脂ののった時期の未発表音源
Title:Blue World
Musician:John Coltrane
ご存じ、モダンジャズを代表するサックスプレイヤー、ジョン・コルトレーン。昨年、未発表のスタジオ録音作「ザ・ロスト・アルバム」が発表され大きな話題となり、日本でも大ヒットを記録しました。今回はその大ヒットした「ザ・ロスト・アルバム」に続く未発表音源集。もともと1964年に映画「Le chat dans le sac (“The Cat in the Bag")」用に録音された音源だそうで、録音された音源はジョン・コルトレーンのオリジナル作の再録だそうですが、その存在についていままで知られておらず、彼の代表する名盤である「至上の愛」の約半年前のパフォーマンスということもあって大きな注目を集めたアルバムになっています。
そんな今回の演奏は、黄金のカルテットと呼ばれるジョン・コルトレーン(ts) マッコイ・タイナー(p) ジミー・ギャリソン(b) エルヴィン・ジョーンズ(ds)の4人による演奏。実際に、息のあったメンバーによる脂ののった演奏が実に素晴らしく、まずアルバムの冒頭を飾る「Naima」では実に優しく語り掛けるような、ムーディーなサックスの演奏にまずは心を奪われます。ムーディーなサックスの演奏から、ソロでのアグレッシブな演奏への切り替えも素晴らしいタイトルチューンの「Blue World」に、息のあった演奏でテンポよく聴かせる「Like Sonny」などなど、どの曲も聴かせどころたっぷりの曲が並びます。
個人的にはもちろんコルトレーンのサックスも素晴らしかったのですが、それと同じくらい耳を惹いたのがマッコイ・タイナーのピアノの音色。「Naima」でもちょっと癖のあるフレーズがコルトレーンに負けず劣らず主張を繰り広げていますし、「Blue World」ではアグレッシブなサックスの音色のバックに展開する、実にユニークな和音が耳を惹きます。ある意味、かなりピアノはピアノでかなり強い個性と主張を感じたのですが、ただそれでも決してコルトレーンのサックスの邪魔をすることなく、しっかりと引き立てている点はバンドメンバーの絶妙なバランスを感じさせます。
また特に今回のアルバムで核ともなっているのが「Village Blues」。今回のアルバムではTake1からTake3までの3度の演奏が収録されています。どれもムーディーなサックスの音色が強い印象を受ける楽曲なのですが、特に4曲目、5曲目にTake1とTake3の演奏を並べて収録されていることでその両者の聴き比べが出来るのがユニークな構成。Take3はTake1に比べると、より感情のこもったムーディーなサックスの演奏を繰り広げている一方、ピアノの音色は逆に軽やかになっており、その対比によりサックスの印象がより際立つ演奏になっており、Take1からTake3への大きな進化を感じる構成になっていました。
前述の通り、「至上の愛」の半年前のパフォーマンスということもあり、バンドとしても実に脂がのった状況であり、未発表であることが信じられないくらいの素晴らしいパフォーマンスを楽しめる傑作アルバムでした。ある意味、モダンジャズとしては王道的な演奏でもあり、そういう意味では幅広い層にも楽しめる演奏ではないでしょうか。コルトレーンの新たな代表作の誕生と言ってもいい名盤です。
評価:★★★★★
John Coltrane 過去の作品
The Final Tour: The Bootleg Series, Vol. 6(Miles Davis&John Coltrane)
Both Directions At Once:The Lost Album(ザ・ロスト・アルバム)
ほかに聴いたアルバム
This Is The Place/Noel Gallagher's High Flying Birds
先日は弟、リアムのアルバムを紹介しましたが、こちらはお兄ちゃん、ノエル・ギャラガーの新譜。表題曲を含む新曲3曲に表題曲のリミックス2曲を加えた5曲入りのEP。oasis時代からの王道路線を貫くリアムに対して、エレクトロサウンドをふんだんに取り入れて、oasisとは異なる道を歩もうとするのが顕著なのがノエル。リミックス2曲もエレクトロアレンジに仕上げています。かと思えば「A Dream Is All I Need To Get By」ではアコースティックなサウンドで郷愁感あるメロを聴かせたりと、しっかりとメロディーメイカーとしての才も垣間見せています。個人的には、新たな路線に挑戦するお兄ちゃんを応援したいところ。次のフルアルバムも楽しみです。
評価:★★★★★
NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS 過去の作品
NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS
CHASING YESTERDAY
Who Built the Moon?
Wait And Return EP
Black Star Dancing
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