結成15周年プロジェクト
おそらく、今、最も若者の間で人気のあるロックバンドのひとつであるUNISON SQUARE GARDEN。ただ既に決して「若手バンド」ではなく、メジャーデビューが2008年というから、今年で11年目、結成からは今年でちょうど15年という中堅バンドだったりします。最近はすっかりバンドの寿命も延びた感があるので、メジャーデビューから11年、結成から15年と言われても驚きませんが、90年代から2000年代あたりまではバンドの寿命というと10年と言われていた時期もあっただけに、まだどこか「若手」的な感触すら漂う彼らが、既にこれだけのキャリアを積んでいるというのは意外な感じがします。
さてそんな彼らは今年、結成15周年のアニバーサリー・イヤーということで様々なイベントを行ったりアイテムをリリースしたりしていますが、今回紹介するのはそんな結成15周年を記念してリリースされたアルバムです。
Title:Thank you,ROCK BANDS!~UNISON SQUARE GARDEN 15th Anniversary Tribute Album~
まずは彼らの曲を様々なミュージシャンがカバーしたトリビュートアルバム。the pillowsや9mm Parabellium Bulletというロックバンドから、ボーカル斎藤宏介がゲストとして参加したこともある東京スカパラダイスオーケストラ、SKY-HIやLiSAといったミュージシャンから、彼らの楽曲に参加したことがあるイズミカワソラ、さらには堂島孝平というポップス勢まで豪華なメンバーがズラリと揃っています。
で、今回彼らがユニゾンの曲をカバーしていたのですが、どの曲も、まるでそれぞれのミュージシャンのオリジナル曲のようにピッタリとはまり込んでいました。the pillowsは「シューゲイザースピーカー」をカバーしているのですが、山中さわおのシャフトがしっかりとはまっており、the pillowsのバンドサウンドにも曲がピッタリとマッチ。9mmのカバーした「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」もまるで9mmの曲のような歌謡テイストの強いダイナミックなロックチューンになっています。
イズミカワソラがカバーした「ガリレオのショーケース」も彼女の軽快なピアノとボーカルにピッタリとはまり、彼女のオリジナル曲のようですし、スカパラがカバーした「桜のあと(all quarters lead to the?)」もラテン風のインストチューンになっており、完全にスカパラの曲になっています。さらに一番意外だったのがクリープハイプのカバーした「さよなら第九惑星」。メロもピッタリとマッチしていたのですが、それ以上に歌詞が、尾崎世界観の歌詞といわれても違和感ない感じで、これがクリープハイプのオリジナルと言われても不思議ではないほどマッチしていました。
それぞれの曲がそれだけ各ミュージシャンにマッチしていたのは、もちろん参加したミュージシャンの実力に寄る部分も大きいでしょうし、彼らがそれだけ自分たちのイメージにあったユニゾンの曲を選んだ、という部分もあるのでしょう。ただそれ以上に今回のトリビュートを聴いて、思った以上にUNISON SQUARE GARDENはバラエティーに富んだ作品を書いていたバンドだったんだな、ということに気が付かされました。またどんなバンドのカバーにも耐えられる、しっかりとした土台を持った聴かせるメロディーラインをユニゾンが、というよりもメインライターである田淵智也が書いてきているんだな、ということも再認識しました。
ただ、もっともユニゾンのマイナス部分についても感じてしまった点があり、それはこういった彼らの魅力を肝心の彼ら自身がしっかりと出し切れていないのではないか、ということを今回のトリビュートアルバムでは強く感じました。今回のトリビュートアルバムにはDisc2として本人たちによる原曲が収録されているのですが、正直なところカバーの方がよくない?という曲も少なくなく。まずバンドとして演奏が少々平坦。ちょっと厳しい言い方をすればただギターサウンドが鳴っているだけ、という感じも否めず、そのためどの曲も似たりよったりで聴こえてしまっています。また斎藤宏介のボーカルも、ハイトーンの耳に残るボーカルは好き嫌いがありそうながらも、ひとつの個性だとは思うのですが、こちらも歌い方が少々平坦。こちらも曲が似たり寄ったりに感じてしまう大きな要因に思います。
また、ユニゾンのメロディーラインは、「どうしてもにじみ出てしまうユニゾンらしさ」という部分が薄く、それだけ他のミュージシャンがコピーすると、すぐそのミュージシャンの色に染まってしまう、という点も大きな特徴に感じました。もっとも、この「灰汁の薄さ」故に、多くのリスナー層にアピールできるという部分もあるので、必ずしも彼らにとってマイナスではないのでしょうが…。
そんな訳で、このトリビュートアルバム、UNISON SQUARE GARDENの魅力を他のミュージシャンを通して感じることが出来た、というちょっと倒錯的ではあるものの、実に聴かせる傑作アルバムに仕上がっていました。ユニゾンのファンはもちろん、参加ミュージシャンが好きなら聴く価値のある作品です。
評価:★★★★★
で、結成15周年記念でリリースされたもう1作がシングルのカップリング曲を中心にあつめた、いわゆるB面ベストとなります。
Title:Bee-Side Sea-Side 〜B-side Collection Album〜
Musician:UNISON SQUARE GARDEN
この手のカップリング曲集というと、シングル曲にはできず、かつアルバム収録曲としても浮いてしまうような、ちょっと実験的な曲が収録されているのが相場…なのですが、正直言うと、いつものUNISON SQUARE GARDEN路線。斎藤宏介のハイトーンボイスがピッタリ来そうなキュートでポップなメロディーラインに、そこそこへヴィーなギターロックというスタイル。シングル曲と大差ありませんし、正直、このB面ベストを通じても、バラエティーに富んだ印象はありません。
ただ、前述のトリビュートアルバムでUNISON SQUARE GARDENの曲は意外とバリエーションあるんだ、ということに気が付いてあらためて聴いてみると、確かに曲によってそれなりにバリエーションを感じます。リズミカルな「空の飛び方」や、ダイナミックなバンドサウンドを聴かせる「さよならサマータイムマシン」。ある意味ベタなJ-POP路線の「さわれない歌」や、ガレージ色の強い「ピストルギャラクシー」に、アコギでしんみりと切なく聴かせる「きみはいい子」など、それなりのバリエーションが揃っています。
しかし、トリビュートアルバムでも書いた通り、全体的にボーカルにしてもバンドにしても平坦な感は否めず、その結果としてパッと聴いた感じだと「どれも似た感じ...」という印象を受けてしまいました。もっとも一方でUNISON SQUARE GARDENの強みはしっかりと感じられます。それはメロディーラインのポピュラリティー。楽曲をしっかりと下支えしているポップなメロがあるからこそ、全2枚組のアルバムの最後までダレることなく、一気に聴き切ることのできるアルバムになっていました。
そんな訳でカップリング曲集なので比較的ファンズアイテム的な要素も強いのですが、ある意味、シングルまでチェックしていない方にとっても「ユニゾンの新しいアルバム」的に楽しめる作品になっていたと思います。なんだかんだいってもポップなメロが魅力的で最後まで楽しめる作品になっていました。
評価:★★★★
UNISON SQUARE GARDEN 過去の作品
CIDER ROAD
Catcher In The Sky
DUGOUT ACCIDENT
Dr.Izzy
MODE MOOD MODE
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