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2020年1月 5日 (日)

ユニークながらも彼らの実力を感じさせるカバー

Title:KURICORDER QUARTET ON AIR NHK RECORDINGS
Musician:栗コーダーカルテット

リコーダーによるとぼけた雰囲気のサウンドで数多くの脱力ソングやアコースティックな暖かいポップソングを生み出してきた3人組バンド、栗コーダーカルテット。「ON AIR NHE RECORDINGS」と題された今回のアルバムですが、彼らとNHKとの関わりといえば、NHK Eテレの「ピタゴラスイッチ」のテーマ曲がよく知られています。ただ彼らの、特にメンバーのひとりである栗原正己とNHKの結びつきは非常に強く、特に幼児向け番組の「いないいないばあ」や「おかあさんといっしょ」では数多くの楽曲を提供し、その名前をクレジットで良くみかけます。NHKへの貢献度から考えると、どこかのタイミングで一度、紅白歌合戦に出場させてあげるべきと思うのですが(笑)。

本作は「NHK」の名前が冠されてるので、てっきりそんなEテレへの楽曲提供曲のセルフカバーだと思っていたのですが、そうではなく、NHK-FMで過去に放送された特番「栗屋敷」の中の「栗リクエスト」で披露したカバー曲を収録したアルバム。ピンクレディーの「サウスポー」からスタートし、斉藤和義の「歩いて帰ろう」やLed Zeppelinの「Black Dog」、さらにはももいろクローバーZの「Z女戦争」やらちあきなおみの「喝采」やら、さらにはベートーベンの「交響曲第5番『運命』第1楽章」まで、まさに古今東西、様々なタイプの楽曲がリコーダーによりカバーされています。

どの曲も脱力感あふれ、ユーモラスさと暖かさを同時に感じるカバーが大きな魅力。例えばDonovanの「Mellow Yellow」のカバーは、若干ピッチもはずしつつ、とぼけた雰囲気のアレンジに仕上がっているのが非常にユニーク。特に原曲とのギャップが大きかったのが「運命」で、おどろおどろしさがある原曲も、彼らの手にかかると、のどかさすら感じられる軽快で暖かいポップスへと早変わりします。

もちろん聴かせる部分はしっかりと聴かせてくれており、「喝采」もとぼけた雰囲気を醸し出しつつ、原曲の持つ哀愁感は楽曲の中でしっかりと表現されており、思わず聴き入ってしまうようなカバーに仕上げています。特にラストを締めくくる伊藤咲子の「乙女のワルツ」のカバーは、アコーディオンの音色で郷愁感たっぷりのカバーに仕上げており、インストながらも歌が聴こえてくるような素晴らしい内容になっており、本編ラストを良い心持で締めくくっている内容になっていました。

さらに本作にはボーナスディスクとして、NHK-FMの特番「今日は一日“プログレ”三昧」で披露された「栗コーダーカルテット meets Progressive Rock Giants」のスタジオライブがそのまま収録されています。ちょっとマニアックな内容(…ただ基本、有名曲がメインなので、限定されたマニア向けという感じではありませんが)になっているのですが、むしろミュージシャン栗コーダーカルテットの本領発揮と言えるのはこちら。複雑なプログレッシブロックの名曲を、見事リコーダーを中心としたアコースティックな楽器でカバーしきっています。

個人的に特に印象に残ったのがKraftwerkの「ヨーロッパ特急」のカバーで、ご存じの通り、エレクトロアレンジの同曲を、アコースティックにカバーしています。かなり力技な感じもあるのですが、それでもしっかりと原曲に「準拠」してカバーしてしまうあたりは見事。またFocusの「悪魔の呪文」ではボイスパーカッションまで飛び出しており、ユーモラスさを感じさせつつも、しっかりとカバーしてしまう、彼らの音楽的技巧の高さには、あらためて驚かされます。

よく知られたポップソングのカバーが多く、「ピタゴラスイッチ」などで彼らを知ったような方にも聴きやすく、かつユーモアさがとても心地よい傑作アルバム。ただ一方に、ボーナストラックなどで栗コーダーカルテットの音楽的な才能をしっかりと聴かせてくれた、そんなアルバムに仕上がっていました。あらためて本当に素晴らしいバンドですね。それだけにこのNHK貢献度から、一度くらいは紅白に(笑)。

評価:★★★★★

栗コーダーカルテット 過去の作品
15周年ベスト
夏から秋へ渡る橋
渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)

遠くの友達
生渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)
羊どろぼう
ウクレレ栗コーダー2~UNIVERSAL 100th Anniversary~
あの歌 この歌
20周年ベスト
ひろコーダー☆栗コーダー(谷山浩子と栗コーダーカルテット)

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