« デイリーライブ3度目 | トップページ | ブルースへの愛情を深く感じる作品 »

2019年9月22日 (日)

日本ロック界の首領(?)内田裕也の音楽的実績

Title:MY LIFE IS R&R!
Musician:内田裕也

今年3月、79歳でこの世を去った内田裕也。マスコミでは「日本ロック界の首領(ドン)」などと称され、最後に口癖のように「ロケンロール」とだけ口にして去っていくそのキャラクター性が強いインパクトを与えた彼ですが、はっきり言ってしまって音楽的な側面での功績は非常にわかりにくい部分が少なくありません。少なくとも本人も自虐的に語っていましたが、ヒット曲は皆無。「日本のロック史」的な本を読んでも、ミュージシャンとして内田裕也が登場してくることはありません。その名前が登場するのは、おそらくフラワー・トラベリン・バンドのプロデューサーとしてでしょう。

内田裕也が日本のロック史上において「何」を行ったか、についてはTogetterにちょうどよいまとめ記事を見つけました。

誰も聴いてなかった内田裕也

これを読み感じだと、彼はいわゆる日本のロックシーンにおけるフィクサー的な存在。裏社会とのつながりもあった日本の芸能界の中に良くも悪くもロックという根付かせてきた存在といったイメージでしょうか。そのため日本の芸能界ともっともリンクのあった存在が彼であり、そのためメディアでは「ドン」なんて呼ばれ方をして、まるで日本ロックの代表格のように扱われたのでしょう。裏方として日本のロックシーンにおいて一定の功績があったことは間違いなさそうですが、ただ、あくまでも裏方である彼がロックの代表格として扱われるような日本のメディアの状況が、日本に本当の意味でのロックミュージックが根付いていなかった、ということも言えるかもしれません。

もちろん、とはいっても彼もミュージシャンとして活躍してきた実績がありました。本作は彼への追悼企画として60年代中盤に、当時の東芝音楽工業(のちに東芝EMI、EMIミュージックを経て、現在はユニバーサルミュージック)に残されたシングル音源をまとめたベストアルバム。そんな彼がどんなロックンロールを奏でていたか気になるところですが、最初、本作を聴きだすとちょっとビックリするかもしれません。1曲目「ひとりぼっちのジョニー」はロックというよりは完全にカントリーウエスタン。続く「ヤング・ワン」はハワイアン風とロックンロールというイメージからはかけ離れています。

その後も「キューティー・パイ」あたりはロックンロールという範疇に入る楽曲となっていますが、「ジプシー・キャラヴァン」は完全に歌謡曲と、ここらへん、ロックンロールという音楽の解釈の在り方も含めて、非常に時代性を感じさせる楽曲が並びます。ただ、そのイメージが変わるのが後半。ビートルズのカバーでもおなじみのチャック・ベリーの「ロール・オーバー・ベートーベン」あたりから。この曲、歌詞は完全にギャグ路線のような感じになっているのですが、軽快なリズムはロックンロールそのもの。その後も今の耳で聴いても間違いなくロックンロールな楽曲が並んでいます。

ただ、正直なところ音楽的には最後の最後まで微妙な出来。時代的に仕方ないのでしょうし、同時代にロックンロールを奏でていたミュージシャンと比べて劣っているわけではないのでしょうが、洋楽のロックンロールのそのままの模倣という枠組みを出ていません。音楽的にはほとんど話題になることのない彼ですが、確かにこの出来では・・・と思ってしまいます。おそらくこういう機会でもない限り、彼の音楽を聴くこともないでしょうから、興味を持った方はどうぞ、といった程度のアルバムといったところでしょうか。

彼のようなフィクサー的な存在がロックの代表格的に扱われている時点で、ある意味、実に日本的なものを感じてしまう内田裕也。彼の死はひょっとしたら日本の音楽シーンにおいてひとつの終わりを告げたのかもしれません。今回、本作を聴くにあたって、あらためて彼はどのような存在だったのか調べはじめると、そう感じるに至りました。あらためてご冥福をお祈りいたします。

評価:★★★


ほかに聴いたアルバム

Moon Dance/WONK

最近では様々なミュージシャンへのアルバムにも参加。注目を増しているソウルバンドWONKの最新作は5曲入りのEP。全体的にメロウなサウンドを聴かせるメロディアスなAOR路線が主体。正直言うと、目新しいという印象はないのですが、「歌」をしっかりと聴かせる曲が並んでおり、聴き惚れてしまう感の強いアルバムになっていました。わずか5曲入りということでちょっと物足りさなもあるのですが、それだけに次のアルバムに期待できそうなEPになっていました。

評価:★★★★

WONK 過去の作品
BINARY(WONK×THE LOVE EXPERIMENT)

いちご/木村カエラ

今年6月にデビュー15周年を迎えた木村カエラの約2年9ヶ月ぶりとなるアルバム。「Continue」ではいまをときめくあいみょんが楽曲を提供。ほかにもCharaやノルウェーのアートロックバンドPom Pokoが楽曲を提供しているほか、渡邉忍や曾田茂一などおなじみのメンバーも楽曲を提供。15周年の記念盤らしい、にぎやかな作家陣が参加したアルバムとなっています。ただアルバム全体としてはいつもの木村カエラといった印象。ギターロックに仕上げたり、エレクトロサウンドを入れてきたり、サウンド的には自由な作風に仕上げている一方、軽快で明るいポップチューンというメロディーラインでアルバム全体が統一され、結果としていつもの彼女のアルバムと同様、楽しい雰囲気のポップアルバムに仕上げていました。悪くいえば15周年の記念盤なのに無難な、よく言えば実に彼女らしいアルバムといった感じでしょうか。

評価:★★★★

木村カエラ 過去の作品
+1
HOCUS POCUS
5years
8EIGHT8
Sync
ROCK
10years
MIETA
PUNKY
¿WHO?

|

« デイリーライブ3度目 | トップページ | ブルースへの愛情を深く感じる作品 »

アルバムレビュー(邦楽)2019年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« デイリーライブ3度目 | トップページ | ブルースへの愛情を深く感じる作品 »