ミュージシャンとしての矜持を感じる
Title:Same Thing
Musician:星野源
すっかり国民的スターとしてその地位を確立した星野源。音楽ファンならご存じかと思うのですが、もともと彼はインストバンドSAKE ROCKのメンバーとしてデビューしており、本籍地は間違いなくミュージシャンであり、かつ以前から非常に高い評価を受ける音楽を作り続けていました。ただ、最近は俳優などマルチタレント的な活動も目立ち、一般的に星野源という名前が売れ出したのもどちらかというと俳優としての活躍があったから。それだけにひょっとしたら彼の音楽活動のことを、俳優などで売れてきたタレントが片手間に音楽活動をやっている、という勘違いをしているような方もいるかもしれません。
今回紹介するのは10月に急きょリリースされた4曲入りのEP盤。ただ今回の作品は「売れっ子ミュージシャン」というイメージが強くなった星野源が、「売れっ子」のイメージにとらわれず、音楽的な挑戦をした作品になっているように感じました。そもそも1曲目に収録されているタイトルチューン「Same Thing」は、最近注目を集めているイギリスのインディーロックバンドSuperorganismがゲストで参加。当サイトでも紹介したことあるミュージシャンですが、自由な曲作りで、いかにもインディーらしいロックバンド。楽曲的にもSuperorganismの色合いの濃い、アバンギャルドさを感じるポップチューンになっています。そんな中でもしっかり星野源としての色も入れているのですが、最近の星野源のヒット曲と比べると、あきらかに異質な楽曲に仕上がっています。
2曲目「さらしもの」も今、話題のラッパー、PUNPEEが参加。ループするトラックといい、HIP HOP色の強いナンバーに。1曲目に比べると、星野源の色合いが強い楽曲なのですが、それでもHIP HOPにグッと寄った作品になっており、星野源の音楽的な挑戦を強く感じさせます。さらに3曲目「Ain't Nobody Know」も、新進気鋭のイギリスのシンガーソングライターTom Mischが参加。こちらも最近のR&Bの流行を積極的に取り入れたような楽曲になっており、彼の新しい音楽に対する貪欲さを感じさせるポップチューンになっています。
そして最後を締めくくる「私」はアコースティックギター1本で聴かせるフォーキーなナンバー。ここ最近、ホーンセッションなどを取り入れて分厚いサウンドの分厚い曲作りが目立つ彼でしたが、ブレイク前は比較的アコースティックなサウンドでシンプルな曲調が彼の音楽の特徴でした。今回のラストソングはまさにそんなブレイク前の作風を彷彿とさせる楽曲。原点回帰的なものを感じさせますし、また、その曲が「私」というタイトルをつけて、内省的な歌詞を聴かせており、「国民的スター」となった今、あえて自身を見つめ直している彼の姿を垣間見ることが出来ます。
直近作「POP VIRUS」は傑作アルバムではあったものの、ここ最近の彼の人気から来る重圧感をアルバムから感じるような内容になっていました。今回のアルバムはそんな重圧感から解放されるべく、あえて「売れ線ミュージシャン」としての殻を取りのぞき、ミュージシャンとしてやりたいことをやった作品のように感じました。そういう意味では、国民的スターとして期待される曲をつくらなくてはいけない彼にとって、このアルバムからは、ミュージシャンとしての矜持を保つべくリリースされた作品のようにも感じました。今回の作品に収録されている楽曲は、ブレイクしてから星野源を知った人、俳優やタレントとしての彼を好きになった人にとっては、ちょっと違和感を覚える作品になっていたかもしれません。ただ、ブレイク前から彼のことを知っている人にとっては、間違いなく星野源の魅力を再認識できる傑作だったと思います。個人的にも音楽的自由度が低く感じられた「POP VIRUS」よりも好きな作品かもしれません。ただ、この方向性でフルアルバムを作るというのは、彼の立場的にも難しいんだろうなぁ、ということも感じてしまうのですが…。次のアルバムに今回のこの作品で取り入れた方向性が反映されることを期待しつつ、これからの星野源の活躍にも要注目です。
評価:★★★★★
星野源 過去の作品
ばかのうた
エピソード
Stranger
YELLOW DANCER
POP VIRUS
ほかに聴いたアルバム
或る秋の日/佐野元春
佐野元春のニューアルバムは、配信でリリースされた4曲に新曲4曲を加えた8曲入りのアルバム。半数が既発表曲ということでちょっと寂しく感じますし、また楽曲的にも「秋」というイメージで統一されているのか、爽快さもありつつも、全体的にはインパクトの強いメロディーラインはなく、全体的に地味な印象が。よく言えば「大人のポップス」というイメージでしょうか。かなり落ち着いた印象を受けるアルバムでしたが、それでも聴かせる部分はしっかりとツボをおさえてくるあたり、佐野元春の実力も感じられるアルバムでした。
評価:★★★★
佐野元春 過去の作品
ベリー・ベスト・オブ・佐野元春 ソウルボーイへの伝言
月と専制君主
ZOOEY
BLOOD MOON
MANIJU
自由の岸辺(佐野元春&THE HOBO KING BAND)
濡れゆく私小説/indigo la End
最近はゲスの極み乙女。やこのバンド以外にもジェニーハイやら美的計画やら数多くのプロジェクトを同時並行させて活動を進めている川谷絵音。そんな中でindigo la Endでも約1年3か月というスパンで新作をリリースするあたり、川谷絵音のワーカホリックぶりがうかがえます。今回もindigoらしい哀愁感たっぷりのメロディーラインが魅力的な作品に。ただ川谷絵音の脂がのりまくっていた前作「PULSATE」に比べると、今回も安定感はあるものの、若干、無難にまとめている感を感じてしまいました。相変わらずの悲しげなメロは印象的ながらも、似たタイプの曲がどうしても多くなってしまうのもマイナス要素。良作ではあると思うのですが…個人的にはそろそろ川谷絵音も手を広げすぎず、ゲスとindigoの活動に注力した方がいいように思うのですが…。
評価:★★★★
Indigo la End 過去の作品
あの街レコード
幸せが溢れたら
藍色ミュージック
Crying End Roll
PULSATE
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事
- 彼女の幅広い音楽性を感じる(2019.12.26)
- 80年代に一世を風靡した女性ロックシンガー(2019.12.28)
- 2つの異なるスタイルで(2019.12.14)
- ミュージシャンとしての矜持を感じる(2019.12.17)
- 2019年最大の注目盤(2019.12.13)
コメント