完全復活の待望の新作…だが
Title:So kakkoii 宇宙
Musician:小沢健二
昨年、音楽ファンの間でおそらく最も大きな話題となった出来事が小沢健二の完全復活というニュースでしょう。ある年代以上の方にとっては小沢健二というミュージシャンは、ある意味、「伝説のミュージシャン」的な語られ方をしています。フリッパーズ・ギターのメンバーとして一世を風靡した後、ソロデビュー。特に1990年代中盤においては「強い気持ち・強い愛」「ラブリー」「痛快ウキウキ通り」などといった数多くのヒット曲をリリース。音楽的にもマニア層から高い評価を受けた一方、東京大学卒業という頭の良さ、さらに中性的かつ王子様的な甘いルックスからアイドル的な人気を獲得。紅白にも2年連続出場するなど、お茶の間レベルでの人気を確保しました。音楽的にも評価が高い一方、アイドル的な人気を確保している、という点から、今の人にとっては星野源をイメージすると近いものがあるかもしれません。ブラックミュージックからの影響を感じさせつつ、キュートなポップスに仕上げているという点も両者、共通する部分と言えるかもしれません。
ただ、その後、小沢健二をある種の「伝説」的なミュージシャンとして押し上げたのは、人気絶頂の中、突然活動をセーブしはじめたことが大きな理由でしょう。絶頂期の中、彼は突然、パブリックなイメージから逆らうような落ち着いた雰囲気のシングルをリリースし、リスナーを戸惑わせます。そして2000年代に入ってからは、音楽活動の事実上休止。時々、散発的に音源をリリースしたものの、それは90年代の絶頂期のようなキュートなポップソングからはほど遠いものでした。絶頂期のイメージがあまりにも鮮烈で、かつ活躍していた期間が短かったことから、いつしか小沢健二の存在はある種の「伝説」的なイメージで語られることが多くなってしまいました。
それだけに今回の完全復活のニュースはある年代以上の音楽ファンにとっては非常に衝撃的なニュースでした。待望のニューアルバムは歌モノのアルバムとしては2002年の「Electric」以来。ただ、この作品も微妙にポップであることを避けたような作品でしたので、彼が純粋にポピュラーミュージックへ本格的に取り組んだのは、下手したら日本ポップス史上指折りの名盤として誉れ高い、1994年の「LIFE」以来かもしれません。それだけでも本作が話題となった理由がわかるのではないでしょうか。
しかし、それだけの期待を持ってリリースされた本作なのですが…その長い年月のギャップを乗り越えられたかと言われると、正直言って、かなり微妙なアルバムに仕上がっていたように感じます。本作が、正直言って微妙な仕上がりとなったいた理由としては主に2点があげられるように感じました。
まず1点目。これは絶頂期の時でも彼の問題点といえば問題点なのですが、ボーカルがちょっと厳しい点。正直、彼はボーカリストとして決して上手いボーカリストではありません。ただ、若いころは、不安定なボーカルから来る、ある種の頼りなさげな部分が、「王子様」キャラとマッチしていたのですが、アラフィフのおっさんとなった今、やはり歌い慣れていないせいか、不安定さはさらに増して、結構聴いていて厳しいレベルになってきてしまっています。
そしてもう1つ、そして最大の問題は歌詞の側面。もともと以前から小沢健二の歌詞は、東大出身のエリートという出自からくるのか、どこかスノッブ臭が強く、かつ、かつては女の子にモテる自分をアピールしているような歌詞が少なくありませんでした。ただ、そんな歌詞も、飛びぬけて明るいポップなメロにのることにより、良くも悪くも個性として魅力を放っていました。さすがにアラフィフとなった「モテキャラ」的な歌詞は少なくなった(…それでも若干見受けられるのですが)のですが、一方、悪い意味でのスノッブ臭は健在。歌詞の理屈っぽさが増し、ポップなメロディーがのっているにも関わらず、かつてのワクワク感が薄れてしまっています。また、その世界観は、どこか90年代中盤のバブルの余韻が残っているような雰囲気が漂っており、今の時代にかなりの違和感を覚えてしまいます。はっきりいって歌詞については、完全に時代から取り残されてしまった、そういう印象を強く受けてしまいました。
メロディーラインやサウンドという側面については決して悪くはありません。メロディーについてはさすが天性のメロディーメイカー、明るく聴いていてワクワクするようなメロディーをしっかりと聴かせてくれており、サウンドについてもそんなメロディーをしっかりと彩ったアレンジを聴かせてくれています。そういう意味では、メロディーメイカーとして小沢健二の才能は決して衰えたわけではないことは明確なのですが…ただ、歌詞やボーカルの問題をはねのけるほど、突き抜けた明るさと楽しさがあったか、と言われると、残念ながらそこまでの楽曲はありませんでした。
メロディーの面を含めると、決して悪いアルバムではないかもしれませんし、かつてのファンならば、それなりに楽しめたアルバムだったかもしれません。ただ、小沢健二の全盛期を知らないリスナー層にこのアルバムを聴かせられるか、と言われると…かなり微妙なように感じてしまいます。50代となった今のオザケンらしいアルバムといえばアルバムなのですが、かつてのオザケンの魅力が垣間見れる一方、加齢臭がこびりついてしまっている部分も少なくないアルバム。事実上、引退状態が長かった結果として、どうも現役感が薄い、時代から取り残されてしまった部分も感じてしまいます。久々のポップスアルバムということで期待したのですが…少々残念な結果になってしまいました。
評価:★★★★
小沢健二 過去の作品
我ら、時
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