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2019年10月 7日 (月)

歌は世につれ

今日はまた、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回読んだのは芸能ライターのとみさわ昭仁による「レコード越しの戦後史」という一冊。戦後に生じた様々な出来事を、それに関連して発売された歌謡曲とリンクさせて紹介して戦後史を概観しようと試みた一冊です。

「歌は世につれ世は歌につれ」というのは歌謡曲を語る際によく言及される言葉ですが、この本で紹介されている曲はまさに「歌は世につれ」を体現化している曲がいろいろと紹介されています。もっとも必ずしもヒットしたり話題となった曲ばかりではなく、便乗商法的に売り出された曲やほとんど流通しなかったような「知る人ぞ知る」曲も含まれているため、重箱の隅をつつくような選曲も少なくないのですが、ただ、パンダが日本にやって来た時は本書曰く「100種類以上」のパンダに関連するレコードがリリースされたり、ほかにも80年代に都市伝説として一躍話題となった口裂け女にちなんだレコードが存在していたり、アポロ11号の月面着陸にちなんで「月の世界でランデブー」(椿まみ)、「静かの海のブルース」(宝田明)なんて歌謡曲がリリースされたりと、ある種の節操のなさに歌謡曲のしたたかさを感じてしまいます。

最近では良くも悪くもこの手の便乗歌がグッと減ってしまったような感じがします。もっとも最大の理由がそもそもCDが売れなくなってしまい、世の中の出来事に便乗した曲を作ったとしてもお金儲けが出来なくなってしまったから、という理由が大きいのでしょう。まあ、安直な便乗ソングには閉口することも少なくはないのですが、そういう曲が少なくなってしまうことには寂しさも感じられます。もっとも、以前よりも少なくなったとはいえ、世の流行に便乗する曲の存在がなくなることはなく、今回、この記事を書くにあたっていろいろと調べてみたところ、タピオカブームに乗った↓みたいな曲をみつけてしまいました。ちなみに歌っている方を含めて全くの初耳です。

またこの本でひとつ興味深かったのが、「あとがき」の記載。この本に美空ひばりの曲が1曲も紹介されていない、という点でした。「あとがき」で著者曰く「彼女の300曲を超えるシングル盤には、本書の企画趣旨に合う曲がなかった」という記載があるのですが、安直に世の中のトピックに便乗した曲を作らなかった、というのはおそらく彼女の矜持なのでしょう。いまほど「国民的歌手」として評価が定着していなかった活動初期の頃から、そのような曲を作っていなかったという点にも彼女の高い志も感じますし、安直に時代に便乗した曲を作らなかったからこそ、逆に多くの人に愛される曲を歌い続けることが出来た、ということもあるのかもしれません。

そんな訳で、なかなか興味深く楽しみながら読むことの出来た一冊ではあるのですが、率直に言って、読み終わった後の感想としては中途半端なものを感じてしまいました。本の構成としては、戦後史の出来事を主軸として、それに関連する歌を紹介する流れとなっています。確かにトピックによっては歌謡曲と上手くリンクさせて記述できたような項目もあるのですが、ただ単に戦後史の出来事を記述したあと、欄外のトピック的に関連する歌謡曲を紹介するだけで終わっている項目も少なくありません。かと思えば、あくまでも関連する歌謡曲が発売されていることを前提としているため、戦後史の重要な出来事であっても関連する歌謡曲がない場合は全く言及されることはありません。個人的には、歌をまず紹介した上で、それに関連する戦後史のトピックを紹介するような構成の方が本のテーマがより明確になってよかったような感じがします。この構成だと、戦後史の紹介としても戦後史と歌謡曲のリンクという意味でも中途半端な印象が強く残ってしまったのが残念に感じました。

エッセイ的にそれなりに楽しめた本ではあるものの、もうちょっと時代と歌謡曲のリンクの在り方についてはつっこんでほしかったように感じます。2,000円近い値段の本としてはちょっと物足りなかったかなぁ。雑誌などの一コーナーとしてなら興味深くおもしろい内容であったとは思うのですが・・・。

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