10年ぶりのピアノアルバム
Title:Spectrum
Musician:上原ひろみ
日本のみならず、今や世界でも高い人気を誇るジャズピアニスト上原ひろみ。精力的な音源制作やライブ活動も続けており、ここ数年もほぼ毎年のようになんらかの形でアルバムのリリースを続けてきました。ただ、ここ最近はTHE TRIO PROJECTとしてのリリースが続いたり、矢野顕子とのコラボや、ハープ奏者のエドマール・カスタネーダとのコラボ作がリリースされたりと、他のミュージシャンと組んだ作品が続いており、ちょっと意外なことにピアノソロアルバムとしては2009年の「Place To Be」以来、約10年ぶりのアルバムとなりました。
さて、ここ最近の上原ひろみの作品というと、比較的ロック寄りの作風によるものが続いてきました。THE TRIO PROJECTはバンドサウンドということもあり、ともすればプログレ的な楽曲すらありましたし、ライブではフジロックにも出演するなど(もっともフジロックに参加しているのは必ずしもロックバンドだけとは限りませんが…)、ロックリスナーを含め広いリスナー層にアピールするような活動も目立っていました。
そう考えると今回のアルバムは彼女の本来の姿、王道的なジャズ路線に戻ってきたアルバム、と言えるのかもしれません。特に「Whiteout」や「Blackbird」など、ピアノで美しいメロディーラインを奏でるような曲も目立ち、その美しいピアノの奏でに耳を奪われる瞬間に多く出会うことが出来る作品になっています。アルバムを締めくくる「Specia Effect」も、まさにそんな美しいピアノのフレーズが耳を惹く楽曲。ピアニスト上原ひろみの魅力をアルバム通じて存分に味わえる作品になっています。
ただ、もちろん彼女のアルバムが単にピアノで美しいフレーズを聴かせてお終い…な訳がありません。そもそもアルバムの1曲目を飾る「Kaleidoscope」からしてピアノで奏でられる複雑なフレーズが折り重なる非常にスリリングなナンバー。「Once In A Blue Moon」もヘヴィーなピアノのフレーズでダイナミックに展開していく楽曲になっており、いずれもここ最近のロック寄りになった彼女を気に入ったリスナーも納得できそうな楽曲になっています。また、それ以外にも「Yellow Wurlitzer Blues」はタイトル通りのジャンプブルースの要素を取り入れた陽気でリズミカルなナンバーになっていますし、「Mr.C.C.」もラグタイムを取り入れた軽快な楽曲に。いずれも「古き良きアメリカ」のエンターテイメントを取り入れたような楽曲になっており、聴いていてワクワク楽しくなってくるような楽曲になっています。
そんな彼女の今回のアルバムでの真骨頂とも言えるのが「Rhapsody In Various Shades Of Blue-Medley」でしょう。23分弱にも及ぶこの楽曲は管弦楽の名曲「ラプソディー・イン・ブルー」にジョン・コルトレーンの「ブルー・トレイン」とTHE WHOの「ビハインド・ブルー・アイズ」を「ブルー」つながりで取り入れた楽曲。長尺の中でメロディアスに聴かせたり、ムーディーに展開したり、ダイナミックなフレーズを聴かせたり、と、23分に及ぶひとつの物語を聴かせるような壮大な楽曲に。所々、聞き覚えのあるフレーズが飛び出してくるあたりも非常にユニーク。クラシックとジャズとロックをおなじ楽曲で融合させるあたりも、ジャズをベースにしつつ、様々なジャンルを曲に取り入れてくる上原ひろみらしい作品になっています。
そんな訳で、ロック的な要素を取り入れたここ最近の作品と比べると比較的おとなしいという印象も抱きがちなアルバムですが、そんな中でも様々な音楽性を取り入れ、魅力的なフレーズを聴かせつつ、自在にピアノを操る彼女の魅力を存分に感じられる傑作に仕上がっていました。ピアノアルバムという彼女の基本に立ち返ったからこそ、より上原ひろみの本来の魅力があらわれた作品と言えるかもしれません。次はまた、誰かとのコラボ作になるのでしょうか?彼女の活躍はまだまだ続きそうです。
評価:★★★★★
上原ひろみ 過去の作品
BEYOUND THE STANDARD(HIROMI'S SONICBLOOM)
Duet(Chick&Hiromi)
VOICE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
MOVE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
ALIVE(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
SPARK (上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
ライヴ・イン・モントリオール(上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ)
ラーメンな女たち(矢野顕子×上原ひろみ)
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