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2020年1月

2020年1月31日 (金)

久々の快心作

Title:Section#11
Musician:THE BAWDIES

ベスト盤を挟んで約2年9ヶ月ぶりとなるTHE BAWDIESのニューアルバム。ここ最近のTHE BAWDIESの作品は、いつも通りの陽気でご機嫌なロックンロールナンバーを聴かせてくれる良作を続けながらも、ルーツ志向が強かった初期のナンバーと比べると、どこかひっかかる部分もあった作品が続いていたように思います。しかしそんな中リリースされた、ちょっと久々となるニューアルバムは、まさに快心の一撃!(笑)ある意味、完全に吹っ切れたような作品に仕上がっていました。

特に気持ちよかったのはアルバム冒頭の3曲。アップテンポで疾走感あるロックンロールナンバー「DON'T SAY NO」からスタートし、70年代ギターロックを彷彿とさせるようなギターリフのイントロが最高にカッコいい「SKIPPIN' STONES」、さらにモータウンビートも取り入れて軽快なロックンロールを聴かせる「LET'S GO BACK」と、この3曲の流れは、まさにTHE BAWDIESの魅力を最大限に発揮されており、彼らしか生み出せない、最高にカッコいいロックンロールを聴かせてくれます。

その後も基本的に彼ららしいルーツ志向のロックンロールを主軸に据えつつ、比較的バリエーションの富んだ作風を聴かせてくれます。「LET'S GO BACK」と同じく、モータウンビートで軽快な「EASY GIRL」「HIGHER」はヘヴィーなギターサウンドとしゃがれ声でガレージロックの色合いが強いナンバー。「GET UP AND RIDE」はギターサウンドやカウベルの使い方、また後半に聴かせるピアノやソウルフルなコーラスを含めて、あきらかにストーンズを意識したような楽曲に仕上がっていますし、「THE BEAT」は彼ら流のファンクを聴かせてくれる楽曲となっています。

ルーツ志向のロックンロールをベースとしつつ、幅広いタイプの楽曲を取り入れている本作。ただ、こういった様々なタイプの楽曲を取り入れているのはいままでのアルバムでもよく見受けられました。ただ、今回のアルバムに関してはバンドとしての勢いもあり、また、様々なサウンドを取り入れつつ、あくまでもラフなロックンロールというスタイルを前に押し出した結果、いままでのアルバム以上にTHE BAWDIESの魅力がより発揮されたロックンロールナンバーに仕上がっていたように感じます。

さらに「BLUES GOD」などは軽快なギターリフを聴かせる、タイトル通りのブルースロックの楽曲なのですが、途中、いきなり明るくなったり、ブルースロックからいきなりリズミカルなテンポに変化したり、さらに転調も取り入れたりと、複雑な構成はある種J-POP的。「HAPPY RAY」もストリングスを入れたポップなメロディーラインで、かなり売れ筋を意識したようなポップチューンとなっています(ストリングスの出だしなどはミスチルっぽさも感じるほど(!))。ただ今回のアルバムは全体的にロックンロールなナンバーが並んでいる影響か、こういうある種の「J-POP的」なナンバーも浮くことなく自然に聴くことが出来ます。また、こういうナンバーをさらりと披露できるあたりもTHE BAWDIESの実力のほどを感じさせます。

今回の作品はTHE BAWDIESの魅力が存分に発揮された、年間ベスト候補と言っても間違いない傑作アルバムだったと思います。いや、やはり彼らのロックンロールサウンドはカッコいいなぁ…とう素直に感じられた快心作。一時期に比べると、人気の面ではちょっと下火になってしまった彼らですが、これだけの作品を作れるのならば、まだまだ大丈夫でしょう。これからの活躍にも期待できる傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

THE BAWDIES 過去の作品
THIS IS MY STORY
THERE'S NO TURNING BACK
LIVE THE LIFE I LOVE
1-2-3
GOING BACK HOME
Boys!
「Boys!」TOUR 2014-2015 –FINAL- at 日本武道館
NEW
THIS IS THE BEST
Thank you for our Rock and Roll Tour 2004-2019 FINAL at 日本武道館


ほかに聴いたアルバム

井上陽水トリビュート

井上陽水デビュー50周年を記念してリリースされた、様々なミュージシャンたちが井上陽水の曲をカバーするトリビュートアルバム。基本的には原曲のイメージに沿ったアレンジで、かつ実力のあるボーカリストが参加したアルバムだったため、良くも悪くも意外性はなく、かつ安定感あるボーカルで安心して聴ける内容になっています。ただその中でも特に椎名林檎と宇多田ヒカルは秀逸。一方、オルケスタ・デ・ラ・ルスによる「ダンスはうまく踊れない」のラテンカバーはなかなかユニーク。ACIDMANによる「傘がない」も、これでもかというほどベタな叙情感を強調したアレンジとなっており、胃もたれしそうなアレンジは好き嫌いありそうですが、これはこれで彼ららしさが出たカバーになっていました。基本的には井上陽水のファンや参加ミュージシャンのファンは安心して聴けるアルバムになっていたと思います。もっとも、もうちょっと波紋を呼ぶようなカバーがあった方がおもしろいとは思うのですが。

評価:★★★★

Mobius Strip/KEN ISHII

約13年ぶりとなる"東洋のテクノゴッド"KEN ISHIIのニューアルバム。正直言って、サウンド的には決して目新しい訳ではなく、中盤にチルアウトしている作品の中には、エレクトロニカ的に実験的なサウンドを聴かせるナンバーはあるものの、全体的には心地よくメロディアスなトランシーな楽曲が並びます。ただ、11曲目あたりからのチルアウトを挟み、最後には再びアゲアゲに盛り上がる構成といい、アルバム1枚でひとつのライブを味わうように、非常に心地よく、素直にエレクトロなビートを楽しめるアルバムになっています。なにげに彼のテクノサウンドが奏でる「ポップなメロ」がとても気持ちよかったりするのですが、そんな気持ちよさをアルバム全体で感じられる傑作に仕上がっていました。

評価:★★★★★

KEN ISHII 過去の作品
KI15-The Best of Ken Ishii-
The Works + The Unreleased & Unexpected

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2020年1月30日 (木)

2週連続1位

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

先週に引き続き見事2週連続の1位となりました。

今週1位はKing Gnu「CEREMONY」。CD販売数は2位にダウンしたものの、ダウンロード数1位、PCによるCD読取数2位で総合順位では見事1位獲得となりました。Hot Albumsでもロングヒットの予感がします。

2位には韓国の男性アイドルグループNCTの別働グループNCT DREAMの来日記念ミニアルバム「THE DREAM」がランクイン。CD販売数は1位でしたが、そのほかのチャートはランク圏外となり、総合順位では2位に留まりました。オリコン週間アルバムランキングでは初動売上4万枚で、同作が1位を獲得しています。

3位初登場はMISIA「MISIA SOUL JAZZ BEST 2020」がランクイン。CD販売数3位、ダウンロード数4位、PCによるCD読取数14位。ここ最近、トランぺッターの黒田卓也を共同プロデューサーとして迎えている「SOUL JAZZ」プロジェクトの一環としてリリースされたアルバムで、彼女の過去の代表曲の再録に、新曲4曲を収録した企画盤。オリコンでは初動売上2万3千枚で3位初登場。直近のオリジナルアルバム「Life is going on and on」の1万6千枚(6位)からアップ。

続いて4位以下の初登場盤です。まず4位にはNatural Lag「ナチュラルストーリー」が初登場。CD販売数4位、ダウンロード数2位。男性アイドルグループDa-iCEの花村想太によるバンドプロジェクトで、同作がデビュー作。オリコンでは初動売上1万3千枚で4位初登場。

7位は女性声優鈴木愛奈「ring A ring」がランクイン。CD販売数は5位ながらもダウンロード数19位、PCによるCD読取数40位で総合順位はこの位置に。アニメキャラによるアイドルプロジェクトAqoursのメンバーでもある彼女ですが、ソロでは本作がデビュー作。オリコンでは初動売上1万2千枚で5位初登場です。

9位には動画サイトでの投稿で人気を博した女性シンガーソングライターReol「金字塔」がランクイン。CD販売数12位、PCによるCD読取数85位ながらもダウンロード数で6位を獲得し、総合順位ではベスト10入りです。オリコンでは初動売上5千枚で惜しくも11位に。前作「文明EP」(10位)から横バイ。

初登場最後は10位のXⅡX「White White」。CD販売数10位、ダウンロード数33位、PCによるCD読取数30位。UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介が、数多くのミュージシャンのサポートとして活躍しているベーシスト須藤優と組んだユニットによるデビューアルバム。オリコンでは初動売上6千枚で10位にランクインしています。

ロングヒット組ではOfficial髭男dism「Traveler」がワンランクダウンで7位にランクイン。ただCD販売数では8位から7位にアップ。ダウンロード数3位、PCによるCD読取数1位はそれぞれ先週から同順位をキープ。オリコン週間アルバムランキングでも8位にランクインしており、Hot100では若干失速気味の彼らですが、まだまだアルバムチャートを見る限り、彼らの人気は2020年も続いていきそうです。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年1月29日 (水)

ある種の哀れみすら感じます

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週のHot100には、話題となったジャニーズ系2組がランクインです。

今週1位を獲得したのは本作がデビュー作となるジャニーズ系男性アイドルグループSixTONES「Imitation Rain」。CD販売数、PCによるCD読取数及びTwitterつぶやき数で1位、ラジオオンエア数で9位、You Tube再生回数で13位を獲得しています。一方、2位にも同じジャニーズ系男性アイドルグループSnow Man「D.D.」がランクイン。CD販売数、PCによるCD読取数、Twitterつぶやき数で2位、ラジオオンエア数3位、You Tube再生回数15位を獲得しています。

今回、この2組のジャニーズ系アイドルグループが同時にデビュー。ジャニーズ事務所としてはかなりの力の入れようで、テレビでは彼らのCMがバンバン流れ、テレビ番組には数多く出演。露出度を異様なまでにあげた結果、オリコン週間シングルランキングでは初動売上132万8千枚という驚異的な数値で1位を獲得…なのですが、今回、この売上枚数、SixTONESをメインに据えたSixTONES vs Snow Man名義のシングルと、Snow Manをメインに据えたSnow Man vs SixTONES名義のシングルを合算した数値。収録曲は同一なのですが、リリースされるレコード会社も異なり、両者の数値を合算した売上計上には、かなりの批判も出ているようです。

ただ昨今、オリコンチャートの地位が相対的に下がり、一方、ヒゲダンにしろKing Gnuにしろあいみょんにしろ、ここ最近のヒットはストリーミング数やYou Tube再生回数など、CDによる瞬発的な売上ではなく、本当の意味で楽曲が支持されて、末永く聴かれているような曲がヒットしています。しかし、このような形のヒットは、本当にいい曲を地道な形でPRしていくしかなく、大量の資金や人気タレントの存在をバックにテレビ局はじめとするメディアに圧力をかけて、無理やりヒットを売り出そうとするジャニーズ系やAKB系からは生み出されるはずもありません。

そんな中、こういう形でテレビ局をはじめとするメディアに無理やり売込み、無理やりブームを作り出そうとする、旧来依然とするやり方を取らざるを得ないジャニーズ系のやり方は、ある種の哀れみすら感じさせます。今回のSixTONESとSnow Manの同時デビューというやり方は、旧来のメディアにしがみつく時代遅れの人たちによる最期の断末魔かもしれません。もっとも、そういうやり方に、両者合わせてとはいえ、130万人もの人たちが踊らされてしまっている事実もまた、情けなさを感じてしまうのですが…。

その2曲に並んで3位に入ったのはモーニング娘'20「KOKOROA&KARADA」でした。CD販売数3位、ダウンロード数15位、PCによるCD読取数10位、Twitterつぶやき数27位。オリコンでは初動売上12万6千枚で2位初登場。前作「人生Blues」の10万9千枚(3位)からアップしています。

続いて4位以下の初登場曲ですが、今週の初登場は1曲のみ。6位に韓国の男性アイドルユニット東方神起「まなざし」が先週の46位からCDリリースに合わせてベスト10にランクイン。CD販売数は4位、PCによるCD読取数及びTwitterつぶやき数7位ながら、ダウンロード数58位、ほかのチャートはランク圏外となり、総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上6万2千枚で3位初登場。前作「Hot Hot Hot」の5万9千枚(2位)よりアップしています。

今週は上位にアイドル系の新曲が一気にランクインした影響でロングヒット曲がランクダウンしています。まずKing Gnu「白日」は2位から4位にダウン。ただし、ダウンロード数3位、ストリーミング数1位、You Tube再生回数2位は先週から変わらず。まだまだロングヒットは続きそう。一方、同時ランクインの「Teenager Forever」は5位から8位にダウン。ただし、ダウンロード数は16位から9位、You Tube再生回数は6位から5位と軒並みアップ。ダウンロード数も先週から変わらず3位をキープしており、こちらもまだヒットは続きそうです。

Official髭男dism「Pretender」も先週の3位から5位にダウン。ただ、こちらもYou Tube再生回数及びカラオケ歌唱回数の1位、ストリーミング数2位は先週から変わらず。まだまだヒットは続きそう。また先週ベスト10入りしてきた「I LOVE...」も6位からワンランクダウンながらも7位とベスト10をキープしています。しかし今週、先週の「イエスタデイ」に続き「宿命」も11位にダウンとついにベスト10から陥落。昨年8月12日付チャートより25週連続のベスト10ヒットはついに途切れました。

またその他のロングヒット曲もLiSA「紅蓮華」は8位から9位にダウン。菅田将暉「まちがいさがし」も9位から10位にダウン。なんとかベスト10ヒットは続いたものの、厳しい状況になっています。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2020年1月28日 (火)

坂本真綾の挑戦

Title:今日だけの音楽
Musician:坂本真綾

2011年に結婚を発表後、露骨にCDの売上がガクッと落ちた坂本真綾。ただ一方、彼女を「アイドル」的にしか応援していなかった「ファン」が去ったことにより、むしろミュージシャンとしては彼女の自由度がグッと増したように感じます。前々作「シンガーソングライター」では全曲自ら作曲に挑戦。その方向で行くかと思いきや、前作「FOLLOW ME UP」では様々なミュージシャンとのコラボに挑戦。続く本作でも再び様々なミュージシャンとのコラボに挑戦しています。

ユニークなのはそのセレクト。基本的に今回コラボを組んだのは前作とは異なるミュージシャンたち。前作で相性の良さを感じさせた大貫妙子やcorneliusといった面々は残念ながら今回は不参加(ただし、前作でthe band apartとして参加した荒井岳史は今回はソロ名義で参加しています)。代わりに堀込泰行や川谷絵音、さらには木村カエラへの楽曲提供でおなじみの渡邊忍などが作曲陣として名前を連ねています。

そんな今回のアルバム、全編、透明感ある彼女のボーカルを楽しめるアルバムになっていたように感じます。ある意味「アニソン」的な、ゴリゴリした分厚いサウンドはなく、自然体に彼女のボーカルを中心に据えているような楽曲が並びます。それぞれのミュージシャンが自由に自分たちのスタイルで楽曲提供したため、全体的に統一感に欠ける点がアルバムとしてマイナス要素ではあるのですが、今回はそんな統一感の欠如よりも、様々なバリエーションある曲を聴かせる点を主軸として据えたのでしょう。実際、様々なタイプの曲が並んでおり、そのバラエティー富んだ展開を楽しめるアルバムとなっていました。

例えば大沢伸一作曲による「ホーキングの空に」は静かなエレクトロサウンドをバックに、彼女の透明感あふれるハイトーンボイスを聴かせる幻想的なナンバー。東京事変のメンバーでもある伊澤一葉作曲による「お望み通り」は、まさに東京事変を彷彿とさせる歌謡曲テイストのジャジーな楽曲。椎名林檎と異なり、さらりとした感触のある坂本真綾のボーカルにより、東京事変の雰囲気とは異なる作風が楽しめます。

個人的にお気に入りはthe band apartの荒井岳史作曲による「オールドファッション」。軽快でかわいらしいポップチューンなのですが、ほんの少し入ったアイドルポップ的な要素が相まって、90年代のガールズポップのような雰囲気の曲に仕上がっています。個人的にはなつかしさを感じさせるポップチューンに仕上がっていました。前作、the band apartが提供した曲は坂本真綾の声に合わず今一つだったのですが、今回はしっかりと彼女のボーカルにあった曲を作ってきました。

坂本真綾の声にあっているという点で今回一番の出来だったのが堀込泰行作曲の「火曜日」でしょう。ストリングスとピアノで聴かせるバラードナンバーなのですが、透明感あふれる曲調が彼女の声にピッタリとマッチしています。前作でも大貫妙子との相性の良さを感じさせた彼女ですが、シティポップ系のミュージシャンと彼女のボーカルは相性が良いようです。

逆にちょっと微妙だったのは渡邊忍作曲の「トロイメライ」。軽快なギターポップナンバーで、楽曲自体は決して悪くはないのですが、この曲の中では彼女のボーカルの良さが生かされておらず、よくありがちなギターロックという感じになってしまっています。前作でもバンド系の楽曲とは相性の悪さを感じたのですが、やはり彼女のボーカルはギターロックとはいまひとつ相性はよくないようです。

また、川谷絵音は今回、2曲を提供しているのですが、どちらもマイナーコードでアップテンポなナンバー。歌謡曲風でムーディーに仕上げた「細やかに蓋をして」はindigoを彷彿とさせる楽曲なのですが、「ユーランゴブレット」の方はアニソン歌手のイメージを引きづったような作品。これはこれで彼女らしいのですが、今回の楽曲の中ではちょっと浮いてしまったような感じもしました。

そんな感じでアルバム全体としては正直、楽曲の良し悪しもあり、「捨て曲なしの名盤!」と絶賛できるような内容ではありません。アルバム全体としても統一感ない点もマイナスでしょう。ただ今回のアルバム、そういった点も覚悟の上で、あえて様々なミュージシャンの曲を歌った彼女の挑戦心を強く感じます。また、いかにも「アニソン」然とした曲もなく、そういう点でも広い層にアピールできそうなアルバムなのですが、そういう点でもボーカリストとして新たな一歩を踏み出そうという決意のようなものを感じます。

坂本真綾のボーカリストとしての挑戦を強く感じさせるアルバム。この挑戦はどこまで続くのでしょうか。ともすれば次回作あたり、HIP HOP系のミュージシャンとコラボしてもおもしろいのでは?もっとも一方では、前作のcorneliusや大貫妙子、本作の堀込泰行のような、坂本真綾のボーカルとマッチしたミュージシャンたちからの楽曲提供曲のみでまとめたアルバムを聴きたいな、とも思ったりもするですが…。

評価:★★★★★

坂本真綾 過去の作品
かぜよみ
everywhere
You can't catch me
Driving in the silence
シングルクレクション+ ミツバチ
シンガーソングライター
FOLLOW ME UP


ほかに聴いたアルバム

BLUE FANTASIA/堂島孝平

前作「VERY YES」から約4年ぶり。ちょっと間の空いてしまった堂島孝平の久々となるニューアルバム。前半は彼らしい爽快なシティポップを聴かせる楽曲が続き、メロディーメイカーとしての本領発揮といった感じの曲が並びます。一方で中盤あたりからはエレクトロサウンドを全面に取り入れた楽曲が並ぶ本作。もちろんそんな中でも彼のメロディーをしっかりと聴かせる曲も多く、彼の書くメロディーラインの「強度」の強さを感じます。ただ、ミュージシャンとしての勢いを感じさせた前作「VERY YES」から約4年、ちょっとミュージシャンとしての勢いは失速気味かな、とも感じてしまうようなインパクトの不足も感じてしまいました。もちろん本作も十分良作なのですが、ちょっと気になる点のあるアルバムでした。

評価:★★★★

堂島孝平 過去の作品
UNIRVANA
VIVAP
Best of HARD CORE POP!
A.C.E.
A.C.E.2
シリーガールはふり向かない
フィクション
オモクリ名曲全集 第一集 堂島孝平篇
VERY YES

LOVE/筋肉少女帯

通算20枚目となる筋肉少女帯のニューアルバム。良くも悪くもいつもの筋肉少女帯といった感じの曲が並んでいるのですが、風俗街・ホテル街の鶯谷に生まれた少女を描いた「ボーン・イン・うぐいす谷」や、人生にしくじった人たちへのエールでもある「ドンマイ酒場」など、ある意味、非常に彼ららしい歌詞を今回も楽しませてくれます。楽曲的にも、まさにタイトルから想像できるまんまの「喝采よ!喝采よ!」のような昭和歌謡曲ソングも。良くも悪くも彼ららしく、目新しいという感じはしないのですが、完全にマンネリ気味だったここ最近の2作と比べるとグッとよくなった印象も。次回作には期待できそうです。

評価:★★★★

筋肉少女帯 過去の作品
新人
大公式2
シーズン2
蔦からまるQの惑星
公式セルフカバー4半世紀
THE SHOW MUST GO ON
おまけのいちにち(闘いの日々)
再結成10周年パーフェストベスト+2
Future!
ザ・シサ

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2020年1月27日 (月)

LISA is BACK!!!!!

Title:KYO
Musician:m-flo

LISA is BACK!!!...そう叫びたくなるようなm-floのオリジナルとしては約5年8か月ぶりとなるニューアルバム。m-floといえば、1999年にメジャーデビュー。最先端のサウンドを取り入れながら、ヒットチャートで通用するポップソングを作り上げるユニットとして大きな話題となり、2001年にはシングル「come again」が大ヒット。続くアルバム「EXPO EXPO」も大ヒットを記録し、一躍、その名前を世間に知らしめました。

しかし2002年にボーカルのLISAが脱退。2人組となったm-floは、その後も新しいボーカルを加えることなく、楽曲毎に様々なボーカルをゲストとして呼び、活動を続けてきました。その後も活動休止期間を挟みつつ、断続的に活動を続けてきたのですが、2014年にアルバム「FUTURE IS NOW」をリリース後、目立った活動がなくなり、その後の展開が心配されました……が、2017年になんとLISAがボーカルとしてメンバーに復帰することが発表!その後も配信を中心としてシングルをリリースしつつ、ついにニューアルバムがリリースされました。LISAが参加したアルバムとしては2001年の「EXPO EXPO」以来ですから、実に18年ぶりとなるアルバムとなります(…って、あのアルバムからもうそんなに経つんだ…)。

そんな久々の共演となった本作ですが、今回のLISA復帰、一言で言えばまさに水を得た魚。まさに長年、どこか欠けていたm-floのパズルの残った1ピースがピッタリとはまったかのように、久々のLISAボーカルが全く違和感なく、m-floサウンドにマッチしています。よくよく考えれば、m-floのサウンドが確立していく過程にはLISAのボーカルがあった訳で、m-floのサウンドはLISAのボーカルありきで成り立っていた、ということなのでしょう。18年という長い月日を全く感じさせない、息の合ったコンビネーションを聴かせてくれます。

LISAというm-floにとって最高のボーカリストを確保したことにより、ここ最近のm-floの曲の中では、断トツで自由度が高く、かつ肩の力の抜けた楽曲が本作では楽しめます。m-floではおなじみの矢島正明のナレーションが入った「Enter the Mortal Portal」に、ロッキンなエレクトロサウンドがカッコいい「Sheeza」。不協和音的なメタリックサウンドが耳に残る「STRSTRK」など、インパクトがある魅力的な楽曲が並びます。特にラストを締める「No Question」が実に秀逸。トランシーなサウンドをバックに歌とラップが交錯する、まさにm-floらしい楽曲。かつ、LISAとverbalのピッタリ息のあったやり取りは、まさにこの2人だからこそ実現できたと言えるでしょう。LISA復帰によりm-floの本領が発揮された作品と言えます。

また、☆Taku Takahashiのサウンドも、いい意味でLISAに対して無遠慮。ボーカル関係なく、グイグイと攻めてくるようなサウンドになっており、これもボーカルがLISAだからこそ、のような印象を受けました。もちろんLISAも負けていません。特に「EKTO」では彼女の本領発揮とも言うべき感情たっぷりに聴かせるボーカルを披露し、その魅力をしっかりと聴かせてくれています。いい意味でm-floの3人が無遠慮に、それぞれの個性を最大限発揮しているアルバムになっており、それもこの3人のメンバーだからこそ、といった感じでしょう。

また今回のアルバムで強く感じるのは、自由度が高くなった反面、かつてのm-floらしい、最先端のサウンドを取り入れてポップにまとめあげる、という方向性はちょっと薄くなったかな、という感もあります。今回のアルバムもビートを強調したサウンドは今時といえば今時なのですが、例えば昔の彼らだったら、今、流行しているトラップなんかも取り入れそうですが、今回のアルバムにそんな要素はゼロ。最近のエレクトロジャズも入ってきてもよさそうですが、その要素もゼロ。さすがの彼らも、いつまでも「最新流行を」とはいかなくなったのかな、とちょっと寂しく感じた反面、ただその分、自分たちの得意なフィールドで音作りをしているという感が強まった作品になっており、その点でもm-floの良さがしっかりと出ていた作品になっていたように感じました。

正直ここ最近、m-floのアルバムは残念な内容の作品が続いていただけにLISA復帰により、完全に失速しかけていたm-floが完全によみがえった、そんな印象を強く受ける傑作アルバムに仕上がっていました。今後のm-floの活躍が断然楽しみになるアルバム。これからは、是非この3人で長く活動を続けてほしいなぁ。やはりm-floのボーカルはLISAが一番!そう強く感じたアルバムでした。

評価:★★★★★

m-flo 過去の作品
electriCOLOR -COMPLETE REMIX-
Award SuperNova-Loves Best-
m-flo inside-WORKS BEST III-
MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-
m-flo inside-WORKS BEST IV-
SQUARE ONE
m-flo DJ MIX"BON ENKAI"
NEVEN
FUTURE IS NOW


ほかに聴いたアルバム

バーチャル・ポップスター/Mitchie M feat.初音ミク

2011年に発表した「FREELY TOMORROW」がニコニコ動画のボーカロイド楽曲カテゴリーで再生回数最速記録を達成して一躍、注目のボカロPとなったMitchie M。2013年にリリースしたアルバム「グレイテスト・アイドル」も大ヒットを記録しました。同作はリアルタイムで聴いたのですが、ブラック・ミュージックの影響も受けたスタイリッシュで垢抜けた作風が魅力的で、その時のボカロ系アルバムの中でも特にクオリティーの高い傑作でした。

しかしその後、Mitchie Mの名前はあまり聴かれなくなり、期待していた次のアルバムもリリースされず、年月だけが過ぎて行きました。しかし、前作から6年。待望のニューアルバムがリリースされました。全17曲1時間6分というボリューミーな本作は、エレクトロサウンドを主軸としてポップな作品が並んでおり、「神調教」と言われた前作同様、初音ミクのボーカルの機械的で耳障りな部分がほとんどなく、良質なポップミュージックを楽しむことが出来ました。

前作に比べるとブラック・ミュージックからの影響はかなり薄れ、代わりにミュージカル風な曲、レゲエ風の曲、80年代のディスコチューンなど様々な作風の曲が登場し、リスナーを楽しませてくれます。ただ、全17曲というフルボリュームの中、様々なバリエーションの曲が入っている本作は、正直言うと少々詰め込み過ぎではないか、という印象を受けてしまったのも事実。最後まで聴くとお腹いっぱいで満腹感以上に若干胸やけすらしてきそうなボリューミーな内容になっていました。そういう意味では残念ながら前作で期待していたほどの内容ではなかったかも…。いいアルバムだとは思うのですが、ちょっと残念にも感じた新作でした。

評価:★★★★

Mitchie M feat.初音ミク 過去の作品
グレイテスト・アイドル

MOOD ADJUSTER/マリアンヌ東雲

キノコホテルの「支配人」、マリアンヌ東雲による初のソロアルバム。基本的にはキノコホテルの延長線上にあるようなタイプの楽曲で、彼女の持ち味がしっかりと生かされたようなアルバム。あえて言えば、キノコホテルよりも打ち込みが多かったような印象も。妖艶な雰囲気は相変わらずだったのですが、ガレージバンド色が薄くなっている点はソロアルバムならではといった感じでしょうか。その結果、若干薄味になってしまった感じもします。キノコホテルも相当癖のあるグループだけに、ソロならば、良くも悪くももうちょっとはっちゃけてもよかったのでは?と感じた作品でした。

評価:★★★★

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2020年1月26日 (日)

日本人には懐かしい「ダサジャケ」

Title:Hyperspace
Musician:BECK

約2年ぶりとなるBECKのニューアルバム。なにより目立つのは間違いなくジャケット写真でしょう。ジャケットには大きくカタカナで「ハイパースペース」という文字。さらには懐かしいトヨタ・セリカがバックに写っており、感覚的には完全に80年代な今回の写真。ちなみに時々、国内盤のジャケットだけカタカナを使ってくるミュージシャンもいるのですが、本作については、オリジナルにも「ハイパースペース」という文字が踊っています。日本人にとっては、あえて「古さ」を醸し出した、意図的なダサジャケ、といった感じなのですが、その印象は海外でも同様なのでしょうか?

そんなジャケットから受ける印象同様、今回のBECKのアルバムの最大の特徴は80年代風のエレクトロサウンドを取り入れたポップチューンに仕上がっています。エレクトロサウンドをバックにゆっくりと聴かせる「Uneventful Days」から、伸びやかなエレクトロサウンドのるハイトーンボイスも印象に残る「Die Waiting」。タイトルチューンである「Hyperspace」もスペーシーなサウンドで聴かせるナンバーになっていますし、「Dark Space」もいかにも80年代っぽい、ちょっとチープさを感じるエレクトロサウンドが印象に残ります。

80年代の風味が全編にあふれている今回のアルバムですが、そんなサウンドの軸となっているのが、なんと本作で多くの曲にプロデューサーとして参加し、かつ共作も行っているファレル・ウィリアムズ。かなり意外な組み合わせのような印象もするのですが、80年代風のサウンドの中流れるポップなメロディーラインは、確かにどこかファレルらしさを感じます。ただ、ファレルらしい底抜けの明るさ、というよりはミディアムチューンで聴かせることにより、むしろどこか荘厳さすら感じさせる楽曲になっているのも特徴的です。

もちろん、そんなエレクトロポップチューンも聴かせるのですが、純粋にメロディーの良さを楽しめる曲も。特に「Stratosphere」などはアコースティックギターと星空のように輝くギターのサウンドをバックに、ファルセットボイスで美しく聴かせるメロディーが強く印象に残る楽曲。メロディーメイカーとしてのBECKの本領が発揮されたナンバーになっています。

さらにラストを締めくくる「Everlasting Nothing」は、ハイトーンボイス主体だった本作のBECKのボーカルから一転、渋いボーカルを聴かせるブルージーな雰囲気の楽曲に。最後はロッキンな楽曲で締めくくっている…のですが、この曲もファレルが共作で参加。BECK以上にファレルの幅広い音楽性を感じさせる曲となっています。

ただ今回の80年代風サウンド、若干取って付けた感も否めず、賛否両論といった感じになっているそうです。個人的には、それでも魅力的なポップチューンが並んでおり、BECKの魅力もしっかりと伝わってくる良作だったと思います。素直にポップなナンバーを最初から最後まで楽しめた1枚でした。

評価:★★★★★

BECK 過去の作品
The Information
Mordern Guilt
Morning Phase
COLORS

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2020年1月25日 (土)

初のオールタイムベスト

Title:ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~
Musician:椎名林檎

セルフカバーやコラボベスト、ライブベストなど、いままでいろいろと「企画盤」をリリースしてきたので、逆にちょっと意外な感じもするのですが、これが初となるオールタイムベスト。1曲目にはこのベスト盤のために書き下ろされた宇多田ヒカルというデュオ曲「浪漫と算盤」からスタートし、ほぼリリース順に2枚組のCDに収録されたアルバムとなっています。

で、今回あらためて椎名林檎の楽曲を網羅的に聴き、あらためて彼女の魅力に触れることが出来たのですが、やはり椎名林檎の楽曲の魅力というと、その独特の世界観。なによりも楽曲全体にある種の女性的なエロスを感じさせつつ、それにも関わらず男性への媚びを一切感じさせない、という点にあるのではないでしょうか。思えば彼女の名前を一気に知らしめることになった「歌舞伎町の女王」にしても、風俗街である歌舞伎町を舞台にしつつ、歌詞に男性への媚びを全く感じさせません。女性的な部分を魅力として出しつつ、しかしそれが男性への媚びになっていないという点が椎名林檎の持つ世界観のひとつのすごさのように感じます。

また、今回のベスト盤でのひとつの聴きどころに感じたのが、彼女の曲から曲へのつながり。以前から椎名林檎の曲は、その間をつなげて、曲がつながっているという点が大きな魅力であり、各種インタビューでもそのこだわりが語られることが多いのですが、そのこだわりは今回のベスト盤でも強く感じます。個人的に、名盤「無罪モラトリアム」でもっともゾクゾクとさせられるのが「正しい街」から「歌舞伎町の女王」へのつながりだったりするのですが、今回のアルバムでもそのままその順番で収録。ほかにも「ここでキスして。」から「ギブス」への展開もゾクゾクさせられるものがありますし、今回のベスト盤も基本的にリリース順で収録されているにも関わらず、しっかりとアルバムを通じて、その曲の展開を含めて聴かせるアルバムになっているように感じました。

一方、今回のベスト盤を聴いてちょっと気が付いた点も。ここ最近、彼女の曲はミュージカル風、レビュー風のアレンジの曲が増えてきているのですが、ベスト盤を聴いてあらためて思ったのは、正直彼女はやはりロックな曲の方が合っているような気がする…。初期の作品に関しては、思い出補正的な部分もあるのですが、比較的最近の曲でも「自由への道連れ」「NIPPON」のようにロックの色合いが強い曲の方が耳に残り、逆にミュージカル風のアレンジの曲は若干大味にも感じてしまいます。いや、もちろんそういう曲にも名曲は多いのですが、ちょっと変にスケール感を出そうとしすぎているのではないか?という点が気になってしまいました。

そういう点はちょっと気になりつつも、楽曲の構成のこだわりもありベスト盤と言えどもひとつのアルバムのように最後まで一気に楽しめたアルバム。あらためて椎名林檎の魅力を強く感じることが出来ました。そんな中、なんと1月1日に東京事変としての新曲が発表し、活動を再開。ベスト盤リリースを一つの区切りとして新たな一歩を歩みだした感があります。椎名林檎の活動からはまだまだ目が離せなさそう。これからも彼女の快進撃は続きそうです。

評価:★★★★★

椎名林檎 過去の作品
私と放電
三文ゴシップ
蜜月抄
浮き名

逆輸入~港湾局~
日出処
逆輸入~航空局~
三毒史


ほかに聴いたアルバム

More Wave/田我流&KM

かの田我流がビートメイカーKMと組んでリリースした配信限定の6曲入りミニアルバム。お互いが父親ということで意気投合した「夜のパパ」の歌詞が非常にユニークで耳に残りますし、また父親として人生の終わりを描いた「Long Goodbye」も印象に残ります。また、既存曲のKMによるリミックスも収録されているのですが、微妙にトラップの影響を感じるドリーミーなサウンドが印象的。同じパパとして、相性の良さを強く感じるコラボ作となっていました。

評価:★★★★★

田我流 過去の作品
B級映画のように2
Ride On Time

人と時/熊木杏里

約2年半ぶりとなるシンガーソングライター熊木杏里のニューアルバム。本作ではKiroroの「Best Friend」のカバーや社会派な歌詞が印象に残るカントリー風の「どれくらい?」などの曲もあったものの、アコースティックなサウンドでフォーキーに聴かせるミディアムテンポの楽曲がメインに。これはこれで彼女の暖かい作風を感じられ魅力的ではあるのですが、個人的にはもうちょっとバリエーションが欲しかったような感じがします。もちろん、1曲1曲はいい曲がそろっているとは思うのですが。

評価:★★★★

熊木杏里 過去の作品
ひとヒナタ
はなよりほかに
風と凪
and...life
光の通り道

飾りのない明日
群青の日々
殺風景~15th Anniversary Edition~

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2020年1月24日 (金)

今のHIP HOPシーンをフォロー

今日は最近読んだ音楽関連の本の紹介です。一時期、大きな話題となったHIP HOP入門書の第3弾がリリースされました。

「文科系のためのヒップホップ入門3」。音楽ライターの長谷川町蔵氏と大和田俊之氏の対話形式によりHIP HOPの動向について書かれた本の第3弾。2011年に発刊された第1弾は「ヒップホップは音楽ではない」と言い切り、「ヒップホップは『場』を楽しむものである」という主張を繰り広げ、HIP HOPリスナー以外にとっては斬新さを感じさせる主張である一方、HIP HOPのコアなリスナーにとっては正鵠を得る見方だったようで、大きな話題となりました。

その後、昨年には2012年から2014年のHIP HOPの動向についてアップデートした第2弾を発刊。ただ、その段階で4年も前の話で終わっており、かつ、その当時から大流行していたトラップの「ト」の字も出てこないなど、完全に遅きに失した感は否めず。第3弾の発刊が待ち望まれていましたが、第2弾からわずか1年のインターバルで第3弾のリリースとなりました。今回はしっかり2018年の動向までキャッチアップ。ここ数年、シーンを席巻しているトラップまでしっかりと言及。また中間報告として2019年のシーンにも触れており、10月にリリースされたKanye Westの「Jesus Is King」にまでしっかりフォローしています。

ただ今回の中で一番興味深かったのが第3部「ブラックネスのゆくえ」。「オバマ政権下のアメリカ社会とヒップホップ」の副題で、アフリカ系アメリカ研究を行っている慶應義塾大学准教授の有光道生氏を迎え、ここ数年のアフリカ系アメリカンをめぐる社会動向にHIP HOPをからめて座談会形式で書かれた章。アメリカでいまだに続く黒人差別や、それをめぐるエンタメ界の動向などを描いています。ここらへんの話は、日本でも伝え聞こえてくる話はあるものの、なかなか大きなニュースとしては取り上げられない話が多く、また、単純に「黒人 vs 白人」みたいに二分化できるような動向でもない複雑な構図もあるため、非常に興味深く読みことが出来ました。ただ、もっとも全体的には「今のアメリカで起こっている事例の紹介」といった感じで、その結果の深い分析があるわけではなく、そういう意味で読み終わった後に「で?」みたいな感じもなきにしもあらずなのですが、それでもアメリカ社会の現状を垣間見れる、非常に興味深い章になっていました。

一方、2015年から2018年までのHIP HOPシーンについては、1年につき1章という章立てで、その1年のシーンを振り返っており、最後にはその年を代表するアルバムの紹介もついています。ただ、このHIP HOPシーンの紹介は、昔のようにHIP HOPを内輪的なゲームを行う「場」として紹介するよりも、純粋な音楽シーンとしての紹介が目立ってきているように感じました。それはシーンを1年毎に区切ってザっと紹介するというこの本のスタイルも影響しているのかもしれませんが、それ以上に、HIP HOP産業が大きくなり、ついにはアメリカの音楽業界の中でロックを抜いてもっとも売れるジャンルになってしまった今、第1弾で触れたような「ヒップホップは『場』を楽しむものである」という、かつての業界の前提が成立しえなくなってきているように感じました。

実際、本書でもDrakeに関するDisを巡って、「ヒップホップ的なバトルの構造を理解していないファンが彼(=Drake)にはいっぱいいる」(p223)と言及されています。おそらく、そういう現象は今後、Drakeに留まらないでしょうし、また、良くも悪くも内輪的な盛り上がりが一種の魅力だったHIP HOPというジャンルが、巨大産業になったことによって、ようやく広いリスナー層にアピールしていかなくてはいけないポピュラーミュージックの一ジャンルとして独り立ちした、ということなのかもしれません。それが長い目でみてHIP HOPにとってプラスになるのかマイナスになるのか、今の時点ではよくわからないのですが・・・。

その反面、HIP HOPシーンでユニークに感じたのは、2018年のシーンの紹介の中で「何かが試されている」(p225)というラッパーが出てきているという言及。要するに上の世代のリスナーにとっては、いまひとつ受け入れがたいような新しいミュージシャンが登場してきているという話なのですが、ただ、それだけ新陳代謝が進んでおり、どんどん新しいタイプのミュージシャンが出てきているということであり、シーンとしてはむしろかなり健全という話なのではないでしょうか。振り返って昨年、ロックシーンではビリー・アイリッシュという18歳のシンガーソングライターがかなり評判になりました。今時の若者の本音を体現化している、ということで絶大な支持を得たのですが、なぜか上の世代にも妙に評判がよく・・・それって、大人にとっても彼女の主張は「非常にわかりやすい」ということを意味する訳で、それって今時の若者の叫びとして正直、どうなの?と感じてしまいました。それよりもやはり上の世代が眉をしかめるようなミュージシャンが登場したということは、それだけ前の世代には登場しなかった新しいタイプのミュージシャンが登場してきた、と同義であり、それだけシーンが活性的ということを意味しているように感じます。そういう意味でもHIP HOPはシーンとしてまだまだ健全なんだな、ということを強く感じました。

正直、長くロックなどと比べて虐げられてきたHIP HOPを強く推したいがために、長谷川町蔵氏、大和田俊之氏両氏の主張は、「とりあえずHIP HOPならばなんでもOK」的な感じもあって、それはそれで批評としてどうなの?という部分もなきにしもあらずなのですが、そこらへんを差し引いても非常に興味深く楽しむことが出来た1冊でした。ただ、これでとりあえず2019年までカバーできたわけで、第4弾はまた4年後くらいになるのでしょうか?そうすると、あまりにも間が空きすぎてしまう感も・・・。一冊の「本」としては難しいかもしれませんが、電子書籍の形で、この本で言えば1章分のみ、毎年、アップデートする形でリリースしてくれないかなぁ。HIP HOPみたいな目まぐるしく状況が変わるシーンの中で旧来型の「書籍」みたいな形は合っていないのかもしれませんね。2020年以降の話はどういう形で発刊されるのかなぁ。

第1弾の感想はこちら

第2弾の感想はこちら

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2020年1月23日 (木)

Hot100を席巻中のミュージシャンの新譜が…

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週は、今、Hot100を席巻しているあのミュージシャンの待望の新譜が1位獲得です。

今週1位を獲得したのはKing Gnu「CEREMONY」。現在、「白日」がHot100でロングヒットを続けていますが、そんな彼らの待望のニューアルバムが見事1位獲得。CD販売数、ダウンロード数、PCによるCD読取数いずれも1位という、他を圧倒する結果となりました。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上23万8千枚で1位獲得。前作「Sympa」の1万7千枚(4位)から驚異的な大幅増という結果となっています。

2位初登場は動画配信などで人気を獲得した男性6人組ユニット、すとぷり「すとろべりーねくすとっ!」がランクイン。CD販売数2位、ダウンロード数9位、PCによるCD読取数3位。オリコンでは初動売上16万8千枚で2位初登場。前作「すとろべりーらぶっ!」の10万7千枚(2位)より大幅アップ。1位も狙える売上枚数ながらも、King Gnuの勢いには負け、結果として大差をつけられての2位となりました。

3位にはSuperfly「0」が初登場でランクイン。途中、ベスト盤のリリースもあり、オリジナルとしては約4年8か月ぶりとちょっと久々のオリジナルアルバムとなっています。CD販売数3位、ダウンロード数2位、PCによるCD読取数7位。オリコンでは初動売上4万1千枚で3位初登場。直近のベスト盤「LOVE,PEACE&FIRE」の4万6千枚(1位)よりダウン。オリジナルアルバムとして前作の「WHITE」の7万8千枚(2位)からも大きくダウンする結果となりました。

続いて4位以下の初登場盤です。4位にはRYUJI IMAICHI「ZONE OF GOLD」がランクイン。三代目J Soul Brothersの今市隆二のソロ作で、7曲入りのミニアルバムとなります。CD販売数4位、ダウンロード数5位、PCによるCD読取数26位。オリコンでは初動売上3万枚で4位初登場。前作「LIGHT&DARKNESS」の1万3千枚(2位)からアップしています。

5位には動画サイトなどへの投稿で注目を集めたクリエイターユニット、HoneyWorks「好きすぎてやばい。〜告白実行委員会キャラクターソング集〜」がランクイン。CD販売数5位、ダウンロード数10位、PCによるCD読取数13位。オリコンでは初動売上2万7千枚で5位初登場。前作「何度だって、好き。~告白実行委員会~」の3万3千枚(4位)からダウン。

7位初登場はQUEEN「GREATEST HITS IN JAPAN」。昨年、映画「ボヘミアン・ラプソディー」が大ヒットを記録し、一躍脚光を浴びたイギリスのロックバンドQUEEN。現在、来日中で、今週末から日本でのライブツアーも予定されている彼らですが、本作は特に日本で人気の高い楽曲を集めた来日企画盤。CD販売数7位、ダウンロード数99位、PCによるCD読取数80位で見事ベスト10入りです。CD販売数の順位がダウンロード数より極端に高いあたり、ネットよりフィジカルで、というQUEENの年齢層の高さが読み取れます。オリコンでは初動売上1万枚で7位初登場。前作は「ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)」となりますが、同作は初動3千枚(24位)でしたので、その注目の高さがわかります。

9位には元東方神起のメンバーで、JYJでも活躍している韓国の男性アイドル、ジェジュン「愛謡」がランクイン。韓国でリリースされたミニアルバムですが、Hot Albumsではダウンロード数のみ反映。同チャートで4位初登場となり、総合順位でもベスト10入りしてきました。

最後10位にはロックバンドSurvive Said The Prophet「Inside Your Head」が初登場。CD販売数9位、ダウンロード数16位、PCによるCD読取数64位。オリコンでは初動売上6千枚(11位)で惜しくもベスト10に届かず。前作「space[s]」の2千枚(26位)からアップしています。

今週の初登場組は以上。一方ロングヒット組ですが、先週までベスト3をキープしていたOfficial髭男dism「Traveler」は今週、残念ながら6位までダウン。ただ、CD販売数は8位ながら、ダウンロード数3位、PCによるCD読取数は2位につけており、今後の盛り返しも期待できそう。一方、先週までロングヒットを続けていた椎名林檎のベストアルバム「ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~」は残念ながら12位にダウン。連続ベスト10ヒットは9週でとりあえずは幕を下ろしました。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年1月22日 (水)

アイドル系の新譜が多め

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週のHot100は、新曲が4曲ランクイン。うち3曲がアイドル系という結果になっています。

そんな中で1位を獲得したのがSKE48「ソーユートコあるよね?」がランクイン。CD販売数1位、ラジオオンエア数19位、PCによるCD読取数10位、Twitterつぶやき数11位で総合順位は1位獲得。タイトルの軽さがいかにも秋元康らしい感じです・・・。オリコン週間シングルランキングでは初動売上28万9千枚で1位初登場。前作「FRUSTRATION」の32万枚(1位)からダウンしています。

2位はKing Gnu「白日」が先週から変わらず2位をキープ。You Tube再生回数2位、ダウンロード数3位は先週から変わらないのですが、ストリーミング数は、なんとヒゲダンをおさえてついに1位を獲得。「Pretender」は昨年6月3日付チャート以来、34週にわたりストリーミング数1位をキープしてきましたが、今週、ついにKing Gnuに1位を明け渡す結果となりました。

ちなみにKing Gnuは「Teenage Forever」が先週から変わらず5位をキープ。こちらもラジオオンエア数が8位から2位に、ストリーミング数も7位から3位にアップしています。昨年はヒゲダンの活躍が目立った1年となったのですが、今年はKing Gnuの1年となるか?

とはいえヒゲダンもまだまだがんばっています。Official髭男dism「Pretender」は1位からランクダウンしたものの3位とベスト3をキープ。前述の通り、ついにストリーミング数が2位となってしまったのですが、You Tube再生回数及びカラオケ歌唱回数は1位をキープ。まだまだ強さを感じさせる結果となりました。

一方、今週「イエスタデイ」が12位にランクダウン。昨年9月30日から続いた連続ベスト10記録は18週で幕を下ろしました。「宿命」は先週の6位から10位にダウン。なんとかベスト10はキープしましたが、こちらも来週は厳しいか?

しかし、今週はなんとOfficial髭男dismの新曲「I LOVE...」が6位にランクイン。2月12日発売予定のシングルからの先行配信。TBS系ドラマ「恋はつづくよどこまでも」主題歌。彼ららしい伸びやかで、ちょっと切ないメロが印象に残るナンバー。ダウンロード数で見事1位を獲得。ラジオオンエア数4位、You Tube再生回数でも5位にランクインし、総合順位でもベスト10入りに。「イエスタデイ」はベスト10落ちしてしまいましたが、今週もヒゲダンの曲が3曲同時ランクインとなりました。

続いて4位以下の初登場曲ですが、ヒゲダン以外の残り2曲はいずれもアイドル系。まず4位に韓国の男性アイドルグループTOMORROW X TOGETHERのデビューシングル「9と4分の3番線で君を待つ(Run Away)」がランクイン。CD販売数は2位だったのですが、ストリーミング数21位、Twitterつぶやき数17位、You Tube再生回数45位、その他はランク圏外という結果で、総合順位は4位に留まりました。オリコンでは同曲が収録されている「MAGIC HOUR」が初動売上8万4千枚で2位初登場。

もう1曲は7位にハロプロ系女性アイドルグループ、つばきファクトリー「意識高い乙女のジレンマ」がランクイン。こちらもCD販売数は3位でしたが、ラジオオンエア数80位、PCによるCD読取数91位、Twitterつぶやき数63位、その他は圏外という結果となり、総合順位は7位となりました。オリコンでは初動売上7万4千枚で3位初登場。前作「三回目のデート神話」の6万2千枚(2位)よりアップ。

さて、ロングヒット曲の方ですが、今週は新曲がランクインした影響で、ランクダウンした曲が目立ちます。まずLiSA「紅蓮華」は4位から8位にダウン。ダウンロード数及びストリーミング数4位、PCによるCD読取数3位、カラオケ歌唱回数5位とまだまだ上位につけているものの、大きく順位を落とす結果になっています。また、菅田将暉「まちがいさがし」も3位から9位に大幅にダウン。特にストリーミング数が3位から6位にダウンしており、ランクダウンの要因となっています。

そしてそして、今週、ついにあいみょん「マリーゴールド」が14位にランクダウン。昨年8月5日付ランキングで11位と、一度ベスト10落ちを経験し、その後、22週連続のベスト10入りを続けていましたが、ついに今週、ベスト10から陥落。ベスト10入りは先週で通算56週目となっていましたが、この記録はこれで終わるのでしょうか。それとも再び返り咲きも?

さらに米津玄師「馬と鹿」も今週19位にランクダウン。ベスト10入りは、通算19週で一旦区切りとなりました。こちらも今後の返り咲きもあるのでしょうか。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2020年1月21日 (火)

テーマ性を持った新作

Title:Everyday Life
Musician:Coldplay

前作「A Head Full of Dreams」から約4年。待望のColdplayの新作は、いままでの彼らの作品とは大きく異なる、非常にコンセプシャルな内容おアルバムとなっていました。そもそもアルバムのタイトル「Everyday Life」の由来からして「国や言語、文化、宗教に違いはあれど、世界のどこにいても誰にでも『普通に1日』は訪れる。」というテーマから取られたとか。前半8曲は「sunrise(日の出)」、後半8曲を「sunset(日の入り)」というテーマ性を持たせており、アルバム全体で1日24時間を表現する構成となっているそうです。

楽曲自体にも多彩な文化を取り入れている点が特徴的で、例えば「Arabesque」ではアフロビートの始祖であるアフリカのミュージシャン、フェラ・クティの言葉を引用していたり、「Church」ではパキスタンの音楽家、アムジャド・サブリの音を引用。さらには曲名自体がアラビア文字の曲まで登場(「バニ・アダム」と読むようです)。こちらは中世イランの代表的な詩人、サアディーの「人類の一体性」を訴えた歌詞をテーマにしているそうで、メッセージ性の強いアルバムになっています。

最近の彼らは、環境問題からワールド・ツアーを封印する旨の声明を発表したりして、このアルバムにしてもそうですが、こういういい方はちょっと嫌らしいかもしれませんが、「意識高い系」なんて揶揄するような見方が出来てしまうような、そんな作風にも感じてしまいます。実際、今回のアルバムでも、冒頭を飾る「Sunrise」は、いきなりオーケストラのサウンドを取り入れた管弦楽のような楽曲からスタートしていますし、「BrokEn」「When I Need A Friend」などゴスペルを取り入れたような曲が登場したり、特に前半の「sunrise」の8曲についてはバリエーションはあるのですが、様々なジャンルを取り入れようという高い意識ばかりが先行してしまっていまった結果、彼らの持ち味である美しいポップなメロディーラインという魅力が後ろに下がってしまったような、そんな印象を受けてしまいました。

そんなこともあり、前半に関してはかなり懐疑的にアルバムを聴きすすめていたのですが、その印象が良い意味で覆って来たのが後半の「sunset」のパート。祝祭色があり、かつ彼ららしいスケール感をおぼえる「Orphans」に、アコギとピアノで美メロとも言える美しい歌を聴かせる「Eko」。ナイジェリアの女性シンガー、Tiwa Savageをフューチャーしたソウル風の「CryCryCry」もメロウで美しいメロディーラインを聴かせてくれています。

「Champion Of The World」なども彼ららしいスケール感あるサウンドでメロディアスな歌を聴かせる楽曲に仕上げられていますし、タイトルチューンの「Everyday Life」もピアノとストリングスをバックに美しいメロディーラインを聴かせる楽曲になっています。「sunset」については、彼ららしい比較的シンプルに歌とメロディーを聴かせるようなタイプの曲が多く、Coldplayの魅力をしっかりと発揮したような楽曲が並んでいました。

若干、テーマ性の部分が前に押し出され過ぎて、悪い意味で押し付けがましい、Coldplayの本来の魅力であるメロディーや歌が後ろに下がってしまっている部分もありましたが、ただアルバムトータルで見ると、しっかりと彼らの魅力は感じることの出来る良作に仕上がっていたと思います。とはいっても、次はもうちょっとシンプルなアルバムを作ってほしいかな、と思わなくはないのですが…。

評価:★★★★★

COLDPLAY過去の作品
Viva La Vida or Death And All His Friends(美しき生命)
Prospekt's March
LeftRightLeftRightLeft
MYLO XYLOTO
Ghost Stories
A HEAD FULL OF DREAMS
Kaleidoscope EP
Live In Buenos Aires
Love In Tokyo

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2020年1月20日 (月)

若き日の"King"の写真が…

Title:2020-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar

Bluescalendar2020

今年も無事、購入しました。これがないと年が明けません!毎年恒例のブルースカレンダー。といっても購入したのは、昨年の11月頃だったのですが…。アメリカのブルース・イメージズ社が毎年リリースしているブルースカレンダー。1920年代のブルースの広告アートワークが使われたカレンダーで、ブルース好きではなくてもなかなか洒落たアートワークになっているカレンダーです。そしてなんといってもカレンダー以上にお目当てなのは毎年ついてくる付属のCD。戦前ブルースの貴重な音源が収録された内容になっており、ブルース好きにはたまらない内容となっています。

そして今年なんといっても目立つのがトップをかざる写真。こちらは2015年に亡くなった(…もう5年もたつんですね…)B.B.Kingの若き日の写真。1949年頃に撮影された写真だそうで、自らがDJを務めたラジオ局WDIAのマイクの前でポーズをきめる写真だそうです。この写真は1月のカレンダーも飾っているほか、付属CDの1曲目は彼の最初期の録音「Got The Blues」からスタート。写真のキングも若さ、というよりも初々しさすら感じるのですが(1949年だとしたら24歳の時の写真(!))、楽曲の方も軽快なピアノとホーンセッションをバックに初々しい歌声を聴かせてくれる楽曲にを楽しむことが出来ます。

さらに毎年のように発掘音源を収録している本作ですが、今回はJuke Boy Barnerの「Life Is A Cheater」「I Got Hip To It」が初CD化の発掘音源だそうです。いずれも1950年の作品。陽気な雰囲気の歌声が楽しいナンバー。ただ今回、前述のB.B.Kingの曲もそうなのですが、いままでこだわっていた「戦前モノ」に限らず、戦後の音源を発掘音源として取り上げています。まあ、優れたブルースなら戦前も戦後も関係ないですからね~。

ただ今回のアルバム、一番印象に残ったのは女性シンガーの楽曲でした。特に素晴らしかったのはVictoria Spiveyの「Blood Thirsty Blues」。緩急のつけた感情こもったボーカルが胸をうつナンバー。彼女は1930年には映画「ハレルヤ」に出演したり、さらに戦後も長く活動を続け、ボブ・ディランのアルバムにも参加したりしたそうですが、そんな彼女の魅力的なボーカルが楽しめる楽曲になっています。

さらにかのBlind Blakeがギターで参加しているLeola B.Wilson with Blind Blake名義の「Ashley St.Blues」「Dying Blues」の2曲も素晴らしい内容でした。彼女の、ちょっとか細くも、実は力強いボーカルより繰り出される哀愁感たっぷりの歌声にBlind Blakeのメロディアスさを感じるギターの音色も大きなインパクトに。2曲とも、強く印象に残る作品になっています。

基本的に戦前ブルースがメインだけに音が悪く…と言いたいところなのですが、技術の進歩か、また戦後のブルースも収録されていた影響か、いままでのブルースカレンダーの付属CDに比べると、グッと音質がよくなったようにも感じます。そういう意味でいままで比較的「マニア向け」といった印象もあった本作ですが、比較的広い層が違和感なく楽しめる内容になっていたようにも感じる。ブルースを聴き始める最初の1枚…はさすがに厳しいかもしれませんが、ブルースに興味があればぜひともチェックしてほしい、素晴らしい作品集でした。

評価:★★★★★

2013-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2014-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2015-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2016-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2017-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2018-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar
2019-Classic Blues Artwork from the 1920s Calendar


ほかに聴いたアルバム

Apollo XXI/Steve Lacy

R&BバンドThe InternetのメンバーでもあるSteve Lacyの初のソロアルバム。The Internetもちょっと懐かしさを感じるメロディアスなR&Bが特徴的でしたが、本作も、ちょっと懐かしさを感じるメロウなR&Bが主軸に。ただそんな中でAORやHIP HOP、果てにはギターロックまで飛び出す自由度の高く、そしてバリエーションの多い音楽性が強い魅力に。全体的にはポップにまとまっておりバリエーションあるサウンドにも統一感を覚えつつ、ハイトーンボイスで爽快さも感じる歌声も魅力的。The Internetとしての活躍以上に、ソロでの活躍が楽しみになってくるような傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Colorado/Neil Young&Crazy Horse

Crazy Horseとの名義となるNeil Youngのニューアルバム。70歳を過ぎても精力的な活動が続く御大ですが、本作は渋みの増したボーカルにブルージーなギターロックという、昔ながらのスタイルといった印象。Neil Young+Promise Of The Realの「The Visitor」はバリエーションに富んだ作風の意欲作でしたが、今回のアルバムは良くも悪くもオールドファン向けといった感じでしょうか。もちろん、いまなお現役感あふれるアグレッシブなギターサウンドは非常に魅力的ではありましたが。

評価:★★★★

Niel Young 過去の作品
Fork In The Road
Psychedelic Pill(Neil Young&Crazy Horse)
Storytone
The Monsanto Years(Neil Young+Promise Of The Real)
Peace Trail
The Visitor(Neil Young+Promise Of The Real)

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2020年1月19日 (日)

世界が注目するシンガーソングライター

Title:Pony
Musician:Rex Orange County

先日、日本で最も注目されているシンガーソングライターの一人として長谷川白紙をあげました。そして今回紹介するのは、おそらく、世界で今、最も注目されている新進気鋭の男性シンガーソングライターの一人と言えるでしょう。イギリスはハンプシャー出身の男性シンガーソングライター、Rex Orange County。イギリスの新人ミュージシャンの登竜門といえる「BBC Sound of 2018」で見事2位を獲得。本作ではイギリスのナショナルチャートで5位を獲得したほか、アメリカのビルボードチャートでも3位にランクイン。ほか、世界各国のチャートでも上位にランクインしており、日本でも2018年にサマソニに来日し、大きな話題となりました。

そんな注目のシンガーソングライターの彼の一番の魅力は、まず1にも2にもメロディーラインの良さ、これに尽きるでしょう。彼の書くメロディーラインは非常にシンプルなポップチューンながらも、切なさと暖かさ、そしてどこか懐かしさが同居するような、まさに「美メロ」という名称がふさわしい、素晴らしいポップチューンが並びます。

今回のアルバムでも冒頭を飾る「10/10」は軽快なポップチューンながらも、明るさの中にどこか切なさを感じさせるメロが耳を惹きますし、続く「Always」は、まさに胸をかきむしるような切なさがさく裂したポップチューン。後半に聴かせるピアノバラードの「Every Way」も切ないメロディーラインがたまらない名曲になっています。「Never Had The Balls」「It Gets Better」のような軽快なポップチューンも聴かせつつも、全体的には日本人にとっても琴線に触れそうな、暖かく懐かしさを感じるメロディーラインを聴かせる楽曲が並んでいます。

そんな美しいメロディーラインを彩るのは、ピアノやアコースティックギターのようなぬくもりのある楽器の数々…なのですが、一方ではリズムはリズムマシーンの音を用いていたりして、単純にアコースティックなサウンドとは異なり、どこか今時の印象すらサウンドからは感じます。また「Laser Ligths」ではラップを取り入れたりもしており、そういう点でも、単純に美しい歌を聴かせるシンガーソングライター…とはいかない音楽的なベクトルも垣間見れます。

実際、かのTyler,the Creatorの楽曲に参加したり、Frank Oceanのライブバンドのメンバーに抜擢されたりと、HIP HOP/R&B系のミュージシャンとの交流も盛んなあたり、「ポップな歌モノ」という枠組みにおさまらない彼の音楽的な方向性をその作品から感じることが出来るでしょう。また、どこか哀愁感あるメロディーラインはいかにもイギリス的であるにも関わらず、アメリカをはじめ世界的なヒットを獲得している点も、もちろんメロディーラインの良さが第一だとは思うのですが、それに留まらない音楽的な可能性を感じることが出来るからではないでしょうか。

なんかここ最近、2020年に入ってから、2019年のベスト盤候補になりそうな名盤が続いていますが、本作も間違いなくそんな傑作アルバムの1枚だと思います。このメロディーの良さから、日本でももっともっと注目が集まりそうな予感も…。間違いなく今後に要注目のシンガーソングライターです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Searching The Continuum/Kurt Rosenwinkel Bandit65

現代ジャズのシーンで大きな注目を集めているアメリカのジャズギタリスト、カート・ローゼンウインケルによる新プロジェクトのニューアルバム。ギターサウンド的にはロック寄りな部分も感じられるため、比較的聴きやすい感も。またフュージョンの色合いも強いサウンドという印象を受けました。哀愁感漂うメロディーラインが耳に残る楽曲が多く、ロックリスナー層も含めて比較的聴きやすさを感じさせるアルバムに。

評価:★★★★

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2020年1月18日 (土)

攻めの姿勢を感じる傑作

Title:cherish
Musician:KIRINJI

キリンジが新生KIRINJIとなって、今年で早くも7年目。もともとメンバーはそれぞれ、個々で活躍していたミュージシャンたちが集まった、いわゆるスーパーグループ的なバンドだっただけに、正直なところ、どれだけ続くんだろう、と危惧していた部分はあったのですが、2017年にコトリンゴの脱退はあったものの、バンドとしてコンスタントな活動を続けています。

そんな中でリリースされた前々作「ネオ」と前作「愛をあるだけ、すべて」はメインのライターである堀込高樹だけではなくメンバーそれぞれがアルバムに積極的に参加。KIRINJIのバンドとしての側面を強調するかのようなアルバムに仕上がっていました。この2枚のアルバムでバンドとしてのKIRINJIの結束を確認できたからでしょうか、今回のニューアルバムはKIRINJIとしての攻めの姿勢を強く感じさせるアルバムになっていました。

まず今回のアルバムは全体的にダンサナブルなナンバーが目立ちます。冒頭を飾る「『あの娘は誰?』とか言わせたい」も、まずはダンサナブルなビートが特徴なスタイリッシュなナンバー。オートチューンを使ったかのような、機械的にすら感じる堀込高樹の無機質なボーカルが楽曲にマッチし、いつものKIRINJIとはちょっと異なる質感の楽曲となっています。

続く「killer tune kills me」も注目のシンガーYonYonがボーカルに参加し、そのメロウな歌声を聴かせてくれています。こちらもテンポよいリズムが特徴的。彼女はソウル生まれ東京育ちのシンガーらしく、途中、唐突に登場する韓国語と、微妙に歌謡曲テイストを感じさせる哀愁感のある日本的にすら感じるメロディーラインに不思議なバランスを感じさせます。

鎮座DOPENESSが参加した「Aimond Eyes」もちょっとトライバル的な要素を感じさせるリズムとラップを加えて、KIRINJIらしいシティポップにHIP HOP的な要素も重ねたユニークなナンバー。楽曲にラップを取り入れるのは今回のアルバムにはじまった話ではないのですが、今回のアルバムの中では一種、攻めの姿勢を感じる楽曲となっています。

中盤以降もリズミカルなトラックにハイトーンボイスで、ちょっと懐かしい雰囲気すら感じさせるファンキーなディスコ風チューン「shed blood!」のような、新たな方向性を感じさせる曲があるかと思えば、逆に「善人の反省」のような、堀込高樹らしい言葉遣いがユニークな、昔ながらのキリンジの世界観を彷彿とさせる曲もあったりします。ただ、この「善人の反省」もサウンドは今風なジャズ路線となっており、こちらも新たなKIRINJIを感じさせるサウンドとなっているのがユニークだったりします。

さらにファンキーでエレクトロなトラックとユーモラスな歌詞が印象的な「Pizza VS Hamburgar」みたいな曲があったり、かと思えば、歌謡曲風の哀愁感あるメロディーが印象に残る「休日の過ごし方」のような曲があったりと、最後まで耳を離せません。そして最後を締めくくるのは、どこか切なく、かつ暖かい雰囲気となるラブソング「隣で寝てる人」で締めくくり。とても心地よい気持ちになりつつアルバムは幕を下ろします。

全体的には生音とエレクトロサウンドをほどよくバランスさせたスタイリッシュな作風が目立つ今回のアルバム。彼ららしいシティポップのサウンドの中にほどよく今どきのジャズの要素やHIP HOP、さらにはエレクトロの要素を織り込んだ攻めの姿勢を強く感じるアルバムになっていました。前作まででバンドとしてのKIRINJIの結束に大きな自信を得たからこそ、これだけ攻めるアルバムをリリースできたのではないでしょうか。2019年を代表する1枚ともいえる傑作アルバム。間違いなくKIRINJIとしての新たな一歩を感じさせる作品でした。

評価:★★★★★

キリンジ(KIRINJI) 過去の作品
KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration
7-seven-
BUOYANCY
SONGBOOK
SUPERVIEW
Ten
フリーソウル・キリンジ
11
EXTRA11
ネオ
愛をあるだけ、すべて
Melancholy Mellow-甘い憂鬱-19982002
Melancholy Mellow II -甘い憂鬱- 20032013


ほかに聴いたアルバム

ハイパークラクション/ポルカドットスティングレイ

全7曲入り、自身3枚目となるミニアルバム。ファンキーなリズムを聴かせるナンバーやブルージーなギターを聴かせるナンバーなど、前作「有頂天」から引き続き、楽曲のバリエーションが増え、グッとおもしろさも増した感のあるアルバム。それだけに「有頂天」と同様、メロディーラインのインパクトが弱いのが気に係ります。もうちょっと、一度聴いただけで忘れられないようなワンフレーズが欲しいところなのですが。

評価:★★★★

ポルカドットスティングレイ 過去の作品
大正義
全知全能
一大事
有頂天

Quarter Note/山崎まさよし

オリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなる山崎まさよしの新作。山崎まさよしらしさはきちんと出ており、決して悪いアルバムではないとは思うのですが、全体的にはどうも良くも悪くもマンネリ気味に感じてしまい、いまひとつピンと来るものがありませんでした。ちょっと内向きというか、おとなしくまとまりすぎているというか…どうにも印象が薄く感じてしまう作品になってしまっていました。

評価:★★★

山崎まさよし 過去の作品
COVER ALL-YO!
COVER ALL-HO!

IN MY HOUSE
HOBO'S MUSIC
Concert at SUNTORY HALL
The Road to YAMAZAKI~the BEST for beginners~[STANDARDS]
The Road to YAMAZAKI~the BEST for beginners~[SOLO ACOUSTICS]

FLOWERS
HARVEST ~LIVE SEED FOLKS Special in 葛飾 2014~
ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~
UNDER THE ROSE ~B-sides & Rarities 2005-2015~
FM802 LIVE CLASSICS

LIFE
山崎×映画

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2020年1月17日 (金)

J-POPサウンドを作った偉大なるミュージシャン

Title:作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999

80年代から90年代にかけて活躍。主にアレンジャーとして数多くのヒット曲を手掛けてきた音楽家、大村雅朗。1978年にリリースされた八神純子の「みずいろの雨」の編曲で注目を集めたのをきっかけとして、その後も松田聖子「SWEET MEMORIES」、吉川晃司「モニカ」、渡辺美里「My Revolution」など数多くのヒット曲の編曲を手掛けてきましたが、1997年にわずか46歳の若さで急逝。多くのミュージシャンや音楽ファンがあまりにも早いその死を惜しみました。本作はそんな彼の軌跡を追った4枚組のCD-BOX。彼が作曲・編曲を手掛けた代表的な70曲が4枚組のCDに収録されています。

ただおそらく残念ながら、編曲家という性質上、大村雅朗の知名度はその業績の高さほどには高くはないかもしれません。私自身は彼が多くの曲の編曲を手掛けていた渡辺美里のファンということもあり、その名前は以前から知っていましたが、今回のボックスセットで彼の仕事を網羅的に知り、80年代や90年代を代表するヒット曲の多さに、あらためて彼の業績の偉大さを感じました。

特にこの作品集を聴くと、中高生のあたりに良く聴いていた楽曲を思い出してとても懐かしさを感じます。特にDisc3以降あたりの曲に関しては、まさに80年代後半から90年代前半の、ちょうどJ-POPという言葉が出るか出ないかという時期のポップスのまさに王道を行くようなアレンジで…というよりも、大村雅朗の作りだした音こそが、私たちが90年代初頭の黎明期のJ-POPと言われてイメージする音そのものとなったのではないでしょうか。まさに彼がJ-POPのサウンドを作り出した、と言っても過言ではないと思います。

実際、彼のアレンジした楽曲を聴くと、その後のJ-POPのサウンドの方向性を感じさせる部分を多々見つけることが出来ます。特にシンセやピアノ、ストリングスなどを多用して、比較的、様々な音を取り入れて楽曲をきらびやかにする方向性は、その後のJ-POPのイメージに共通する部分が大きいのではないでしょうか。

ただこの「音数が多い」という部分に関しては、残念ながらその後のポップスシーンにおいては、ただ単に盛り上げるだけに無意味にストリングスを多用したり、ただ音数が多ければ凝ったサウンドなんだ、という誤った言説すら生まれてきたり、少なくとも、ただただ音数を増しただけのつまらないアレンジの曲が今のポップスシーンでは多く見受けられます。無駄に音を積み重ねられたアレンジにうんざりすることも少なくありません。

しかし今回、大村雅朗のアレンジの曲を聴くと、そういう印象を受けた曲は全くありませんでした。確かに彼のアレンジにも様々な音が疲れています。にも関わらず、全くその音にトゥーマッチという印象を受けません。おそらくすべての音がそこで鳴っていることに意味があり、それぞれの音がパズルのパーツにように、ひとつひとつあるべき場所にピッタリはまり込んでいるからこそ、音数が多くても全く違和感なく、自然に楽しむことが出来る、そんなアレンジとなっていました。

作編曲家として様々なミュージシャンの支持を受け、数多くの名曲のアレンジを手掛けてきた彼ですが、この作品集でその仕事ぶりを聴くと、その理由が十分すぎるほど納得できます。まさにムダのないアレンジ、楽曲の魅力を最大限に引き出すサウンド…彼の才能を存分に感じることが出来る作品集でした。あらためて、46歳というあまりにも早い死が惜しまれます。もし、今でも存命だったら、J-POPシーンはもっとおもしろくなったのでは?そう強く感じてしまった作品集でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

PLANET/佐藤千亜妃

現在、活動休止中のバンド、きのこ帝国のボーカリストによる2枚目のソロアルバム。前作「SickSickSickSick」はかなりポップ寄りの作品に仕上がっていたのですが、本作はさらにポップにシフトした作品に。さらに今回のアルバムは全体的に曲に統一感がなく、バラバラといった印象を強く受ける作品に。正直言うと、ソロ活動によりその方向性を模索した結果、迷走している感も否めないようなアルバムに。きのこ帝国も活動休止前は迷走していた感もあったので、いまだにミュージシャンとしての方向性を定めきれないといった感じなのでしょうか。ポップなメロは悪くはないのですが、残念に感じるアルバムでした。

評価:★★★

佐藤千亜妃 過去の作品
SickSickSickSick

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2020年1月16日 (木)

初のソロアルバムが1位獲得

今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

Hot100と異なり、Hot Albumsは正月休み明けの新譜ラッシュが反映された、比較的初登場の多いチャートとなりました。

そんな中、1位を獲得したのは元SMAP木村拓哉の初のソロアルバム「Go with the Flow」でした。CD販売数1位、PCによるCD読取数で2位を獲得。小山田圭吾、槇原敬之、稲葉浩志など豪華なメンバーが多数参加したアルバムで、木村拓哉の、というよりジャニーズの力を感じさせる人選となっています。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上12万6千枚で1位を獲得しています。

ちなみに先週は同じ元SMAPの香取慎吾のアルバム「20200101」が1位を獲得。今週も8位にランクインしていますが、奇しくも2週連続で元SMAPのソロアルバムが1位を獲得するという結果となっています。木村拓哉のソロアルバムがリリースを1週ずらせば香取慎吾の1位阻止が出来たところを1週ずらしてくるあたりは、やはり露骨な対立は避けた結果といった感じなのでしょうか。ちなみに香取慎吾のアルバムも豪なミュージシャンの参加が話題となりましたが、木村拓哉のアルバムはどちらかというと既に人気を確立したような「大物」の参加が目立つのに対して、香取慎吾のアルバムはWONKや須田景凪、yahyelといった新進気鋭のミュージシャンたちの参加が目立ちます。以前、SMAPの楽曲は、「こんな人が提供するんだ」と驚くような新進気鋭のミュージシャンが作家陣として参加していたのですが、あの人選は今も香取、草なぎ、稲垣の元SMAP3人の所属する事務所の代表取締役であり元SMAPのマネジャーである飯島三智の人選によるところが大きかったんだな、と感じます

2位には三代目J Soul Brothersのメンバー、登坂広臣ことHIROOMI TOSAKAのソロアルバム「Who Are You?」がランクイン。CD販売数2位、ダウンロード数5位、PCによるCD読取数は21位。オリコンでは初動売上4万1千枚で2位初登場。前作「FULL MOON」の5万4千枚(2位)からはダウンしています。

3位はOfficial髭男dism「Traveler」が先週の2位からワンランクダウンながらもベスト3をキープ。Hot100同様、根強い人気を見せています。

続いて4位以下の初登場盤です。4位には韓国の女性アイドルグループOH MY GIRL「OH MY GIRL JAPAN 3rd ALBUM『Eternally』」がランクインしてきました。CD販売数は3位でしたが、それ以外の順位は圏外となり、総合順位では4位に。オリコンでは初動売上1万7千枚で4位初登場。前作「OH MY GIRL JAPAN 2nd ALBUM」の1万9千枚(7位)から若干のダウンとなっています。

5位には中島みゆき「CONTRALTO」が初登場。約2年ぶりとなるオリジナルアルバム。CD販売数4位、ダウンロード数6位、PCによるCD読取数26位。オリコンでは初動売上1万7千枚で3位初登場。直近作のライブアルバム「中島みゆき ライブ リクエスト -歌旅・縁会・一会-」の1万1千枚(11位)からアップ。前作「相聞」の2万4千枚(4位)からダウンしています。中島みゆきといえば、1970年代から2000年代にかけて4つの年代にわかってオリコンのシングルチャートで1位を記録した、ということが話題となっていましたが、残念ながらついに2010年代はシングルでの1位獲得は出来ませんでしたね。ただ、なんだかんだいっても十分、チャートで上位を獲得できるだけの人気を維持している彼女なだけに、やりようによってはシングルチャート1位も十分狙えたとは思うのですが、あえて記録を狙ったような露骨なシングルの売り方をしなかったのはさすがです。もっとも、2010年代になりオリコンのシングルチャート1位の価値が大幅に暴落したのも間違いないのですが。

6位にはポルカドットスティングレイ「新世界」がランクイン。CD販売数6位、ダウンロード数2位、PCによるCD読取数48位。前作のミニアルバム「ハイパークラクション」からわずか3ヶ月のスパンでのリリースとなるミニアルバムとなります。まあ、昔だったらシングルとしてリリースするところをあえてアルバム形態でリリースしているんでしょうね。オリコンでは初動売上1万1千枚で6位初登場。前作「ハイパークラクション」の8千枚(9位)よりアップ。

初登場最後は男性声優増田俊樹のデビューアルバム「Diver」が7位に入ってきました。CD販売数は5位ながら、PCによるCD読取数が51位に留まり、総合順位ではこの位置に。オリコンでは初動売上1万2千枚で5位初登場となっています。

ロングヒット組では椎名林檎のベストアルバム「ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~」は今週、5位から9位にダウンしています。ベスト10ヒットを維持できるか、来週は正念場といった感じでしょうか。

今週のHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年1月15日 (水)

正月休み明けのチャートですが・・・

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週のチャートは集計対象期間が1月6日~12日と休み明けのチャートとなりました。オリコン週間シングルランキングを見ると、初登場曲も多いようですが、そのほとんどが固定ファン向けにアイテム的な感覚でCDを売っているアイドル勢のようで、Hot100ではロングヒット曲がまだまだ目立つチャートとなっています。

まず安定の1位ともいうべきなのがOfficial髭男dism「Pretender」でした。これで5週連続の1位獲得。従来、1位にランクインし続けていたストリーミング数、You Tube再生回数、カラオケ歌唱回数に加え、今週はダウンロード数でも1位を獲得。まだまだ2位以下を寄せ付けない圧倒的な人気を見せつけています。

また今週は「宿命」も8位から6位、「イエスタデイ」も10位から7位に再度のランクアップ。3曲連続ベスト10入りの記録を続けています。2020年もまだまだヒゲダン人気は続きそうです。

一方、年末からヒゲダンに迫る勢いを見せているのがKing Gnu「白日」。今週も2週連続2位にランクイン。You Tube再生回数及びストリーミング数は先週から変わらず2位。ダウンロード数も3位につけてきており、1位の座を虎視眈々と狙っています。一方、「Teenager Forever」も先週の15位から5位に大きくランクアップ。3週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。You Tube公開に合わせて、You Tube再生回数が5位にランクインしてきたことがランクアップの大きな要因の模様。King Gnuもこれで2曲同時ランクインとなりましたが、「Teenager Forever」もロングヒットを記録するのでしょうか。

3位も紅白を機に大きく順位をあげてきた菅田将暉「まちがいさがし」が2週連続の3位を獲得。ダウンロード数は先週の1位から5位にダウンしてしまいましたが、ストリーミング数は先週と変わらず3位をキープ。You Tube再生回数も3位を維持しており、今後のロングヒットが期待されます。

続いて4位以下の初登場曲ですが、Hot100では初登場曲は1曲のみ。8位にPoppin'Party「イニシャル」がランクイン。漫画「BanG Dream!」から派生したプロジェクトにより登場したアニメキャラによるグループ。CD販売数は1位を獲得。PCによるCD読取数2位、Twitterつぶやき数は9位にランクインしましたが、ダウンロード数は16位、その他のチャートは圏外となり、総合順位はこの位置に。オリコンでは初動売上2万7千枚で1位を獲得。前作「Dreamers Go!」の1万9千枚(4位)からアップしています。

一方、冒頭にも書いたように目立ったのはロングヒット勢の活躍。まず4位にLiSA「紅蓮華」が先週と同順位でランクイン。特にダウンロード数では4位から2位へとアップしています。また、米津玄師「馬と鹿」は6位から9位に、あいみょん「マリーゴールド」は9位から10位にダウンしたもののベスト10をキープ。ロングヒットを続けています。

一方でFoorin「パプリカ」については今週、5位から11位にダウン。レコ大や紅白を機に、さらなるロングヒットか、と思われましたが、残念ながら思ったほど伸びませんでした。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums!

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2020年1月14日 (火)

最も注目度の高い男性シンガーソングライターの新作

Title:エアにに
Musician:長谷川白紙

おそらく、今、日本のポップスシーンにおいて最も注目を集めている男性シンガーソングライターの一人が長谷川白紙でしょう。かなり奇妙な名前の彼ですが、2018年にリリースされたミニアルバム「草木萌動」が大きな話題に。特にその当時、彼はまだ10代、かつ現役の音大生という経歴が大きな話題となりました。そして続く2019年にリリースされた待望のオリジナルアルバムが本作。まだ現役の音大生でもある彼が20代となってはじめてリリースしたアルバムでもあります。

ただ、彼に関しては聴く前に若干身構えてしまう部分がありました。それは例えば「エアにに」という奇妙なアルバムタイトルといい、微妙に遠泳的なジャケット写真といい、いかにも「今時の若者」的な無意味さを狙ったようなアートワークが目立ってしまう部分があるからでした。前作「草木萌動」も、いかにもなアニメキャラをゆがませたような微妙なジャケットでしたし、今回のアルバムでも「。(____*)」なんていう、絵文字がそのままタイトルになった曲なんかもあり、いかにも「狙った」感じがかなり気にかかってしまいました。

実際、サウンド的にはかなり今風なのは間違いありません。全体的にエレクトロサウンドが主軸なのですが、ジャズの影響を強く感じさせるサウンド。それも今時のエレクトリックでR&Bやソウルの要素も強い現代ジャズからの影響を強く感じさせます。シンセのサウンドや軽快なドラムのリズムを中心とした構成の曲が多く、そういう意味でも非常に今時の音を奏でるミュージシャンなのは間違いありません。

しかし、身構えて聴き始めた最初の印象はいい意味ですぐに覆されました。楽曲はとてもポップで明るく、かつ変なスノッブ臭のようなものは皆無。1曲目「あなただけ」からして、ピアノとホーンセッションで軽快なミュージカル風の明るいポップチューンでワクワクさせるスタート。続く前述の奇妙なタイトルだった「。(____*)」はアップテンポでトランシーなエレクトロチューンで、こちらもスペーシーなサウンドで楽しませてくれます。

ただ、ポップな作風にまとめあげていながらも、サウンド構成としては非常に複雑な内容の曲が目立ちます。例えば「蕊のパーティ」などはミディアムテンポのポップチューンながらも、ピアノの展開もドラムのリズムも非常に凝ったつくりになっていますし、「悪魔」などもキラキラした明るい雰囲気のアレンジながらも、様々な音が複雑に入り組んで厚みのあるサウンドを聴かせてくれており、聴きこめば聴きこむほどそのサウンドの世界にはまり込んでしまうアルバムになっています。

それにも関わらず、アルバム全体としては彼のハイトーンボイスにより、そんなサウンドの複雑さを感じさせることなく、実にポップにまとめあげている手法が見事。アルバムの最後は「ニュートラル」というジャジーなピアノ1本でのアレンジの歌モノの曲で締めくくりとなっています。同曲のメロディー展開も微妙に複雑さを感じさせつつ、しっかりとポップに聴こえさせてしまっている点が実に素晴らしく、彼の天性の才を感じることが出来ます。

高い注目度も納得の傑作アルバムで、間違いなく2019年のベスト盤候補の1枚とも言えるアルバムだと思います。まだまだ長谷川白紙という知名度はぐんぐん上がっていきそうな予感も。今、ポップスファンならばチェックすべき傑作アルバムです。

評価:★★★★★

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2020年1月13日 (月)

完全復活の待望の新作…だが

Title:So kakkoii 宇宙
Musician:小沢健二

昨年、音楽ファンの間でおそらく最も大きな話題となった出来事が小沢健二の完全復活というニュースでしょう。ある年代以上の方にとっては小沢健二というミュージシャンは、ある意味、「伝説のミュージシャン」的な語られ方をしています。フリッパーズ・ギターのメンバーとして一世を風靡した後、ソロデビュー。特に1990年代中盤においては「強い気持ち・強い愛」「ラブリー」「痛快ウキウキ通り」などといった数多くのヒット曲をリリース。音楽的にもマニア層から高い評価を受けた一方、東京大学卒業という頭の良さ、さらに中性的かつ王子様的な甘いルックスからアイドル的な人気を獲得。紅白にも2年連続出場するなど、お茶の間レベルでの人気を確保しました。音楽的にも評価が高い一方、アイドル的な人気を確保している、という点から、今の人にとっては星野源をイメージすると近いものがあるかもしれません。ブラックミュージックからの影響を感じさせつつ、キュートなポップスに仕上げているという点も両者、共通する部分と言えるかもしれません。

ただ、その後、小沢健二をある種の「伝説」的なミュージシャンとして押し上げたのは、人気絶頂の中、突然活動をセーブしはじめたことが大きな理由でしょう。絶頂期の中、彼は突然、パブリックなイメージから逆らうような落ち着いた雰囲気のシングルをリリースし、リスナーを戸惑わせます。そして2000年代に入ってからは、音楽活動の事実上休止。時々、散発的に音源をリリースしたものの、それは90年代の絶頂期のようなキュートなポップソングからはほど遠いものでした。絶頂期のイメージがあまりにも鮮烈で、かつ活躍していた期間が短かったことから、いつしか小沢健二の存在はある種の「伝説」的なイメージで語られることが多くなってしまいました。

それだけに今回の完全復活のニュースはある年代以上の音楽ファンにとっては非常に衝撃的なニュースでした。待望のニューアルバムは歌モノのアルバムとしては2002年の「Electric」以来。ただ、この作品も微妙にポップであることを避けたような作品でしたので、彼が純粋にポピュラーミュージックへ本格的に取り組んだのは、下手したら日本ポップス史上指折りの名盤として誉れ高い、1994年の「LIFE」以来かもしれません。それだけでも本作が話題となった理由がわかるのではないでしょうか。

しかし、それだけの期待を持ってリリースされた本作なのですが…その長い年月のギャップを乗り越えられたかと言われると、正直言って、かなり微妙なアルバムに仕上がっていたように感じます。本作が、正直言って微妙な仕上がりとなったいた理由としては主に2点があげられるように感じました。

まず1点目。これは絶頂期の時でも彼の問題点といえば問題点なのですが、ボーカルがちょっと厳しい点。正直、彼はボーカリストとして決して上手いボーカリストではありません。ただ、若いころは、不安定なボーカルから来る、ある種の頼りなさげな部分が、「王子様」キャラとマッチしていたのですが、アラフィフのおっさんとなった今、やはり歌い慣れていないせいか、不安定さはさらに増して、結構聴いていて厳しいレベルになってきてしまっています。

そしてもう1つ、そして最大の問題は歌詞の側面。もともと以前から小沢健二の歌詞は、東大出身のエリートという出自からくるのか、どこかスノッブ臭が強く、かつ、かつては女の子にモテる自分をアピールしているような歌詞が少なくありませんでした。ただ、そんな歌詞も、飛びぬけて明るいポップなメロにのることにより、良くも悪くも個性として魅力を放っていました。さすがにアラフィフとなった「モテキャラ」的な歌詞は少なくなった(…それでも若干見受けられるのですが)のですが、一方、悪い意味でのスノッブ臭は健在。歌詞の理屈っぽさが増し、ポップなメロディーがのっているにも関わらず、かつてのワクワク感が薄れてしまっています。また、その世界観は、どこか90年代中盤のバブルの余韻が残っているような雰囲気が漂っており、今の時代にかなりの違和感を覚えてしまいます。はっきりいって歌詞については、完全に時代から取り残されてしまった、そういう印象を強く受けてしまいました。

メロディーラインやサウンドという側面については決して悪くはありません。メロディーについてはさすが天性のメロディーメイカー、明るく聴いていてワクワクするようなメロディーをしっかりと聴かせてくれており、サウンドについてもそんなメロディーをしっかりと彩ったアレンジを聴かせてくれています。そういう意味では、メロディーメイカーとして小沢健二の才能は決して衰えたわけではないことは明確なのですが…ただ、歌詞やボーカルの問題をはねのけるほど、突き抜けた明るさと楽しさがあったか、と言われると、残念ながらそこまでの楽曲はありませんでした。

メロディーの面を含めると、決して悪いアルバムではないかもしれませんし、かつてのファンならば、それなりに楽しめたアルバムだったかもしれません。ただ、小沢健二の全盛期を知らないリスナー層にこのアルバムを聴かせられるか、と言われると…かなり微妙なように感じてしまいます。50代となった今のオザケンらしいアルバムといえばアルバムなのですが、かつてのオザケンの魅力が垣間見れる一方、加齢臭がこびりついてしまっている部分も少なくないアルバム。事実上、引退状態が長かった結果として、どうも現役感が薄い、時代から取り残されてしまった部分も感じてしまいます。久々のポップスアルバムということで期待したのですが…少々残念な結果になってしまいました。

評価:★★★★

小沢健二 過去の作品
我ら、時

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2020年1月12日 (日)

日本ポップスシーンの最重要人物のオールタイムベスト

日本のポップスシーンにおける最重要人物といえば間違いなく、細野晴臣でしょう。もともと1969年にロックバンド、エイプリルフールのベーシストとしてメジャーデビュー。その後、日本語ロックの祖とも言われる伝説のバンド、はっぴいえんどに参加。さらにソロ活動を経たのちに、かのイエロー・マジック・オーケストラに参加したのち、様々なバンド、ユニットなどにも参加しつつ、72歳となった現在でも積極的な音楽活動を続けています。

2019年はそんな彼の音楽活動50周年の記念すべき年となった訳ですが、多種多様に呼ぶ彼の音楽活動を網羅的に収録したベスト盤が2組、リリースされました。

Title:HOSONO HARUOMI Compiled by HOSHINO GEN
Musician:細野晴臣

今回のベスト盤の最大の特徴としては、細野晴臣にゆかりのある2人のミュージシャンが選曲に参加している点でしょう。まずは今をときめく、星野源が選曲に参加したベスト盤がこちらになります。

Title:HOSONO HARUOMI Compiled by OYAMADA KEIGO
Musician:細野晴臣

そしてもう1組を選曲したのが、コーネリアスこと小山田圭吾。ちょっとタイプの異なる2人のミュージシャンが選曲に参加しているのですが、その2組のベスト盤の意図はかなり明らか。星野源選曲の方は、「星野源」というお茶の間レベルでの有名人を起用していることからもわかるように、細野晴臣という名前を全く知らないようなリスナーまで幅広い層を取り込もうとした、いわば細野晴臣の入り口的なベストアルバム。実際、選曲にしてもはっぴいえんどの「風をあつめて」やソロ曲の「恋は桃色」、YMOの「Firecracker」「以心電信」など、代表曲が選曲されており、まさに細野晴臣入門としてうってつけのアルバムとなっています。

一方、小山田圭吾選曲の方は、そういった細野晴臣の代表曲を選曲した場合にこぼれ落ちるような、知る人ぞ知る的な重要曲を収録した、いわばアナザーベスト。ここらへん、2人のミュージシャンもしっかりと自分たちの役割を理解しているかのような、それぞれ方向性が明確になった選曲になっているように感じます。

そして細野晴臣の特徴といえば、時代によって、様々なジャンルの音楽に挑戦していくその幅広い音楽性。はっぴいえんど時代のフォークロックからスタートし、いわゆる「トロピカル三部作」と言われる時代のエキゾチックな音楽性から、その後のYMOで一転するテクノポップ路線、さらにSketch Showなどではポストロック的な様相すら感じさせる楽曲も披露しています。

このあたりの音楽的遍歴をバランスよく収録されているのも星野源選曲の方で、フォークロックから、その後のエキゾチカ路線、テクノポップ路線からエレクトロまでほぼよく収録されており、細野晴臣の音楽の歩みを知るには最適なベスト盤となっています。一方、小山田圭吾の方は、その点ではより彼の趣味性が強く反映されているように感じ、特に比較的最近の曲を収録したDisc2ではエレクトロやポストロック色の強い作品がならんでいます。ただ、その結果として、細野晴臣というミュージシャンが、ここにおいても、なお最先端の音楽にアップデートを続けているというミュージシャンとしての意欲をより強く感じる選曲になっているように感じました。

実際、小山田圭吾選曲のベストの、特にDisc2に収録されている曲は、いい意味で全く時代性を感じさせない「今」の音を奏でています。音楽活動50年、齢70歳を過ぎたミュージシャンが、若手ミュージシャンたちと比べてそん色ない音を奏でている点、驚くべき事実なのですが、小山田圭吾選曲のベストの方では、そんな細野晴臣というミュージシャンのすごさをより強く感じる選曲になっていたように感じます。

そういう意味では今回の選曲の2人の人選は、非常にバランスの取れた人選でしたし、2人とも、しっかりと自ら求められる方向性で選曲を行った結果、細野晴臣というミュージシャンのすごさを2つの異なる視点からしっかりと浮き彫りに出来たベスト盤に仕上がっていたように感じます。入門盤としては、まず星野源選曲の方から。そこから小山田圭吾選曲の方も是非聴いてほしい、そんな2組のベスト盤でした。

評価:どちらも★★★★★

細野晴臣 過去の作品
細野晴臣アーカイヴスvol.1
HoSoNoVa
Heavenly Music
Vu Ja De
HOCHONO HOUSE


PUNCH/ザ・クロマニヨンズ

例のごとく、またちょうど1年ぶりのリリースとなった13枚目のクロマニヨンズのオリジナルアルバム。本作は、彼ららしいシンプルなギターロックをメインとしつつ、裏打ちの曲があったり、哀愁感たっぷりの曲が入ったりと、バリエーションの多さという意味では前々作「ラッキー&ヘブン」に寄ったような作品。もっとも、基本的にムダをそぎ落としたサウンドで、いい意味でベテランらしい安定感ある、彼らしか出来ないシンプルなロックンロールを奏でているという点、以前から変わりありません。ある意味、大いなるマンネリなのですが、それを感じさせない、いまだに新鮮味を感じさせるバンドサウンドも魅力的。

評価:★★★★★

ザ・クロマニヨンズ 過去の作品
CAVE PARTY
ファイヤーエイジ
MONDO ROCCIA
Oi! Um bobo
ACE ROCKER
YETI vs CROMAGNON
ザ・クロマニヨンズ ツアー2013 イエティ対クロマニヨン
13 PEBBLES~Single Collection~
20 FLAKES~Coupling Collection~
GUMBO INFERNO
JUNGLE9
BIMBOROLL
ラッキー&ヘブン
レインボーサンダー

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2020年1月11日 (土)

デビュー15周年のプレイリストアルバム

2019年にデビュー15周年、そして志村和彦没後10年を迎えたロックバンド、フジファブリック。その区切りの年に、2組のベストアルバムをリリースしました。

Title:FAB LIST 1
Musician:フジファブリック

Title:FAB LIST 2
Musician:フジファブリック

「FAB LIST 1」はプレデビュー盤から、かつて所属していたEMI Records、ユニバーサルミュージック時代の曲を集めたもの。選曲はファン投票に基づくものだそうで、公式サイトではベスト盤ではなく、あくまでも「プレイリストアルバム」と言っているところに今の時代を感じます。

よく知られているようにフジファブリックといえば、ギターボーカルでほぼ全ての楽曲の作詞作曲を手掛けていた志村和彦が2009年に、わずか29歳という若さでこの世を去るというショッキングな出来事がありました。そのためバンドとして存続の危機となったのですが、ギターの山内総一郎がボーカルを兼務。自らメインのライターとしてもバンドを引っ張り、バンドは存続。志村和彦逝去後10年を経た現在でも、直近のオリジナルアルバム「F」がオリコンチャートでベスト10入りを果たすなど、高い人気を誇っています。

今回のアルバム、所属レコード会社により「1」「2」を区切っているのですが、実質的には「1」が志村和彦在籍時の楽曲を集めたアルバム、「2」は主に山内総一郎がメインライターとなった後の楽曲が収録されています。そのため、「1」と「2」で志村和彦楽曲と山内総一郎楽曲の聴き比べが出来るようなベスト盤に。志村和彦といえば、非常に個性的かつインパクトのあるメロディーを書いてくる天才肌のソングライターとして高い評価を得ており、その後を引き継いだ山内総一郎は、かなり高いプレッシャーがあったようですが、それから10年、ライターとして自信をつけてきたのでしょう。

ただ、やはり今回、こういう形で志村和彦楽曲を聴くと、彼のソングライターとしての優れた才能をあらためて実感させられます。どこか憂いを帯びたメロディーライン、和の要素を感じられる独特のフレーズ、そして何より彼がライターとして優れているのは、決して派手でインパクトのあるフレーズを書いていなくても、聴き終わった後、しっかりと印象に残るメロディーを書いているという点でしょう。「1」の楽曲群を聴くと、あらためて彼の天性の才能を強く感じさせます。また、これは以前も感じていたことなのですが、彼の書く楽曲のクオリティーは後になるに従い明らかに上がっており、彼のあまりにも早い死をあらためて残念に感じてしまいました。

一方、「2」に収録されている山内総一郎楽曲については、志村曲と比べてかなりの健闘ぶりをあらためて感じました。楽曲的にはストレートに志村正彦からの影響を感じます。ただ一方で、志村楽曲に感じられる「憂い」のような要素は薄く、その一方で、非常に明るい雰囲気を感じます。その点が若干、楽曲の「薄さ」を感じる部分がないわけではないのですが、それなりに山内総一郎の個性として感じることが出来ます。ただ、個人的には、そろそろもっと、山内総一郎色を楽曲に出していっても面白いのでは?とも感じますが。

そんな訳で、「1」「2」を聴き比べることにより、志村和彦のその才能をあらためて感じると主に、今のフジファブリックのがんばりぶりも感じることが出来ました。デビューから15年、志村和彦逝去後、もう10年の月日が流れた彼ら。バンドとしていろいろと大変な時期を乗り越えてきた彼らですが、その歩みはまだまだ止まらなさそう。これからの活躍にも期待したいところです。

評価:
FAB LIST 1 ★★★★★
FAB LIST 2 ★★★★

フジファブリック 過去の作品
TEENAGER
CHRONICLE
MUSIC
SINGLES 2004-2009

STAR
VOYAGER
LIFE
BOYS
GIRLS
STAND!!
FAB LIVE
F


ほかに聴いたアルバム

Before The Past・Live From Electrical Audio/MONO

ポストロックバンドMONOによる活動開始20周年を記念してリリースされたミニアルバム。彼らの初期の作品を、かのスティーヴ・アルビニとTemporary Residenceのオーナージェレミー・ディヴァインと共に、シカゴのエレクトリカル・オーディオで、スタジオライブという形で収録したアルバム。へヴィーでノイジーなギターサウンドをダイナミックに聴かせる構成ながら、悲しさを感じさせるようなメロディーラインを含め、どこか狂おしいような優しさを同時に感じさせるサウンドは実に見事。特に3曲目「Halo」の中盤以降、埋め尽くすようなギターノイズの音は、ただただ優しく、リスナーを包み込むように感じました。

評価:★★★★★

MONO 過去の作品
Hymn To The Immortal Wind
For My Parents
The Last Dawn
Rays of Darkness

Requiem For Hell

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2020年1月10日 (金)

新譜は少なめ

今週もヒットチャート評。ただし全体的に新譜が少なかったため、Hot100、Hot Albums同時更新となります。

今週のHot100(2020年1月13日付)

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

まずはHot100。新譜が少なかった影響でロングヒット曲が目立つチャートとなりました。

まずは1位。Official髭男dism「Pretender」が4週連続の1位獲得。ストリーミング数、You Tube再生回数、カラオケ歌唱回数は今週も1位、ダウンロード数も2位にランクイン。さらに今週はこれに加え、年末の紅白出演などの影響か、CD販売数も55位にランクアップ。注目の高さを感じさせます。

一方、「宿命」は今週7位から8位に、「イエスタデイ」は6位から10位へとダウン。ついにストリーミング数も「宿命」が3位から5位、「イエスタデイ」が4位から6位へとダウンし、全体的に下落傾向の結果となっています。「Pretender」のヒットはまだまだ続きそうですが、ほかの2曲は、ここが踏ん張りどころといった感じでしょうか。

2位はKing Gnu「白日」が先週の4位からランクアップし、3週ぶりのベスト3返り咲き。ストリーミング数及びYou Tube再生回数2位、ストリーミング数3位と上位をキープ。紅白出演を機に、お茶の間レベルで知名度をあげてきた彼。2020年もヒットは続きそうです。

3位は菅田将暉「まちがいさがし」が先週の6位からランクアップ。ベスト3入りは7月15日付チャート以来、27週ぶりのベスト3ヒットとなりました。特にストリーミング数が8位から3位にアップ。こちらは明らかに紅白出演の影響でしょう。

続いて4位以下の初登場曲ですが、初登場は1曲のみ。7位にEXILE「愛のために~for love,for a child~」がCDリリースにあわせて先週の65位からランクアップし、初のベスト10入りとなりました。CD販売数は1位、ラジオオンエア数3位、PCによるCD読取数は9位でしたが、ダウンロード数27位、ストリーミング数86位で総合順位は7位に。ちなみに彼らのCDシングルは、なんと約3年5か月ぶり。その間のリリースは配信シングルのみとなっており、EXILEも、もうCDでは勝負しなくなったんだ…ということを感じてしまいます。オリコン週間シングルランキングでは、フライング販売の影響で先週(2020年1月6日付)のチャートで初動売上3万8千枚で2位初登場。前作「Joy-ride~歓喜のドライブ~」の6万7千枚(2位)よりダウンしています。

そして今週はベスト10返り咲き曲が。まさかのレコード大賞受賞が大きな話題となったFoorin「パプリカ」が先週の11位から5位にランクアップ。4週ぶりのベスト10返り咲きとなったと共に、5位はなんと自己最高位となります。特に今週、CD販売数が17位から3位にアップ。オリコンでも5千枚を売り上げて3位にランクインするなど、レコ大受賞や紅白を機に、多くの方がCDを買ったということなのでしょう。いままで未就学児やその親を中心としたヒットだったのですが、一気に知名度が老若男女に広がった感があります。

他にも今週はロングヒット曲の活躍が目立ちます。LiSA「紅蓮華」は先週の5位から4位にアップ。同曲もここに来て、自己最高位更新となりました。米津玄師「馬と鹿」も先週の10位から6位にランクアップ。彼は特にレコ大にも紅白にも絡んだわけではないのですが、「パプリカ」や菅田将暉のヒットで米津玄師の名前を取り上げられることも多くなり、その影響もあるのでしょうか。あいみょん「マリーゴールド」は先週から変わらず9位をキープ。彼女も今年、紅白に出場していませんが、この曲はまだまだ根強く支持されている模様。ヒットはまだ続きそうです。


今週のHot Albums(2020年1月13日付)

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

先週のHot Albumsから一転、今週は新譜が非常に少ないアルバムチャートとなっています。

そんな中で1位を獲得したのは新譜組。香取慎吾「20200101」が獲得です。CD販売数1位、ダウンロード数3位、PCによるCD読取数では13位を獲得。ご存じ元SMAPのメンバーによるソロデビュー作。氣志團、KREVA、スチャダラパー、WONKなどといった豪華なメンバーとコラボしたアルバムになっています。

2位はOfficial髭男dism「Pretender」が先週の3位からアップ。根強い人気を見せています。

3位には女性アイドルグループBiS「LOOKiE(SPECiAL CASE)」がランクイン。2月5日リリース予定のアルバムを、1月4日の1日限定で306円で限定リリースしたもの。ダウンロード数で1位を獲得し、総合順位でもベスト3入りしてきました。

続いて4位以下の初登場盤ですが、今週は残り1枚のみ。9位に俳優佐藤流司のバンドプロジェクト、The Brow Beat「Adam」がランクイン。CD販売数は4位でしたが、ダウンロード数は13位、PCによるCD読取数は圏外となり、総合順位は9位に留まりました。オリコンでは初動売上5千枚で5位初登場。前作「Hameln」の7千枚(10位)からダウンしています。

一方、今週は新譜が少なかった影響でベスト10返り咲き組が多くランクインしています。まず4位にRADWIMPS「天気の子 complete edition」が先週の17位から4位にランクアップ。4週ぶりのベスト10返り咲きを果たしています。こちらは紅白出場の影響でしょうか。また7位には「アナと雪の女王2 オリジナルサウンドトラック」が11位から7位にランクアップし、5週ぶりのベスト10返り咲き。こちらは冬休みに入り、多くの親子連れが映画館に訪れた影響でしょうか。またKing Gnu「Sympa」が23位から8位に大幅ランクアップし、昨年2月4日付チャート以来、50週ぶりのベスト10返り咲きを果たしています。

ロングヒット組では椎名林檎のベスト盤「ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~」。今週、9位から5位にランクアップ。こちらもまだまだヒットは続きそうです。

1月13日付Hot100及びHot Albumsは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2020年1月 9日 (木)

今年最初の新譜ラッシュ

今週のHot Albums(2020年1月6日付)

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

2020年1月6日付のHot Albumsは年末商戦を狙ってか、新譜ラッシュとなりました。

そんな中、1位を獲得したのはBuster Bros!!!「Buster Bros!!! -Before The 2nd D.R.B-」。アニメキャラを使った声優によるHIP HOPプロジェクト、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」から登場したグループ。CD販売数及びダウンロード数で1位、PCによるCD読取数で3位を獲得し、総合順位では1位に。オリコン週間アルバムランキングでも初動売上4万3千枚で1位初登場。同キャラクターの前作Buster Bros!!!・MAD TRIGGER CREW名義による「Buster Bros!!! VS MAD TRIGGER CREW」の1万3千枚(2位)よりアップしています。

そして2位には2017年に活動を休止した男女3人組のポップスユニットいきものがかりの、復帰後初、実に5年ぶりとなるニューアルバム「WE DO」がランクインしてきました。一時期は「国民的グループ」とも言えるくらいの高い人気を誇った彼女たちですが、久々となるアルバムはCD販売数2位、ダウンロード数3位、PCによるCD読取数9位と、いずれもヒプノシスマイクを下回る厳しい結果に。オリコンでも初動3万7千枚で2位初登場。直近作はベスト盤「超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~」で、同作の13万6千枚(1位)から大きくダウン。またオリジナルアルバムとしても前作「FUN!FUN!FANFARE!」の10万1千枚(1位)からもダウンしています。

3位にはOfficial髭男dism「Traveler」が6位から3位にランクアップ。見事、6週ぶりのベスト3返り咲きを果たしています。

続いて4位以下の初登場です。4位にはゴールデンボンバー「もう紅白に出してくれない」がランクイン。NHKドラマの主題歌を歌ったり、新年号が「令和」と発表された直後に、新年号を冠した新曲をリリースしたりと、今年も話題満載だった彼らですが、紅白歌合戦には今年も落選。その紅白出演者が発表された直後に発表されたアルバムタイトルが本作と、最後の最後まで昨年は話題につきない彼らでした。・・・てか、人気の面からはまだ十分すぎるほど人気があるんだから、紅白に出演してもおかしくないと思うんですけどね・・・。オリコンでは初動売上2万1千枚で4位初登場。前作「キラーチューンしかねえよ」の2万5千枚(2位)よりダウン。

5位には元NMB48、AKB48のメンバーで、脱退後はシンガーソングライターとして活動している山本彩「α」がランクイン。CD販売数4位、ダウンロード数7位、PCによるCD読取数46位。オリコンでは初動売上1万8千枚で5位初登場。前作「identity」の3万6千枚(2位)よりダウン。

6位初登場は倉木麻衣「Mai Kuraki Single Collection~Chance for you~」。彼女の全シングル曲を収録した4枚組のベストアルバム。CD販売数5位、PCによるCD読取数58位。オリコンでは初動売上1万8千枚で6位初登場。直近のオリジナルアルバム「Let's GOAL!~薔薇色の人生~」の1万9千枚(3位)から微減。ベスト盤としては直近の「倉木麻衣×名探偵コナン COLLABORATION BEST 21 -真実はいつも歌にある!-」の2万5千枚(4位)からダウン。ここ5年間で3枚目のベスト盤となっており、さすがに乱発しすぎじゃ?

7位には男性声優神谷浩史の8枚目となるミニアルバム「CUE」がランクイン。CD販売数7位、ダウンロード数50位、PCによるCD読取数78位。オリコンでは初動売上1万2千枚で9位初登場。前作「TOY BOX」の1万4千枚(6位)からダウン。

8位にはmirage2「キセキ」が初登場。テレビ東京系の女児向け特撮テレビドラマ「ひみつ×戦士 ファントミラージュ!」の出演メンバー4人によるグループ。表題曲を含む新曲5曲に、それぞれのカラオケがついた全10曲入り。公式的にはシングルらしいのですが、曲数の関係でアルバムチャートにカウントされた模様。CD販売数6位、その他は圏外となり総合順位は8位。オリコンでは初動売上1万3千枚で8位初登場。

初登場組最後は10位にμ’s「μ’s Memorial CD-BOX『Complete BEST BOX』」が入ってきました。アニメキャラによるアイドルプロジェクト「ラブライブ!」に登場するアイドルグループによる、彼女たちの曲が全曲収録された全12枚組のボックス盤。定価3万5千円ながらもCD販売数9位、ダウンロード数72位、PCによるCD読取数61位を記録し、総合順位でベスト10入りするあたり、マニアの底力を感じます。オリコンでは初動売上1万枚で11位。前作はソロアルバムを集めたボックス盤「ラブライブ!Solo Live! collection Memorial BOX Ⅲ」で、同作の7千枚(11位)よりアップ。

最後ロングヒット組です。今週9位の椎名林檎のベスト盤「ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~」が、今週で7週連続のベスト10ヒットを記録しています。彼女初のベスト盤なだけに、まだまだヒットが伸びそうな予感も。

2019年12月30日付Hot Albumsは以上。明日は2020年1月6日付チャートを紹介予定!

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2020年1月 8日 (水)

2020年最初のヒットチャート

今週のHot100(2020年1月6日付)

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

正月休みも終わり、ようやくヒットチャートの更新が再開しました。今週は、正月休みの影響で変則的なチャートとなっており、2019年12月30日付のチャートと2020年1月6日付のチャートが同時更新となっています。まず、本日は2019年12月30日付Hot100のチャート評から。

昨年、音楽シーンを席巻していったOfficial髭男dismですが、2020年第1弾チャートでも、見事1位獲得となりました。「Pretender」が3週連続の1位獲得。ストリーミング数、You Tube再生回数、カラオケ歌唱回数いずれも先週と変わらず1位を獲得。ダウンロード数も4位から2位にアップし、総合順位では1位となりました。ちなみに12月30日付のチャートの集計対象期間は12月23日~29日。紅白やレコ大の影響は来週以降ですが、ダウンロード数の増加は、休みに入り、あらためてダウンロードして聴いてみたい、というリスナー層が増えたためでしょうか?

一方、「宿命」は8位から7位にアップ。「イエスタデイ」は6位から8位にダウンと、今週、両者の順位が入れ替わっています。ストリーミング数も「宿命」3位、「イエスタデイ」4位と入れ替わっており、ここに来て、「宿命」の人気が回復してきています。ただ、ともかく、3曲同時ランクインという驚異的なヒットが続いています。

今週、唯一の初登場組は名古屋を中心に活動を続ける男性アイドルグループBOYS AND MEN「ガッタンゴットンGO!」。CD販売数は1位でしたが、ダウンロード数96位、ラジオオンエア数28位、PCによるCD読取数75位、Twitterつぶやき数17位で、総合順位では2位となりました。オリコン週間シングルランキングでは同曲が初動売上9万5千枚で1位獲得。前作「頭の中のフィルム」の9万1千枚(3位)よりアップしています。

3位には先週2位だったの配信限定シングル「A-RA-SHI:Reborn」がワンランクダウンながらもベスト3をキープ。ダウンロード数では先週から変わらず1位をキープしています。

続いて4位以下ですが、まずはベスト10返り咲き組。6位に菅田将暉「まちがいさがし」が先週の18位からランクアップ。9月9日付チャート以来、17週ぶりのベスト10返り咲きとなりました。特にダウンロード数が19位から6位と大幅アップし、ベスト10返り咲きの大きな要因となっています。また、米津玄師「馬と鹿」も先週の12位から10位にアップ。こちらは3週ぶりのベスト10返り咲き。各種チャートでは特に目立ってアップしているものはないため、相対的に順位を上げた結果でしょうか。ただ、ここに来てのベスト10返り咲き曲はいずれも米津玄師作詞作曲の曲。彼の強さを感じさせる結果となっています。

一方、ロングヒット曲ですが、King Gnu「白日」は先週から変わらず4位をキープ。ストリーミング数は2位と相変わらずの強さを見せています。LiSA「紅蓮華」も先週から変わらず5位をキープ。これで通算7週目のベスト10入りとなりました。ダウンロード数4位、ストリーミング数5位、PCによるCD読取数7位、Twitterつぶやき数及びカラオケ歌唱回数6位と満遍なくヒットしているものの、You Tube再生回数だけ40位と低迷しているのが気にかかります。

そしてもう1曲、あいみょん「マリーゴールド」は先週から変わらず9位をキープ。こちらもまだまだ根強い人気を感じさせてくれます。ロングヒットはどこまで伸びていくのでしょうか。

2019年12月30日付Hot100は以上。明日は同日付のHot Albumsを予定しています。

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2020年1月 7日 (火)

50歳×4人組×30周年

Title:50×4
Musician:フラワーカンパニーズ

2019年にデビュー30周年を迎えたロックバンド、フラワーカンパニーズ。昨年から今年にかけ、デビュー30周年として様々な企画を実施しており、その中でも昨年行われたセンチュリーホールでのデビュー30周年記念ライブイベントは私も足を運び、デビューから30年が経っても、いまなお非常にアグレッシブな活動を続ける彼らのステージをその目で確かめてきました。本作はそんな彼らがデビュー30周年の年にリリースした約2年ぶりのオリジナルアルバム。タイトルの「50×4」はもちろん彼らの年齢である50歳×4人組から取られたもの。前作「ROLL ON 48」も彼らのその時の年齢から取られており、アラフォーとなった彼らが、あえて今の自分たちの年齢に向き合っていることを感じさせるアルバムタイトルとなっています。

ただ、そんな彼らのニューアルバムは、良くも悪くも、実にフラワーカンパニーらしい、といった感じの作品となっていました。トライバルなリズムで力強く聴かせるイントロ的な「Eeyo」からアルバムがスタートすると、続く「DIE OR JUMP」はギターリフ主導のガレージ色の強いナンバーに、歌詞は自らを強く鼓舞するようなナンバー。まさにフラカン節というべき楽曲からアルバムの幕は空きます。

自らについて歌った「ロックンロールバンド」も彼ららしくメロディアスで暖かみを感じさせるナンバー。続く「まずごはんだろ?」では裏打ちのリズムがアルバムの中でひとつのインパクトに。メッセージ性の強いナンバーながらも、最後に言いたいことが楽曲タイトルであるあたり、こちらもフラワーカンパニーズらしさを感じさせます。

後半もフラカン節は続きます。「いましか」も、ダメな自分を鼓舞する、こちらも実にフラカンらしい歌詞。「変えてゆける 今しか」というメッセージは50歳になってもロックバンドとしての挑戦を続ける彼らの姿が重なります。「25時間」も彼ららしいロックンロールナンバー。自らを鼓舞しながらも最後のオチがなかなかユニークである点も、こちらも彼ららしいといった感じでしょうか。そしてアルバムの締めくくりでは郷愁感たっぷりの「見晴らしのいい場所」で締めくくり。

「もうちょっとだけ 見晴らしのいい場所へ
もうちょっとだけ 陽当たりのいい場所へ
もうちょっとだけ 風の抜ける場所へ

サヨナラも後悔も虚しさも乗せて
また走り出す」
(「見晴らしのいい場所」より 作詞 鈴木圭介)

という最後を締めくくる歌詞は、まさにバンドとしての現状、そして31年目への決意を感じさせる歌詞で締めくくられています。

そんな訳で、30周年のアルバムらしく、終始フラカンらしさを感じさせる本作。ただ、一方では良くも悪くもバンドとして大ブレイクできない理由もなんとなく垣間見れる部分も感じてしまいます。まず全体的に歌詞にしろメロにしろ、インパクトが若干弱い点。歌詞はちゃんと聴けば印象に残るフレーズも登場してくるのですが、リスナーの耳をつかむようなワンフレーズは残念ながら登場してきません。メロも決して悪くはないのですが、それを売りにするにはちょっと弱い印象も。また、ロックバンドとしてゴリゴリのバンドサウンドを聴かせてくれる曲もあるのですが、全体的にはバンドサウンドを前に押し出したというには弱い感じもあり、その点にも正直、ちょっと中途半端さを感じてしまいました。

個人的には、もっとバンドサウンドを前に出してきて、ロックンロールバンドとしてのフラカンをもっと主張してきた方がおもしろいように感じるのですが・・・。良くも悪くも器用貧乏な部分が逆に彼らの魅力なのかもしれません。ただ、デビュー30周年、メンバー全員が50歳となった今でもロックンロールバンドとしての足腰の強さには変わりはありません。31年目からの彼らも非常に楽しみです。

評価:★★★★

フラワーカンパニーズ 過去の作品
フラカン入門
ハッピーエンド
新・フラカン入門
Stayin' Alive
夢のおかわり
ROLL ON 48


ほかに聴いたアルバム

2ND GALAXY/Nulbarich

Nulbarichの新作は8曲入りのミニアルバム…なのですが、うち2曲がイントロとアウトロなので、実質的には6曲入りとなるミニアルバム。アシッドジャズやソウルなどの音楽性に軸足を置きつつも、比較的、ロックやポップス寄りに徐々にシフトを移しているような印象も受けるアルバム。結果として聴きやすさはグッと増してきたような感はするものの、前作「Blank Envelope」同様、メロディーのフックの弱さが気にかかりますし、サウンド的にもそのフックの弱さを補うほどの目新しさ、独自性は薄くなってしまったような印象も。いいアルバムであることには間違いないと思うのですが・・・。

評価:★★★★

Nulbarich 過去の作品
Who We Are
Long Long Time Ago
H.O.T
The Remixies
Blank Envelope

Don't Stop Me Now~Cornerstones EP~/佐藤竹善

SING LIKE TALKINGのボーカリスト、佐藤竹善がライフワーク的に行っているカバー企画「Cornerstones」シリーズの最新作は5曲入りのミニアルバム。ただ、わずか5曲という内容ながらも、フュージョン風のアレンジにまとめた前半から一転、後半はサルサバンドSALSA SWINGOZAをアレンジャーとして加えたサルサ風のアレンジによるカバーになっているという展開がなかなかユニーク。原曲の良さを生かしつつ、一癖のある、佐藤竹善としての足跡をしっかりと残したカバーに仕上がっていました。

評価:★★★★

佐藤竹善 過去の作品
ウタジカラ~CORNER STONE 4~
静夜~オムニバス・ラブソングス~
3 STEPS&MORE~THE SELECTION OF SOLO ORIGINAL&COLLABORATION~
Your Christmas Day III
The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~
My Symphonic Visions~CORNERSTONES 6~feat.新日本フィルハーモニー交響楽団

Little Christmas

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2020年1月 6日 (月)

「痛み」の中の自分を映し出した内省的な作品

Title:MAGDALENE
Musician:FKA Twigs

2014年にリリースしたデビューアルバム「LP1」が各種メディアで大絶賛。その時の年間ベストアルバムに軒並みランクインした、その年を代表する話題作となった、イングランド出身の女性シンガーソングライターFKA Twings。同作から5年、ついに待望となるニューアルバムがリリースされました。そしてそのニューアルバムは、まさにその5年間という長いスパンを埋める、期待以上の傑作アルバムに仕上がっていました。

前作「LP1」は音数を最小限まで絞ったエレクトロサウンドにハイトーンの彼女の歌声を美しく聴かせるという点に大きな特徴を持ったアルバムでした。今回も基本的にはエレクトロサウンドをバックとして彼女の美しい歌声を聴かせるというスタイルは変わりありません。ただ一方、本作のサウンドに関しては、音数を絞ったというよりは、むしろ荘厳さを感じさせる分厚いサウンドを聴かせるようなスタイルとなっています。まさに1曲目の「thousand eyes」などは、重厚なサウンドが耳に残る楽曲に。さらに彼女の歌声も幾重にも重ねられ、その荘厳さに拍車をかけています。

さて、今回のアルバムのリリースにあたって、前作から5年の歳月を要してしまいました。それだけのスパンが生じた理由としては、この5年間に彼女が多くの悲しい出来事を経験していたことが要因としてあげられます。この5年間、彼女は婚約者と別れ、また子宮に出来た腫瘍の摘出手術を受けるなど、多くの痛みを経験してきたそうです。そして本作は、そんな「痛み」の中で混沌とした自分の姿を映し出した、内省的な作品となっているそうです。

そう考えると、続く「home with you」「fallen alien」のメタリックなエレクトロサウンドなどは、まさに彼女の「痛み」を音で再現したような感じになるのでしょうか。また、重厚なエレクトロサウンドも、彼女の混沌とした内面をサウンドにそのまま描写した結果なのかもしれません。そんな中で歌われる彼女の歌声は、あまりにも美しいものの、一方ではどこか悲しさを帯びているようにも感じられます。

アルバム中盤の4曲目では、トラップの第一人者であるラッパーFutureをフューチャーし、トラップ的なサウンドを取り入れた「holy terrain」という曲があります。今回のアルバムの中で最もHIP HOP的な作品なのですが、彼女の伸びやかな歌声と、もの悲し気なトラップのサウンドが実によくマッチした楽曲に仕上がっており、胸をうたれる曲に仕上がっています。

ただ一方で、アルバムが後半になるに従い、彼女の優しくも美しい歌声がより印象に残る、「歌」を聴かせる楽曲が増えてくるような印象を受けます。終盤の「daybed」もゆっくりと歌われる彼女のボーカルはとにかく美しく、そして悲しさ以上にリスナーを包み込むような優しさを感じさせてくれます。そして最後を締めくくる「cellophane」もピアノをバックに歌い上げる彼女の歌声には非常に力強さを感じさせます。前作から5年、様々な痛みを経験した彼女ですが、このアルバムを制作する中で、最後はその痛みを乗り越えた、彼女の力強さを感じるようでした。

そういう意味では非常にパーソナルでかつ悲しい雰囲気からスタートしつつも、聴き終わった後のアルバムの印象としては、むしろ暖かさすら感じさせるような作品に仕上がっていたと思います。個人的には、傑作の呼び名の高い前作「LP1」を上回る傑作アルバムを見事リリースしてきた、そんな印象を受けるアルバムでした。本作も前作同様、高い評価を受け、2019年の多くのベストアルバムにランクインしているようですが、その評価は間違いなし。個人的にも間違いなく年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。5年を経て、さらに成長した彼女。これからの活躍も大いに期待できそうです。

評価:★★★★★

FKA Twigs 過去の作品
LP1


ほかに聴いたアルバム

02050525/FOO FIGHTERS

02050525

同作は「Foo Flies」と名付けられたFOO FIGHTERSのアーカイブシリーズの最新作。SpotifyやApple Music限定で聴ける作品のようですが、2005年のアルバム「In Your Honor」時代のB面曲やカバー曲などのレア音源を集めたEPだそうです。この「In Your Honor」は2枚組のアルバムでエレクトリックディスクとアコースティックディスクと分かれてリリースされた作品だったそうで、それだけ当時、彼らは今後の方向性について模索していたようですが、それを反映するかのように、全6曲入りながらも見事バラバラな作風。泥臭いブルースロックからパンキッシュな曲、軽快なオルタナ系ギターロックなどなど、様々な作風の曲が並んでいました。アルバム1枚がこれだけバラバラだと、さすがに少々聴いてきて疲れてきそうなのですが、6曲入り程度のEPですと、このバラバラさが逆に楽しく感じてきてしまいます。どの曲も基本的にポップなメロディーラインが魅力的ですし、FOO FIGHTERSの幅広い音楽性が楽しめるEP盤になっていました。

評価:★★★★★

FOO FIGHTERS 過去の作品
ECHOES,SILENCE,PATIENCE&GRACE
GREATEST HITS
WASTING LIGHT
Saint Cecilia EP
SONIC HIGHWAYS

Concrete and Glod

FEET OF CLAY/Earl Sweatshirt

アメリカのラッパー集団、Odd Futureの中心メンバーの一人、Earl Sweatshirtの最新作は7曲入りのEP。直近のアルバム「Some Rap Songs」も15曲入りながらもわずか24分という短さだったのですが、本作もわずか15分という短さの内容で、次々と曲が展開してきます。気だるさを感じさせるダウナーなトラックがメインなのですが、その中でしっかりとした言葉を淡々とつづっていくラップが印象的。どこか哀愁感もあるメロディーラインもアルバム全体に流れており、前作同様、その短さも含めて、いい意味で非常に聴きやすいアルバムになっていました。

評価:★★★★★

Earl Sweatshirt 過去の作品
Some Rap Songs

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2020年1月 5日 (日)

ユニークながらも彼らの実力を感じさせるカバー

Title:KURICORDER QUARTET ON AIR NHK RECORDINGS
Musician:栗コーダーカルテット

リコーダーによるとぼけた雰囲気のサウンドで数多くの脱力ソングやアコースティックな暖かいポップソングを生み出してきた3人組バンド、栗コーダーカルテット。「ON AIR NHE RECORDINGS」と題された今回のアルバムですが、彼らとNHKとの関わりといえば、NHK Eテレの「ピタゴラスイッチ」のテーマ曲がよく知られています。ただ彼らの、特にメンバーのひとりである栗原正己とNHKの結びつきは非常に強く、特に幼児向け番組の「いないいないばあ」や「おかあさんといっしょ」では数多くの楽曲を提供し、その名前をクレジットで良くみかけます。NHKへの貢献度から考えると、どこかのタイミングで一度、紅白歌合戦に出場させてあげるべきと思うのですが(笑)。

本作は「NHK」の名前が冠されてるので、てっきりそんなEテレへの楽曲提供曲のセルフカバーだと思っていたのですが、そうではなく、NHK-FMで過去に放送された特番「栗屋敷」の中の「栗リクエスト」で披露したカバー曲を収録したアルバム。ピンクレディーの「サウスポー」からスタートし、斉藤和義の「歩いて帰ろう」やLed Zeppelinの「Black Dog」、さらにはももいろクローバーZの「Z女戦争」やらちあきなおみの「喝采」やら、さらにはベートーベンの「交響曲第5番『運命』第1楽章」まで、まさに古今東西、様々なタイプの楽曲がリコーダーによりカバーされています。

どの曲も脱力感あふれ、ユーモラスさと暖かさを同時に感じるカバーが大きな魅力。例えばDonovanの「Mellow Yellow」のカバーは、若干ピッチもはずしつつ、とぼけた雰囲気のアレンジに仕上がっているのが非常にユニーク。特に原曲とのギャップが大きかったのが「運命」で、おどろおどろしさがある原曲も、彼らの手にかかると、のどかさすら感じられる軽快で暖かいポップスへと早変わりします。

もちろん聴かせる部分はしっかりと聴かせてくれており、「喝采」もとぼけた雰囲気を醸し出しつつ、原曲の持つ哀愁感は楽曲の中でしっかりと表現されており、思わず聴き入ってしまうようなカバーに仕上げています。特にラストを締めくくる伊藤咲子の「乙女のワルツ」のカバーは、アコーディオンの音色で郷愁感たっぷりのカバーに仕上げており、インストながらも歌が聴こえてくるような素晴らしい内容になっており、本編ラストを良い心持で締めくくっている内容になっていました。

さらに本作にはボーナスディスクとして、NHK-FMの特番「今日は一日“プログレ”三昧」で披露された「栗コーダーカルテット meets Progressive Rock Giants」のスタジオライブがそのまま収録されています。ちょっとマニアックな内容(…ただ基本、有名曲がメインなので、限定されたマニア向けという感じではありませんが)になっているのですが、むしろミュージシャン栗コーダーカルテットの本領発揮と言えるのはこちら。複雑なプログレッシブロックの名曲を、見事リコーダーを中心としたアコースティックな楽器でカバーしきっています。

個人的に特に印象に残ったのがKraftwerkの「ヨーロッパ特急」のカバーで、ご存じの通り、エレクトロアレンジの同曲を、アコースティックにカバーしています。かなり力技な感じもあるのですが、それでもしっかりと原曲に「準拠」してカバーしてしまうあたりは見事。またFocusの「悪魔の呪文」ではボイスパーカッションまで飛び出しており、ユーモラスさを感じさせつつも、しっかりとカバーしてしまう、彼らの音楽的技巧の高さには、あらためて驚かされます。

よく知られたポップソングのカバーが多く、「ピタゴラスイッチ」などで彼らを知ったような方にも聴きやすく、かつユーモアさがとても心地よい傑作アルバム。ただ一方に、ボーナストラックなどで栗コーダーカルテットの音楽的な才能をしっかりと聴かせてくれた、そんなアルバムに仕上がっていました。あらためて本当に素晴らしいバンドですね。それだけにこのNHK貢献度から、一度くらいは紅白に(笑)。

評価:★★★★★

栗コーダーカルテット 過去の作品
15周年ベスト
夏から秋へ渡る橋
渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)

遠くの友達
生渋栗(川口義之with栗コーダーカルテット&渋さ知らズオーケストラ)
羊どろぼう
ウクレレ栗コーダー2~UNIVERSAL 100th Anniversary~
あの歌 この歌
20周年ベスト
ひろコーダー☆栗コーダー(谷山浩子と栗コーダーカルテット)

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2020年1月 4日 (土)

「令和」の時代のピチカート

Title:THE BAND OF 20TH CENTURY : NIPPON COLUMBIA YEARS 1991-2001
Musician:Pizzicato Five

1980年代から活動し、主に90年代に一世を風靡。特に90年代には渋谷系の代表格として日本はもとより海外でも高い評価を受けたユニット、Pizzicato Five。21世紀を迎えた直後の2001年に残念ながら解散してしまったものの、今なお多くのリスナーを魅了してやまないミュージシャンだったりします。そんな彼女たちのベストアルバムがリリースされました。この作品は、もともとメンバーでありピチカートのほとんどの曲を作詞作曲していた小西康陽が、自らDJとしてかけたい曲というコンセプトで曲をセレクト。それを7インチのアナログ16枚組としてリリースした作品が本体。同時にCD及びサブスクリプションでもリリースされましたが、曲順は大きく異なっており、選曲にも若干の違いがあります。

おそらく「メイン」は7インチのアナログ盤なのでしょうが、残念ながらレコードプレイヤーも持っておらず、これを機に・・・というほどの資力も(また部屋にプレイヤーを置いておく場所も)ないので、今回の感想は基本的にCD及び配信盤準拠となります。ユニークなのはその曲順ですが、CD及び配信盤はほぼリリース順に並んでいるのに対して、レコード盤はそうとはなっていない点。おそらく、CDや配信の場合、最初から最後まで一気に聴くスタイルであるということを考慮しての並びなのでしょうが、一方、レコード盤は1枚1枚のアナログに収録された曲同士の相性などを考えての曲順だったのでしょう。選曲についても、そんな曲順の中でマッチするかしないか、という点も重要だったのかもしれません。CD及び配信盤はレコード盤のおまけ的な位置づけであるのも関わらず、単純にレコード収録曲を並べただけ、という感じになっていない点に、まず小西康陽らしいこだわりを感じます。ちなみに一部サブクスで配信されていない曲もあるのですが、これは単なる権利の問題でしょう(・・・か、CDを買ってもらうための手段か・・・)。

また、アレンジ的にも微妙に原曲に対して手が加えられています。これもまた絶妙なところがあって、決して原曲の雰囲気を壊さないままに、音的に微妙に今の音にアップデートされている点がポイント。そのため、リアルタイムで聴いた時の懐かしさや雰囲気そのままに、同時に古臭さをほとんど感じないでピチカートの名曲たちを今の時代に楽しむことが出来ます。そういう意味でも、昔よく聴いたピチカートの曲たちを、今の時代に久しぶりに聴きなおすには、まさにうってつけといえるアルバムと言えるかもしれません。

そんなこともあり、サウンド的にもメロディーライン的にも全く色あせないピチカートワールドを楽しむことが出来るアルバムではあるのですが、一方、歌詞という側面からすると正直言って、少々時代性を感じてしまう点は否めません。冒頭を飾る「私のすべて」などは「生意気でわがままな女だけども可愛いから愛されている」という身も蓋もない歌詞が普通に歌われるのは、1991年というちょうどバブルが崩壊しはじめた時期の曲とはいえ、バブルの香りがまだまだ色濃く残っていた時代性を感じさせます。

時代は下がって、すっかりバブルが崩壊した後、1998年のナンバー「不景気」になると、「世の中不景気だから、気の利いた男の子に出会わない」という歌詞が登場してきます。ただ、これもこれで決して景気は悪くはないはずなのに、日本という国自体が沈没しかけている今の時代から考えると、かなり余裕があって、浮かれているようにも感じます。もっとも、「不景気」と歌っても、音楽業界的に90年代といえば、ミリオンセラー続出で、不景気な世の中とは異なり、空前絶後の好景気に沸いていた時期。そんな空気感を反映された明るさを歌詞の世界全体から感じることが出来ますし、また、そんな明るい空気感が、不景気にうんざりしているような人たち、あるいはそんな不景気とは無関係な若者世代に受け入れられたのかもしれません。

そういう時代性は感じつつも、もちろん楽曲自体の魅力は今なお衰えてないのは間違いありません。サウンド的にも今風にアップデイトされて、間違いなく今の時代に聴きやすい作品にアップデイトされた今回のアルバム。リアルタイムでピチカートを知らない世代の方にも諸手を挙げて是非、とお勧めしたくなるアルバムです。小西康陽が言及しているようにピチカートの復活はおそらくないとは思うのですが・・・ただ、ライブ限定とかで、いつかはやってほしい感じもするんですが・・・。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

カルペ・ディエム/THE BACK HORN

ベスト盤などのリリースもあり、オリジナルのフルアルバムとしては約4年ぶりとなったTHE BACK HORNのニューアルバム。ある種、非常にTHE BACK HORNらしいと感じられるアルバムで、ダイナミックでへヴィーなバンドサウンドに哀愁感たっぷりのメロディーライン。ベタという表現がピッタリくるような、いい意味でわかりやすさを感じさせる構成となっています。THE BACK HORNを聴いたな、という心地よい満腹感を味わえるアルバムでした。

評価:★★★★

THE BACK HORN 過去の作品
BEST
パルス
アサイラム
リヴスコール
暁のファンファーレ
運命開花
BEST OF BACK HORN II
情景泥棒
ALL INDIES THE BACK HORN

Wave My Flag/SEAMO

来年3月にデビュー15周年を迎えるSEAMO。今年2月にアルバムをリリースしたばかりの彼ですが、それからわずか8ヶ月、彼のシンボルである天狗の日こと10月9日にニューアルバムがリリースされました。相変わらず彼らしいリズミカルでテンポのよいトラックや、ユーモラスな歌詞などで楽しませてくれます。ラストはここ最近おなじみのシーモネーター名義の曲も。ただ、ここ最近、傑作続きだった彼ですが、正直本作は、いまひとつ目新しさやインパクトのある楽曲はなし。悪くはないけど無難に終わっていた印象が。15周年直前の天狗の日に、という意図があったのかもしれませんが、ちょっと急ぎ過ぎたのでは?ちょっと惜しさを感じた1枚でした。

評価:★★★★

SEAMO 過去の作品
Round About
Stock Delivery
SCRAP&BUILD
Best of SEAMO
5WOMEN
MESSENGER
ONE LIFE
コラボ伝説

REVOLUTION
TO THE FUTURE
LOVE SONG COLLECTION

THE SAME AS YOU(SEAMO&AZU)
ON&恩&音
続・ON&恩&音

Moshi Moseamo?
Glory

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2020年1月 3日 (金)

アルバムタイトル・・・が?・・・

Title:感謝!!!!! Thank you for 20 years NEW&BEST
Musician:AI

そのパワフルなボーカルが大きな魅力の女性R&BシンガーAI。そんな彼女のデビュー20周年を記念してリリースされたアルバムが本作。通常盤の方には新曲3曲に既発表曲のゴスペルアレンジによるニューバージョンが収録された全9曲入り40分というミニアルバム程度の内容に。一方、初回盤にはそこにDisc2として過去の代表曲を収録したベスト盤が付いてくる内容になっています。

タイトルに「NEW」とつけながら新曲が事実上3曲のみというのが若干賛否が起こりそうな感じなのですが、その3曲はいずれも魅力的。「Baby You Can Cry」は伸びやかに歌い上げるソウルバラード。「LIFE 'EM UP」はラップがかなむダイナミックでロッキンなナンバーになっており、こういうタイプの曲こそ、彼女の力強いボーカルが実によくマッチするように感じます。そして「ラフィン・メディスン」はネオソウル風なアレンジで爽やかなメロディーを聴かせる楽曲になっており、3曲中3曲がそれぞれ、違う形でAIの魅力を引き出す楽曲となっていました。

そこから先は彼女の代表曲をゴスペルにアレンジしたナンバー。もともと彼女の音楽的ルーツはゴスペルだそうで、今回のアルバムではあらためて彼女のルーツに立ち返ったゴスペルナンバーに挑戦したといったところでしょうか。正直、彼女のパワフルなボーカルもあり、かな~りのこってり風味の展開であるのですが、一方では彼女の力強いボーカルはやはり強い魅力。こってり風味から来る「くどさ」とパワフルな彼女のボーカルの「魅力」が天秤の両方でバランスを取った結果、なんとか魅力が勝っている印象。若干お腹いっぱいになりつつ、最後まで楽しむことが出来ました。

ただ、このアルバム、ちょっと気になる点があり、まずはそのタイトル。ってか、タイトルそのまま「感謝!!!!!」てなんだよ(苦笑)。いやまあ、感謝することは確かに大切だけども、それをそのままアルバムタイトルにするあたりにはっきり言ってうさん臭さを感じてしまいます・・・。

2枚目のベストアルバムに関しても、正直言って、そういう前向き応援歌的な歌詞の曲が、ちょっと鼻についてしまいました。特に気になったのが冒頭の「みんながみんな英雄」で、こちら「藁の中の七面鳥」の替え歌。これは個人的な好みの問題ではあるのですが、前にも書いたかと思うのですが、この手の「替え歌」というやつが個人的に苦手で、そんな「替え歌」にのってくるのがいかにもな前向き応援歌に、Disc2の冒頭からまずうんざりしてしまいました・・・。

その後も、確かに彼女のパワフルなボーカルを聴かせる力強い名曲が並んではいるのですが、どうしても所々に入ってくる「前向き応援歌」的な曲が気になってしまいました。彼女のボーカルはだみ声気味なので、どうしてもそういう「前向き応援歌」が良くも悪くもより押し付けがましく聴こえてしまいます。どうも最後まで気になってしまいました。

彼女のアルバムは以前から基本的にすべてチェックしており、以前はこういうことを気にならなかったんですが・・・今回はアルバムタイトルが悪かったのか、Disc2の1曲目が悪かったのか・・・個人的にどうも彼女の歌う「前向き応援歌」は押しが強すぎるような気がするんですよね。もちろん悪いアルバムではないのですが、どうもタイトルといい、気にかかってしまうアルバムでした。

評価:★★★★

AI 過去の作品
DON'T STOP A.I.
VIVA A.I.
BEST A.I.
The Last A.I.
INDEPENDENT
MORIAGARO
THE BEST
THE FEAT.BEST
和と洋


ほかに聴いたアルバム

新しい友達/川本真琴

ここ最近、再び積極的な活動が目立つようになってきた川本真琴のニューアルバム。ミニアルバムやカバーアルバム、ベスト盤のリリースはあったものの、川本真琴単独名義のオリジナルフルアルバムとしては2001年の「gobbledygook」以来、約18年半ぶり(!)となる作品となります。内容は峯田和伸や七尾旅人とのデゥオ曲などを含みつつ、パンキッシュな曲やトランシーなエレクトロチューン、ジャズの要素を入れた曲やボッサ風のナンバーにムーディーな曲までバラエティー豊富。ただどの曲も基本的に明るく爽やかなポップチューンとなっており、川本真琴らしさがアルバム全体を貫かれています。明るい作風の割には、メロディーラインのインパクトがいまひとつなのは最近の彼女の曲に共通しているのですが…ひょっとしてデビュー当初の彼女のように、変に売れすぎないようにわざとなのか?ただ、そのため楽曲の印象としてちょっと薄くなってしまうのが残念なのですが…。

評価:★★★★

川本真琴 過去の作品
音楽の世界へようこそ(川本真琴feat.TIGAR FAKE FUR)
The Complete Single Collection 1996~2001
願いがかわるまでに
川本真琴withゴロニャンず(川本真琴withゴロニャンず)
ふとしたことです

消えない-EP/赤い公園

2017年にボーカルの佐藤千明が脱退。その後、新メンバーとしてアイドルグループ、アイドルルネッサンスの元メンバー石野理子を迎え、新メンバーとなったバンド、赤い公園。そのボーカリスト変更後、初となるアイテムがリリースされました。そんな新作は5曲入りのミニアルバム。

ただ、もともとバンドの司令塔はギターの津野米咲としての方向性にほとんど変化はなく、ノイジーなギターでテンポよいバンドサウンドのギターロックながらも、サウンド的に凝った試みがされているという点はいままでと変わらず。本作でもファンクやサイケなどの要素を要所に感じられつつ、全体的には彼女たちにしてはシンプルなギターロックに仕上がっているのは、あくまでも新メンバーとしての挨拶代わりの1枚だから、ということも大きいのでしょうか。新ボーカル石野理子の声質も佐藤千明と似たような感じで、ここらへんはおそらく同じようなボーカルスタイルの人を誘ったということも大きいのでしょう。新メンバーとしての本領発揮はこれから、という印象を受けるのですが、まずはボーカルが変わっても赤い公園は安泰だ、ということを感じることの出来た作品でした。

評価:★★★★

赤い公園 過去の作品
透明なのか黒なのか
ランドリーで漂白を
公園デビュー
猛烈リトミック
純情ランドセル
熱唱サマー
赤飯

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2020年1月 2日 (木)

2019年の集大成

Title:DRIFT SERIES 1 - SAMPLER EDITION
Musician:Underworld

このサイトでも何度か紹介してきたUnderworldの新プロジェクト「DRAFT」。2018年11月からスタートしたこのプロジェクトは、自らも所属するデザイン集団TOMATOのほか、脚本家からジャズDJ、テクノDJ、画家、詩人など様々なジャンルの友人たちと立ち上げた、音楽のみならず映像や物語などで新たな創作を継続していくプロジェクトで、いままでもEPとして順次、音源がリリースされてきました。本作はその集大成ともいえるアルバム。基本的にはいままでのEPにも収録されてきた曲をまとめたアルバムなのですが、「DRAFT」として活動してきた2019年のUnderworldの全貌が伺えるアルバムとなっています。

そんな彼らの新作ですが、基本、以前リリースしたEPの集大成的なアルバムであるため、感想としては以前のEP盤の時の感想と大きくは変わりません。基本的にシンプルでダンサナブルな、良い意味でいかにもUnderworldらしい外連味のないテクノチューンが並んだ作品となっている本作。アルバムはダウナーでちょっと物悲し気な雰囲気の「Appleshine」、リズミカルながらも落ち着いた雰囲気の「This Must Be Drum Street」と比較的、抑え気味のナンバーからスタート。ただ、「This Must Be Drum Street」など典型的なのですが、落ち着いたリズムの向こうに感じる抑えきれない高揚感に、リスナーの気持ちも否応なく高まっていく展開になっています。

そしてここからは一気にトランシーなテクノチューンが続く展開に。祝祭色の強い「Listen To Their No」にちょっとダウナー気味ながらもトランシーなリズムが心地よい「Border Country」、インターリュード的な「Mile Bush Pride」を挟み「Schiphol Test」と続き、ここらへんはライブでも一気に盛り上がりそうな構成となっています。

その後は哀愁感ただようギターサウンドでしんみりと聴かせる「Brilliant Yes That Would Be」、軽快なテクノポップ的な楽曲「S T A R(Rebel Tech Version)」にリズミカルで軽快ながらもどこか悲しげなメロディーラインが流れている「Imagine a Box」とバラエティー富んだ展開が続き、最後はピアノなども入り爽やかなサウンドを聴かせる「Custard Speedtalk」で締めくくり。非常に後味のよいエンディングとなっています。

ちなみに今回、ボーナスディスク付きの国内盤を購入し聴いたのですが、このDisc2の方はよりバラエティー富んだ作品が並んでおり、美しいエレクトロトラックを聴かせる「Toluca Stars」や、感情こもった歌を聴かせる歌モノの「Dune」、ストリングスのアルペジオとゴスペル的に重厚なコーラスラインが美しい「Molehill」など、おそらく本編に入れてしまうと流れがわるくなってしまうために選曲できなかったであろう、よりバラエティー富んだ作風を聴かせる楽曲が並んでおり、Underworldのさらなる魅力を感じることが出来ます。

そういう訳で1枚のアルバムのように流れをしっかり考慮されており王道的なUnderworldの世界が楽しめるDisc1と、その世界をさらに拡張するかのようなDisc2、どちらも非常に魅力的なアルバムになっています。サブスクリプションなどではDisc1しか配信されていなようなので、機会があれば国内盤で是非。Underworldの魅力を再確認できる傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

UNDERWORLD 過去の作品
Oblivion with Bells
The Bells!The Bells!
Barking
LIVE FROM THE ROUNDHOUSE
1992-2012 The Anthology
A Collection
Barbara Barbara, we face a shining future
Teatime Dub Encounters(Underworld&Iggy Pop)
DRIFT Episode1 "DUST"
DRIFT Episode2 "ATOM"
DRIFT Episode3 "HEART"

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2020年1月 1日 (水)

あけましておめでとうございます

本年も当ゆういちの音楽研究所をよろしくお願いします。

さて、年度はじめは昨年を振り返る簡単な音楽に関しての雑感を書いているのですが、昨年のレコード大賞、Foorinの「パプリカ」の受賞、おめでとうございます。このニュース、かなりビックリしたのですが、ただ昨年のヒットシーンを考えると当然かな、という印象も受けます。特にこの曲、未就学児や小学生の低学年あたりに対する訴求力はすさまじいものがあります。昨年、家族でレゴランドへ遊びに行って、その時にレゴランドホテルに泊まったのですが、レゴランドのエレベーターって、子どもを楽しませるために音楽が流れているんです。もっとも基本的に外資系なので洋楽がメインなのですが、なぜかそんな中、唯一邦楽で「パプリカ」が流れていたのですが、「パプリカ」が流れ出した途端、エレベーターの中にいた幼児5、6人が一斉に「パプリカ」を歌い出した、という出来事がありまして・・・あらためて「パプリカ」の人気のほどを感じさせました。

しかし昨年のこのコーナーにも書いたのですが、この「パプリカ」もそうですが、ここ数年、ようやく音楽シーンに「ヒット曲」と言えるものが戻って来たように思います。昨年も「パプリカ」以外にもOfficial髭男dism「Pretender」「宿命」「イエスタディ」、King Gnu「白日」、米津玄師「馬と鹿」などヒット曲が多く誕生しました。

ただ、それらがCDの売上と結びついていないのは共通項で、この「パプリカ」にしても、CDもそこそこヒットしたとはいえオリコンの年間シングルランキングでこの曲は52位と、昔だったら「スマッシュヒット」という程度の小ヒットと認識されそうな程度の売上しかあげていません。そういう曲がしっかりとヒットとして認識され、レコード大賞までとってしまうあたり、もうCDの時代は完全に終わったんだな、という印象を受けます。そういえば今年のオリコン年間シングルランキングはここ数年の傾向通り、AKB系やジャニーズ系が上位を独占する結果となったのですが、もう誰もそのことを話題にすらしなくなりましたよね・・・。

この「パプリカ」もそうですし、「Pretender」もそうですが、ここ最近のヒット曲はしっかりと歌と曲を聴かせるような曲が増えているように思います。今年もヒットを続けた、米津玄師の「Lemon」なんかもそうですしね。ただその一方で、「Pretender」なんかはその背景にブラックミュージック的な要素をしっかりと織り込んだり、米津玄師の楽曲は複雑な構成をさらっとポップにまとめあげたり、決して単純な売れ線J-POPとは異なるよく出来たポップスがしっかりと売れているように思います。今年の「Music Magazine」のJ-POP/歌謡曲部門の年間ランキングでヒゲダンやあいみょんを取り上げて、過去のJ-POPの縮小再生産で、今の日本の不景気を象徴している、なんていう全くわかっていないコメントをのせた評論家もどきのコメントがありましたが、あまりにポピュラーミュージックの本質を理解していなくて頭が痛くなります。だからミューマガって、ただ奇抜さだけを売りにするようなつまんないアイドルポップを妙に高く持ち上げたりするんですよね。今後、この人は一切、ポピュラーミュージックを語る資格はないでしょう。

・・・・・・すいません、正月早々毒を吐いてしまいましたが、全体的に見て、今、日本のポップスシーンは良い方向に向かっているのは間違いないと思います。今年もヒゲダンや「パプリカ」、米津玄師やあいみょんに続くヒット曲を期待できそうです!

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