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2020年1月25日 (土)

初のオールタイムベスト

Title:ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~
Musician:椎名林檎

セルフカバーやコラボベスト、ライブベストなど、いままでいろいろと「企画盤」をリリースしてきたので、逆にちょっと意外な感じもするのですが、これが初となるオールタイムベスト。1曲目にはこのベスト盤のために書き下ろされた宇多田ヒカルというデュオ曲「浪漫と算盤」からスタートし、ほぼリリース順に2枚組のCDに収録されたアルバムとなっています。

で、今回あらためて椎名林檎の楽曲を網羅的に聴き、あらためて彼女の魅力に触れることが出来たのですが、やはり椎名林檎の楽曲の魅力というと、その独特の世界観。なによりも楽曲全体にある種の女性的なエロスを感じさせつつ、それにも関わらず男性への媚びを一切感じさせない、という点にあるのではないでしょうか。思えば彼女の名前を一気に知らしめることになった「歌舞伎町の女王」にしても、風俗街である歌舞伎町を舞台にしつつ、歌詞に男性への媚びを全く感じさせません。女性的な部分を魅力として出しつつ、しかしそれが男性への媚びになっていないという点が椎名林檎の持つ世界観のひとつのすごさのように感じます。

また、今回のベスト盤でのひとつの聴きどころに感じたのが、彼女の曲から曲へのつながり。以前から椎名林檎の曲は、その間をつなげて、曲がつながっているという点が大きな魅力であり、各種インタビューでもそのこだわりが語られることが多いのですが、そのこだわりは今回のベスト盤でも強く感じます。個人的に、名盤「無罪モラトリアム」でもっともゾクゾクとさせられるのが「正しい街」から「歌舞伎町の女王」へのつながりだったりするのですが、今回のアルバムでもそのままその順番で収録。ほかにも「ここでキスして。」から「ギブス」への展開もゾクゾクさせられるものがありますし、今回のベスト盤も基本的にリリース順で収録されているにも関わらず、しっかりとアルバムを通じて、その曲の展開を含めて聴かせるアルバムになっているように感じました。

一方、今回のベスト盤を聴いてちょっと気が付いた点も。ここ最近、彼女の曲はミュージカル風、レビュー風のアレンジの曲が増えてきているのですが、ベスト盤を聴いてあらためて思ったのは、正直彼女はやはりロックな曲の方が合っているような気がする…。初期の作品に関しては、思い出補正的な部分もあるのですが、比較的最近の曲でも「自由への道連れ」「NIPPON」のようにロックの色合いが強い曲の方が耳に残り、逆にミュージカル風のアレンジの曲は若干大味にも感じてしまいます。いや、もちろんそういう曲にも名曲は多いのですが、ちょっと変にスケール感を出そうとしすぎているのではないか?という点が気になってしまいました。

そういう点はちょっと気になりつつも、楽曲の構成のこだわりもありベスト盤と言えどもひとつのアルバムのように最後まで一気に楽しめたアルバム。あらためて椎名林檎の魅力を強く感じることが出来ました。そんな中、なんと1月1日に東京事変としての新曲が発表し、活動を再開。ベスト盤リリースを一つの区切りとして新たな一歩を歩みだした感があります。椎名林檎の活動からはまだまだ目が離せなさそう。これからも彼女の快進撃は続きそうです。

評価:★★★★★

椎名林檎 過去の作品
私と放電
三文ゴシップ
蜜月抄
浮き名

逆輸入~港湾局~
日出処
逆輸入~航空局~
三毒史


ほかに聴いたアルバム

More Wave/田我流&KM

かの田我流がビートメイカーKMと組んでリリースした配信限定の6曲入りミニアルバム。お互いが父親ということで意気投合した「夜のパパ」の歌詞が非常にユニークで耳に残りますし、また父親として人生の終わりを描いた「Long Goodbye」も印象に残ります。また、既存曲のKMによるリミックスも収録されているのですが、微妙にトラップの影響を感じるドリーミーなサウンドが印象的。同じパパとして、相性の良さを強く感じるコラボ作となっていました。

評価:★★★★★

田我流 過去の作品
B級映画のように2
Ride On Time

人と時/熊木杏里

約2年半ぶりとなるシンガーソングライター熊木杏里のニューアルバム。本作ではKiroroの「Best Friend」のカバーや社会派な歌詞が印象に残るカントリー風の「どれくらい?」などの曲もあったものの、アコースティックなサウンドでフォーキーに聴かせるミディアムテンポの楽曲がメインに。これはこれで彼女の暖かい作風を感じられ魅力的ではあるのですが、個人的にはもうちょっとバリエーションが欲しかったような感じがします。もちろん、1曲1曲はいい曲がそろっているとは思うのですが。

評価:★★★★

熊木杏里 過去の作品
ひとヒナタ
はなよりほかに
風と凪
and...life
光の通り道

飾りのない明日
群青の日々
殺風景~15th Anniversary Edition~

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