ドリーミーな世界観が前面に
Title:King's Mouth:Music and Songs
Musician:The Flaming Lips
途中、ベスト盤のリリースはあったものの、オリジナルアルバムとしては約2年半ぶりとなるThe Flaming Lipsのニューアルバム。今回のアルバムはもともと、今年4月に行われた年に1度のレコードの祭典、レコード・ストア・デイでアナログ盤として4,000枚限定でリリースされた作品。このアルバムは、The Flaming Lipsのフロントマンでもあるウェイン・コインのアート作品「King's Mouth」のサントラ的な位置づけを持つアルバムだそうで、ほぼ全編にわたり、元The Clashのミック・ジョーンズがナレーションとして参加。リスナーを「King's Mouth」の世界へと誘導しています。ちなみにこの「King's Mouth」なる作品はインスタレーションによる作品だとか。インスタレーションとはWikipediaによると「ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術」と定義付られているのですが、この「King's Mouth」という作品は前衛芸術家としても活躍しているウェイン・コインによる、非常にシュールな作品に仕上げられているそうです。
そのこのアルバムの元となる「King's Mouth」なる作品については私は見ていないのですが、「シュール」というその作品に対する評価に合ったような、楽曲全体として非常にドリーミーな作風に仕上がっていました。アルバムはミック・ジョーンズのナレーションからスタートするのですが、それに続く「The Sparrow」もアコースティックなサウンドにスペーシーなエフェクトがかけられてメロディアスながらも幻想的な雰囲気の楽曲に。続く「Giant Baby」もミック・ジョーンズのナレーションからスタートし、それに続く楽曲もゆっくりと、まるで夢の世界を歩いていくような、エレクトロサウンドとアコースティックなサウンドのバランスが絶妙な作品に仕上がっています。
その後もバンドサウンドで不穏さを醸し出す「Feedaloodum Beedle Dot」やコーラスを用いてダイナミズムとドリーミーな雰囲気を出している「Funeral Parade」、ストリングスやピアノをバックに歌われるハイトーンボイスのボーカルで夢のような世界を作り上げている「Mouth of the King」など、もともとThe Flaming Lipsというバンドはもともとドリーミーなサイケポップを奏でるバンドなのですが、その方向性がより強調されるような世界観の楽曲が並んでいます。
そのため全体的にドリーミーなサウンドが前に押し出されメロディーラインとしてさほどはっきりとインパクトのあるポップな作風の曲は少ないのですが、それでもしっかりとThe Flaming Lipsの魅力であるポップでキュートなメロはアルバムの中の要所要所で楽しむことが出来ます。例えば「How Many Times」もドリーミーなサウンドの中でとても優しくメロディアスでポップなメロディーが耳を惹きますし、MVも作成された「All for the Life of the City」も、ハープの音色や鳥の声などを取り入れて夢のような世界観をサウンドで構築しつつも、メロディーラインはポップでとても心地よいものに仕上げています。
アルバムの最後を締めくくる「How Can a Head」もストリングスとシンセの音色でドリーミーな空間を作りつつ、彼ららしいキュートでポップなメロディーをしっかりと聴かせるナンバーになっており、アルバム全体を締めくくっています。The Flaming Lipsらしいサイケポップな作品に仕上げられていました。
アルバム全体としてはやはり「King's Mouth」というアート作品のサントラという位置づけからでしょうか、正直言ってわかりやすいインパクトや派手さはあまりありません。ただ一方、サントラというコンセプトがはっきりしていることもあってアルバム全体としてはまとまりがあり一貫性あるサウンドが楽しめるアルバムに仕上がっていたと思います。また、ドリーミーなサウンドという方向性をベースにしながらもサイケポップというThe Flaming Lipsの魅力をしっかりと生かしている作品になっていたように感じました。
前作「Oczy Mlody」はサイケなサウンドに正直、最後の方は聴いていて疲れてしまった作品になっていたのですが、今回は40分程度という長さもあり、またアート作品を生かすためか、音的には抑えめ気味な構成として仕上がっていたため、いい意味でアルバム全体としてもすっきりとしてまとまっていた内容に仕上げられていたように感じました。彼ららしいとても心地よいドリーミーなアルバムとなっていた本作。その世界観を最初から最後まで楽しめた傑作アルバムと言えるでしょう。
評価:★★★★★
THE FLAMING LIPS 過去の作品
EMBRYONIC
The Dark Side Of The Moon
THE FLAMING LIPS AND HEADY FWENDS(ザ・フレーミング・リップスと愉快な仲間たち)
THE TERROR
With a Little Help From My Fwends
Oczy Mlody
GREATEST HITS VOL.1
ほかに聴いたアルバム
Order In Decline/SUM 41
カナダ出身のパンクバンドSUM 41の約3年ぶりとなるニューアルバム。パンク・・・というよりはメロコアやハードロックの色合いが強い楽曲が並んでいるのですが、哀愁感あふれるメロディーラインはインパクトはあり良い意味で日本人受けしそうなイメージも。全体的にはちょっと似たタイプの曲が多いかなぁ、という印象も受けるのですが、全36分という短さもあり、飽きることなく一気に聴き切れるアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★
SUM 41 過去の作品
UNDERCLASS HERO
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