「痛み」の中の自分を映し出した内省的な作品
Title:MAGDALENE
Musician:FKA Twigs
2014年にリリースしたデビューアルバム「LP1」が各種メディアで大絶賛。その時の年間ベストアルバムに軒並みランクインした、その年を代表する話題作となった、イングランド出身の女性シンガーソングライターFKA Twings。同作から5年、ついに待望となるニューアルバムがリリースされました。そしてそのニューアルバムは、まさにその5年間という長いスパンを埋める、期待以上の傑作アルバムに仕上がっていました。
前作「LP1」は音数を最小限まで絞ったエレクトロサウンドにハイトーンの彼女の歌声を美しく聴かせるという点に大きな特徴を持ったアルバムでした。今回も基本的にはエレクトロサウンドをバックとして彼女の美しい歌声を聴かせるというスタイルは変わりありません。ただ一方、本作のサウンドに関しては、音数を絞ったというよりは、むしろ荘厳さを感じさせる分厚いサウンドを聴かせるようなスタイルとなっています。まさに1曲目の「thousand eyes」などは、重厚なサウンドが耳に残る楽曲に。さらに彼女の歌声も幾重にも重ねられ、その荘厳さに拍車をかけています。
さて、今回のアルバムのリリースにあたって、前作から5年の歳月を要してしまいました。それだけのスパンが生じた理由としては、この5年間に彼女が多くの悲しい出来事を経験していたことが要因としてあげられます。この5年間、彼女は婚約者と別れ、また子宮に出来た腫瘍の摘出手術を受けるなど、多くの痛みを経験してきたそうです。そして本作は、そんな「痛み」の中で混沌とした自分の姿を映し出した、内省的な作品となっているそうです。
そう考えると、続く「home with you」や「fallen alien」のメタリックなエレクトロサウンドなどは、まさに彼女の「痛み」を音で再現したような感じになるのでしょうか。また、重厚なエレクトロサウンドも、彼女の混沌とした内面をサウンドにそのまま描写した結果なのかもしれません。そんな中で歌われる彼女の歌声は、あまりにも美しいものの、一方ではどこか悲しさを帯びているようにも感じられます。
アルバム中盤の4曲目では、トラップの第一人者であるラッパーFutureをフューチャーし、トラップ的なサウンドを取り入れた「holy terrain」という曲があります。今回のアルバムの中で最もHIP HOP的な作品なのですが、彼女の伸びやかな歌声と、もの悲し気なトラップのサウンドが実によくマッチした楽曲に仕上がっており、胸をうたれる曲に仕上がっています。
ただ一方で、アルバムが後半になるに従い、彼女の優しくも美しい歌声がより印象に残る、「歌」を聴かせる楽曲が増えてくるような印象を受けます。終盤の「daybed」もゆっくりと歌われる彼女のボーカルはとにかく美しく、そして悲しさ以上にリスナーを包み込むような優しさを感じさせてくれます。そして最後を締めくくる「cellophane」もピアノをバックに歌い上げる彼女の歌声には非常に力強さを感じさせます。前作から5年、様々な痛みを経験した彼女ですが、このアルバムを制作する中で、最後はその痛みを乗り越えた、彼女の力強さを感じるようでした。
そういう意味では非常にパーソナルでかつ悲しい雰囲気からスタートしつつも、聴き終わった後のアルバムの印象としては、むしろ暖かさすら感じさせるような作品に仕上がっていたと思います。個人的には、傑作の呼び名の高い前作「LP1」を上回る傑作アルバムを見事リリースしてきた、そんな印象を受けるアルバムでした。本作も前作同様、高い評価を受け、2019年の多くのベストアルバムにランクインしているようですが、その評価は間違いなし。個人的にも間違いなく年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。5年を経て、さらに成長した彼女。これからの活躍も大いに期待できそうです。
評価:★★★★★
FKA Twigs 過去の作品
LP1
ほかに聴いたアルバム
02050525/FOO FIGHTERS
同作は「Foo Flies」と名付けられたFOO FIGHTERSのアーカイブシリーズの最新作。SpotifyやApple Music限定で聴ける作品のようですが、2005年のアルバム「In Your Honor」時代のB面曲やカバー曲などのレア音源を集めたEPだそうです。この「In Your Honor」は2枚組のアルバムでエレクトリックディスクとアコースティックディスクと分かれてリリースされた作品だったそうで、それだけ当時、彼らは今後の方向性について模索していたようですが、それを反映するかのように、全6曲入りながらも見事バラバラな作風。泥臭いブルースロックからパンキッシュな曲、軽快なオルタナ系ギターロックなどなど、様々な作風の曲が並んでいました。アルバム1枚がこれだけバラバラだと、さすがに少々聴いてきて疲れてきそうなのですが、6曲入り程度のEPですと、このバラバラさが逆に楽しく感じてきてしまいます。どの曲も基本的にポップなメロディーラインが魅力的ですし、FOO FIGHTERSの幅広い音楽性が楽しめるEP盤になっていました。
評価:★★★★★
FOO FIGHTERS 過去の作品
ECHOES,SILENCE,PATIENCE&GRACE
GREATEST HITS
WASTING LIGHT
Saint Cecilia EP
SONIC HIGHWAYS
Concrete and Glod
FEET OF CLAY/Earl Sweatshirt
アメリカのラッパー集団、Odd Futureの中心メンバーの一人、Earl Sweatshirtの最新作は7曲入りのEP。直近のアルバム「Some Rap Songs」も15曲入りながらもわずか24分という短さだったのですが、本作もわずか15分という短さの内容で、次々と曲が展開してきます。気だるさを感じさせるダウナーなトラックがメインなのですが、その中でしっかりとした言葉を淡々とつづっていくラップが印象的。どこか哀愁感もあるメロディーラインもアルバム全体に流れており、前作同様、その短さも含めて、いい意味で非常に聴きやすいアルバムになっていました。
評価:★★★★★
Earl Sweatshirt 過去の作品
Some Rap Songs
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2020年」カテゴリの記事
- 注目の7人組大所帯バンド(2021.03.28)
- 伝説のロックバンドの初のベスト盤(2020.12.29)
- 新生スマパンの第2弾だが。(2020.12.18)
- 「2020年」を反映した2021年ブルースカレンダー(2020.12.08)
- キュートなボーカルが魅力的(2020.12.07)
コメント