圧巻する2枚組セルフタイトル作
Title:THA BLUE HERB
Musician:THA BLUE HERB
その独特なスタイルで熱烈な支持をうける札幌出身の3人組HIP HOPユニット、THA BLUE HERB。途中、ソロ作を挟みつつ、THA BLUE HERBとしては約7年ぶりとなる待望のニューアルバムが完成しました。そんな久々のニューアルバムは圧巻の2枚組、全30曲という構成。さらにはセルフタイトルの作品になっており、その力の入れようがわかります。さらには作品はあくまでもILL-BOSSTINO、O.N.O.、DJ DYEというメンバー3人のみで作られており、客演は一切なし。まさにセルフタイトルというスタイル通り、これぞTHA BLUE HERBだ、という作品になっています。
正直言うと、全30曲入りの今回のアルバム、楽曲のバリエーションとしてはさほど多くはありません。O.N.O.のトラックにしても今回のアルバムに関して言えば、決して目新しかったり斬新だったりする訳ではなく、ある意味、いつものTHA BLUE HERBといった感じ。ピアノを取り入れて物悲しく聴かせるトラックは、メランコリックでメロディアスでありつつ、どちらかというとBOSSのラップのサポートを第一としたトラック作りのように感じます。ただ一方では、非常に個性的でインパクトのあるBOSSのラップの後ろで鳴りつつ、トラック自体も「これぞO.N.O.のトラック」というような強いインパクトを持っていることは間違いありません。
ただ、楽曲の面からは決して目新しいといった印象を受けず、良くも悪くもいつものTHA BLUE HERBという印象を受ける内容になっているものの、それでも全30曲2時間半に及ぶアルバム、最後まで耳を離せず一気に聴いてしまうのは、BOSSが綴り、そしてラップで刻むそのリリックであることは間違いありません。BOSSの様々な思いのたけを綴られたリリックは、リスナーに楽曲をBGM的に聴くことを一切拒否しています。セルフタイトルらしい力の入れようを感じる圧巻のリリックが続いていました。
アルバムは「EASTER」「WE WANT IT TO BE REAL」さらには「介錯」とシーンの中での自らの決意を綴った曲からスタート。さらに新しいHIP HOPシーンに対する皮肉を込めたメッセージを綴った「AGED BEEF」などは今のシーンに対する率直で厳しいスタンスが耳に残ります。
さらに中盤は一転、「THERE'S NO PLACE LIKE JAPAN NOW」ではオリンピック批判をはじめとした日本の今について綴った社会派な内容に。さらに「REQUIEM」では戦争から戦後を生き抜いた人たちに対する挽歌とも言えるメッセージが強い印象を抱きます。そして間違いなくDisc1のハイライトとも言えるのが「TWILIGHT」。おそらく若くしてこの世を去った後輩について綴った歌詞で、亡くなった後輩に捧げるリリックが涙腺を緩くする内容になっています。
もっとも個人的に今回のアルバムで一番印象に残り、かつ泣けたのがDisc2の「UP THAT HILL(MAMA'S RUN)」。おそらくDVから離婚したシングルマザーの母親として決意と覚悟を綴った歌詞で、子どもを持つ親ならば間違いなく泣けてくる内容ですし、それにこんな歌詞、よく書けるなぁ、と非常に感心してしまいました。ちなみに父親視点からの「HEARTBREAK TRAIN(PAPA'S BUMP)」がこの曲の前にあるのですが、こちらは父親の勝手な言い分に男としてもあまり共感できない・・・。
その後も東日本大震災について綴った「スーパーヒーロー」や力強い前向きのメッセージが印象的な「LOSER AND STILL CHAMPION」など、最後の最後まで耳を離せないナンバーが続きます。まさにセルフタイトルのアルバムの通り、非常に力のこもったメッセージが次から次への展開される内容に。全体的にはあくまでもBOSSのラップとそのリリックを聴かせることに焦点をあてたようなアルバムになっているように感じました。もちろん、そんなBOSSのラップが生きてくるのもO.N.O.のトラックがしっかりとラップを支えているからなのは間違いありませんが、アルバムとしてはラップを聴かせるという点を重視したような構成に感じましたし、結果としてTHA BLUE HERBの魅力をしっかりと伝える作品になっているように感じました。
セルフタイトルという力の入れ方は伊達じゃない傑作アルバム。2枚組というフルボリュームでありつつ、一切ダレることがなく最後まで文句なしに聴き切れてしまう作品になっていました。決して派手な作風ではないもののTHA BLUE HERBここにありを強く感じさせるアルバムで、間違いなく今年を代表する1枚と言えるでしょう。彼らの実力を強く実感てきた作品でした。
評価:★★★★★
THA BLUE HERB 過去の作品
TOTAL
ほかに聴いたアルバム
TOKI CHIC REMIX/土岐麻子
土岐麻子が直近でリリースした2枚のオリジナル「PINK」「SAFARI」に収録されていた曲を、様々なミュージシャンがリミックスを手掛けたリミックスアルバム。リミックスをほどこしたのは曽我部恵一、砂原良徳、tofubeats、WONK、Awesome City Club、STUTSなど、ベテラン勢から新進気鋭のミュージシャンまで豪華なメンバーがズラリと並んでいます。「PINK」「SAFARI」はシティーポップなアルバムでしたが、今回参加しているミュージシャンたちも、基本的には「シティーポップ」と呼ばれる音楽を奏でるミュージシャンたち。そのため、基本的には軽快なエレクトロのリミックスが多かったのですが、原曲の雰囲気と土岐麻子のボーカルの持ち味をよく生かしたリミックスに仕上がっていたと思います。若干、その分、良くも悪くもあくのつよいリミックスはなかったけど・・・「PINK」「SAFARI」が気に入ったのなら、文句なしに楽しめる1枚です。
評価:★★★★
土岐麻子 過去のアルバム
TALKIN'
Summerin'
TOUCH
VOICE~WORKS BEST~
乱反射ガール
BEST! 2004-2011
CASSETTEFUL DAYS~Japanese Pops Covers~
HEARTBREAKIN'
STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~
Bittersweet
PINK
HIGHLIGHT-The Very Best of Toki Asako-
SAFARI
テレビアニメ放送40周年記念 ドラえもん うたのコレクション
タイトル通り、テレビ放送40周年を記念して、過去の「ドラえもん」の主題歌・挿入歌を収録した4枚組のアルバム。Disc1,2は声優勢が一新された後の楽曲が、Disc3,4は懐かしい大山のぶ代時代の楽曲が収録されています。「大山ドラ」で育ってきた世代としては圧倒的にDisc3,4の方が懐かしいのですが、大人になって聴くと、Disc3,4の曲は出来の良し悪しの差が大きく、トータルでは「水田ドラ」時代の曲の方がしっかりと作られているという印象も。昔の曲から今の曲まで網羅されているので、「大山ドラ」で育ったパパママの世代と「水田ドラ」を触れている子供の世代が同時に楽しめるコンピになっています。
評価:★★★★
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