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2020年1月18日 (土)

攻めの姿勢を感じる傑作

Title:cherish
Musician:KIRINJI

キリンジが新生KIRINJIとなって、今年で早くも7年目。もともとメンバーはそれぞれ、個々で活躍していたミュージシャンたちが集まった、いわゆるスーパーグループ的なバンドだっただけに、正直なところ、どれだけ続くんだろう、と危惧していた部分はあったのですが、2017年にコトリンゴの脱退はあったものの、バンドとしてコンスタントな活動を続けています。

そんな中でリリースされた前々作「ネオ」と前作「愛をあるだけ、すべて」はメインのライターである堀込高樹だけではなくメンバーそれぞれがアルバムに積極的に参加。KIRINJIのバンドとしての側面を強調するかのようなアルバムに仕上がっていました。この2枚のアルバムでバンドとしてのKIRINJIの結束を確認できたからでしょうか、今回のニューアルバムはKIRINJIとしての攻めの姿勢を強く感じさせるアルバムになっていました。

まず今回のアルバムは全体的にダンサナブルなナンバーが目立ちます。冒頭を飾る「『あの娘は誰?』とか言わせたい」も、まずはダンサナブルなビートが特徴なスタイリッシュなナンバー。オートチューンを使ったかのような、機械的にすら感じる堀込高樹の無機質なボーカルが楽曲にマッチし、いつものKIRINJIとはちょっと異なる質感の楽曲となっています。

続く「killer tune kills me」も注目のシンガーYonYonがボーカルに参加し、そのメロウな歌声を聴かせてくれています。こちらもテンポよいリズムが特徴的。彼女はソウル生まれ東京育ちのシンガーらしく、途中、唐突に登場する韓国語と、微妙に歌謡曲テイストを感じさせる哀愁感のある日本的にすら感じるメロディーラインに不思議なバランスを感じさせます。

鎮座DOPENESSが参加した「Aimond Eyes」もちょっとトライバル的な要素を感じさせるリズムとラップを加えて、KIRINJIらしいシティポップにHIP HOP的な要素も重ねたユニークなナンバー。楽曲にラップを取り入れるのは今回のアルバムにはじまった話ではないのですが、今回のアルバムの中では一種、攻めの姿勢を感じる楽曲となっています。

中盤以降もリズミカルなトラックにハイトーンボイスで、ちょっと懐かしい雰囲気すら感じさせるファンキーなディスコ風チューン「shed blood!」のような、新たな方向性を感じさせる曲があるかと思えば、逆に「善人の反省」のような、堀込高樹らしい言葉遣いがユニークな、昔ながらのキリンジの世界観を彷彿とさせる曲もあったりします。ただ、この「善人の反省」もサウンドは今風なジャズ路線となっており、こちらも新たなKIRINJIを感じさせるサウンドとなっているのがユニークだったりします。

さらにファンキーでエレクトロなトラックとユーモラスな歌詞が印象的な「Pizza VS Hamburgar」みたいな曲があったり、かと思えば、歌謡曲風の哀愁感あるメロディーが印象に残る「休日の過ごし方」のような曲があったりと、最後まで耳を離せません。そして最後を締めくくるのは、どこか切なく、かつ暖かい雰囲気となるラブソング「隣で寝てる人」で締めくくり。とても心地よい気持ちになりつつアルバムは幕を下ろします。

全体的には生音とエレクトロサウンドをほどよくバランスさせたスタイリッシュな作風が目立つ今回のアルバム。彼ららしいシティポップのサウンドの中にほどよく今どきのジャズの要素やHIP HOP、さらにはエレクトロの要素を織り込んだ攻めの姿勢を強く感じるアルバムになっていました。前作まででバンドとしてのKIRINJIの結束に大きな自信を得たからこそ、これだけ攻めるアルバムをリリースできたのではないでしょうか。2019年を代表する1枚ともいえる傑作アルバム。間違いなくKIRINJIとしての新たな一歩を感じさせる作品でした。

評価:★★★★★

キリンジ(KIRINJI) 過去の作品
KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration
7-seven-
BUOYANCY
SONGBOOK
SUPERVIEW
Ten
フリーソウル・キリンジ
11
EXTRA11
ネオ
愛をあるだけ、すべて
Melancholy Mellow-甘い憂鬱-19982002
Melancholy Mellow II -甘い憂鬱- 20032013


ほかに聴いたアルバム

ハイパークラクション/ポルカドットスティングレイ

全7曲入り、自身3枚目となるミニアルバム。ファンキーなリズムを聴かせるナンバーやブルージーなギターを聴かせるナンバーなど、前作「有頂天」から引き続き、楽曲のバリエーションが増え、グッとおもしろさも増した感のあるアルバム。それだけに「有頂天」と同様、メロディーラインのインパクトが弱いのが気に係ります。もうちょっと、一度聴いただけで忘れられないようなワンフレーズが欲しいところなのですが。

評価:★★★★

ポルカドットスティングレイ 過去の作品
大正義
全知全能
一大事
有頂天

Quarter Note/山崎まさよし

オリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなる山崎まさよしの新作。山崎まさよしらしさはきちんと出ており、決して悪いアルバムではないとは思うのですが、全体的にはどうも良くも悪くもマンネリ気味に感じてしまい、いまひとつピンと来るものがありませんでした。ちょっと内向きというか、おとなしくまとまりすぎているというか…どうにも印象が薄く感じてしまう作品になってしまっていました。

評価:★★★

山崎まさよし 過去の作品
COVER ALL-YO!
COVER ALL-HO!

IN MY HOUSE
HOBO'S MUSIC
Concert at SUNTORY HALL
The Road to YAMAZAKI~the BEST for beginners~[STANDARDS]
The Road to YAMAZAKI~the BEST for beginners~[SOLO ACOUSTICS]

FLOWERS
HARVEST ~LIVE SEED FOLKS Special in 葛飾 2014~
ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~
UNDER THE ROSE ~B-sides & Rarities 2005-2015~
FM802 LIVE CLASSICS

LIFE
山崎×映画

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アルバムレビュー(邦楽)2020年」カテゴリの記事

コメント

毎日興味深く拝見させていただいています。
この度は、Quarter Noteを取り上げて頂き、本当にありがとうございました。
地味なアルバムですが、私にとっては、彩りに満ちた音のひとつひとつが絵を描くように心に響き、大好きなアルバムです。
いささか不器用な歌詞の妙なリアルさ。
「変わっていくこと『さえ』受け容れて」というワンフレーズににじむ時代への苦さと
「ならばせめて 胸を張ろう」という矜持。
今の世の中で、自分が自分であることの大切さを 静かに確かめなおさせてくれるような気がしています。

投稿: ずん | 2020年1月21日 (火) 04時35分

>ずんさん
「Quarter Note」のご感想ありがとうございます。少々酷評気味で申し訳ないです。悪いアルバムではないと思うのですが…。山崎まさよしはとてもいいミュージシャンだと思うので、これからもがんばってほしいです!

投稿: ゆういち | 2020年2月 9日 (日) 23時20分

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