良質なポップソングは変わらず
Title:見っけ
Musician:スピッツ
この間、久しぶりにスピッツのライブに行ってきました。ここでも紹介したフラワーカンパニーズの30周年記念ライブだったのですが、イベントライブのゲストということで持ち時間は45分。「涙がキラリ☆」や「メモリーズ」などといったちょっと懐かしい代表曲を披露してくれたのですが、その一方でこのアルバムにも収録されている、現時点での直近のシングル「優しいあの子」や、「見っけ」の収録曲(多分「ラジオデイズ」だったと思う)も披露してくれました。アルバムリリース直前のステージということもあったのですが、アウエイの観客を(といってもスピッツ目当ての人も相当多かったのですが…)引き付ける必要のあるイベントライブのゲストで、最新アルバムからの曲を披露するあたりにベテランらしからぬ攻めの姿勢を感じさせます。ただライブで聴いてあらためて驚いたのが、彼らの過去の代表曲と最新アルバムからの楽曲をライブで並べて聴いても全く違和感がないという事実でした。
本作は途中、シングルコレクションのリリースもあり、前作「醒めない」から約3年2か月ぶりとなるオリジナルアルバム。ただ、ここ最近、オリジナルアルバムはほぼ3年毎のリリースとなっていたため、ある意味、いつも通りのリリースパターンと言えるかもしれません。その間リリースした「優しいあの子」はNHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」の主題歌に採用されるなど、スマッシュヒットを記録。彼らの代表曲のあたらしい1曲となりました。もちろん本作には同曲も収録しています。
そしてリリースされた本作は、前述の通り、まさにいままで通りのスピッツ。いきなり1曲目からタイトル曲の「見っけ」からスタートするのですが、爽やかなメロディーで伸びやかに歌い上げる祝祭色を感じさせるナンバーはいかにも彼ららしい感じですし、続くヒット曲「優しいあの子」はタイトル通り、スピッツらしい優しさを感じる素敵なポップチューンになっています。
今回のアルバムの中で特に歌詞が印象的だったのが「ありがとさん」。楽曲のタイトルから受ける印象とは裏腹に、とても切ないラブソングで、別れた彼女との日々を思い出しつつ、彼女への感謝の気持ちを歌う曲で、その歌詞は聴いていて胸に突き刺ささってきます。また歌詞で言えば、「花と虫」や「はぐれ狼」は隠喩的な歌詞が印象的。ここらへんの歌詞の世界観にも非常にスピッツらしさを感じます。
メロディーラインの良さでいえば、もちろんどの曲も素晴らしいのですが、そんな中でも「ブービー」のしんみり聴かせつつ、胸の奥底の弱い部分をついてくるような切ないメロディーラインに心惹かれるものがありました。「初夏の日」のアコギでフォーキーな雰囲気、かつ爽やかに聴かせるメロディーも印象的。またほかにもワルツのリズムで哀愁感たっぷりに聴かせる「まがった僕のしっぽ」など、勢いがあり、フックの効いたメロディーを聴かせるアップテンポな曲ももちろんですが、それ以外の曲にこそ、彼らのメロディーラインの魅力を強く感じることが出来ました。
アルバム全体としては目新しい部分はほとんどありません。「大いなるマンネリ」と言えるかもしれません。それにも関わらず、先日のライブでも感じたように過去の作品と並べて聴いても違和感ゼロ。マンネリな印象もほとんど受けません。それはメロディーにしろ歌詞にしろ、非常にクオリティーが高く、ポップソングとして強度が高いからでしょう。全体的に地味目に感じた前作「醒めない」と比べると、「優しいあの子」や「ラジオデイズ」、あるいは「ありがとさん」のようなメロディー、アレンジ、歌詞の側面でもインパクトが増した感じもしますし、また、実にスピッツらしい曲が並ぶような作品になっていたようにも感じました。いまだに若手のようなみずみずしさを感じさせるスピッツ。今回も文句なしにお勧めできる傑作でした。
評価:★★★★★
スピッツ 過去の作品
さざなみCD
とげまる
おるたな
小さな生き物
醒めない
CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection
ほかに聴いたアルバム
この雨に撃たれて/cali≠gari
cali≠gariのニューアルバムは「雨三部作」と銘打ち、既存曲「冷たい雨」「続、冷たい雨」に新曲「この雨に撃たれて」を収録。「冷たい雨」「続、冷たい雨」のメドレーにそれぞれのカラオケも収録した全7曲入りのミニアルバム。その「雨三部作」は爽やかな雰囲気も感じつつ、タイトルから想像できるような哀愁を感じるメロディーラインが耳に残るナンバー。cali≠gariらしさをしっかりと感じられる楽曲になっていました。
ただ今回のアルバムでよかったのは、この3曲ももちろんのこと、「夕立盤」に付属された、10年前にリリースされたアルバム「10」を一部新録し、全曲リミックスした「10-Rebuid」。パンキッシュな楽曲からエレクトロチューン、アバンギャルドなポップまでcali≠gariの幅広い音楽性を感じられる作品となっており、個人的には本編以上に気に入った内容になっていました。
評価:★★★★
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