日本の辺境の地の音楽
今日紹介する2枚のアルバムはいずれも日本の伝統的な音楽を継承しているグループの作品。ただどちらもアイヌや奄美民謡と日本の辺境の地に息づいてきた音楽を今に伝えるグループで、いずれもアイヌの血を引き、自らもアイヌの音楽を世に伝えてきたミュージシャン、OKIが深くかかわった作品になっています。
Title:mikemike nociw
Musician:MAREWREW
まず本作は女性4人組によるグループ、マレウレウによる7年ぶりのアルバム。アイヌの伝承歌「ウポポ」の再生と伝承をテーマとして活動するグループだそうで、OKIがプロデューサーとして参加した作品。長らくメンバーのRimRimが活動を休止し、3人での活動を続けてきましたが、彼女が久々に復帰し、4人メンバーにて制作したアルバムとなっています。
楽曲的にはかなり癖のある独特な内容になっているのが特徴的。楽曲の構成はほぼボーカルのみのアカペラとなっており、所々に三味線的な弦楽器の音色やパーカッションがリズムとして入るだけ。独唱の曲もあれば、一方では4人のボーカルが重層的に重なる曲もあり、特にボーカルが重なるスタイルの曲ははっきりとしたメロディーラインがあるわけではなく、ある種の「うなり」のようなボーカルを聴かせており、独特の幻想的とすら感じるような内容になっています。
録音としてはフィールドレコーディングのような雰囲気をあえて残したであろう方法を取っており、楽曲によってはメンバーのやり取りなどがそのまま残っているような曲もあったりします。おそらくこのような録音方法を取ったのは、現場の雰囲気をそのまま残すことによって、彼女たちが歌っている音楽が、民衆の土着の音楽であるということをより強調したのではないでしょうか。実際、フィールドレコーディングのような録音方法のため、より民衆に息づいた音楽であるということを強く感じる部分もありました。
正直言うと、うねるような歌い方でありわかりやすいメロディーラインもありません。前述のように癖のある楽曲となっており、伝承歌「ウポポ」について詳しく知らないのですが、おそらく「ウポポ」を決して売れるためにわかりやすく解釈した、という感じではなく、むしろ伝統そのままに歌い継いでいるスタイルなのでしょう。そういう意味では決してわかりやすい音楽ではありませんし、万人向けといった感じではありません。どちらかというと興味がある方向け、といった感じでしょうか。ただうねるような伸びやかなボーカルと4人のコーラスワークは非常に素晴らしく、ちょっとしたトリップ感も味わえるような内容に。私たちがよく知るような民謡とも異なるスタイルの歌となっており、このような音楽が日本の片隅で歌い継がれてきたことにも興味のわくアルバムになっていました。
評価:★★★★
Title:Amamiaynu
Musician:Amamiaynu
で、こちらは奄美島唄を歌う朝崎郁恵を中心に結成された、奄美民謡とアイヌ音楽のコラボレーションというとてもユニークなユニット、Amamiaynuのアルバム。OKIもメンバーとして参加しているほか、マレウレウのメンバー、Rekpoも参加しており、今回紹介する2枚のアルバムはとても密接した関係にあるアルバムと言えるでしょう。
基本的には楽曲のスタイルとしては朝崎郁恵が奄美島唄を伸びやかなボーカルで歌いつつ、OKIの奏でるアイヌの伝統な弦楽器、トンコリを中心としたアイヌ音楽的なスタイルのアレンジがのった作品になっています。トンコリの音色に関して言えば「Ikyabiki no yaysama」や「Kyuramun rimse」で聴かせる非常に力強い音色が印象に残ります。うねるようなトンコリのサウンドがとても独特で迫力満点。そのサウンドに負けない朝崎郁恵の伸びのあるボーカルも強いインパクトを与えています。
一方で「Miturasanmae kamuy samada」や「Sengromui menoko」で聴かせるようなコーラスを重層的に重ねて幻想感を出しているスタイルは、上で紹介しているマレウレウの音楽の方法を引き継いでいるような感じでしょうか。独特なコーラスワークにユニークなものを感じさせます。
そして何と言ってもおもしろいのは、そんな奄美の島唄とアイヌ音楽を融合させながらも、その両者にほとんど違和感のない点でしょう。歴史も文化も全く異なるはずの両者の音楽が、こんなにも相性がいい、というのは非常に興味深い事実のように感じます。実はOKIは以前、沖縄民謡の大城美佐子とコラボアルバムをリリースしていたりします。同作は正直、沖縄民謡の色合いが強すぎたように感じたのですが、今回のユニットでは奄美とアイヌはよりうまく融合されていたように感じます。ただ、大城美佐子とコラボが行えたように、沖縄・奄美の音楽とアイヌの音楽は相性がいいのかもしれません。日本の辺境の2つの伝統的な音楽にどこか共通項があるという事実に非常に興味深さを感じさせます。
ちなみに一種独特で癖がある、という意味ではマレウレウと同様、本作も決してわかりやすいメロディーラインがあるわけではありません。ただ伝統をそのまま伝えようとするマレウレウと比べると、奄美とアイヌの融合という新しい音楽スタイルを模索する本作は一般リスナー層にも十分アピールできる、いい意味でのわかりやすさもありました。そういう意味では奄美民謡やアイヌ音楽に興味を持った入り口的にもお勧めできるアルバムかもしれません。非常におもしろい試みであり、かつその試みが成功しているアルバムだったので、これからも継続的に活動してほしいなぁ。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
NO DEMOCRACY/GLAY
デビュー25周年を迎えた彼らの最新作。「令和」という元号が発表された日に配信オンリーでリリースされた「元号」も収録。ただこの曲、「令和」という単語はもちろん入っておらず、新元号発表からわずか2時間後にリリースされたゴールデンボンバーの「令和」の前に完全にかすんでしまいましたね…。この「元号」や「反省ノ色ナシ」など社会派な曲も収録されているのですが、ただどちらも社会派を名乗るには非常に中途半端。特に体制や権力を批判したり皮肉っているわけでもなく、社会派をきどりながら誰も怒らせないような「忖度」しまくりのナンバーで、悪い意味でJ-POPの王道といった印象を受けました。
そういう意味では逆にアルバムの中盤あたりからは、ある意味25年前から良くも悪くも変化のない、王道のJ-POPナンバーが続き、いろいろと安心できる内容に。はっきり言えば目新しさはゼロなのですが、こういうナンバーをデビューから25年たった今でも臆面もなく作ることが出来るあたりが長年人気を保つ大きな要因なのでしょう。前作「SUMMERDELICS」はオルタナロック寄りにシフトした感の強いアルバムだったのですが、今回のアルバムはグッとJ-POP、もしくは歌謡曲の色合いが強くなった感じがします。ここらへんは前作と本作でバランスを取った感も。なんだかんだいって王道J-POP路線はそれなりに楽しめたのですが。
評価:★★★★
GLAY 過去の作品
GLAY
JUSTICE
GUILTY
MUSIC LIFE
SUMMERDELICS
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