J-POPサウンドを作った偉大なるミュージシャン
Title:作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999
80年代から90年代にかけて活躍。主にアレンジャーとして数多くのヒット曲を手掛けてきた音楽家、大村雅朗。1978年にリリースされた八神純子の「みずいろの雨」の編曲で注目を集めたのをきっかけとして、その後も松田聖子「SWEET MEMORIES」、吉川晃司「モニカ」、渡辺美里「My Revolution」など数多くのヒット曲の編曲を手掛けてきましたが、1997年にわずか46歳の若さで急逝。多くのミュージシャンや音楽ファンがあまりにも早いその死を惜しみました。本作はそんな彼の軌跡を追った4枚組のCD-BOX。彼が作曲・編曲を手掛けた代表的な70曲が4枚組のCDに収録されています。
ただおそらく残念ながら、編曲家という性質上、大村雅朗の知名度はその業績の高さほどには高くはないかもしれません。私自身は彼が多くの曲の編曲を手掛けていた渡辺美里のファンということもあり、その名前は以前から知っていましたが、今回のボックスセットで彼の仕事を網羅的に知り、80年代や90年代を代表するヒット曲の多さに、あらためて彼の業績の偉大さを感じました。
特にこの作品集を聴くと、中高生のあたりに良く聴いていた楽曲を思い出してとても懐かしさを感じます。特にDisc3以降あたりの曲に関しては、まさに80年代後半から90年代前半の、ちょうどJ-POPという言葉が出るか出ないかという時期のポップスのまさに王道を行くようなアレンジで…というよりも、大村雅朗の作りだした音こそが、私たちが90年代初頭の黎明期のJ-POPと言われてイメージする音そのものとなったのではないでしょうか。まさに彼がJ-POPのサウンドを作り出した、と言っても過言ではないと思います。
実際、彼のアレンジした楽曲を聴くと、その後のJ-POPのサウンドの方向性を感じさせる部分を多々見つけることが出来ます。特にシンセやピアノ、ストリングスなどを多用して、比較的、様々な音を取り入れて楽曲をきらびやかにする方向性は、その後のJ-POPのイメージに共通する部分が大きいのではないでしょうか。
ただこの「音数が多い」という部分に関しては、残念ながらその後のポップスシーンにおいては、ただ単に盛り上げるだけに無意味にストリングスを多用したり、ただ音数が多ければ凝ったサウンドなんだ、という誤った言説すら生まれてきたり、少なくとも、ただただ音数を増しただけのつまらないアレンジの曲が今のポップスシーンでは多く見受けられます。無駄に音を積み重ねられたアレンジにうんざりすることも少なくありません。
しかし今回、大村雅朗のアレンジの曲を聴くと、そういう印象を受けた曲は全くありませんでした。確かに彼のアレンジにも様々な音が疲れています。にも関わらず、全くその音にトゥーマッチという印象を受けません。おそらくすべての音がそこで鳴っていることに意味があり、それぞれの音がパズルのパーツにように、ひとつひとつあるべき場所にピッタリはまり込んでいるからこそ、音数が多くても全く違和感なく、自然に楽しむことが出来る、そんなアレンジとなっていました。
作編曲家として様々なミュージシャンの支持を受け、数多くの名曲のアレンジを手掛けてきた彼ですが、この作品集でその仕事ぶりを聴くと、その理由が十分すぎるほど納得できます。まさにムダのないアレンジ、楽曲の魅力を最大限に引き出すサウンド…彼の才能を存分に感じることが出来る作品集でした。あらためて、46歳というあまりにも早い死が惜しまれます。もし、今でも存命だったら、J-POPシーンはもっとおもしろくなったのでは?そう強く感じてしまった作品集でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
PLANET/佐藤千亜妃
現在、活動休止中のバンド、きのこ帝国のボーカリストによる2枚目のソロアルバム。前作「SickSickSickSick」はかなりポップ寄りの作品に仕上がっていたのですが、本作はさらにポップにシフトした作品に。さらに今回のアルバムは全体的に曲に統一感がなく、バラバラといった印象を強く受ける作品に。正直言うと、ソロ活動によりその方向性を模索した結果、迷走している感も否めないようなアルバムに。きのこ帝国も活動休止前は迷走していた感もあったので、いまだにミュージシャンとしての方向性を定めきれないといった感じなのでしょうか。ポップなメロは悪くはないのですが、残念に感じるアルバムでした。
評価:★★★
佐藤千亜妃 過去の作品
SickSickSickSick
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コメント
大村さんを取り上げていただき、ありがとうございます。
このCD-BOXの元となった書籍を読んで作品集を聴くと、その才能の豊かさを感じると共に、もっともっと生きていて欲しかったと思います。
投稿: ギャオス | 2020年1月19日 (日) 18時35分
>ギャオスさん
元となった書籍の方は読んでいないのですが、こちらも気になります。本当に彼にはもっともっと生きていてほしかったですよね・・・。
投稿: ゆういち | 2020年2月 9日 (日) 23時18分