ようやくリリースされた2枚同時リリース作
昨年、15年ぶりのニューアルバム「ロックブッダ」をリリースした男性シンガーソングライター国府達矢。同作はその傑作ぶりが大きな注目を集め、各種メディアでも年間ランク上位にランクインされました。その「ロックブッダ」リリース時には年内にあと2枚アルバムをリリースする予定とアナウンスされていたのですが、残念ながらその年はアルバムがリリースされず。「ロックブッダ」リリース後、約1年半が経過して、ようやく待望となる2枚のアルバムがリリースされました。
Title:音の門
Musician:国府達矢
まず1枚目となるのが「音の門」と名付けられた本作。非常にシンプルなサウンドで歌を聴かせるスタイルというのが、まず本作の大きな特徴となっています。静かにギターをつま弾きながら歌われる「日捨て」からスタートし、続く「きみさえいれば」もシンプルなアコギの弾き語りのラブソングとなっています。その後も静かなサウンドをバックとしたポエトリーリーディングである「こころよりじゆう」、アコギをつま弾きながらもハイトーンボイスで幻想的に聴かせる「ライク ア バーチャル」など比較的にシンプルなサウンドで歌を聴かせるスタイルが目立ちますし、またアコースティックギターを用いるフォーキーな雰囲気の作品も目立ちます。
ただし、シンプルなサウンドの歌モノ、という単純なイメージで終わらないのがこのアルバム。序盤、シンプルな曲が続いたかと思えば、いきなり飛び込んでくるのが3曲目の「悪い奇跡」。ノイジーなギターを響かせつつ、パーカッションの音色を重ねる非常に独特なサウンドが耳を惹きます。さらに「KILLERS」は静かなサウンドに緊迫感あふれる作風。「人を殺したいと思ったことはある?」というかなり過激な歌詞もあり、非常に不気味な作品に仕上げられています。そして「重い穴」もエフェクトをかけたアコギが不気味に鳴り響く作品で、タイトル通りの深い穴の奥底から歌声がうごめくように響いてくる、とても不気味な雰囲気が強い印象に残る作品となっています。
後半も「posion free」などはアコギでシンプルな作風ながらも、微妙にずれた音と少しエフェクトをかけたボーカルが微妙な不気味さを醸し出していますし、「思獄」もアコギの弾き語りながらもエフェクトをかけられてドリーミーな雰囲気に仕上がっています。アルバム全体としては非常に不気味な雰囲気を感じさせる作風となっており、かつどこかファンタジックさも。不気味な暗い森の中を歩いているような、そんな感覚を受けるアルバムとなっていました。
ただ最後を締めくくるのは「おつきさま」というシンプルでフォーキー、暖かい歌声を聴かせる曲。「月」というキーワードは1曲目の「日」と対比されているのでしょうか。暗い森を抜け出して、月明かりに照らされたような、ちょっとほっとした雰囲気でアルバムは幕を閉じます。ただラストの歌詞が「なまなましい おつきさま」というちょっと独特な表現で締めくくられている点、最後の最後まで異質感を覚えるような内容になっているのですが…。
評価:★★★★★
Title:スラップスティックメロディ
Musician:国府達矢
で、同時にリリースされたのが本作。シンプルなサウンドのイメージのあった「音の門」と比べると、本作は1曲目「青の世界」から、分厚いバンドサウンドからスタート。スペーシーなシンセも入って来たりしており、ある意味、「音の門」と対比するような形となっています。
2曲目「キミはキミのこと」もアコギが入りつつ、サイケなギターサウンドが加わり分厚い音が特徴的ですし、その後も「廻ル」も分厚いノイズギターで埋め尽くされたサウンドに。「窓の雨」もノイジーなギターサウンドでゆっくりと聴かせる作品となっていますし、「青ノ頃」もサイケなギターサウンドに、後半はダイナミックなバンドサウンドが加わるような楽曲。ラストを締めくくる「シン世界」も、特に後半、ギターサウンドにエレクトロのサウンドが加わり、これでもかというほどの音の塊をぶつけつつ、グルーヴィーなリズムを聴かせる作品に仕上げています。
そんな訳で、アコギ主導だった「音の門」とは対照的な本作ですが、歌詞やメロの面でも対照的。「キミはキミのこと」もメロディーラインのみ取り出せば非常にポップにまとまった作品になっていますし、「not matter mood」などもポップでメロディアスな作品になっています。歌詞にしても「彼のいいわけも」などは約束を守らない友人に対する愚痴という、日常的かつシンプルなテーマとなっていますし、「窓の雨」もおそらく恋人と別れた直後の心境、という比較的わかりやすい題材をテーマとしています。不気味さや怖さを感じられた「音の門」の曲の歌詞と比べると、もうちょっと日常に近い部分を歌ったような曲も多く、「音の門」を聴いた後に聴くと、ある種の爽やかさすら感じられます。
サウンド面で国府達矢の実力を発揮した「音の門」に対して、メロディーメイカーとしての彼の実力を発揮したのが本作といった感じでしょうか。2つのアルバムで、彼の違った側面をしっかりと示すことが出来た作品となっており、国府達矢のミュージシャンとしての奥行の深さを感じらせる作品でした。前作「ロックブッダ」の傑作ぶりでシーンを驚かせた彼でしたが、それに続く2作は、「ロックブッダ」から生じた彼の対する期待にしっかりと応えられていた傑作アルバムに仕上がっていたと思います。どちらも年間ベスト候補と言えるほどの傑作。あえていえば個人的には「音の門」の方がよりすごい作品のように感じたかな?あらためて彼のすごさを感じた2作でした。
評価:★★★★★
国府達矢 過去の作品
ロックブッダ
ほかに聴いたアルバム
BLOOD SHIFT/浅井健一
ここ最近、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS名義の作品が続いていたため、「浅井健一」名義では約5年ぶりとなるソロアルバム。一時期の乱発ぶりがようやく落ち着き、ここ最近、ある程度落ち着いて曲づくりを行っているためか、一時期の「どうしたんだ?」というような駄作連発がようやくなくなった感があります。今回のアルバムでもヘヴィーでストイックなギターサウンドは素直にカッコよさを感じる部分も多く、哀愁感帯びたメロディーにもインパクトが増した感も。ただそれでも1曲1曲はカッコよくても、全体的には似たタイプの曲が多く、最後の方はちょっとダレてしまった感もあるのですが…。
評価:★★★★
浅井健一 過去の作品
Sphinx Rose
PIL
Nancy
METRO(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
Sugar(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
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