強い「癖」を感じさせるピアノ曲
Title:BEST of PIANISM
Musician:三柴理
今回紹介するのは、ピアニスト三柴理のベストアルバム。三柴理・・・ロック好きならばその名前を何度も耳にする機会があるのでしょうか。もともとは筋肉少女帯で「三柴江戸蔵」としてメジャーデビュー。その後、筋少は脱退するものの、ソロとして数多くのミュージシャンとコラボを行い、また2000年からは筋少で一緒だった大槻ケンジと特撮を結成。最近ではくるりのアルバムにも多く参加しています。
個人的に彼は大好きなピアニストのひとり。身長180cmを超える巨漢でありながらも非常に繊細なピアノの音色を奏でつつ、そのメロディーは一種独特なもの。不協和音的に奏でられるメロディーをあえて入れてくるあたり、非常に大胆不敵であり、その繊細さと大胆さのミスマッチが彼のピアノの大きな魅力に感じます。
本作はそんな彼のキャリアを総括するようなソロ作のベストアルバム。自身が作曲したナンバーのみならず、筋少や特撮、クイーンやエマーソン・レイク&パーマーのカバーもおさめられています。もっともベスト盤といいつつ8曲までがこのベスト盤が初出だそうですので、オリジナルアルバム的にも楽しめる1枚となっています。
さて、三柴理の魅力はまず1曲目の「黎明第二稿」から存分に味わうことができます。本人作曲によるこのピアノ曲は大胆なピアノの演奏を聴かせてくれる一方、ダイナミックな演奏の中に流れるメロディーラインは繊細さも感じさせます。さらにこのピアノのフレーズも、単純に「美しい旋律」と言えない強い癖を感じられ、まさに三柴理の魅力を存分に感じられる作品になっています。
またアルバムの中で大きく印象に残るのが、本作が初出となるクイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」のカバー。ダイナミックなサウンドと力強いフレディー・マーキュリーの歌が印象に残るナンバーなのですが、これをピアノ1本でカバー。ただ、楽曲の持つダイナミックな雰囲気はそのままに、一方ではまるで歌うような感情的なピアノの音色も強い印象に残るカバーに仕上げており、まさに三柴理の魅力がつまったカバーとなっています。
基本的には叙情感たっぷりに聴かせつつも一方では非常に癖の強いフレーズが頻発する、個性あふれる演奏が大きな魅力。ただ一方では音楽的なバリエーションも非常に広く、筋少のカバーである「サンフランシスコ」ではメタリックなサウンドに仕上げていますし、シルヴァノ・ブソッティの「友のための音楽」は現代音楽にも挑戦している楽曲。一方ではもともと国立音大に在籍したこともあるようにクラッシックの素養も兼ね備えたミュージシャンなだけにショパンの「雨だれ(Prelude Op.28 No.15)」も難なくこなしています。ただどの曲も三柴理らしい一癖を加えており、しっかりと彼の曲として仕上げてきている点も大きな魅力といえるでしょう。
美しいピアノ曲のアルバムながらも、そんな中に強烈な三柴理の個性を感じさせるアルバム。この世界感、かなり癖になりそう。それだけに多くのミュージシャンが彼のピアノの音色を取り入れるのでしょう。今後も、彼の名前はいろんな場所で見かけることになりそう。また次の彼のソロアルバムも楽しみです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Epitaph/Koji Nakamura
いままでNYANTORAやiLL名義で活動を続けていた元スーパーカーのボーカリスト、ナカコーこと中村弘二の本名名義での2枚目となるアルバム。もともとはストリーミングサービスで制作過程を公表する「Epitaph」プロジェクトで作成された楽曲をまとめた作品。エレクトロサウンドの中にHIP HOPやインダストリアル的な要素など様々な音楽性を感じさせ、その実験性を感じさせます。ただ、その当時の彼の気分がそのまま収められたアルバムではあるのですが、意外と全体としてはまとまりのある「ちゃんとしたアルバム」に仕上がっているあたりが興味深いところ。全体的にはドリーミーな雰囲気の作風に仕上がっており、ナカコーの「今」を楽しめる作品に仕上がっていました。
評価:★★★★
Koji Nakamura 過去の作品
Masterpeace
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