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2019年11月16日 (土)

思い入れ深い、初のソロ作

Title:Jaime
Musician:Brittany Howard

ルーツ志向のロックを奏でつつも、単純にルーツ志向と一言でおさまらない音楽性で高い評価を受けたロックバンド、Alabama Shakes。2012年にリリースされたデビューアルバム「BOYS&GIRLS」もグラミー賞にノミネートするなど高い評価を得ましたが、続く2ndアルバム「Sound&Color」もアメリカビルボードチャートで1位を獲得したほか、その年の各種メディアの年間ランキングで上位にランクイン。大きな評価を受けました。

そんなAlabama Shakesの最新作から約4年。なんとAlabama Shakesのボーカリスト、ブリタニー・ハワードのソロアルバムがリリースされました。今回のアルバムでまず特筆すべきなのはその参加したバンドメンバー。Alabama Shakesのザック・コックレルが参加しているほか、キーボードにはなんとロバート・クラスパー(!)。さらには今、ジャズ界でもっとも注目されているドラマーの一人、ネイト・ウッドが参加。これだけでかなり期待が高まってくる豪華メンバーでの編成となっています。

そのため、あくまでもロックバンドであるAlabama Shakesのサウンドと比べると、比較的ジャズ寄りになっている今回のアルバム。例えば1曲目「History Repeats」では非常にパワフルで、かつ絶妙のリズム感のあるネイト・ウッドのドラムからスタートし、グルーヴ感あるサウンドが実に魅力的。「13th Century Metal」もバンドメンバーによるセッションから生まれた曲だそうで、ファンキーでかつグルーヴィーなサウンドがたまらない楽曲に仕上がっています。

そのほかにもメロウなサウンドが心地よい「Tomorrow」やジャジーなエレピの音色が耳に残る「Goat head」など、Alabama Shakesとは異なる作風の曲が並んでいる点に、ソロアルバムとしての大きな魅力を感じます。ただ、とはいえ単純なジャズのアルバムではありません。前述の「History Repeats」「13th Century Metal」もファンキーなリズムを楽しめますし、「Stay High」などは爽やかでポップテイストの強い作風。「Short and Sweet」はアコギ主体のシンプルなサウンドで聴かせてくれますし、ラストを締めくくる「Run to Me」もリバーブをかけまくったサウンドでスペーシーでエレクトロ風な作品に仕上がっています。

そういう意味ではなかなか一言で言うには難しい音楽性で、Alabama Shakesのようなロック的な要素ももちろん垣間見れますし、ルーツ志向的な雰囲気を感じつつも、サウンドに関しては全体的にはモダンな印象。かといって単純に今風のサウンドを取り入れているわけではなく、まさにこのバンドにしか生み出せなかったようなグルーヴをアルバム全体から感じることができる作品になっています。

また何よりこのアルバムの最大の魅力はブリタニー本人のボーカルでしょう。力強いバンドサウンドをバックにしてはパワフルなボーカルを、「Tomorrow」のような曲では伸びやかでメロウなボーカルを、かと思えば「Short and Sweet」のようなシンプルな曲ではとても暖かく慈愛に満ちた歌声を聴かせてくれます。文字通り緩急つけた表現力たっぷりのボーカルが非常に魅力的で、サウンドに関しても、数曲を除いてはグルーヴィーなサウンドを聴かせつつも、基本的にはブリタニーのボーカルを中心に据えた構成に仕上がっています。

ただ、よくよく考えると、様々な音楽性を取り入れて、一言で言えない独特なサウンドを組み立てているという点も、ブリタニーのボーカルの魅力を最大限、前に出しているという点も、Alabama Shakesの大きな特徴。そういう意味では、実はブリタニーのソロアルバムながらもおおまかな楽曲の方向性としては実はAlabama Shakesと似たようなベクトルを差し示しているアルバムと言えるのかもしれません。

ちなみに今回のアルバムのタイトルであるJaimeは病気のため13歳で亡くなったという彼女の姉の名前から取ったとか。彼女にピアノを弾くことや詩の書き方を教えてくれたという姉の名前を付したアルバムに、それだけ彼女の思い入れの深さも感じます。そしてその思い入れがしっかりと曲に結実した傑作アルバムに仕上がっていました。Alabama Shakesとしても毎作、傑作アルバムを聴かせてくれている彼女ですが、今回も間違いなく年間ベストクラスの傑作だったと思います。ブリタニーのシンガーとしての、またソングライターとしてのすごみを感じさせる傑作でした。これだけソロとしてすごいアルバムを出すと、バンドとしての今後にちょっと心配になってしまいますが…次はAlabama Shakesとしての久々の新譜を期待します!

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Sinematic/Robbie Robertson

元THE BANDのメンバーによる約8年ぶりのソロアルバム。いい意味で年期を感じるしゃがれたボーカルで非常に渋く聴かせるアルバムで、ミディアムテンポの昔ながらもブルースロックがメイン。ちょっと陳腐な言い方かもしれませんが「大人のロック」という言う方が非常に似あう雰囲気のアルバム。ある意味、新鮮味は全くありませんが、現在76歳という大ベテランながらも現役感もあり、いい歳の取り方をしているように感じる作品に。ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、老いてからのロックのひとつのスタイルを示しているような感もある作品でした。

評価:★★★★

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