ジャズシーン以外にも強くアピール
Title:Kind Of Pink
Musician:ユッコ・ミラー
本格派のジャズ・サックスプレイヤーとして評価を受けながらも、ギャルっぽいルックスやそれを強調するかのような奇抜なファッション、さらには一時期は「萌え」系を狙ったようなキャラ設定など、飛び道具の部分も大きな注目を集めました。前作「SAXONIC」ではあのピコ太郎とコラボを行ったり、最近ではYou Tuberとしても活躍するなど、ジャズシーンに留まらず、広い層へアピールしようとするその活動スタイルも彼女の大きな特徴と言えるでしょう。
今回のアルバムに関してもそんな本格派のジャズプレイヤーとしての彼女と、ジャズ以外のポップシーンへ広くアピールしようとする彼女の姿が同居するような作品となっていました。「本格派」という点では、彼女のサックスはもちろんのこと、グラミー賞を3度受賞しているデイヴィッド・マシューズがピアノ及びアレンジャーとして参加している点。また楽曲としても冒頭を飾る「Blue Stilton」はアグレッシブなサックスプレイで、まずはサックスプレイヤーとしての実力をアピールしていますし、デイヴィット・マシューズのピアノの演奏も強く印象に残ります。「Poppin' Shower」も本格的なモダンジャズのナンバー。サックスのテンポよい躍動感あるメロディーを奏でるサックスソロが耳に残りますし、続くピアノの軽快でテンポよいピアノソロも強い印象に残ります。全体的にもイージーリスニング的な要素が強かった前作に比べても本格的なモダンジャズの曲もぐっと増え、より彼女のサックスプレイヤーとしての実力を感じさせてくれました。
ただ一方では普段、ジャズをあまり聴かないようなリスナー層にもすんなりと受け入れられそうなナンバーも目立ちます。典型的なのが「『名探偵コナン』メイン・テーマ」。ご存じ有名アニメの中で使われているインストチューンなのですが、ムーディーなサックスで聴かせます。おそらく多くの方にとっては耳なじみあるメロディーなので、ジャズを普段聴かないような方でも違和感なく楽しめそう。
また「海の見える街」はジブリアニメ「魔女の宅急便」、最後を飾る「人生のメリーゴーランド」は同じくジブリの「ハウルの動く城」で使われた久石譲によるナンバーのカバー。こちらもおそらく多くの方にとっては耳なじみあるナンバーとなっており、幅広い層が違和感なく楽しめそうなナンバーに。ただ、どちらもしっかりとジャジーなアレンジにまとめあげており、モダンジャズのナンバーと並べて聴いても違和感ない構成になっていました。
You Tuberとして活躍する彼女のスタイルを含め、普段の彼女の行動はジャズに興味がないような層でも自分の音楽を聴いてもらおうと、自覚的に動いているように感じます。そして今回のアルバムはそんな彼女の方針がアルバムの内容にそのまま反映されていたと言えるでしょう。もちろん、この方向性は決して本作に限らず、前作でも感じられました。ただ、その結果として登場したのが前作ではピコ太郎とのコラボという飛び道具的な作品になっており、それはそれでインパクトもあり楽しかったのですが、今回のアルバムに関しては飛び道具に頼らず、ジャズナンバーと比べても違和感ないようなポップチューンを並べています。
飛び道具に頼らないという点ではこのジャケット写真も印象的で、いままでの作品はカラーのジャケット写真で彼女の奇抜なファッションやカラフルに染められた髪をアピールするようなジャケットになっていましたが、本作はモノクロ。初回盤では肩を出したセクシーなスタイルを見せてくれるものの、全体的には落ち着いた大人な雰囲気を感じます。You Tubeでは以前の彼女のような奇抜な活動の動画をアップしているようですが、アルバムではあくまでも音楽で勝負、といった感じなのでしょう。アルバムの内容を含めて、そんな彼女の方向性を強く感じることが出来ました。
本格派な曲とポップな曲をほどよくバランスさせたアルバムで、まさに今、彼女のやりたいことを体現化した作品と言えるのかもしれません。ポップミュージシャンとのコラボやテレビ番組などの出演も少なくなく、彼女の知名度は今後、さらに上がっていきそうな予感も。これからの彼女にも要注目です。
評価:★★★★★
ユッコ・ミラー 過去の作品
SAXONIC
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