偉大なR&Bボーカルグループのラストアルバム
Title:The Last Word
Musician:The O'Jays
「裏切り者のテーマ」というインパクト満点な邦題がつけられた1972年のアルバム「Back Stabbers」が大ヒットを記録。日本でも高い人気を誇る男性3人組R&Bグループ、The O'Jays。その後もコンスタントにヒットをリリースし、いわゆるフィラデルフィア・ソウルの代表格的なグループと目されるようになっています。リーダーのエディ・レヴァートが、自身の歌手として人気を博していた彼の息子のジェラルド・レヴァートが2006年にわずか40歳に先立たれるなど失意を味わい、グループとしても混迷の時代を迎えたこともあったそうですが、グループとしての活動は続いていきました。
そんな彼らもメンバー全員が既に70歳後半。さすがに寄る年波には勝てなくなってきたみたいで、2020年に最後のツアーを決行して引退する旨を表明。また活動の最後となるアルバムも制作。本作がタイトル通り、彼らのラストアルバムとなります。非常に残念な話なのですが...中途半端にフェイドアウトするのではなく、こういう形で最後のアルバムをリリースしてくれる、というのはやはりうれしい話です。
ただメンバー全員80歳手前という年齢にも関わらず、本作は決して思い出補正に頼ろうとするような感じは一切ありません。まず強いインパクトを残すのが1曲目の「I Got You」。往年の彼らを彷彿とさせるようなフィリー・ソウルの王道とも言えるようなナンバー。雰囲気的にはあえて一昔前な感に仕上がっているのは否めませんが、その伸びやかなボーカルは昔と比べてもほとんど衰えがなく、その歌声に思わず聴きほれてしまいます。
その後も「Enjoy Yourself」や「'68 Summer Nights」などでストリングスを取り入れたフィリーなサウンドとメロウなメロディーラインで伸びやかな歌声を聴かせてくれるなど、聴いていてうっとりとしてしまうような歌声は今も健在。もっともアルバム全体としてはフィリーソウルの色合いはあまり強くなく、例えば「Stand Up(Show Love)」はピアノとギターがメインのサウンドをバックにパワフルなボーカルを聴かせてくれますし、「Above The Law」もパワフルなボーカルを聴かせるソウルチューンに仕上がっています。これらの曲のパワフルなボーカルも、年齢を感じさせないボーカリストとしての力量を感じさせます。
アルバムの最後には1967年にリリースされ、彼らがはじめてビルボードのR&Bチャートでベスト10入りさせたシングル「I'll Be Sweeter Tomorrow(Than I Was Today)」のセルフカバーが収録。彼らにとってのスタート地点となった曲で最後を締めくくるという選曲も素晴らしいのですが、ピアノのみのシンプルなサウンドをバックに力強く歌い上げるその歌声は感涙モノ。その歌声にもゾクゾクとさせられます。
正直なところ、楽曲的には昔ながらといった感じで、今の音を取り込んでいる訳でもありませんし、目新しさもありません。ただ、これだけしっかりと現役感のある力強いボーカルを聴かせながらも引退するというのが不思議になってくるほど、ボーカルに衰えは感じさせませんし、これからも傑作をリリースし続けても不思議ではない内容になっています。もっとも、ここまで力が残っているうちに引退したい、という意向があるのかもしれません。これが最後というのは実に残念なのですが…仕方ありません。最後の最後まで一流のR&Bボーカルグループとして幕を下ろすことができたアルバムでした。
評価:★★★★
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