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2019年12月26日 (木)

彼女の幅広い音楽性を感じる

Title:Turnable
Musician:竹内まりや

竹内まりやにとってデビュー40周年というメモリアルイヤーとなった今年。日本レコード大賞の「特別賞」を受賞したり、さらには初の紅白歌合戦出場が決まるなど、様々なビックニュースも飛び込んでいますが、なんといってもファンにとって大きな出来事だったのが本作のリリースでしょう。全3枚組となる本作は、1枚目が「More Expressions」と名付けられ、ベストアルバム「Expressions」に収録しきれなかった曲を集めたアナザーベスト。2枚目「Mariya's Rarities」は未発表音源やレア音源、セルフカバーなどをあつめたアルバム。そして3枚目は、旦那である山下達郎がパーソナリティーを務めるラジオ番組「サンデー・ソングブック」の中の名物コーナー「まりやの課外活動」でカバーした洋楽のスタンダードナンバをCD化しています。

3枚のCDはそれぞれ(例外もありますが)基本的には、自ら歌う前提で作った曲、他の人が歌う前提で作った曲、第三者の曲を自ら歌った曲という形で収録されています。それらの曲をまとめて聴いてまずは感じる感想として、彼女は本当にバラエティー豊かな曲を作って、そして歌うミュージシャンなんだな、ということを強く感じます。公私ともに大きな影響を受けている山下達郎と同様、まず大きな影響を感じさせるのが50年代や60年代のオールディーズ。このアルバムの冒頭を飾るDisc1の1曲目「すてきなヒットソング」などはまさにそんなオールディーズからの影響が顕著ですし、「アンフィシアターの夜」なども同じく昔ながらもロックンロールからの影響を強く受けた曲になっています。

一方、Disc2に収録されている曲のうち、ほかのシンガー、特にアイドル勢などに提供した曲に関しては、非常の歌謡曲テイストの強いナンバーが並びます。例えば岡田有希子に提供した「憧れ」や、松田聖子に提供した「声だけ聞かせて」が顕著な例でしょうか。本人が作った曲ではありませんが、加山雄三の曲のカバー「君のために」やCMソングとして話題となった「You & Night & Whisky ~ウイスキーが、お好きでしょ」のような歌謡曲テイストの強いナンバーも収録されており、歌謡曲からの影響を強く感じると同時に、また彼女の歌声自体、歌謡曲のようなウェットな作風の曲によくマッチしているように感じます。

ほかにも「幸せの探し方」はラテンの要素が入ったポップスに仕上がっていますし、「静かな伝説(レジェンド)」に至っては、歌詞の雰囲気も含めて中島みゆき的な雰囲気を醸し出している楽曲になっているなど、全体的には楽曲のバリエーションの広さを強く感じます。洋楽から、特に50年代、60年代のオールディーズの影響を強く受けている点は、旦那である山下達郎と同じなのですが、歌謡曲な雰囲気を感じるポップチューンを含めて、洋楽的なカラリとした雰囲気を感じる山下達郎に比べると、竹内まりやの曲は、ある意味より日本的なウェットさを感じるという点で大きな違いを感じさせます。音楽的に似た路線を歩むこの夫婦ですが、一方では明確な両者の違いも感じることが出来ました。

またDisc3は洋楽のカバー。特に前半はビートルズのおなじみの曲のカバーが延々と続くのですが、こちらはほぼ原曲通りのカバーになっており、あまり竹内まりや独自の解釈というおもしろさはないものの、原曲への敬愛ぶりが強く感じさせられるカバーになっていました。カバー曲はオールディーズやジャズなどからのカバーも多く収録されており、竹内まりやのルーツを知るにはうってつけの選曲と言えるかもしれません。

全3枚組、トータル3時間半を超えるボリュームあふれるアルバムでしたが、アナザーベストやセルフカバーの選曲により、竹内まりやのより幅広い音楽性を知ることが出来、非常に興味深く感じられた企画盤になっていました。デビューから40年が経過した彼女ですが、旦那様ともども、まだまだ日本の音楽シーンに大きな影響を与えてくれそうです。

評価:★★★★★

竹内まりや 過去の作品
Expressions
TRAD
REQUEST -30th Anniversary Edition-

で、今回は「Turnable」に連動する形でリリースされたもう1枚のアルバムも一緒に紹介します。

Title:岡田有希子 Mariya's Songbook
Musician:岡田有希子

1984年にデビュー。一躍トップアイドルの仲間入りを果たしたものの、それからわずか3年後、1986年に人気絶頂の最中に自殺という形でわずか18年の生涯に幕を下ろしたアイドル歌手、岡田有希子。彼女の自殺報道に影響を受けた若者の自殺が相次いだとされ、当時は一種の社会問題となった出来事でした。そのこともあり、彼女の楽曲はしばらく事実上の封印状態だったのですが、ここ最近、徐々に彼女の楽曲もリリースされるようになり、本作はデビューシングル「ファースト・デイト」をはじめとした彼女に数多くの楽曲を提供してきた竹内まりやの曲を収録したアルバムとなっています。

アルバム「Turnable」にも竹内まりやによるセルフカバーが何曲が収録されています。竹内まりやのセルフカバーも決して悪くはないのですが、より清純な雰囲気を醸し出す岡田有希子本人のボーカルの方が、より曲の雰囲気にはマッチしているように感じます。全体的にはピュアな女の子のはじめての恋を描いたような作品が多く、彼女がどのような売り出され方をしたのかよくわかります・・・といってもこの時代のアイドル歌手の典型的な売り出し方だとは思うのですが。

楽曲的には良くも悪くもいかにも80年代のアイドル歌謡曲という印象が強い点は否めないのですが、そこはさすが竹内まりやだけあって、歌謡曲のテイストが強くても、要所要所に洋楽の影響も垣間見れ、キラリと光るものを持っているポップソングが並んでいました。岡田有希子をリアルタイムで知らなくても、竹内まりやが好きならばチェックしても損はないアルバム。とはいえ、彼女の澄み切った歌声を聴くと、もし彼女が今も生きていたら・・・と感じてしまう、そんなアルバムでした。

評価:★★★★

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