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2019年8月17日 (土)

真っ暗闇の中で流れる音楽

あいちトリエンナーレ2019 サカナクション 暗闇-KURAYAMI-

日時 2019年8月8日(木) 会場 愛知県芸術劇場大ホール

いままでサマソニやフジロックでは見たことがあったのですが、ワンマンとしてははじめて足を運ぶサカナクションのワンマンライブ・・・なのですが、この日参加したライブはちょっと普通のライブとは色合いの異なるステージでした。今回のライブは愛知県で行われる現代芸術のイベント「あいちトリエンナーレ」の一環として行われたイベントで、「暗闇-KURAYAMI-」と題された今回のライブは会場全体を一切の光も通さない真っ暗闇として、その中で「音」を流す試み。サカナクションの楽曲は基本的に行わず、暗闇の中で音がどのように響いてくるのかを実験・体験するという、このイベント自体が「芸術作品」という試みだそうで、その内容に興味が沸き、ライブに足を運ぶことにしました。

Kurayami1

Kurayami2

会場はあいちトリエンナーレのメイン会場のひとつである愛知芸術文化センターの中にある愛知芸術劇場のメインホール。事前にこの日のためのパンフレットも配られます。

Kurayami3 Kurayami4Kurayami5

ステージ上では上に遠目ではよくわからなかったのですがおそらくラップトップが載せられたメンバーの数の分だけの黒い台が並べられただけのステージ。さらにそれを途中、黒子のような黒い服に顔にも黒い幕をつけたスタッフにより、台の上のラップトップを囲むような覆いがセットされます。また、会場にも黒子のような格好のスタッフが、通路毎に待機していました。

やがて開演予定時間を5分程度過ぎるとメンバーが登場してくるのですが、普通のライブで発生するような観客からの拍手が起こりません。観客はただひたすらこれからはじまることをかたずをのんで見守るという不思議な雰囲気でのスタートとなりました。

そして最初にスタートしたのは「プラクティス チューニング リズムのずれ」と題されたセッション。ここで会場は真っ暗闇に。5分程度、暗闇の中でチューニングの音やメトロノームが鳴り響く空間を体験します。ただここのセッションはメンバーというよりも観客にとっての肩慣らし。この「暗闇」という雰囲気で不安を感じた場合にはライブの参加を取りやめてもらうためのセッションで、実際、何人か会場を立ち去る方も見受けられました。

この「プラクティス」が終わると本編がスタート。「第一幕 Ame(C)」のスタートです。会場には雨の音や雷の音が流れますが、全くの真っ暗闇ではなく、時折、雨や雷の映像がステージ上に流れては暗闇となる展開に。そんな自然の音がただ流れるだけの展開から後半はリズミカルな4つ打ちの打ち込みのサウンドが暗闇の中で鳴り響くという不思議な展開へと続いていきます。

続く第二幕は「変容」と名付けられます。この日、唯一、サカナクションの曲が流れたのがこのセッションで「茶柱」と「ナイロンの糸」が演奏されます。会場も暗闇だけではなく曲にあわせた映像も流れますが、ただ、映像の合間には真っ暗となり、暗闇の中でおなじみのサカナクションの曲を聴くという体験となります。さらに「茶柱」の最中では会場にお茶がたてられ、お茶っ葉のいい匂いが会場に流れます。耳と鼻からのみ音楽を体験するという実験的な試みとなっていました。

第三幕は「響」と名付けられ、ここでずっと覆いに囲まれた黒い台の後ろで演奏していたメンバーがステージの前に出てきます。メンバーはそれぞれ鈴や太鼓などを持ち、それらの楽器をそれぞれが鳴らすというスタイルに。鈴が鳴らされた時は観客席に配置された「黒子」も持っていた鈴を鳴らし、会場全体が鈴の音色に包まれるという、少々神秘的な雰囲気が作り出されます。

そして最後の第四幕は「闇よ 行くよ」と題され、ここでは完全に暗転。真っ暗闇の中でギターやシンセ、ドラムスの音などの様々な音が鳴り響くという空間となりました。サカナクションの既存曲が流された第二幕を除き、基本的には「音」が奏でられたいままでと異なり、第四幕では完全な暗闇の中で非常に実験的な内容とはいえ「音楽」が流されており、おそらく彼らが一番やりたかったのはこの第四幕なのでしょう。

その全四幕からなるステージはほぼ1時間で終了。最後はステージの後ろの幕も明けられます。芸術劇場の舞台は奥行も非常に広く、メンバーはまず観客にお辞儀をした後、その広いステージの後ろの方に静かに去っていくというラストで会場の幕を下ろしました。

さすがに基本的に暗闇でのライブなので1時間程度が見る側としても限度なのでしょう。ライブとしては比較的短いステージだったと思います。ただ、「暗闇で音を奏でる」ということ自体が一種の「芸術作品」だった今回のライブ、会場には全く光が入らない真っ暗闇。そのため、暗い中で目が慣れても何も見えないという状況に。ただそんな中で奏でられる音が嫌でも全身全霊で受け止めざるを得ず、非常に普段のライブでは味わえない独特な体験をすることが出来ました。

全くの暗闇の中で音だけが流れてきただけに、ひとつひとつの音がとてもクリアに、かつそれぞれの音が意味を持つかのように耳に飛び込んできます。いわば神経を研ぎ澄まして音に聴き入るという状況を意図的に作り出し、それを観客が共有する状況。ある意味、すごい試みなのですが、そんな客席の雰囲気を含めてひとつの作品としてとても興味深く体験できたイベントだったと思います。

ちなみに同公演はこの日だけではなく全4日間、昼・夜2回公演の計7回(1日、昼公演がない日があるので)となっており、「同じ会場で4日間連続で実施することで初めて可能になる緻密な演出」とあるので、おそらく他の日はまた違った形での公演となったのでしょう。普段のライブでは経験できないとても不思議でおもしろいイベント。貴重な経験が出来たと感じると共に、今回のイベントが今後のサカナクションの活動にどのようにつながっていくのか、とても楽しみです。

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