1985年録音の幻のアルバム
Title:Rubberband
Musician:Miles Davis
「ジャズの帝王」とも呼ばれ、日本でも絶大な支持を受けているトランペット奏者のマイルス・デイヴィス。彼はジャズというスタイルに拘らず、幅広いジャンルを自らの音楽に取り入れたことでも知られます。当初はハード・バップのミュージシャンとしてその地位を固めながら、1959年にリリースされた「KIND OF BLUE」ではモード・ジャズを確立。さらにはロックやファンクなどを要素も取り入れたほか、エレクトロミュージックもジャズに取り入れた1970年のアルバム「BITCHES BREW」はジャズのジャンルを越えて、ロックリスナーからも高い評価を得た名盤として知られています。さらにその後はHIP HOPの要素まで取り込むなど、その音楽的な貪欲さは衰えることなく1991年に65歳という若さでこの世を去るまで、その音楽性は進化し続けました。
本作は、そんな彼が1985年に録音したものの、リリースされることなく「幻のアルバム」としてファンの間で語り継がれていた秘蔵の作品。この年、彼は長年所属していたコロンビア・レコードを離れ、ワーナー・レコードと契約。その移籍第1弾アルバムとしてロサンゼルスのAmeraycan Studiosでレコーディングを行っていましたが、日の目を見ることなく、移籍第1弾アルバムは翌年にリリースされる「TUTU」まで待たされることになります。しかし、それから約34年。昨年のレコードストアデイで4曲入りのEP「RUBBERBAND EP」がリリースし大きな話題となり、そしてついに今年、幻のアルバムがリリースされるに至りました。
そんな前振りの中で聴いた今回のアルバム。期待も否応なく高められることになります。実際、アルバムはまず高らかなトランペットの響きからスタートしその期待は一層高まります。そして1曲目「Rubberband of Life」はメロウな女性ボーカルにファンキーなリズム、その中を自由に動き回るソウルを感じるマイルスのトランペットの音色が非常にカッコいいナンバーにゾクゾクとさせられます。
しかし、結果として言えば、要所要所にゾクゾクするようなカッコよさを感じつつも、アルバム全体としては期待したほどではなかったかな、というのが率直な感想となってしまいます。まず今回のアルバム、彼らしく時代の先端を行くようなサウンドを多く取り込んでいます。特に時代は80年代の真っただ中。実に80年代らしいエレクトロサウンドを取り入れたファンキーなサウンドが大きな要素となっています。例えば2曲目の「This is It」などはその典型ですし、「Maze」などもまさに80年代的なサウンドが前面に押し出されています。確かにこれらのサウンドはリアルタイムで聴けばカッコよかったのでしょうが、残念ながら今の時代に聴くと、少々時代遅れなものを感じてしまいます。
また、この80年代的なサウンドに関しても、取り入れ方が若干ベタというか、時代の流行をそのまま取り入れました感が否めず、マイルスの中で上手く消化されていなかったのではないか、ということも感じてしまいました。例えば「Carnival Time」など、シンセのサウンドがかなりベタなフュージョンといった感じ。いかにも流行りのサウンドをそのまま取り入れた感じが否めず、おまけ程度になっているマイルスのペットがカッコいいだけに逆に残念さが増してしまう感すらあります。「I Love What We Make Together」なども当時はやったブラコンそのまま。いまひとつ、マイルスのカッコよさを感じることが出来ません。
決して悪い部分だけではなく、前述したとおり、要所要所にゾクゾクするようなカッコよさを感じる部分もあるのは事実で、例えば「See I See」などファンキーなリズムの中で鳴るトランペットには実にカッコよさを感じます。そういう意味ではマイルスの良さもしっかりとあらわれている作品だったと思いますし、間違いなく聴いて損のないアルバムではあると思います。ただ、「幻の作品」が「幻」であるのはやはりそれなりの理由があるのだな、と思わないこともなく…正直、彼の最初の1枚としては勧められないかもしれません。ただ、時代の流れを旺盛の自身の作品に取り込んでいこうとするそのスタンスにはやはり感心するものがあります。そういう意味ではマイルスらしいアルバムといえる作品でした。
評価:★★★★
Miles Davis 過去の作品
The Final Tour: The Bootleg Series, Vol. 6(Miles Davis&John Coltrane)
ほかに聴いたアルバム
It's The Blues Funk!/Crystal Thomas
ルイジアナやテキサスの黒人音楽シーンで活躍する女性ボーカリストCrystal Thomas。当サイトでも紹介したことのある日本のジャンプブルースバンドBloodest Saxophoneのアルバムに参加したことから注目を集めたそうで、彼女のニューアルバムが日本でもリリースされました。ちなみに本作はそのアルバム「Don’t Worry About The Blues」からレコード向きの楽曲を集めたLP盤で、なぜかサブスクリプションでは同作のみ配信。確かに話題となるそのボーカルは非常にパワフルで耳を奪われます。一方、楽曲はブルースの影響を受けつつ、コンテンポラリー色が強く、ファンキーなリズムがご機嫌なのですが、良くも悪くも軽い印象。個人的には彼女のボーカルならもうちょっと腰を落ち着かせた昔ながらもブルースサウンドが似合うような気もするのですが・・・。
評価:★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2019年」カテゴリの記事
- 圧巻のステージ(2019.12.29)
- 前作と同じレコーディングで生まれた作品(2019.12.24)
- ゴスペル色が強い新作(2019.12.23)
- バラエティー富んだエレクトロサウンド(2019.12.22)
- 待望の続編!(2019.12.20)
コメント