カクバリズム移籍後の作品を収録
Title:Kicell's Best 2008-2019
Musician:キセル
2000年のインディーデビュー以来、シンプルなサウンドから生み出される独特の空気感で独自の音楽性を築いてきた、辻村豪文・友晴の兄弟によるデゥオ、キセル。2001年にSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューした後、2006年にインディーズレーベルのカクバリズムに移籍。本作は、そのカクバリズム移籍後の楽曲を収録したベストアルバム。ただ2枚組のアルバムとなっており、Disc2ではメジャーレーベル時代の曲のリメイクが収録されており、オールタイムベスト的にも楽しめるアルバムとなっています。
そんな彼らのベスト盤ですが、まず1曲目「くちなしの丘」がある意味、最も「ありのままのキセル」といったイメージの曲となっています。ここ最近、彼らのステージを見ていないのですが、以前見たキセルのライブというと、辻村兄弟2人だけがギターをかかえてステージに乗り、カセットテープで流されるちょっとチープさもあるリズムマシーンの音をバックに静かにギターを奏でるというスタイル。この曲はまさにそのスタイルでの演奏となっており、カセットテープから流れてくるかのようなリズムマシーンの音とシンプルなギターの演奏のみというスタイルになっています。ただこのシンプルさに暖かみと懐かしさを感じさせると同時に、独特なグルーヴ感を覚える作風が実に魅力的に仕上がっています。
ただ今回のベスト盤でインディーズ移籍後のここ最近の曲を聴くと、全体的には以前より音が分厚くなって、よりグルーヴ感と彼ららしい浮遊感が増したような印象を受けました。「富士と夕闇」などはちょっとハワイアン的なギターの音色とクラリネット(?)の独特なリフが絶妙な浮遊感を醸し出していますし、「覚めないの」もギターリフとベースの奏でるギターリフが心地よさを生み出しています。「山をくだる」もワウワウギターとクラリネット(?)で作り出される浮遊感が心地よい感じですし、「ひとつだけ変えた」も浮遊感あるギターが独特のグルーヴを作り出しています。
普通、この手のサウンドは使われる製作費の関係上、メジャー時代の方がより分厚い豪華なサウンドが使われることが多いのですが、彼らの場合は逆。この傾向はメジャー時代の作品のリメイクでも顕著で、今回リメイクされた「ピクニック」にしろ「エノラゲイ」にしろ、あきらかに原曲に対して大きくアレンジに手が加えられており、オリジナルに比べると、独特の浮遊感とグルーヴ感がより強調されたようなアレンジに仕上がっています。イメージとしてはよりほんわかとした暖かさと懐かしさを感じさせつつ、不思議なうねりの中に身をゆだねるようなサウンドといった感じでしょうか。インディーズ時代ではそんなキセルの魅力がアレンジ面でもより強調され、その方向性が明確になったような印象を受けます。
そんな独特のサウンドながらもメロディーラインは意外とポップで十分なインパクトのあるメロを聴かせており、例えば「ビューティフルデイ」はピアノのサウンドが印象的に奏でられる中、切ないメロディーが胸をうちますし、「夕凪」なども郷愁感あるメロディーラインがインパクト十分。その独特のサウンドのみならず、メロディーラインでも十分に勝負できるポテンシャルを持ったミュージシャンだということをあらためて認識しました。
デビュー時から高い注目を集めてきたバンドであることは間違いないのですが、ただ正直なところ、一部の音楽マニア受けに終わってしまい、ブレイクには至っていない彼ら。しかし今回ベスト盤をあらためて聴くと、サウンドの独自性、メロディーラインのインパクトともに高いレベルを維持しているバンドであることにあらためて気が付かされ、なぜ彼らがいまひとつブレイクできないのか、不思議にすら感じてしまいました。確かにいわゆるフェス受けするバンドではないし、失礼ながら決して華のあるグループではないし、そういう意味でなかなか広い層への訴求力が足りない…のかもしれないのですが…。今からでも遅くないので、このベストアルバム、幅広い層に是非とも聴いてほしい作品だと思います。少なくともインディーズ時代に入り、その魅力はより深化しているように感じました。当初のインディーデビューから20年近くが経過し、そろそろ「ベテラン」の域に入って来た彼らですが、これからの活躍も楽しみになるベスト盤でした。
評価:★★★★★
キセル 過去の作品
magic hour
凪
SUKIMA MUSICS
明るい幻
The Blue Hour
ほかに聴いたアルバム
flask/おいしくるメロンパン
本作が4枚目のミニアルバムとなる3ピースロックバンドの新作。メランコリックさを感じるメロディーラインが魅力的なギターロックバンドなのですが、一方でサビのインパクトを含めてフックの弱さを感じてしまうのですが、残念ながら本作でもそれは同様。「candle tower」のような、よりハードなロック色を強めた曲などがひとつのインパクトとはなっているのですが、どちらかというとやはりメロディーラインが彼らの売りだし、そこでインパクトを取ってほしいような。毎作、惜しさを感じてしまいます。そろそろ、もう一皮むけてほしいところですが…。
評価:★★★★
Attitude/Mrs.GREEN APPLE
本作でBillboard Hot Albums1位を獲得するなど人気上昇中の男女混合5人組ロックバンド。もともととても明るいポップチューンが魅力的なバンドだったのですが、前作あたりから、その方向性で吹っ切れたような底抜けに明るいポップチューンを聴かせてくれるようになったのですが、本作も前作同様、吹っ切れたような明るさが魅力的。前作同様、ストリングスやピアノ、エレクトロサウンドも取り入れた分厚いサウンドが素直に気持ちよく、楽曲のスケール感も心地よい感じ。しんみり聴かせるバラードナンバーもあるのですが、そんな曲も含めて、明るさを感じさせるポップチューンの並ぶ、気持ちの良いアルバムでした。
評価:★★★★
Mrs.GREEN APPLE 過去の作品
TWELVE
Mrs.GREEN APPLE
はじめてのMrs.GREEN APPLE
ENSEMBLE
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