« LISA is BACK!!!!! | トップページ | ある種の哀れみすら感じます »

2020年1月28日 (火)

坂本真綾の挑戦

Title:今日だけの音楽
Musician:坂本真綾

2011年に結婚を発表後、露骨にCDの売上がガクッと落ちた坂本真綾。ただ一方、彼女を「アイドル」的にしか応援していなかった「ファン」が去ったことにより、むしろミュージシャンとしては彼女の自由度がグッと増したように感じます。前々作「シンガーソングライター」では全曲自ら作曲に挑戦。その方向で行くかと思いきや、前作「FOLLOW ME UP」では様々なミュージシャンとのコラボに挑戦。続く本作でも再び様々なミュージシャンとのコラボに挑戦しています。

ユニークなのはそのセレクト。基本的に今回コラボを組んだのは前作とは異なるミュージシャンたち。前作で相性の良さを感じさせた大貫妙子やcorneliusといった面々は残念ながら今回は不参加(ただし、前作でthe band apartとして参加した荒井岳史は今回はソロ名義で参加しています)。代わりに堀込泰行や川谷絵音、さらには木村カエラへの楽曲提供でおなじみの渡邊忍などが作曲陣として名前を連ねています。

そんな今回のアルバム、全編、透明感ある彼女のボーカルを楽しめるアルバムになっていたように感じます。ある意味「アニソン」的な、ゴリゴリした分厚いサウンドはなく、自然体に彼女のボーカルを中心に据えているような楽曲が並びます。それぞれのミュージシャンが自由に自分たちのスタイルで楽曲提供したため、全体的に統一感に欠ける点がアルバムとしてマイナス要素ではあるのですが、今回はそんな統一感の欠如よりも、様々なバリエーションある曲を聴かせる点を主軸として据えたのでしょう。実際、様々なタイプの曲が並んでおり、そのバラエティー富んだ展開を楽しめるアルバムとなっていました。

例えば大沢伸一作曲による「ホーキングの空に」は静かなエレクトロサウンドをバックに、彼女の透明感あふれるハイトーンボイスを聴かせる幻想的なナンバー。東京事変のメンバーでもある伊澤一葉作曲による「お望み通り」は、まさに東京事変を彷彿とさせる歌謡曲テイストのジャジーな楽曲。椎名林檎と異なり、さらりとした感触のある坂本真綾のボーカルにより、東京事変の雰囲気とは異なる作風が楽しめます。

個人的にお気に入りはthe band apartの荒井岳史作曲による「オールドファッション」。軽快でかわいらしいポップチューンなのですが、ほんの少し入ったアイドルポップ的な要素が相まって、90年代のガールズポップのような雰囲気の曲に仕上がっています。個人的にはなつかしさを感じさせるポップチューンに仕上がっていました。前作、the band apartが提供した曲は坂本真綾の声に合わず今一つだったのですが、今回はしっかりと彼女のボーカルにあった曲を作ってきました。

坂本真綾の声にあっているという点で今回一番の出来だったのが堀込泰行作曲の「火曜日」でしょう。ストリングスとピアノで聴かせるバラードナンバーなのですが、透明感あふれる曲調が彼女の声にピッタリとマッチしています。前作でも大貫妙子との相性の良さを感じさせた彼女ですが、シティポップ系のミュージシャンと彼女のボーカルは相性が良いようです。

逆にちょっと微妙だったのは渡邊忍作曲の「トロイメライ」。軽快なギターポップナンバーで、楽曲自体は決して悪くはないのですが、この曲の中では彼女のボーカルの良さが生かされておらず、よくありがちなギターロックという感じになってしまっています。前作でもバンド系の楽曲とは相性の悪さを感じたのですが、やはり彼女のボーカルはギターロックとはいまひとつ相性はよくないようです。

また、川谷絵音は今回、2曲を提供しているのですが、どちらもマイナーコードでアップテンポなナンバー。歌謡曲風でムーディーに仕上げた「細やかに蓋をして」はindigoを彷彿とさせる楽曲なのですが、「ユーランゴブレット」の方はアニソン歌手のイメージを引きづったような作品。これはこれで彼女らしいのですが、今回の楽曲の中ではちょっと浮いてしまったような感じもしました。

そんな感じでアルバム全体としては正直、楽曲の良し悪しもあり、「捨て曲なしの名盤!」と絶賛できるような内容ではありません。アルバム全体としても統一感ない点もマイナスでしょう。ただ今回のアルバム、そういった点も覚悟の上で、あえて様々なミュージシャンの曲を歌った彼女の挑戦心を強く感じます。また、いかにも「アニソン」然とした曲もなく、そういう点でも広い層にアピールできそうなアルバムなのですが、そういう点でもボーカリストとして新たな一歩を踏み出そうという決意のようなものを感じます。

坂本真綾のボーカリストとしての挑戦を強く感じさせるアルバム。この挑戦はどこまで続くのでしょうか。ともすれば次回作あたり、HIP HOP系のミュージシャンとコラボしてもおもしろいのでは?もっとも一方では、前作のcorneliusや大貫妙子、本作の堀込泰行のような、坂本真綾のボーカルとマッチしたミュージシャンたちからの楽曲提供曲のみでまとめたアルバムを聴きたいな、とも思ったりもするですが…。

評価:★★★★★

坂本真綾 過去の作品
かぜよみ
everywhere
You can't catch me
Driving in the silence
シングルクレクション+ ミツバチ
シンガーソングライター
FOLLOW ME UP


ほかに聴いたアルバム

BLUE FANTASIA/堂島孝平

前作「VERY YES」から約4年ぶり。ちょっと間の空いてしまった堂島孝平の久々となるニューアルバム。前半は彼らしい爽快なシティポップを聴かせる楽曲が続き、メロディーメイカーとしての本領発揮といった感じの曲が並びます。一方で中盤あたりからはエレクトロサウンドを全面に取り入れた楽曲が並ぶ本作。もちろんそんな中でも彼のメロディーをしっかりと聴かせる曲も多く、彼の書くメロディーラインの「強度」の強さを感じます。ただ、ミュージシャンとしての勢いを感じさせた前作「VERY YES」から約4年、ちょっとミュージシャンとしての勢いは失速気味かな、とも感じてしまうようなインパクトの不足も感じてしまいました。もちろん本作も十分良作なのですが、ちょっと気になる点のあるアルバムでした。

評価:★★★★

堂島孝平 過去の作品
UNIRVANA
VIVAP
Best of HARD CORE POP!
A.C.E.
A.C.E.2
シリーガールはふり向かない
フィクション
オモクリ名曲全集 第一集 堂島孝平篇
VERY YES

LOVE/筋肉少女帯

通算20枚目となる筋肉少女帯のニューアルバム。良くも悪くもいつもの筋肉少女帯といった感じの曲が並んでいるのですが、風俗街・ホテル街の鶯谷に生まれた少女を描いた「ボーン・イン・うぐいす谷」や、人生にしくじった人たちへのエールでもある「ドンマイ酒場」など、ある意味、非常に彼ららしい歌詞を今回も楽しませてくれます。楽曲的にも、まさにタイトルから想像できるまんまの「喝采よ!喝采よ!」のような昭和歌謡曲ソングも。良くも悪くも彼ららしく、目新しいという感じはしないのですが、完全にマンネリ気味だったここ最近の2作と比べるとグッとよくなった印象も。次回作には期待できそうです。

評価:★★★★

筋肉少女帯 過去の作品
新人
大公式2
シーズン2
蔦からまるQの惑星
公式セルフカバー4半世紀
THE SHOW MUST GO ON
おまけのいちにち(闘いの日々)
再結成10周年パーフェストベスト+2
Future!
ザ・シサ

|

« LISA is BACK!!!!! | トップページ | ある種の哀れみすら感じます »

アルバムレビュー(邦楽)2020年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« LISA is BACK!!!!! | トップページ | ある種の哀れみすら感じます »