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2019年10月 8日 (火)

話題のラッパーのデビュー作

Title:So Much Fun
Musician:Young Thug

ここ数年来、HIP HOPシーンを席巻しているトラップというムーブメント。ちょっと前までは「新しいジャンル」として注目され、メディアにもよく取り上げられていましたが、ここ最近ではあまりそのような形で取り上げられることが少なくなったような感じもします。ただ、それはブームとして収束した・・・という話ではなく、むしろここ最近は様々なミュージシャンがトラップの要素(特にハイハットの連続音に特徴づけられる独特のリズム)を取り入れることにより、トラップというジャンルがわざわざ新しいムーブメントとして取り上げる必要のないような、音楽シーンの中で根付いたジャンルになりつつあるように感じます。

個人的には正直言って、あまりトラップというジャンルにピンと来ることがなく、積極的に聴くようなことはあまりありませんでした。もちろん毛嫌いしていた、とかいう話ではなく、例えば日本でトラップを取り入れた第一人者であるゆるふわギャングなどは好んで聴いていましたし、ミュージシャン単位では好き嫌いがあったのですが、それも特にトラップというジャンルが気に入っていた訳ではありませんでした。ただ、ここ最近、耳が慣れてきたのか、あの独特のリズムに妙な中毒性を感じるようになってしまっていました。

今回紹介するYoung Thugというミュージシャンも、そんなトラップシーンを代表するラッパーの一人。奇抜なファッションも話題となったり、同じくトラップシーンの代表格のラッパー、Futureと喧嘩したニュースも話題となったそうです。ただ、Futureとは後に和解。本作でもFutureが参加したトラック「Sup Mate」が収録されています。本作はそんな話題のラッパーによるスタジオアルバムとしてはデビュー作(いままではミックステープという形態でのみのリリースだったので)。ただ、高い注目を集め、ビルボードチャートでは見事1位を獲得しています。

楽曲的にはもちろんトラップをベースとしたサウンドが大きな特徴。トラップの特徴であるハイハットを多用した高音の細かいリズムで、軽快でリズミカルなサウンドが終始流れており、大きなインパクトとなっています。ただ、そんな特徴以上に大きく印象に残ったのが、トラップをベースにしつつ、非常にメロディアスでポップなメロが流れているという点。1曲目「Just How It Is」から物悲しげなメロディーラインが前に出ている楽曲になっていますし、「Surf」もラップがメインながらもしっかりとしたメロディーラインが流れています。「What's The Move」も鳥の声をサンプリングして爽やかさを感じるメロディーが流れていますし、「I'm Scared」もトラップのリズムの中で爽快なエレクトロサウンドが流れ、ポップでメロディアスな作風の曲に仕上がっています。

楽曲のバリエーションとしてもちょっとコミカルさを感じる「Jumped Out The Window」やメタリック感のある歪んだサウンドが不気味に鳴り響く「Pussy」などバラエティー豊富。最後はJ.ColeとTravis Scottという豪華な面子がゲストで参加している「The London」というリズミカルなトラップチューンで締めくくっています。

意外と人懐っこさすら感じるメロディーラインに、1時間2分という長さながらも19曲入りで1曲あたり3分程度の短さというテンポの良さ、さらには楽曲のバリエーションという要素も重なり、いい意味でポップで聴きやすい内容となっており、ビルボードチャート1位という人気も納得の内容。また、ポップで耳馴染みやすい作風だからこそ、そんな中で流れているトリップのリズムの中毒性に知らず知らずにはまっているようなアルバムにも感じました。ま、正直、トラップのリズムがあふれている現状だからこそ、その状況が今後どれだけ続いていくかは非常に微妙なのですが、そんなことはさておき、純粋に優れたHIP HOPのアルバムとして楽しめる傑作アルバムだったと思います。HIP HOPに興味ある方はもちろん、そうでなくても意外と楽しめるかも?

評価:★★★★★

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