アルバムレビュー(洋楽)2019年

2019年6月18日 (火)

ポップ路線へシフト

Title:IGOR
Musician:Tyler,The Creator

HIP HOP集団Odd Futureのリーダーとしても活躍しているアメリカのラッパー、Tyler,The Creator。デビュー作「GOBLIN」ではそのグロテスクなPVが話題になり、日本でも大きな評判を呼びました。その衝撃的だった「GOBLIN」から早8年。正直言うと、デビュー当初に比べると、日本ではメディアなどで取り上げられる機会が少なくなってきたような印象を受けます。

しかし本国アメリカではむしろ逆。本作ではちょっと意外なことに初となるビルボードアルバムチャート1位を記録。イギリスのナショナルチャートでも自己最高位の4位を記録するなど、世界的に見たらむしろ人気は上り調子といった印象を受けます。

その人気のひとつの要因として考えられるのが、楽曲の方向性としてポップにシフトした、という点ではないでしょうか。デビュー作はある種の狂気を感じさせるようなヤバイ雰囲気が漂うアルバムでしたが、3枚目のアルバム「CHERRY BOMB」からポップ路線にシフト。そして5枚目となる本作は、その路線のひとつの到達点のような印象を受けました。

特に前半では「EARFQUAKE」でメロウな男性ボーカルの歌モノを聴かせたかと思うと、「I THINK」は陽気で楽しいダンサナブルなナンバーに。中盤の「NEW MAGIC WAND」はちょっとヤバげな雰囲気を漂わせるHIP HOPナンバーとなりますが、その後の「A BOY IS A GUN」「PUPPET」は胸にキュンとなるようなメロウなトラックが強く印象に残る楽曲となっています。

さらに、今回のアルバム、日本人として注目したいのは、なんと「GONE,GONE/THANK YOU」では山下達郎の「Fragile」をサンプリングしていることで大きな話題となっています。実は彼は以前ポットキャストの番組で山下達郎の曲を流したことがあり、山下達郎のファンということは知る人ぞ知る的な事実だったとか。それだけに今回、山下達郎の曲をサンプリングするのは自然な流れといったところなのでしょう。また今回のアルバムの流れの中でも山下達郎の曲がピッタリとマッチしていたように思います。

最後を締めくくる「ARE WE STILL FRIENDS?」もストリングスでメロウに聴かせるトラックをバックとした歌モノ。最後の最後まで非常に心地よさを感じるアルバムに仕上がっていました。

今回のアルバム、サウンド的にはHIP HOPのアルバムであることは間違いないのですが、ラップの要素は薄く、全体的に歌モノという印象を強く受けるメロウでポップな作品に仕上がっていました。デビュー当初の彼から考えると、かなり遠くまで来てしまったなぁ、という印象も受けます。ただ、間違いなくポップな作品としては逸品とも言える出来。エレクトロサウンドを取り入れたり、今風なトラップ的な要素を感じる曲もあったり、かと思えばダイナミックなギターサウンドを取り入れた曲もあったりとサウンドのバリエーションも豊かで最後まで飽きさせません。昨今の人気も納得の、満足感のあるアルバムでした。

評価:★★★★★

TYLER,THE CREATOR 過去の作品
Goblin
Wolf
CHERRY BOMB
Flower Boy

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2019年6月16日 (日)

アフリカとラテンの融合

Title:Celia
Musician:Angelique Kidjo

西アフリカはベナン共和国出身の女性シンガーソングライター、アンジェリーク・キジョーの最新作。グラミー賞を3度受賞しているほか、ザ・ガーディアン紙では「世界で最も影響力を持つ女性100人」に選ばれているなど、すっかりアフリカを代表するミュージシャンとして活躍しています。

そんな彼女の前作は、Talking Headsの名盤「Remain In Right」をアルバムごとカバーしたアルバムとして多いに話題となり、当サイトでも紹介させていただきました。アフロビートを取り入れた西洋音楽をアフリカの視点から解釈したというユニークなアルバムでしたが、本作のコンセプトもある意味、前作から続くもの。今回のアルバムは、伝説的なサルサ歌手、セリア・クルスに捧げた作品。サルサをアフリカ音楽の視点から再解釈しているユニークなアルバムになっています。

そもそもサルサという音楽はキューバからの難民によりニューヨークで生まれた音楽。西洋音楽と非西洋音楽の融合から生まれたという意味では、前作で彼女がカバーした「Remain In Right」と似たような構図かもしれません。また、そのサルサもルーツをたどるとやはりアフリカ音楽に結びつくわけで、そんなサルサという音楽をアフリカ音楽の視点から再解釈した試みは非常に興味深く感じます。

実際にサルサというジャンルとアフリカの音楽の相性はとてもよくマッチしているように感じます。例えば1曲目「Cucala」はアフリカ的なポリリズム風のビートやコールアンドレスポンズというスタイルと、サルサの要素を感じる爽快感あるホーンやギターの音色が非常に上手くマッチ。「Toro Mata」も哀愁感あふれるメロディーラインはまさにラテンといった感じなのですが、これにトライバルなパーカッションが実に上手く融合されています。

また「Sahara」のようにピアノとストリングス、さらには静かなパーカッションをバックに哀愁感たっぷりに伸びやかに歌い上げる楽曲は完全にラテン風。また、その歌声には彼女のボーカリストとしての実力を感じされます。さらに軽快なパーカッションとホーンセッションが楽しい「Baila Yemaya」もラテンのテイストが強いナンバーに仕上がっています。

このようにラテンテイストの比較的強いナンバーが並ぶ今回のアルバムですが、その一方、アルバム全体としてトライバルなパーカッションが一貫して流れている作品に。また、アフリカ音楽的なコールアンドレスポンスやポリリズムも多く取り入れており、そういう意味ではラテン色とアフリカ色を見事に両立されているアルバムになっていました。まさに彼女なりにサルサを解釈したアルバムと言える1枚で、前作に引き続き、間違いなく傑作と言える作品に仕上がっていたと思います。アフリカ音楽が好きな方にもラテンが好きな方にも文句なしでお勧めしたい作品です。

評価:★★★★★

Angelique Kidjo 過去の作品
Remain in Light


ほかに聴いたアルバム

Retroactive-EP1/Keane

2013年にリリースしたベスト盤を最後に無期限の活動休止となったイギリスのロックバンドKeane。ただ昨年、待望の活動再開がアナウンスされ、9月には待望の新譜も予定されています。本作はそんなニューアルバムに先駆けてリリースされたEP盤。過去のライブ音源やデモ音源を収録した4曲入りの作品で、どちらかというとファンズアイテム的な様相の強いアルバムになっています。活動再開へのご挨拶的な作品と言えるでしょうか。ただ、ピアノを主体としたサウンドに狂おしいまで美しい彼らのメロディーに、Keaneの魅力を再認識させ、また来るべきアルバムが楽しみになってくるような、そんな作品でした。

評価:★★★★

KEANE 過去の作品
Perfect Symmetry
NIGHT TRAIN
Strangeland
The Best Of Keane

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2019年6月11日 (火)

多彩な女性ボーカルが参加

Title:I Am Easy To Find
Musician:The National

アメリカはニューヨーク、ブルックリンを拠点として活動しているインディーロックバンド、The National。2010年にリリースしたアルバム「High Violet」がアメリカビルボードチャートで3位にランクインするなどブレイク。特に前々作「Trouble Will Find Me」は各種メディアなどでも高い評価を受け、日本でも一気に注目が集まりました。ただ、彼ら自体の結成は1999年というから、なにげにキャリア20年を誇るベテランバンド。その作風からは長いキャリアに裏付けされた安定感も覚えます。

さて、そんな彼らの約2年ぶりとなるニューアルバム。本作もアメリカビルボードでは5位、イギリスのナショナルチャートでは2位にランクインするなど、人気の面でも安定してきています。The Nationalといえば、哀愁感と優しさを同居させたようなメロディーラインをシンプルに聴かせるポップバンドという点がひとつの大きな特徴。本作でも、その特徴な遺憾なく発揮されています。アルバムの冒頭を飾る「You Had Your Soul With You」もテンポ良い楽曲ながらもゆっくりと優しく包み込むのようボーカルで歌われる暖かみのあるポップソングが魅力的。まずは彼ららしい魅力的なポップチューンでアルバムの幕は開きます。

そして今回のアルバムの特徴は数多くの女性ボーカリストが参加している点。例えばボーカル、マット・バーニンガ-のボーカルに寄りそうように優しく歌われる「Roman Holiday」ではデイヴィット・ボウイのセッションミュージシャンとしても活躍したゲイル・アン・ドロシーが参加。彼女はどちらかというとバックコーラスとしての参加となるのですが、長いキャリアを持つ彼女らしい深みのあるコーラスが大きな魅力となっています。

またタイトル曲「I Am Easy To Find」ではThis Is the Kit名義でも活躍している女性シンガー、ケイト・ステーブルスが参加。静かな歌声で優しく聴かせてくれていますし、「So Far So Fast」ではアイルランドのシンガーソングライター、リサ・ハニガンがほぼメインボーカルとして参加。ドリーミーでサイケ気味なサウンドをバックに、その美しいボーカルを聴かせてくれています。

さらには女性ボーカルではありませんが、「Her Father In The Pool」「Dust Swirls In Strange Light」「Underwater」ではブルックリン青少年合唱団が参加。合唱団の美しく澄み切った歌声が、楽曲に神々さすら与えており、アルバムの中でも大きなインパクトとなっています。

そんな訳で女性ボーカリストの参加により楽曲がより美しく、優しさを感じさせるようになった今回のアルバム。それに呼応するためか、サウンド面でも前作に見受けられたガレージロック的な楽曲はなくなり、逆にピアノやストリングスを取り入れたアコースティック色の強い楽曲が多くなり、サウンド面でも優しさを感じさせるポップなアレンジに仕上がっていたように感じます。

ちなみに今回のアルバム、女性ボーカルが参加するも、あえて特定のボーカリストが参加するのではなく、多くのボーカリストが参加しているのは、マット曰く「人々のアイデンティティの構造をより多く表現しようと思った」からだそうで、その多様性もまたこのアルバムの大きな魅力となっています(ちなみに男性が参加していないのはマットが男は嫌だったからだそうです(笑))。

前作も比較的シンプルで優しいポップチューンが大きな魅力でしたが、今回は多様な女性ボーカルが参加することによりその魅力がより際立った傑作アルバムに仕上がっていたと思います。シンプルゆえに比較的多くの方に素直にお勧めできる傑作アルバム。ポップなメロディーが心に染み入る作品です。

評価:★★★★★

The National 過去の作品
Sleep Well Beast


ほかに聴いたアルバム

Rammstein/RAMMSTEIN

ドイツのメタルバンドによる約10年ぶり、久々となる新作。非常に重いメタリックなサウンドでダークに聴かせる楽曲が特徴的。このヘヴィーな楽曲の雰囲気に、ある種の堅苦しさを感じさせるドイツ語が妙にマッチしており、妙なインパクトを与えています。彼らのアルバムを聴くのはこれがはじめてですが、このドイツ語という点も含めて非常にインパクトを覚えるアルバムになっていました。

評価:★★★★

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2019年6月 9日 (日)

アフリカン・アメリカンの「レガシー」をテーマに

Title:LEGACY!LEGACY!
Musician:Jamila Woods

前作でデビュー作であるアルバム「Heavn」が、各種メディアの年間アルバムランキングで上位にランクインし高い評価を得たシカゴのR&BシンガーJamila Woods。最近では話題のHIP HOPミュージシャン、Chance the Rapperの「Sunday Candy」に参加していることでも大きな注目を集めました。そんな彼女の約3年ぶりとなる2枚目のニューアルバムが本作。今回、彼女のアルバムをはじめて聴いたのですが、このデビュー作の高い評判に違わぬ傑作アルバムに仕上がっていました。

まず本作で印象的だったのは彼女の歌声。アルバムの1曲目を飾る「BETTY」は静かな雰囲気のトラックでしんみりと聴かせる楽曲になっていましたが、包み込むような雰囲気のボーカルが魅力的。ちょっとしゃがれた雰囲気の声も大きな魅力となっており、一言でいえばスモーキーという表現がピッタリ来るのでしょうか。ボーカリストとしての深みを感じるそのボーカルが大きな魅力になっていました。

また今回のアルバムは「LEGACY!LEGACY!」というタイトルが示すように彼女が今までの人生で影響を受けてきた芸術作品がテーマになっています。実際、特にアフリカン・アメリカンの芸術家の名前を冠した楽曲が並んでおり、「ZORA」は1920年代から40年代に活躍した作家、ゾラ・ニール・ハーストンの名前ですし、「MILES」はまさにジャズの巨人、MILES DAVISの名前。同じくジャズミュージシャンの「SUN RA」の名前を付けた曲もありますし、「MUDDY」なる曲はやはりMUDDY WATERSの名前を冠した曲ということでしょうか。アフリカン・アメリカンの偉大なる業績を伝えるテーマ性の強いアルバムになっています。

もっとも楽曲的にはそんな偉人たちの影響をそのまま受けた・・・というよりはしっかりとジャミーラの色と付けた、聴かせるメロウなソウルチューンが並びます。アルバムとしてはしっかりと歌を聴かせる楽曲が並んでおり、シンプルに彼女の歌声を聴かせる楽曲が耳を惹きました。

そんな中でも例えば「SONIA」ではラップを取り入れ、エレクトロなトラックの中には今風のリズムを入れてきていますし、「MILES」ではその名前の通りか、エレクトロジャズの要素も。また、「MUDDY」では力強いギターの音も取り入れたり、楽曲によりバラエティーを感じさせまず。全体的には彼女のスモーキーなボーカルを含め、昔ながらのソウルの要素を強く感じつつ、一方では強いリズムトラックが耳を惹く、比較的今風にアップデートされたサウンドが大きな魅力に感じました。

今回のアルバムがはじめて聴いた彼女のアルバムとなるのですが、その歌声とメロディーに強く惹かれる傑作アルバムだったと思います。まだ本作が2作目となるキャリア的にはまだまだのミュージシャンですが、ボーカルにはある種の貫禄すら感じますし、これからの活躍が非常に楽しみなミュージシャン。ソウルやR&Bが好きなら間違いなく要チェックの1枚です。

評価:★★★★★

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2019年6月 8日 (土)

シンプルなサウンドと歌が魅力的

Title:Spirit
Musician:Rhye

ロサンジェルスを拠点に活動する男性2人組デュオ、Rhye。デビュー作「Woman」で大きな注目を集め、昨年リリースした2枚目のアルバム「Blood」も傑作アルバムに仕上がっていました。そんな彼らが続いてリリースしたのは前8曲入りのEP。うち1曲はイントロ的、あと1曲インターリュード的なインストナンバーが入り、実質6曲入り27分という短い作品ですが、今回のアルバムも彼らの魅力がしっかりと詰まった傑作アルバムに仕上がっていました。

さて、ピアノの静かな音色に彼らの澄み通るボーカルを聴かせるイントロ曲「Dark」に続くのが事実上の1曲目であり、ミュージックビデオが先行配信された「Needed」なのですが、まずこれが実に美しい!彼らのウイスパー気味のハイトーンボイスに静かなピアノやストリングスが重なるサウンドがとにかく美しいのですが、さらに静かに聴かせるメロディーラインがとにかく切なく、胸に染み入ってくるような楽曲になっています。

さらに「Patience」ではアイスランドのミュージシャン、オーラヴァル・アルナルズが参加。本作もピアノの音色とボーカルがとにかく美しいナンバーなのですが、特に本作では楽曲全体に流れるピアノの調べが非常に瑞々しい美しさを感じさせます。そしてインスト曲を挟み、「Wicked Dream」はメロディアスな歌を聴かせる、この中では比較的テンポが速めのポップチューン。シンセも入り、ちょっと懐かしさも感じるAORのテイストの強いナンバーに仕上がっています。

後半も美しい楽曲が続きます。「Awake」はピアノとストリングスの音色のみで伸びやかに美しく聴かせるバラードナンバー。幻想的な雰囲気はこのアルバム随一な楽曲に仕上がっています。そしてラストを締めくくる「Save Me」は切なく歌い上げるボーカルが印象に残るのですが、ピアノの音色は意外と可愛らしく、比較的明るくポップにまとまった楽曲に。最後は爽やかな印象でアルバムは幕を閉じます。

全編、ピアノやストリングスが入り静かに美しく聴かせるサウンドと、澄み切ったボーカルが歌う切ないメロディーが魅力的な楽曲が並びます。エレクトロサウンドなども取り入れていた前作「Blood」と比べると、打ち込みは抑えめとなり、ピアノとストリングスのアコースティックな音が目立つ構成になっています。その結果、サウンド的には暖かみが増したという印象を受けるのですが、一方、そのサウンドに呼応するようにボーカルには前作よりも包容力を感じさせます。ただしその一方で、前作の魅力だったボーカルのエロティシズムは本作からは皆無。もっともその歌声は前作から大きくは変わっているわけではなく、サウンドとのバランスにより絶妙にスタイルを変えてくる、そのボーカリストとしての表現力に舌を巻く内容になっていました。

楽曲的には決して今風といった感じではなく、シンプルなサウンドにあくまでも歌を聴かせる、いい意味でシンプルな、ある種の普遍性を感じさせるポップスが魅力的。特に今回の作品ではアコースティックなアレンジもあり、そのシンプルさがより前に出てきたように感じます。とにかく終始、その美しい歌声に聴きほれる傑作アルバム。シンプルなゆえに、その歌の魅力がより際立ったアルバムでした。

評価:★★★★★

Rhye 過去の作品
Blood


ほかに聴いたアルバム

Purse/Elvis Costello&The Imposters

4月13日のレコードデイ限定でリリースされたエルヴィス・コステロの4曲入りEP。その後、ストリーミングでも配信を開始し、そちらで聴くことが出来ました。全4曲入りの内容はコステロがボブ・ディラン、バート・バカラック、ジョニー・キャッシュ、ポール・マッカートニーという錚々たる面子とコラボした楽曲が収録された作品。どれもミディアムテンポで聴かせる曲が多く、いい意味で安定感を覚える楽曲に。正直言うと派手さはないのですが、安心して聴くことが出来る良質なポップスが4曲並ぶ作品になっていました。

評価:★★★★

Elvis Costello 過去の作品
Momofuku(Elvis Costello&the Imposters)
Secret,Profane&Sugarcane
National Ransom
Wise Up Ghost(Elvis Costello&The Roots)
LOOK UP(Elvis Costello&the Imposters)

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2019年6月 7日 (金)

雅楽を取り入れた独特なアンビエント

Title:Anoyo
Musician:Tim Hecker

カナダ人のアンビエントミュージシャン、Tim Heckerの最新作。非常に高い評価を得た前作「Konoyo」は日本を代表する民間雅楽団体である東京楽所と共に、東京練馬の観蔵院というお寺で録音された音源を使用し、雅楽とアンビエントを融合させた独特のサウンドを展開。各種メディア等において高い評価を得た傑作アルバムでした。タイトルの「Konoyo」も日本語の「この世」から取られたように、日本とつながりの深いアルバムになっていました。

それに続く新作「Anoyo」も前作で使用した東京楽所の演奏の音源を使用したアルバム。「Anoyo」ももちろん日本語の「あの世」から取られており、いわば前作とは姉妹盤とも言えるアルバムになっています。また、そのため今回のアルバムも非常に日本とつながりの深いアルバムに仕上がっていました。

今回は全6曲入りのアルバムになっていたのですが、特にサウンドについては前作以上に雅楽の音を深く取り入れた作品に仕上がっていたように感じます。アルバムの冒頭「That World」は最初、琴の音から静かにスタート。その琴の音を奏でられた一番最初に、わずかに小鳥の声も入っており、まさに日本の自然の中で奏でられた、優雅な雰囲気を感じさせるはじまりとなっています。

続く「Is but a simulated blur」も笙と太鼓の音からスタート。この雅楽の音にエレクトロサウンドが重なり、中盤からダイナミックなサウンドに展開されます。笙と太鼓の音は終始鳴り響いているのですが、このダイナミズムさは雅楽のイメージからすると少々異なる雰囲気となっているのがおもしろいところ。雅楽の音は取り込みつつも、日本人が思い描く神聖なイメージとはちょっと異なった音作りをしている点が非常にユニークに感じさせます。

そしてそんな中でも特に雅楽器を前に押し出したのが5曲目の「Not alone」でしょう。静かな琴の音をバックに力強い太鼓のリズムが全編で展開されるナンバー。静かなアンビエント調のエレクトロサウンドと動的な太鼓のリズムの対比が見事な作品になっており、雅楽というよりはむしろ和太鼓の印象を強く抱く楽曲なのですが、そのダイナミックな演奏が強く印象づけられる作品になっています。

さて、雅楽の要素を前作以上に押し出されたアルバムになっていた本作ですが、ただおもしろいのが雅楽器を前に押し出しておきながら、一般的に日本人が想像するような雅楽的な雰囲気とはちょっと異なる感触となっていた点でした。特に前述の「Not alone」などダイナミックな太鼓を聴かせる部分などは優雅さがイメージされる雅楽とは真逆の雰囲気。こういう雅楽器の使い方は、ある意味日本人ではおそらく思いつかないようなサウンドだったのではないでしょうか。

かといって逆に外国人が日本といって想像するような、いかにも陳腐な日本イメージとも無縁。そういう意味では「日本」というイメージから作品を作り上げたというよりも、純粋に雅楽器の音色に惹かれた結果、制作された作品といったイメージが強く、雅楽器をそのままTim Hekerのアンビエントの世界に取り入れたアルバムになっていたように感じました。

ただとはいっても日本人にとってはどこか馴染みやすさを感じるアンビエントのアルバム。日本では前作同様、残念ながらさほど大きく取り上げられていないように感じますが、日本人なら是非聴いておいてほしいアルバムだと思います。アンビエントなサウンドもとても心地よい傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Tim Hecker 過去の作品
Konoyo

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2019年6月 4日 (火)

今でも魅力的な幻の名盤

Title:You're The Man
Musician:Marvin Gaye

主に60年代から70年代にかけてモータウンに所属し、数多くのヒット曲を世に送り出したソウルシンガー、マーヴィン・ゲイ。特に1971年にリリースされたアルバム「What's Going On」はその社会的なメッセージ性を含む歌詞を含めて、ソウルというジャンルを越えて音楽史上に残る名盤の誉れ高い1枚として知られています。本作はもともと、その「What's Going On」に続きリリースの予定されていたアルバム。ただ、先行シングルであったタイトルチューン「You're The Man」がビルボードのソウルチャートでは上位を記録したものの、ポップチャートで伸び悩んだためアルバムのリリースが中止となったそうで、いわば「幻のアルバム」と言える作品。今回、マーヴィンの生誕80年、モータウンの設立60周年を記念し、その「幻のアルバム」がリリースされる運びとなりました。

ただし、「幻のアルバム」といってもその収録予定曲はいままでいろいろな形で世に出ており、今回、未発表ミックスは何曲か収録されていますが、純粋な形での新曲はありません。もっとも、発表されたアルバムはボックス盤の中の1曲だったりして、熱心なファン以外にとってはやはり耳なじみのない曲が多く、また、彼が意図した形でのアルバムでのリリースはやはり非常に意義深いアルバムだと言えるでしょう。

さて、そんな曰く付きのアルバムですが、既に40年以上前のアルバムにも関わらず、今聴いても全く時代を感じさせない名曲が並んでおり、マーヴィンの魅力にあらためて強く惹かれる傑作に仕上がっていました。アルバムは先行シングルでもあるタイトルチューンの「You're The Man」からスタートするのですが、彼がハイトーンボイスで伸びやかに聴かせる中、パーカッションとギターで奏でるリズムが非常にグルーヴィーで心地よく、これがなんでポップスチャートでヒットしなかったか、今の感覚で聴くと不思議になってきます。

その後もピアノやストリングスを入れつつ、その透き通ったボイスでメロウに聴かせる楽曲が並びます。ソウルをベースにAORテイストの強い「Piece Of Clay」「Where Are We Going?」では心に染み入るような優しい歌声を聴かせてくれたかと思えば、「Try It,You'll Like It」ではソウルフルなボーカルでパワフルに歌い上げるなど、緩急つけたそのボーカルが実に魅力的。「I'd Give My Life For You」などジャジーなサウンドで感情たっぷりにムーディーに歌い上げる楽曲もあったり、ソウルにジャズ、ファンク的な要素を加えメロウに歌い上げるそのスタイルは、現在のネオソウルに続くスタイルも彷彿とさせます。

特に中盤の「My Last Chance」は彼の優しいハイトーンボイスの歌声とメロウなメロディーラインが胸をかきむしられるほど魅力的に心に響いてくる名曲。様々な音楽性を取り入れたそのスタイルももちろん、その歌声、美しいメロディーラインには普遍的な魅力を感じさせ、今でも全く古さを感じさせない理由はそのような普遍性を本作が強く持っているからではないでしょうか。

また本作は歌詞も大きな特徴となっており、前半は社会派のメッセージ性の強い歌詞、後半はラブソングが並ぶ構成になっています。特に前半、タイトルチューン「You're The Man」ではアメリカの現状を嘆いた上にそんな時代を代えたいのなら投票に行くべきと歌う楽曲。さらに続く「The World Is Rated X」は今の世界のひどさを嘆いた上で、こんなひどい世界は子どもに見せられない、18禁にすべきだ、と歌う、ある意味皮肉たっぷりのユーモアを感じさせる歌詞が魅力的。全体的には「愛と平和」を歌う・・・と書くとちょっと陳腐に感じるかもしれませんが、そのメッセージは(残念ながら)今でも強く響いてくる内容になっています。

マーヴィン・ゲイといえば前述したアルバム「What's Going On」ももちろん、1973年にリリースされた「Let Get It On」も名盤の誉れ高く、それだけ脂ののっていた時期ということでしょう。そんな中で企画・制作された本作が悪い訳がありまえん。逆にこれだけの出来にも関わらず、リリースされなかったというのが今となっては不思議で仕方ないのですが。マーヴィンの新たな名盤が登場、そう言っても全く過言ではない傑作アルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Live Through the Years/Billy Joel

Billy Joelの最新作は配信限定リリースのライブ盤。以前に映像作品のみリリースされた公演のライヴ音源や「The Stranger: 30th Anniversary Legacy Edition」のiTunesおよびBest Buyエディションにのみ収録されていたライヴ音源なども収録した内容になっています。年代的に1977年のライブ音源から2006年の音源まで時代順に並んでおり、初々しさも感じさせる1977年の録音に対して、時代を経るにつれボーカルがよりパワフルに、より貫録がついてくるのがよくわかる内容になっています。もちろん、どの時代の音源もメロディアスでポップな彼の楽曲の魅力は健在。ベスト盤的にも楽しめるライブ盤になっていました。余談ですが、15曲目、1994年のドイツでのライブ音源「My Life」に、なぜか日本語で「バカヤロー」と叫んでいるように聴こえる部分があるのですが、なぜ日本語??それとも単なる「空耳」???謎です・・・。

評価:★★★★★

BILLY JOEL 過去の作品
LIVE AT SHEA STADIUM
She's Always a Woman to Me:Lovesongs
A Matter of Trust: TheBridge to Russia

The Balance/Catfish and the Bottlemen

イギリスはウェールズで結成された4人組インディーバンド。いまどき珍しいギミック抜きのストレートなロックバンド。適度にヘヴィーでダイナミックなバンドサウンドを聴かせつつ、疾走感あるオルタナ系の色合いの強いロックチューンも聴かせたりして、ロックリスナーにとっては素直に心地よいギターサウンドを聴かせてくれます。そんなバンドが前作「The Ride」では全英チャート1位を獲得し、本作も2位を獲得とブレイクしているあたり、まだまだロックの人気は根強いな、とも感じさせます。

ただ全体的に骨太のサウンドは最初は非常に心地よさを感じる反面、最後まで聴くと、若干胸やけしてしまうような感覚も。泥臭いサウンドは魅力的ではあるのですが、良くも悪くもひねりのないロックになっており、そういう意味ではちょっと保守的な印象も強く受けるアルバムでした。

評価:★★★★

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2019年6月 1日 (土)

洗練されたフォークロックが魅力

Title:U.F.O.F.
Musician:Big Thief

アメリカはニューヨーク、ブルックリンを拠点としている4人組インディーロックバンドBig Thief。ソロでも大きな評価を受けている女性シンガーソングライター、エイドリアン・レンカーを中心としたバンドで、2016年にリリースしたデビューアルバム「Masterpiece」が文字通りの傑作アルバムとして大きな評価を受け、一躍注目を集めたバンド。本作ではインディーレーベルの名門4ADに移籍。満を持しての2ndアルバムとなりました。

そんな注目のバンド、Big Thiefは、「大泥棒」という名前とは裏腹に全編メロディアスに聴かせるフォークロックのバンド。アコースティックギターを中心としたシンプルなサウンドが持ち味で、エイドリアン・レンカーのウィスパー気味の透き通るようなボーカルを聴かせるメロディアスで静かな歌が持ち味のバンドとなっています。

切なさを感じる美しいメロディーラインが魅力的で、タイトル曲である「U.F.O.F.」は澄みきった歌声を美しいアコギのアルペジオをバックに聴かせる、どこか切なさを感じさせる楽曲になっていますし、「Open Desert」などもギターを入れてちょっとドリーミーなアレンジになっていながらも静かに聴かせるフォーキーなメロが大きな魅力に。また個人的に一番気に入ったのが「Terminal Paradise」で、エイドリアンのウィスパーボイスに重なる男性のコーラスのバランスが絶妙。時折、こぶしを利かせたような歌い方を入れ、力強さも感じさせます。

インディーロックバンドらしいギミック的なものはほとんどなく、アルバムは終始、アコースティックでフォーキーなサウンドと美しいメロディーラインで構成された歌モノのポップスが続きます。あえていうのならば1曲目「Contact」の終盤にノイジーなギターが入ってくる点と終盤の「Jenni」がへヴィーでノイジーなギターが流れるダウナーなロックに仕上がっている点くらい。ここらへんもアルバムの中ではちょうどよいインパクトとなっていました。

アメリカのこの手のバンドとしてありがちなカントリーの色合いはほとんどなし。また、それと同時にアメリカのバンドにありがちな泥臭さもほとんどなく、ジャケット写真から想像できるようなヒッピー的な雰囲気もほとんどありません。いい意味で爽やかさを感じる垢抜けたメロディーラインが大きな特徴で、ブルックリン出身らしい都会のバンドっぽい洗練さを感じさせます。田舎の空気を感じさせるバンドももちろん魅力的なのですが、そういうバンドはいかにもアメリカらしさが良くも悪くも特徴的。それに比べて彼らのサウンドは洗練されているがゆえに日本人にとってもすんなりとなじみやすい作品になっていたように感じます。

今回のアルバムも既に高い評価を得ているようですが、日本ではまだまだ知名度も低い彼ら。ただ、インディーロック好きなら文句なしにはまりそうなアルバムですし、これから注目度もどんどん増していきそう。基本的に楽曲はシンプルな歌モノがメインなだけに小難しさはありませんし、広い層にアピールできるアルバムだと思います。ポップス好きなら要注目の1枚です。

評価:★★★★★

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2019年5月28日 (火)

ちょっと雰囲気の異なる久しぶりの新譜

Title:Father of the Bride
Musician:Vampire Weekend

2008年にリリースされたデビュー作「Vampire Weekend」が大きな注目を集め、新進気鋭のインディーロックバンドとして話題を集めたVampire Weekend。その後、2010年にリリースされた2ndアルバム「Contra」はなんとビルボードチャートで1位を獲得。インディーズという枠組みを超えた人気を獲得しています。2016年にはキーボードのロンタム・バトマングリが脱退し、3人組となってしまいましたが、約6年ぶりの新作となった本作もビルボードチャートで1位を記録。これで3作連続1位を獲得し、その人気のほどを見せつけました。

ただ、久しぶりとなった今回のアルバムは、これまでのアルバムとは少々異なる雰囲気になっており、戸惑いも覚えました。具体的に言うと、いままでのタイトなアフロビートのリズムは後ろに下がり、メロディーラインを前に押し出した歌モノがメインになっており、良くも悪くもあか抜けたという印象を強く抱きました。

まずアルバムの1曲目「Hold You Now」からいきなりアコギを使ってフォーキーな作風に。ガールズロックバンドHAIMのダニエル・ハイムをゲストボーカルに迎えた爽やかさも感じるポップスに、いつもとは異なる作風を感じます。

続く「Harmony Hall」「Bambina」、先行シングルともなった「This Life」はシンプルでアフロ風のビートが楽しめる、比較的以前の彼らのイメージを引き継ぐようなポップスになっていたのですが、ポップなメロディーを前に押し出した歌モノの要素が強くなっています。もちろん彼らはいままでの作品もメロディーのポップさが大きな魅力だったのですが、メロディーラインは良くも悪くもあか抜けた印象を受けるインパクトあるものとなっていました。

特に後半は新たな要素を加えたようなポップが並びます。例えば「Rich Man」もタイトなリズムが流れつつも、優雅な雰囲気のストリングスが流れるポップに。同じくダニエル・ハイムを迎えた「Married in a Gold Rush」も男女デュオによる爽快なポップチューンになっていますし、さらに「My Mistake」に至ってはピアノが流れるジャジーなポップスになっており、いままでの彼らのイメージとは大きく異なる作風に驚かされます。

その後もラテンな要素を取り入れた「Sympathy」やAORな色合いを感じる「Sunflower」など新たな作風の曲が目立ちます。今回のアルバムは58分弱という長さながらも18曲入りという、1曲あたりが2、3分程度の短めの曲が並ぶなのですが、それだけに後半はいろいろなタイプの曲が次々と展開されるような構成になっていました。

正直言うと、本作の評価については難しいなぁ・・・というのが感想。いままでのタイトはアフロポップという方向性が薄くなってしまい、彼らの持ち味がちょっと薄れてしまった反面、新たなスタイルを提示できたかというとちょっと微妙な部分もあります。ただ一方、後半にみられる新たな挑戦は彼らの新たな可能性を示唆していますし、またいままでのアルバムでも感じることが出来た魅力的なポップなメロは健在。また、アフロっぽいリズムもそれなりに残ってはいないし、シンプルなサウンドという方向性は今回も変わりありません。

個人的には残念ながらいままで3枚のアルバムに比べると劣ってしまうかなぁ、とも思うのですが、それでも魅力的なポップである点は変わらないため下の評価で。次回作がどのような方向になるのかは気にかかるところなのですが・・・新たな一歩に踏み出した彼らのこれからも注目したいところです。

評価:★★★★★

VAMPIRE WEEKEND 過去の作品
VAMPIRE WEEKEND
CONTRA
Modern Vampire Of The City
This Life/Unbearably White


ほかに聴いたアルバム

Hurts 2B Human/P!NK

アメリカをはじめ全世界で絶大な人気を誇る女性シンガーソングライターP!NKの2年ぶりとなる新作。このアルバムも当然のように全米でチャート1位を獲得し、その人気のほどを見せつけています。基本的にR&Bをベースとしているのですが、男女デゥオでしんみり聴かせるバラードがあったり、エレクトロサウンドでリズミカルなダンスポップがあったり、レトロ調のポップがあったりとバリエーション豊富。インパクトあるポップチューンが並んでおり、彼女がこれだけ売れるのも十分理解できます。また、インパクトあるポップをごった煮的なジャンルで聴かせるというのは、ある種の「J-POP的」とすら言えるのかも・・・??

評価:★★★★

P!NK 過去の作品
FUNHOUSE
BEAUTIFUL TRAUMA

Free Spirit/Khalid

昨年のグラミー賞では最優秀新人賞含む5部門にノミネートされた期待の男性R&Bシンガー、カリードによる2枚目のアルバム。ただ楽曲的には比較的オーソドックスなR&Bという印象で、AORに近い作風もチラホラ。彼の写真を見ると、比較的ふくよかな感じなのですが、な~んとなく槇原敬之に似ている印象が・・・というか、楽曲もジャンル的にはちょっと違えど、シンプルに歌を聴かせるという点ではマッキーに近いタイプのような印象を受けました。日本でも今後、もっと売れそうな予感もするシンガーです。

評価:★★★★

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2019年5月25日 (土)

アフリカン・アメリカンにバンジョーを取り戻す

Title:Songs Of Our Native Daughters
Musician:Our Native Daughters

グラミー賞でベスト・トラディッショナル・フォーク・アルバムを受賞したアメリカン・ルーツ・ミュージック・グループ、キャロライナ・チョコレート・ドロップスのメンバーで、バンジョー、フィドル、ギターなど様々な楽器を手掛けるマルチインストゥルメンタリスト、リアノン・ギデンズを中心として黒人女性4人により結成されたバンド、Our Native Daughters。上のジャケット写真ではバンジョーを抱えた4人の女性が写っています。バンジョーというとカントリーウエスタンの楽器として日本人にもイメージされやすい楽器ですが、もともとはアフリカがルーツの楽器。このOur Native Daughtersというバンドはアフリカン・アメリカンがバンジョーを取り戻すというひとつの意義を抱えて活動を行っているそうです。

このバンジョーを取り戻すというコンセプトもそうなのですが、今回のアルバムは黒人差別や女性差別などを真正面から取り上げた作品に仕上がっています。黒人だからこそ経験する差別について歌い上げる「Black Myself」からスタートし、「Quasheba,Quasheba」はガーナ人の女性奴隷の過酷な運命を描いた歌、「Mama's Cryin' Long」もシンプルな手拍子のみをバックにアカペラで歌われるコール&レスポンスの歌ながらも、曲中の「Mama's dress is red」という歌詞は「ママのドレスが血で染まっている」という内容だそうで、過酷な奴隷労働を描写した歌詞となっているそうです。

そんなある意味、非常にヘヴィーなテーマを抱えたコンセプチャルなアルバムになっているのですが、楽曲を聴いた印象としては決して重苦しいという印象はありません。むしろバンジョーの明るく軽快な音色がインパクトとなって、ある種の爽快さすら感じられるナンバーが並んでいます。例えば「Moon Meets the Sun」はフォーキーで美しい演奏に伸びやかなボーカルが歌を切なく聴かせる爽やかなポップチューン。「Better Git Yer Learnin'」もフォーキーで軽快な明るさを感じる楽曲に仕上げています。「Music and Joy」もタイトル通りの楽しさを感じさせるバンジョーの音色が軽快な明るいポップチューンに仕上げており、純粋にポップなアルバムとして楽しめる作品に仕上がっています。

またユニークなのはバンジョーという楽器はフォークやカントリーというイメージが強いのですが、アフリカン・アメリカンの手に取り戻すというコンセプトに従ったためでしょうか、むしろブルースやソウルの要素を強く感じる曲が目立つのも強い印象を受けました。冒頭にも取り上げた1曲目「Black Myself」も力強いボーカルで、ジャンル的にはブルースにカテゴライズされそうなナンバーですし、ボブ・マーリーのカバー「Slave Driver」もブルージーなカバーに仕上げています。ここらへんの曲調についてはまさにアフリカン・アメリカンの魂的なものを感じさせる作風と言えるのかもしれません。

そんな重いテーマを取り上げつつ、ラストは「You're Not Alone」と、タイトル通り、みんなの背中を押すような曲を最後に配しているのも彼女たちの強いメッセージを感じさせます。ラスト前の曲も「Music and Joy」とまさに喜びを感じさせるような曲になっていましたし、聴き終わった後は希望をもって明るく前を向けるようなそんな構成になっていました。重いテーマを投げかけるだけではなく、その向こうにある希望もしっかりと歌っている点も素晴らしい構成のアルバムだったと思います。

バンドとしてメッセージ性を持ちつつ、一方ではしっかりエンタテイメント性も両立させていた心地よい傑作アルバム。ただ、彼女たちが歌っている歌詞のテーマはいまでも重く、私たちにのしかかっていることを忘れてはいけません。特にアメリカのみならず世界各地で排外主義がはびこりつつある現状において、このアルバムが提示するメッセージは残念ながら今の社会において私たちの大きな課題となっています。残念ながら英語で、かつ背景にある文化を知らなくては読み取りにくいメッセージも多いためストレートに伝わってこない部分も多々あるのですが・・・いろいろな意味で非常に強い印象を私たちリスナーに与えてくれるアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Wait And Return EP/Noel Gallagher's High Flying Birds

元oasisのお兄ちゃん、ノエル・ギャラガー率いるNoel Gallagher's High Flying Birdsの新作は配信限定3曲入りのEP盤。前作「Who Built the Moon?」でもoasisのイメージを変えるような挑戦的な作風の曲が目立ちましたが、本作は、その「Who Built the Moon?」に収録されている3曲のリミックスアルバム。3曲が3曲ともイメージの違う作風になっており、ノエルのあくなき挑戦心を感じさせます。oasis再結成の要望も非常に強い状況ですが、ノエル・ギャラガーのソロもまだまだ今後の活動が楽しみになってくるEPでした。

評価:★★★★★

NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS 過去の作品
NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS
CHASING YESTERDAY
Who Built the Moon?

History/Youssou N'Dour

セネガル出身、アフリカ音楽界を代表するミュージシャン、Youssou N'Dourの新作。基本的に欧米向けのアルバムということでトライバルな要素はちょっと薄め。哀愁感あるメロディーラインでのびやかに聴かせる垢ぬけたポップスが続きます。特に「Hello」は実に今どきのR&Bといった感じで、最初、聴くアルバムを間違えたか?と思ったくらい・・・。個人的にはやはりもうちょっとトライバル色が強いアルバムが好みなのですが、純粋にポップスアルバムとしては完成度の高い作品に仕上がっていました。

評価:★★★★

Youssou N'dour 過去の作品
AFRICA REKK
Seeni Valeurs

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