップな作風の曲が目立つアルバムとなっており、そういう意味では賛否両論分かれるアルバムとなっています。ただ、Weezerのメロディーメイカーとしての才能がしっかりと発揮された傑作となっており、いい意味でポップバンドとしてのWeezerの魅力がつまった傑作となっていました。

7位 Africa Speaks/SANTANA

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アフリカ音楽を大々的に取り入れて話題となったSANTANAの最新作。プロデューサーにリック・ルービンを起用。また、マヨルカ島出身のスペイン人シンガー、ブイカを全面的にボーカリストとして起用しており、トライバルなリズムがまずは耳を惹きます。そんな中で切り裂くように響くカルロス・サンタナのギターも強く印象に残るアルバムになっており、SANTANAのサウンドとアフリカの音が高い次元で融合する傑作に仕上がっていました。既に「リビング・レジェンド」の位置にいる彼らですが、いまなお挑戦を続けるその姿勢には驚かされます。

6位 When I Get Home/Solange

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最近は、ともすれば姉のBeyonce以上に傑作アルバムのリリースが続くSolangeですが、3月に突如配信でリリースされた本作もまた、期待にたがわない傑作アルバムに仕上がっていました。エレクトロジャズを取り入れつつ、メロウで、酩酊感を覚えるサウンドが大きな魅力。さらに彼女の美しい歌声にも心奪われます。アメリカを代表するミュージシャンだからこそ、ある種の束縛があるBeyonceに比べて、かなり自由度の高い作品を作り続けているような印象を受ける傑作アルバムでした。

そんな訳で6位から10位の紹介は以上。明日は1位から5位の紹介です。

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