アコースティックなサウンドで統一感
Title:Days of The Bagnold Summer
Musician:Belle and Sebastian
日本でも「ベルセバ」の略称で親しまれているスコットランドはグラスゴー出身のギターポップバンド、Belle and Sebastian。前作「How To Solve Our Human Problems」はもともと3枚のEPにわけてリリースし、それを後日まとめて1枚のアルバムとしてリリースするという特別な形態でのリリースとなりました。それに続く最新作は…あれ?このジャケット写真は誰??という話からスタートしそうな新作。実は本作、純然たる新作ではなく、同タイトルの映画のサントラ盤。もともとは漫画を原作とする作品だそうで、原作と脚本を読んでインスパイアした新曲に加えて、彼らが映画に合っているのではないかと思う既発表曲、未発表曲などを監督に提示し、今回のサントラに収録されているそうです。
そういうこともあって純然たるニューアルバムとは異なる本作。実際、アルバムの最初もサントラらしい、短いインストチューンからスタートしますし、ラストを締めくくる「We Were Never Glorious」も、おそらく出演者のものではないかと思われるセリフが入ってきています。また他にもインスト曲が何曲か収録されており、13曲入りながらも全42分という若干短めの曲が多い構成となっています。
ただ、一方ではアルバムの多くを締めるのが彼らの純然たる新曲。それもアコースティックなサウンドを主軸として、ウィスパー気味のボーカルで美しいメロディーラインを聴かせる楽曲ばかりで、まさに「これぞベルセバ!」といった感じの魅力的なポップチューンがつまっています。例えば今回の新曲では「I Know Where The Summer Goes」などは胸を詰まらせるような悲しげなメロが特徴的なフォーキーなナンバーなのですが、その中で時折顔を覗かせる明るいフレーズやサウンドにキュンと胸を締め付けられるような実に美しいポップチューンに仕上がっています。また「I'll Keep It Inside」や「Wait And See What The Day Holds」などもアコギのアルペジオをバックに静かに歌われる歌声が胸を締め付けられるような美しいナンバーに心奪われます。そんな切ないポップスから一転「Sister Buddha」は後ろに流れるホーンの音色も明るい軽快なギターポップチューンに。こちらもとても明るく、ウキウキしてくる、それでいてしっかりと美しいメロディーラインを聴かせてくるポップチューンに仕上がっています。
今回のアルバムでは既発表曲も収録されています。特に1998年のEP「This Is Just A Modern Rock Song」収録曲でもあり、事実上アルバムの1曲目を飾る「I Know Where The Summer Goes」はアコースティックベースのとても優しいフォーキーな楽曲になっており、本作の方向性を決定づけるような曲になっています。さらに今回収録された「Safety Valve」はバンドの最初期のレアナンバーだそうで、こういう形で聴けるのはファンとしてもうれしいかも。こちらもベルセバらしい美しいメロディーラインが光る暖かい楽曲となっており、彼らがバンド結成当初から、既に優れた才能を持っていたことがわかります。ちなみに既発表曲はあと「Get Me Away From Here I'm Dying」の3曲だけのようで、それ以外は新曲。そういう意味では純然たるニューアルバム的な感覚で聴けるアルバムとなっています。
また、楽曲の間に入ってくるインストチューンなのですが、こちらも歌入りの曲と同様、優しい雰囲気の楽曲なのですが、こちらはアコーディオンやストリングス、またバンドサウンドを入れてくるインストもあり、全体的にアコースティックテイストの歌入り曲と並べて聴くと、ほどよくバランスが取れている感じがします。このインスト曲もサントラでありがちな、アイディアの断片的な曲ではなくきちんとインストとして完成しており、そういう意味でも「ベルセバの曲」としてしっかりと聴くことが出来ました。
全体的にアコースティックなサウンドで統一されており、実にベルセバの魅力がよく出ていたアルバムに仕上がっていたと思います。ここ最近、彼らはエレクトロサウンドを取り入れたり、前作でもガレージロックを取り入れたりと、いろいろな挑戦をしていますし、それはそれで悪くはないのですが、なんだかんだ言っても、フォーキーでアコースティックなサウンドが彼らにはよくあっているな…ということを再認識しました。純然たるオリジナルではないのですが、個人的にはここ数作で一番の出来だったようにも思います。ちなみに映画は残念ながら日本での公開は未定とのこと。その点はちょっと残念です…。
評価:★★★★★
Belle and Sebastian 過去の作品
Write About Love(ライト・アバウト・ラヴ~愛の手紙~)
Girls in Peacetime Want To Dance
How To Solve Our Human Problems
ほかに聴いたアルバム
Fear Inoculum/TOOL
へヴィーなサウンドを主軸にしつつ、インダストリアルや民族音楽、ポストロックなどの要素も取り入れ高い評価を受けたアメリカのロックバンドTOOL。2006年のアルバム「10,000Days」以来、アルバムのリリースが途絶えていたのですが、実に13年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。今回のアルバムもヘヴィーでダイナミックに聴かせるバンドサウンドを軸に、ノイジーなサウンドやエレクトロなどの要素も取り入れ、複雑に展開していく楽曲構成が大きな魅力となっています。素直にその圧巻な音楽に酔いしれるアルバムではあるのですが、10曲1時間26分という長さはちょっと長い…。最初は非常にカッコよかったのですが、最後の方はちょっとダレてしまいました。
評価:★★★★
Free/IGGY POP
途中、UNDERWORLDとのコラボアルバムもあったものの、本人ソロ名義のアルバムとしては「POST POP DEPRESSION」以来3年ぶりとなるニューアルバム。前半はミディアムチューンのアンビエント風の楽曲に、渋く枯れた雰囲気すらあるボーカルでゆっくり聴かせるナンバー。後半はポエトリーリーディングという構成となっており、ロックミュージシャンとしてのイギーの姿はほとんど感じられないアルバムに。賛否両論あるアルバムのようですが、これはこれで彼のボーカリストとしての深い味わいを感じることが出来るアルバムになっていました。
評価:★★★★
IGGY POP 過去の作品
POST POP DEPRESSION
Teatime Dub Encounters(Underworld&Iggy Pop)
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