最も注目度の高い男性シンガーソングライターの新作
Title:エアにに
Musician:長谷川白紙
おそらく、今、日本のポップスシーンにおいて最も注目を集めている男性シンガーソングライターの一人が長谷川白紙でしょう。かなり奇妙な名前の彼ですが、2018年にリリースされたミニアルバム「草木萌動」が大きな話題に。特にその当時、彼はまだ10代、かつ現役の音大生という経歴が大きな話題となりました。そして続く2019年にリリースされた待望のオリジナルアルバムが本作。まだ現役の音大生でもある彼が20代となってはじめてリリースしたアルバムでもあります。
ただ、彼に関しては聴く前に若干身構えてしまう部分がありました。それは例えば「エアにに」という奇妙なアルバムタイトルといい、微妙に遠泳的なジャケット写真といい、いかにも「今時の若者」的な無意味さを狙ったようなアートワークが目立ってしまう部分があるからでした。前作「草木萌動」も、いかにもなアニメキャラをゆがませたような微妙なジャケットでしたし、今回のアルバムでも「。(____*)」なんていう、絵文字がそのままタイトルになった曲なんかもあり、いかにも「狙った」感じがかなり気にかかってしまいました。
実際、サウンド的にはかなり今風なのは間違いありません。全体的にエレクトロサウンドが主軸なのですが、ジャズの影響を強く感じさせるサウンド。それも今時のエレクトリックでR&Bやソウルの要素も強い現代ジャズからの影響を強く感じさせます。シンセのサウンドや軽快なドラムのリズムを中心とした構成の曲が多く、そういう意味でも非常に今時の音を奏でるミュージシャンなのは間違いありません。
しかし、身構えて聴き始めた最初の印象はいい意味ですぐに覆されました。楽曲はとてもポップで明るく、かつ変なスノッブ臭のようなものは皆無。1曲目「あなただけ」からして、ピアノとホーンセッションで軽快なミュージカル風の明るいポップチューンでワクワクさせるスタート。続く前述の奇妙なタイトルだった「。(____*)」はアップテンポでトランシーなエレクトロチューンで、こちらもスペーシーなサウンドで楽しませてくれます。
ただ、ポップな作風にまとめあげていながらも、サウンド構成としては非常に複雑な内容の曲が目立ちます。例えば「蕊のパーティ」などはミディアムテンポのポップチューンながらも、ピアノの展開もドラムのリズムも非常に凝ったつくりになっていますし、「悪魔」などもキラキラした明るい雰囲気のアレンジながらも、様々な音が複雑に入り組んで厚みのあるサウンドを聴かせてくれており、聴きこめば聴きこむほどそのサウンドの世界にはまり込んでしまうアルバムになっています。
それにも関わらず、アルバム全体としては彼のハイトーンボイスにより、そんなサウンドの複雑さを感じさせることなく、実にポップにまとめあげている手法が見事。アルバムの最後は「ニュートラル」というジャジーなピアノ1本でのアレンジの歌モノの曲で締めくくりとなっています。同曲のメロディー展開も微妙に複雑さを感じさせつつ、しっかりとポップに聴こえさせてしまっている点が実に素晴らしく、彼の天性の才を感じることが出来ます。
高い注目度も納得の傑作アルバムで、間違いなく2019年のベスト盤候補の1枚とも言えるアルバムだと思います。まだまだ長谷川白紙という知名度はぐんぐん上がっていきそうな予感も。今、ポップスファンならばチェックすべき傑作アルバムです。
評価:★★★★★
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