60歳のオールタイムベスト
コミックシンガーとして1982年にデビュー。その後、数多くのコミックソングをリリースした他、テレビ番組の司会やラジオのパーソナリティーとしても活躍した嘉門達夫。2017年に58歳の誕生日をきっかけに名前をカタカナにした「嘉門タツオ」と改名したようですが、そんな彼も今年でなんと60歳。還暦を記念した2枚組×2組のオールタイムベストをリリースしました。
Title:祝☆還暦 オールタイム・ベスト~還盤~
Musician:嘉門タツオ
Title:祝☆還暦 オールタイム・ベスト~暦盤~
Musician:嘉門タツオ
ちょっとユニークなのがその構成で、それぞれ日本コロンビアとビクターからのリリースとなるのですが、インディーズ時代の作品も収録されている関係か、リリース順として還盤のDisc1⇒暦盤Disc1、Disc2⇒還盤のDisc2という流れとなっており、CDの中でもその流れで聴くようにコメントが付されています。
そんな訳で2枚×2組の計4枚のCDで嘉門タツオの30年以上の活動の歩みを概観できるベスト盤。以前から薄々思っていたことなのですが、彼が歌っているのはコミックソングというよりもギター漫談だよな、ということを感じました。正直言って、コミカルなメロディーやサウンドで笑わせるというスタイルではなく、彼のネタはほぼ100%、語っているその歌詞の内容によるもの。嘉門タツオといえば大ヒットしたのがご存じ本作にも収録されている「替え歌メドレー」ですが、こちらもある意味、曲自身というよりも歌詞の内容で笑わせるスタイル。そういう意味では曲自体で笑わせるコミックソングとはちょっと異なるかもしれません。
もちろん彼自身、ソングライターとしても一定以上のスキルの持ち主であることは間違いなく、例えばアニメ主題歌となった「タリラリラーンロックンロール」や「明るい未来」、「少年はいつの日もバカ!」のようなしっかりとインパクトあるメロディーを聴かせる曲もあります。ただ、やはりギター片手にネタを聴かせるスタイルがメイン。特にこの傾向は最近の曲になればなるほど顕著で、暦盤のDisc2から還盤のDisc2にかけて「会話その1」や「ショートソング&会話」など、ショートコント的なネタの羅列という曲(?)や、「未発表曲」のような1ネタだけでお終いというコント的な曲(?)が増えてきます。一方で、陽気なクリスマスソングをすべてマイナーコードに変調してメドレーで歌う「ひとりぼっちのクリスマス」などはまさに曲自体で笑わせるコミックソングと言えるスタイルでしょうが、このようなスタイルの曲はほぼこの曲のみといった感じでした。
ネタ的にもパターンは決まっていて、「小市民」のようなあるあるネタ、「あったらコワイセレナーデ」のようなミスマッチネタが目立ちます。特に、お得意のスタイルをギター漫談で語るというスタイルは近年になればなるほど増えてきています。これはネタ切れ…というよりも純粋に彼自身、彼の強みをしっかりと把握して、その強みを生かすようなスタイルに徐々にシフトしてきた、といった感じでしょう。実際、ネタ的には最近の曲でも全く衰えた感はありません。
また、その時代時代に沿ったネタが多く、今聴くと、特に若い世代にとっては元ネタが不明に感じてしまう曲も少なくありません。ただ、この時代に沿ったネタも、リアルタイムを知っている世代としては懐かしさを強く感じてしまいますので、そういうネタもあえて収録しているのでしょう。特に阪神・淡路大震災の後の政府やマスコミの言動を厳しく批判した「怒りのグルーヴ~震災篇~」という時代性を強く反映した曲をあえて収録しているのも、あの頃を忘れないという強い意思を感じます。もっとも謎本ブームを生み出した「磯野家の謎」に便乗した「NIPPONのサザエさん」や、マーフィーの法則のブームに便乗した「マーフィーの法則」はちょっとあまりにも露骨な感じもしますが・・・。
もちろん、あるあるネタやミスマッチネタだけのワンパターンでは決してなく、いろいろな形で手を変え品を変え、ネタを繰り広げているアルバムですので、4枚のCDは最後まで全く飽きることなく最後まで一気に楽しむことが出来ます。もっとも漫談的なネタが多いので、正直言って、2度3度と聴きこむようなアルバムではないことは間違いなく、何度か聴くと飽きてしまうのも否めません。ただ、何度か聴いてちょっと飽きた後、時間を置いて聴くと、おそらく再び大爆笑できること間違いなしのベストアルバムだと思います。誰かを貶めるような不快な笑いはほとんどありませんし、広いリスナー層が素直に楽しめるアルバムだと思います。肩の力を抜いて笑えて楽しめるベスト盤でした。
評価:★★★★
ほかに聴いたアルバム
CHEMISTRY/CHEMISTRY
2000年代前半にミリオンヒットを続発し、一時代を築いた男性R&Bデゥオ、CHEMISTRY。2012年に活動を休止したものの、このたび活動を再開。約7年ぶりとなるニューアルバムをリリースしました。そんな復帰後第1弾となるアルバムはなんとセルフタイトル。そのため、ある意味、実にCHEMISTRYらしさを感じるR&Bナンバーを聴かせてくれている…のですが、正直言って、目新しさはゼロ。楽曲的にも2000年代の作風そのままで、今さらこういう楽曲なのか、とすら感じてしまいます。復帰の挨拶代わりに、彼ららしい曲をあえて収録した、ということも言えるのかもしれませんが…このままだと厳しいよなぁ。
評価:★★★
CHEMISTRY 過去の作品
Face to Face
the CHEMISTRY joint album
regeneration
CHEMISTRY 2001-2011
Trinity
はじめてのCHEMISTRY
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