独特のサウンドに日常的な歌詞がのる
Title:燦々
Musician:カネコアヤノ
最近、注目を集めている女性シンガーソングライター、カネコアヤノ。前作「祝祭」が「CDショップ大賞」に選ばれるなど、高い評価を受けているシンガーなのですが、売上面でも人気をあげており、本作はBillboard Hot Albumsで最高位18位を獲得。CD販売数に至っては初登場10位という結果となっており、まさにブレイク寸前といった感じになっています。個人的には実はいままでほとんどノーチェックだったのですが、本作の高い人気を見て、ちょっと気になって聴いてみました。ただ、この手の「注目の女性シンガーソングライター」は昨今、非常に多いので、正直言ってさほど期待していなかったのですが…。
しかし、アルバム1曲目「花ひらくまで」のサウンドにまずはビックリさせられます。ちょっとリバーブのかかったサウンドはサイケデリックな要素を感じつつ、その向こうに少しだけラテン的な要素を加えた非常に独特なサウンドが耳を惹きます。さらに耳を惹いたのは「りぼんのてほどき」では音数を減らしつつ、音の間の空間を生かした曲作りに、どこかゆらゆら帝国あたりのサウンドからの近似性を感じます。その後も「ぼくら花束みたいに寄り添って」も分厚いサイケ風なギターサウンドが耳を惹きますし、このバンドサウンドが実に魅力的に感じます。
かと思えば「かみつきたい」ではドゥーワップ風のサウンドを聴かせてくれますし、「光の方へ」はちょっと60年代的な雰囲気を感じるギターポップが魅力的。ラストを飾るタイトルチューン「燦々」はシンプルでフォーキーな雰囲気すら感じる音作りとバリエーションも豊富で最後まで飽きさせません。ただアルバム全体としては必要最小限にとどめたサウンドを用いつつ、リバーブなどのエフェクトを積極的に用いて、サウンドの向こう側、さらに音の隙間に壮大な世界観を感じさせる音作りとなっており、上にも書いたのですが、どこかゆらゆら帝国やOGRE YOU ASSHOLEあたりに通じるようなサウンドを感じます。まずこの音に非常に驚かされました。(ちなみに本作に参加しているかはわからなかったのですが、そのゆらゆら帝国やOGRE YOU ASSHOLEでの仕事でも有名なエンジニアの中村宗一郎が前作「祝祭」に参加しており、その影響も大きいのでしょうか?)
ただ一方で非常にユニークだったのは、そんなサウンドをバックに流れるメロディーは比較的シンプルでかつポップですし、歌詞についても日常感あふれる歌詞になっている点。例えば「明け方」などもメロディーだけピックアップすればフォーキーで非常にポップなメロになっていますし、「ごめんね」もしんみり聴かせるメロディーラインは非常にポップ。メロディーラインだけとればシンプルでちょっとフォーキーなポップソングとなっており、個人的にはつじあやのあたりと並べても違和感なさそうな印象を受けました。
歌詞も日常的なラブソングが多いのが印象的。「眠れない夜にそっと 布と皮膚 交互になぞった」と歌う「布と皮膚」のようにちょっと肉感を覚えるような生々しさを覚える部分もあるのも特徴的なのですが、それがひとつのリアリティーとなって楽曲のインパクトとなっています。このようにサウンドは非常に凝ったバンドサウンドを奏でつつ、一方、メロと歌詞は女性シンガーソングライターらしいシンプルで彼女の本音を綴った歌詞という点に彼女の大きな個性を感じます。そしてとても興味深いのが、サウンドと歌詞及びメロが一見ミスマッチながらも、うまくバランスを保って違和感なく聴かせてくれる点。これが彼女の最大の魅力のようにも感じました。
音楽的にも高い評価を得ていますし、売上面でも伸びてきている彼女。楽曲単位での大ブレイクといったシンガーではないかもしれませんが、次のアルバムで一気にブレイクするような予感も。間違いなくこれからの活躍が楽しみな、要注目の女性シンガーソングライターです。
評価:★★★★★
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コメント
最近良く出てくる女性SWの一人かなあと思って前作の祝祭がApple Musicの新作に出てたので、とりあえず特に興味なしにライブラリに追加してたらずぶずぶとはまってしまいました(祝祭も傑作でした)。
あい○ょん的なヒットはしないのかなとも思いますが(あいみ○んも素晴らしいです)、ライブのチケットは全然取れないので王道的なところ?以外では既にヒットしてる感じもします。
本人も最初売れ線的な?事務所にいて、そこを辞めて独自な感じになってるようです
あと燦々には弾き語り版が出ていて、下手したらこちらの方が良いのではないかとも思ってとりあえずしまいました…
投稿: kozy | 2019年11月20日 (水) 22時04分
すみません、下記の通り誤りでした。
思ってとりあえずしまいました
→思ってしまいました。こちらはCDかカセットのみですが機会があれば是非
投稿: kozy | 2019年11月20日 (水) 22時12分
>kozyさん
最初はもっと売れ線みたいな感じだったんですか。今の彼女はいい意味でマニアックなサウンドに走っていて、かなりいい感じです。弾き語り版もリリースされているみたいですね。こちらも機会があれば聴いてみたいです!
投稿: ゆういち | 2019年11月28日 (木) 22時22分