タイと日本の音楽が地続きに
Title:New Luk Thung
Musician:Juu&G.Jee
今回紹介するアルバムはタイのアンダーグラウンドシーンで絶大な支持を誇るラッパー、Juuとその弟子、G.JeeによるHIP HOPアルバム。日本ではその名前はほとんど知られていないのですが、彼らについて知ったのは本作の中に1曲、当サイトでも紹介したことあるラップクルー、stillichimiyaが参加した曲「ソムタム侍」があり、その曲のMVをYou Tubeで見たことがきっかけでした。
Mr.麿の怪演が強いインパクトを残す非常にユニークなMVなのですが、楽曲もとてもインパクトが残ります。エキゾチックなトラックがアジアンなテイストをむんむんと放出している一方、タイ語と日本語を境目なく行ったり来たりするラップも印象的。Mr.麿のボーカルによる歌の部分はどこか日本のムード歌謡のテイストがあり、日本とタイの音楽が全く同じまな板の上で調理されているようなそんな独特の楽曲になっており、一気に気になる存在となってしまいました。
今回、このアルバムのプロデュースを手掛けたのはstillichimiyaのDJ/プロデューサーでもあるYoung-G。タイの音楽に興味を持った彼は2016年から17年にかけてタイに移住。現地のミュージシャンたちとも交流を深める中で出会ったのがタイのカリスマ的ラッパーであるJuu。そんなつながりにより今回のアルバムリリースにつながりました。そのため本作にはstillichimiyaだけでなく、「深夜0時、僕は2回火を付ける」では鎮座DOPENESSと、同じくstillichimiyaのMMMがフューチャリングで参加しています。
本作のアルバムタイトル「New Luk Thung」の「Luk Thung」=ルークトゥンとは、タイの田舎の大衆音楽のこと。音楽的な形式が決まっているようなジャンルではないそうで、「タイの演歌」という紹介のされ方をすることが多いようですが、イメージとしてはむしろ「歌謡曲」に近いのかもしれません。そのためでしょうか、ある意味、あらゆるジャンルを貪欲的に吸収する歌謡曲と同様、このアルバムにも様々な音楽からの影響を見て取れます。
「深夜0時、僕は2回火を付ける」ではエキゾチックな雰囲気が立ち込めるB級色強いトラック。続く「かわいいキミ」ではG.Jeeとのデゥオとなり、軽快なナンバーに仕上がっています。「シーレイ 田舎でのんびり」ではタイトル通りのタイの田舎を彷彿とさせるエキゾチックさを感じるサウンドをゆっくりと聴かせる楽曲になっていますし、「ハナと僕の道」ではダークなサウンドにはトラップからの影響も?「Give Me The Way」ではAORの要素も感じられ、垢抜けたサウンドを聴かせてくれます。
そんなバラバラな作風でもアルバム全体として統一感もきちんと感じることが出来ます。もともとJuuの音楽はレゲエからの影響が強く、今回のアルバムでもその要素が要所要所に感じることが出来るのも統一感が出ている大きなポイントなのですが、またルークトゥンという音楽がこのアルバムの背景として一本筋を通してるからなのでしょう。
ただ一方で単純に「タイのエキゾチックな音楽」ということで終わらず、「ソムタム侍」にしてもそうですが歌詞の中でいきなり日本語が登場してくる曲があったりして、日本のポップスと地続きに感じられるのも本作の大きな特徴でしょう。もともとYoung-Gがタイの音楽に興味を持ったきっかけとして、彼が訪れたタイ東北部のイサーンの風景が彼の故郷、山梨と一緒だったことからだそうで、彼自身、今回の活動もstillichimiyaでやってきたことをアジアに広げただけ、と述べています。もともとタイの地方に日本の田舎と共通項があったのでしょうし、またタイの音楽を異質なものと捉えるのではなく、自らの音楽と共通するものがあると捉えているからこそ、日本とタイの音楽が地続きのようにつながっている今回のアルバムが誕生したのでしょう。その結果、エキゾチックでありつつも日本人にとってもどこか馴染みやすいという、独特なアルバムに仕上がっていました。
今回のYoung-GとJuuとのつながりは決して一時的なものではなく、今後もコンスタントに活動は続いていきそう。非常に独特でおもしろく、今後の活動にもかなり期待ができそうです。タイのHIP HOPといっても取っつきにくさはほとんどありません。stillichimiya好きはもちろん、そうでなくても幅広い方にお勧めできる傑作アルバムでした。
評価:★★★★★
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