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2019年12月28日 (土)

80年代に一世を風靡した女性ロックシンガー

Title:Ayumi of AYUMI~35th Anniversary BEST 完全版
Musician:中村あゆみ

80年代を代表する女性ロックシンガー、中村あゆみ。1985年にシングル「翼の折れたエンジェル」がカップヌードルのCMソングにもなり大ヒットを記録しました。本作はそんな彼女のデビュー35周年を記念してリリースされたオールタイムベスト。もともと5年前の30周年の時点で同タイトルのベスト盤をリリースしていたのですが、本作はそこに収録曲も増やし、2枚組としてリリース。タイトル通り「完全版」と言う内容になっています。

中村あゆみと言えば、主にティーンエイジャーの心の叫びをそのまま歌にのせるスタイルで若い世代の絶大な支持を受けたミュージシャン、といったイメージになるのでしょうか。ある意味、今以上にアイドルシンガーが席巻していた80年代において、装飾されたラブソングがメインだったアイドルポップスがメインだったヒットチャートの中で、ティーンエイジャー、特に女の子の本音をそのまま歌にしたり、あるいは複雑な心境を抱きがちなティーンエイジャーに対する応援歌として、絶大な支持を得ていたミュージシャンだった、というイメージがあります。

実際、本作にも収録されている大ヒットシングル「翼の折れたエンジェル」は、ラブソングのスタイルはとっているものの、まさにやり場のないティーンエイジャーの心境に重きを置いたような歌詞になっていますし、同じくヒットを記録した「ともだち」などもティーンエイジャー向きらしい、友だちの大切さを歌った歌詞になっています。また、もうちょっと時代を下ったヒット曲になるのですが、「HERO」もタイトル通りの力強い応援歌となっており、スマッシュヒットを記録しました。

この80年代の女性ロックシンガーで、ティーンエイジャーの複雑な心境を歌う、というシンガーで同じく思い出されるのが渡辺美里でしょう。二人とも同い年どころか誕生日がわずか14日しか離れていないうえに、デビューも1年だけの違い。中村あゆみのブレイク作となった「翼の折れたエンジェル」が85年のヒットならば、渡辺美里のブレイク作「My Revolution」も86年のヒットと、ほぼ同じ時期にデビューし、かつブレイクしており、2人が比較されることも少なくありません。

ただ、その後(主にアルバム単位ですが)ミリオン作を連発した渡辺美里に対して中村あゆみはそれなりにスマッシュヒットを記録し続けたのですが、若干人気の面では寂しい印象は否めません。しかし今回、中村あゆみのブレイク期の作品を聴いてみると、正直言うと、渡辺美里ほどの大ブレイクに至らなかったのもわからないではないかな、という印象も受けてしまいました。渡辺美里がブレイク以降、ティーンエイジャーの心境を歌うシンガーとして軸足を確保し、かつ、徐々にロック路線からポップス路線にシフトしていったのに比べると、中村あゆみについては、若干その方向性が定まっていなかったように感じます。特に初期の作品については、その時代性もあるのでしょうが、アイドル的な売り方も捨てきれなかったようで、「翼の折れたエンジェル」の次のシングルとなる「A BOY」はどこかアイドルポップ的な様相も感じます。

その後もポップス色が強くなったかと思えば、ロックに寄ったりと、チグハグさは最後まで抜けきれません。結果として90年代も「HERO」のようなロックテイストの強いスマッシュヒットがありつつ、徐々にその名前はヒットシーンから遠ざかってしまいました。ここらへん、もうちょっとロック風を貫くか、ポップ路線にシフトするか、一貫したものがあれば、もうちょっと中村あゆみの人気は確かなものになっていたんじゃないかなぁ、と今回のベスト盤を聴いて感じてしまいました。

特に気になるのはその後の彼女の動向。ある意味、非常にベタな方向性といえば方向性なのですが、ここ最近の曲は「紬 -tsumugi-」「アジアの海賊」など歌謡曲、もしくは演歌の方向にまでシフトしていっています。まあこの点に関しては渡辺美里も2000年代以降、迷走して、一時期、ベテランシンガーがベタな方向性として取りがちなジャズの方向性にシフトしていたので、お互い様といった感じはするのですが…。この演歌・歌謡曲路線の曲も決して悪くはないのですが、彼女が歌わなくてもいいのにな、とも感じてしまいます。

彼女の代表曲は網羅されており、中村あゆみというシンガーの歩みを知るには最適な1枚。もちろん名曲も多く、十分楽しめたアルバムなのは間違いありません。一方で彼女のウィークポイントのようなものも感じてしまう、そんなベスト盤でした。渡辺美里がここ最近、80年代の原点に回帰したようなアルバムをリリースし、若干人気を回復させていますが、彼女もそろそろ80年代の彼女らしい曲を聴いてみたいような印象も…。せっかくパワフルな歌唱力の持ち主なので、単なる懐メロ歌手に終わらない活躍を期待します!

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

あかりおねえさんの ニコニコへんなうた/町あかり

町あかりが「あかりおねえさん」として出演している、フジテレビ系およびBSフジの子供番組「じゃじゃじゃじゃーン!」の中での人気コーナー「あかりおねえさんのニコニコへんなうた」で歌われた曲を集めた企画盤。前半は童謡の替え歌、後半はオリジナルの童謡が収録。「池じゃなかった! どんぐりころころ」ではあの石野卓球がアレンジに参加するなど、豪華なアレンジャー勢も魅力的で、楽曲は童謡なのに異常にクオリティーの高いアレンジが特徴的なアルバムになっています。

ただ、個人的にはこの手の童謡の替え歌というのが正直苦手…。個人の好みの問題もあるのですが、なじみのメロに変な替え歌を付けられて頭にこびりつくのがすっごく嫌なんですよね…。まあ、これは完全に個人の趣味の話なのですが、ただ正直全体的に、良くも悪くも子ども用の童謡というよりも「子ども用みたいに作られた大人向けのポップス」といった印象を強く受けてしまいます。最近、子どもと一緒にNHKの朝の幼児向け番組でつくられた曲を良く聴くのですが、こちらの曲は子どもの興味や、子どもがちょうど覚えたような言葉、覚えてほしい言葉を上手く取り入れた、非常に考えこまれた良質な童謡を提供しているのですが、正直、本作に収録されている曲はそういった考慮をされたような跡はほとんどなく、あくまでも大人の感覚でつくられた「子ども用っぽい曲」といった感じになっています。もちろん、大人が聴く分には、それはそれで楽しめることは間違いなく、そういう意味ではコンセプチュアルで楽しいアルバムであることは間違いないのですが…。

評価:★★★★

町あかり 過去の作品
ア、町あかり
あかりの恩返し
EXPO町あかり
収穫祭!(町あかり&池尻ジャンクション)

BEGIN ガジュマルベスト/BEGIN

なんか、ここ最近、企画盤的なアルバムばかりリリースしている印象もあるのですが…本作はBEGINのベストアルバム。彼らはいままで「シングル大全集」と名付けたベスト盤をリリースし、かつ節目の年にシングル曲を追加し、再リリースし続けてきましたが、本作はそれとはまた異なる軸でのベスト盤だそうで、ライブの定番曲をまとめたベスト盤だとか。そのため「恋しくて」「島人ぬ宝」のような代表曲も収録しつつ、全体的にはしっかりと聴かせるバラードナンバー、あるいは聴いていて楽しくなるような明るい曲のような、いかにもライブ映えしそうな曲が並んでいます。BEGINの全貌を捉えた、といった感じではないのかもしれませんが、BEGINというミュージシャンの魅力をしっかり詰め込んだベスト盤になっていました。

評価:★★★★★

BEGIN 過去の作品
3LDK
ビギンの島唄 オモトタケオ3
ビギンの島唄 オモトタケオのがベスト
トロピカルフーズ
Potluck Songs

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