ゴスペル色が強い新作
Title:Jesus Is King
Musician:Kanye West
Kanye West単独名義では昨年6月にリリースされた「Ye」以来、約1年4ヶ月ぶりとなるニューアルバム。前作「Ye」は非常に内省的なアルバムで、自身の双極性障害を告白するという、ある種衝撃的ともいえる内容になっていました。その後、昨年9月にニューアルバム「Yandhi」をリリースすると発表していたものの延期になった上に立ち消え。一方で今年に入って「サンデー・サービス」という自らの楽曲やカバー曲をゴスペルとして披露するパフォーマンスを行っていたり、Twitter上で「世俗の音楽はもう作らない。これからはゴスペルしかやらない」とつぶやいたりしていましたが、そんな流れもありニューアルバムはアルバム全体にわたってゴスペル色の強い作品に仕上がっています。
もっとも私たち日本人にとっては、英語詞のためストレートに内容がわからない、ということもあり、時として海外のミュージシャンが宗教色の強い楽曲を作っても、その意味がなかなか伝わらないというケースは少なくありません。ただ、今回のカニエのアルバムに関しては、1曲目のイントロ的なナンバー「Every Hour」からして、クワイヤの力強い合唱曲といういかにもゴスペル的な楽曲となっており、続く「Selah」もカニエによる物悲しくも力強いラップが聴けるのですが、バックのシンセのサウンドはいかにも教会音楽的な荘厳な雰囲気を醸し出していますし、こちらもクワイヤによる「ハレルヤ」というコーラスが重なっており、日本人にとっても嫌でも宗教色の強いアルバムである事実が感じとれます。
その後もタイトルそのまま「God Is」ではゴスペル風のコーラスがのったり、アウトロ的な「Jesus Is Lord」もタイトルそのままの歌詞が流れてきたりと、宗教的な雰囲気がわかりやすい色合いの曲も少なくありません。ただもちろん、それらの曲も含めてアルバムの出来としては、Kanye Westらしい実に完成度の高い楽曲が収録されていました。なんでもリリース当日まで夜を徹してミキシング作業を続けていたとか…彼の音楽に対するつよいこだわりも感じます(…と同時に、ギリギリまでそういう作業が出来てしまうのは、配信リリースの良い点でもあり、見切りを付けられないという点では悪い点なのかもしれませんね…)。
例えば「Follow God」ではループするサンプリングを効果的に用いた、カニエウエストらしいHIP HOPチューンに仕上げていますし、「On God」も爽快さを感じるエレクトロトラックが魅力的なラップチューン。さらには「Hands On」も重厚なエレクトロトラックが強いインパクトを残す中、噛みしめるようなカニエのラップも印象に残る楽曲になっており、アルバム全体としては、ゴスペル色の強い作品とはいえ、一方ではしっかりとKanye Westらしさを強く感じさせる内容となっています。また、「Closed On Sunday」もアコギをバックに哀愁感たっぷりに聴かせる歌が心に響きますし、「Water」も美しいコーラスラインをバックに、美メロとも言えるメロディーを聴かせるソウルな楽曲に。歌モノとしても魅力的な楽曲も多く、そういう面でもいい意味での聴きやすさも感じられるアルバムに仕上がっていました。
またアルバムの長さとしても、ここ最近のカニエの共通していることなのですが、全11曲で27分という短さ。そういう点でも聴いていて一切ダレることなく、一気に聴ききれるアルバムになっており、このアルバムの長さもいい意味で同作を聴きやすい作品と感じられる大きな要素となっていました。宗教色が強いため文化的背景によって受ける印象が異なる可能性もあるものの、日本人としてはその宗教的色合いが決してマイナスには働かず、かつカニエらしさもしっかりと残した魅力的な傑作アルバムに仕上がっていました。ちなみに12月25日には続編として「Jesis Is Born」をリリース予定とアナウンスしているカニエ。前科があるのであまり期待はしていないのですが、リリースされたら今年最後の傑作アルバムとなりそう…期待しないであさってを待っていたいと思います。
評価:★★★★★
KANYE WEST 過去の作品
GRADUATION
808s&Heartbreak
MY BEAUTIFUL DARK TWISTED FANTASY
YEEZUS
The Life Of Pablo
Ye
ほかに聴いたアルバム
What's Going On Live/Marvin Gaye
今年、「幻のアルバム」と言われた「You're The Man」をリリースし、大きな話題となったソウルミュージック界のレジェンド、マーヴィン・ゲイ。今度はそれに続きライブアルバムをリリース。1971年にリリースされ、ソウルミュージックというジャンルを越えて、音楽史にその名を遺す名盤となった「What's Going On」。本作はその翌年、1972年5月1日にアメリカ・ワシントンDCのJ.F.ケネディ・センターで行われたライブの模様を収録したもの。「What's Going On」からの楽曲はもちろんのこと、60年代のヒット曲もメドレーで披露したこのライブ。原曲以上に感情を込めてメロウにその歌声を聴かせてくれており、歌手としてのマーヴィンの魅力も堪能できる作品に。新たなライブの名盤登場を予感させる1枚でした。
評価:★★★★★
Marvin Gaye 過去の作品
You're The Man
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