歌詞の雰囲気は魅力的だが
Title:boys
Musician:My Hair is Bad
途中、ミニアルバムのリリースを挟みつつ、フルアルバムとしては約1年7ヶ月ぶりとなるMy Hair is Badのニューアルバム。ブレイク作となった2枚目のフルアルバム「woman's」以降、コンスタントにアルバムをリリースするとチャート上位に食い込んでくるなど、しっかりとした人気を確保しています。
具体的な風景描写とそれに伴う心理描写が描きこまれている具体性ある切ない歌詞の世界とほどよくノイジーなバンドサウンドが魅力的なギターロックがインパクトのある彼ら。バンドサウンドの方はよくありがちなギターロック路線といった感じで目新しさはないもの、確かに歌詞に関しては、昨今の夏フェスバブルの中で雨後のたけのこのように出てくるギターロックバンドの中では一線を画するものがあり、彼らの人気の大きな要因になっているように感じます。
例えば本作でも「君が海」では学生時代を彷彿とさせるようなノスタルジックな風景描写と切ない恋を想像させるような言葉が曲の中にちりばめられておりとても魅力的。続く「青」も学生時代の思い出をそのままパッケージしたような歌詞が魅力的で、懐かしさと切なさを感じられる楽曲になっています。
ふたりの心境を観覧車に反映させて描く「観覧車」の歌詞も詩的で見事なものがありますし、「僕の最後になっておくれよ」と歌う「虜」もストレートなその歌詞に心惹かれるものがあります。女性の立場から、好きな人がほかの女のもとへと向かう姿を見送る心境を歌う「化粧」などは楽曲の雰囲気を含めて、まさに歌謡曲の世界観。全体的にウェットな雰囲気の楽曲が多く、いい意味で実に日本的なものを感じるロックバンドだったりします。
ただ一方では正直言うと、大絶賛するにはどこかあと一歩の惜しさを感じてしまうのも本作の特徴。前述のとおり、シンプルなギターロックは良くも悪くも特徴がありませんし、後半になると「舞台をおりて」のようなへヴィネスさが増したサウンドが聴けたりもするのですが、サウンドだけで惹きつけるには物足りなさもあります。
楽曲のバリエーションにしても「怠惰でいいとも!」のようなコミカルな曲があったり、ラップを取り入れた曲があったりとそれなりにバリエーションを出そうとしているのですが中途半端。また歌詞も非常に魅力的な歌詞ではあるものの、これといったキラーフレーズがないためひっかかりが弱かったり、心理描写にしても比較的表層的で、「あっ」と思わせるような言葉には残念ながら出会えません。その中途半端さが特徴的なのはインターリュード的な「one」で、演劇的なセリフのみで構成された実験的な「曲」なのですが、いまひとつ言いたいテーマが不明確なまま終わってしまっています。
要するに歌詞にしてもサウンドにしてもあと一歩のひねりがほしかったな、と思う中途半端さが残念に感じてしまいます。もっとも逆に言えば、歌詞にしてもサウンドにしてもあと一歩という感じであるため、上手くはまればとんでもない傑作がリリースされるような予感もするアルバム。そういう意味では間違いなく今後が楽しみ、と言えるバンドだと思います。ここ数作のアルバムがチャート上位に食い込んでいるものの、「大ブレイク」という意味では「あと一歩」の感もある彼ら。とんでもない傑作がリリースされれば、一気にお茶の間レベルの人気バンドになる、かも?
評価:★★★★
My Hair is Bad 過去の作品
woman's
mothers
hadaka e.p.
ほかに聴いたアルバム
今は今で誓いは笑みで/ずっと真夜中でいいのに。
ACAねという女性ボーカリストを中心としたユニットずっと真夜中でいいのに。の2枚目となるミニアルバム。ビルボードのHot Albumsやオリコンでも1位を獲得し、人気上昇中のユニットなのですが、感想としては前作とほぼ同じ。ハイトーンボイスの女性ボーカルと疾走感あるサウンドは良くも悪くも昨今のネット中心に人気を確保するミュージシャンにありがちなスタイルで聴き飽きた感もありますし、意味がありげなのですが、どうも深さを感じさせない歌詞の世界観にもどうもピンと来ません。今年のフジロックにも出演した彼女たち。最近フジロックは観客動員のためか、以前に比べると「売れ線」の邦楽ミュージシャンも積極的に呼ぶようになってきたのですが、それにしてももうちょっと選んでもいいのでは?とすら思ってしまいます。前作「正しい偽りからの起床」に続いて彼女たちの作品を聴くのはこれが2枚目なのですが、3枚目はさすがにもうスルー・・・かなぁ。
評価:★★★
ずっと真夜中でいいのに。 過去の作品
正しい偽りからの起床
PACIFIC/クレイジーケンバンド
デビュー21年目を迎えるクレイジーケンバンド。以前はほぼ毎年、オリジナルアルバムをリリースし続けてきた彼らでしたが、前作「GOING TO GO-GO」は約3年ぶりとちょっとスパンの空いた久々のニューアルバムとなりました。しかし今回のアルバムは再び前作「GOING TO GO-GO」からわずか1年というスパンでリリースしてきており、彼らの変わらぬ勢いを感じさせます。
ただ、楽曲的には1曲1曲、相変わらず高いクオリティーで安定した出来栄えの曲が並んでいるものの、アルバム全体として核になるような曲がなく、アルバム全体を聴き終わった後にいまひとつ印象に残らないような内容に・・・。一番インパクトを感じたのが「南国列車」のVIDEOTAPEMUSICによるリミックスだった、というのがちょっと残念な感じ。出来としては決して悪くないだけに、1曲2曲程度、強いインパクトのある曲だったり、いつもとちょっと違う雰囲気の曲が入っていれば、全然印象が変わるアルバムになっていたと思うのですが・・・。来年リリースされるであろう、次のアルバムに期待したいところです。
評価:★★★★
クレイジーケンバンド 過去の作品
ZERO
ガール!ガール!ガール!
CRAZY KEN BAND BEST 鶴
CRAZY KEN BAND BEST 亀
MINT CONDITION
Single Collection/P-VINE YEARS
ITALIAN GARDEN
FLYING SAUCER
フリー・ソウル・クレイジー・ケン・バンド
Spark Plug
もうすっかりあれなんだよね
香港的士-Hong Kong Taxi-
CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界
GOING TO A GO-GO
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事
- 彼女の幅広い音楽性を感じる(2019.12.26)
- 80年代に一世を風靡した女性ロックシンガー(2019.12.28)
- 2つの異なるスタイルで(2019.12.14)
- ミュージシャンとしての矜持を感じる(2019.12.17)
- 2019年最大の注目盤(2019.12.13)
コメント