結成30周年の記念映画
先日、名古屋の伏見ミリオン座で、the pillows30周年記念プロジェクトとして制作された映画「王様になれ」を見てきました。
ミュージシャンやバンドの活動の節目に映画を撮る、というケースはよくあります。ただ、そのような映画はバンドの活動を追ったドキュメンタリー映画であることが普通です。しかし、本作はドキュメンタリーではなく、純粋な劇映画。自らも俳優として活躍するほか、主に舞台の脚本・演出を手掛けるオクイシュージがはじめて映画監督して挑んだ作品になっています。
物語はカメラマン志望の若者、祐介がふとしたきっかけでバスターズ(=the pillowsのファン)のユカリという女性に出会い、彼女を通じてthe pillowsを知ることから物語はスタートします。カメラマンを目指していながら、全く芽が出ず、日々の暮らしの中で鬱屈した気持ちを抱えている彼。一方、ユカリにも祐介には言えない秘密があり・・・というようなお話。
今回の映画をあえてドキュメンタリーではなくノンフィクションにしたのは、かつて一度、the pillowsのドキュメンタリーを作成したことがあったこと、また「ストーリーを通してピロウズが如何に多くの人に愛されてきたのかを伝えていきたい」という意図があったことを、原案を手掛けた山中さわおは語っています。
正直言うと今回の映画、最初はあまり食指が動かず、見ようかどうか迷っていました。the pillowsの映画ならばやはりドキュメンタリー形式かライブ映画のようにthe pillows自体にスポットを当てたものを観たい、という思いがあったからです。またストーリーについても、興味を持つような内容はなく、映画自体にはあまり惹かれるものがありませんでした。ただ、試写会などでの感想を読む限りだと、かなり評判は良いようでしたので、やはりthe pillowsファンとしては見ておかなくては・・・という気持ちもあり、今回、映画館まで足を運んでみました。
そんな訳で期待半分、不安半分という感じで見た今回の映画ですが、結果としては「見てよかった」という印象を抱いて映画館を去ることが出来ました。それはまず第一に、思ったよりもストーリーが良かったという点。全体的に王道的なストーリーながらも、変にムダに盛り上げるような「事件」などもなく、比較的淡々と物語は進んでいきます。ただ、この展開が逆にリアリティーがあり、また感動の押し売りやお涙頂戴的な演出もなかったため、素直に物語に没頭することが出来ました。
そして第二に、その物語の中でthe pillowsというバンドの魅力を上手く溶け込ませることが出来ていた点でしょう。映画の中ではもちろん全面的にthe pillowsの曲が使われているのですが、劇中の主人公の心境とthe pillowsの歌詞の内容が実に上手くリンクしており、ファンとしてもうれしくなってくる演出が随所に見受けられます。
さらに何よりよかったのが、劇中の要所要所に登場するthe pillowsのライブシーン。普通の映画のようにワンカットだけ、という感じではなく、ほぼフルコーラス、ライブ映像が使われているのが大きな特徴。物語のテンポが悪くなる、という批評もあるようですが、今回はライブドキュメンタリー的な側面を入れるためにわざとフルコーラスでのライブ映像を入れてきたのでしょう。また、今回、ストレイテナーのホリエアツシとGLAYのTERU、JIROがthe pillowsの曲をカバーしたライブ映像が入っているほか、多くのミュージシャンたちがゲストとして参加し、まるでthe pillowsへのトリビュートのような様相を帯びた内容となっているのも大きな魅力でした。
もっとも、物語としても楽しめる内容ではあったものの、ストーリー的にはよくありがちな展開ですし、the pillowsファン以外に無条件でお勧めできるかと言われると微妙。そういう意味では間違いなくファンズムービーではあると思います。ただし、the pillowsのファンなら、間違いなく満足できる映画だったと思います。the pillowsの魅力が映画全体から伝わってきて、映画を見終わった後、無性にthe pillowsを聴きたくなるような、そんな映画でした。劇映画ということで躊躇している方もいるかもしれませんが・・・もしそうだとしたら非常にもったいないと思います。全the pillowsファン必見の作品です。
以下、ネタバレの感想を・・・。
個人的にこの映画で非常に気に入ったのは実はラストシーンでした。結末としてはカメラマンとしての祐介も、祐介とユカリの2人の仲もハッピーエンドに終わります。ただ、映画のラストシーンでハッピーエンドなんだろうなぁ、ということを映像などでほのめかしているのですが、具体的な説明があるわけではありません。その後の2人については観客の解釈にゆだねる、いわば余韻のある終わり方をしています。
こういう終わり方、だ~い好き!(笑)
映画にしてもドラマにしても、時々、妙に最後の展開にくどいほど説明を加えて終わるようなケースが少なくないんですが、そんなキッチリと終わるよりも、観客の解釈にゆだねる「空白」を残しておいたほうが心地よい余韻を持って映画を見終わることが出来るのでいいと思うんですよね。
このラストシーンに限らず、オクイシュージ監督は映画全体として比較的、あまり説明しないような脚本づくりを行っているように感じられました。最近の邦画は必要以上に劇中で説明を行って、誰が見てもよくわかるような展開になっている映画が少なくありませんが、今回の映画ははっきりと説明されない部分も多く、オクイシュージ監督のポリシーのようなものを感じます。
ただ、この「説明しない」という展開が観客に解釈をゆだねることになり、それが結果として観客にとっても考えながら映画を見ることが出来る、ないしは後になって様々と思いをめぐらすことが出来るという意味でも大きなインパクトを与える結果になったのではないでしょうか。個人的には上にも書いた通り、見る者によって映画に様々な解釈の余地が残った方が、映画としての奥行を感じることが出来るという意味で、望ましい映画の在り方だと思っています。今回、オクイシュージ監督にとっては初の監督作品なのですが、はじめてとしては非常によく出来た、素晴らしい内容だったと思います。
そんな点も含めて予想外によかった今回の映画、前にも書いた通り、the pillows好きなら是非、足を運ぶべき映画だと思います。いまのうちに映画館へ急げ!
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