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2019年8月10日 (土)

「究極の100枚」というのはちょっと言い過ぎな気が・・・

今日も最近読んだ音楽関係の書籍の紹介です。

光文社新書から出版された「教養としてのロック名盤ベスト100」。以前から様々な形で出版されているロックの名盤集。著者は、以前、当サイトでも紹介した「日本のロック名盤ベスト100」の著者でもある音楽評論家の川崎大助氏。そういう意味で本著はその「日本のロック名盤ベスト100」の続編的な立ち位置と言えるかもしれません。

まず正直言ってしまうとこの「ベスト100」。日本における一般的な評価から考えるとかなり癖のあるリストになっています。その理由としては、同書でベスト100として選んでいるのは川崎氏の「主観」によるものではなく、アメリカの音楽誌「ローリング・ストーン」誌が2012年に発表した「500 Greatest Albums of All Time」とイギリスのNMEが2013年に発表した「The 500 Greatest Albums of All Time」を比較して、どちらのリストにもピックアップされているアルバムを抜き出した上、単純に順位に従ってポイントをつけて合算したもの、であるため。本人は「このような計算にもとづいたリストが公表されることは、僕が知るかぎり、国際的にみて前例はないはずだ」と自画自賛しているのですが、誰もが最初に思いつきそうなやり方だと思うのですが・・・・・・。まあ、膨大なリストを集計して得点化するというのはかなり大変な作業であることは間違いなく、それをやってしまった、という点には敬意を評したいところですが・・・。

ただ、その結果として、本人も後書き等で散々述べているのですが、日本で一般的に考えられている「名盤」がかなりランク圏外になっており、非常に癖のつよいランキングとなっています。同書でも具体的に述べられているのですが、レッチリやU2、ポリスもエルトン・ジョンもoasisもビョークもクイーンも載っていません。逆にPavementの「Slanted and Enchanted」とかBlondieの「Parallel Lines」などもランクインしているのですが、ここらへんは日本での名盤集では少なくともベスト100にはまず入ってくることはない気がします。同書では冒頭にこの100枚を「究極の100枚」と記載し、「あなたがロック通を自認していて、なおかつこの『100枚』のうち1枚でも聞き漏らしがあったらなー正直言ってちょっと『まずい』かもしれない」と書いているのですが、さすがに「それは言い過ぎでは?」と思ってしまいます。

もっとも、私たちが日本で「名盤だ」と思っているようなアルバムも、実は欧米ではそれほど高い評価を得てない、ある種の「ビック・イン・ジャパン」だったということだけなのかもしれませんし、そういう意味では「欧米」の基準を知ることが出来るという意味では興味深いリストと言えるかもしれません。逆にArctic MonkeysとかThe Strokesとか意外と欧米でも高い評価を得ているんだな、と気が付かされますし、個人的にはPixesの評価が高い点もうれしく感じました。

ネタバレになるので上位陣については書きませんが、ベスト10についてはオーソドックスなランキングで、1位についてもまあ納得感のある印象。「え?そんなに評価が高いの?」というアルバムも少なくありませんが、これを基準にして片っ端からアルバムを聴いていっても間違いなさそうなリストなのは事実。強い癖はあるものの、それなりにまとまっていた「名盤集」になっていました。

さて、そんな「名盤」を川崎大助氏が解説していくわけですが、正直言えばこちらにも癖があります(笑)。以前の「日本のロック名盤ベスト100」の感想でも書いたのですが、彼は今時珍しくなった「ロック至上主義」的な見方があり、それはそれで悪くはないのですが、ただちょっと思い入れが強すぎるような部分がありますし、それ以前に「ロック」系以外のCD評についてはちょっと雑に感じてしまう部分も。特にAretha Franklinの「Lady Soul」のCD評など、収録曲が売れてかついろいろとカバーされているという事実だけが記されており、正直思い入れがないんだろうなぁ、ということを如実に感じてしまいます。

また、偏りが多くて癖のあるリストと本人も言っているのだから、個人的には「+α」として10枚程度、ランク外になったものの聴くべき「名盤」をリストアップしてCD評を載せて欲しかったな、という感じもします。そこらへんは本のボリュームとして載せられなかったのは、それとも主観的な部分を徹底的に排除したかったのかは不明なのですが・・・それとも、それは巷にありふれている他の「名盤ガイド」を読んでくれ、ということなのでしょうか。

このように様々な側面から非常に癖の強い1冊であることは間違いありませんが、ただロックの名盤をいろいろと聴こうとする最初の一歩としては間違いはない感じ。また、ロック好きにとっても聴き漏らしがないかのチェックにもちょうどよいリストかもしれません。まあ、この手の「ベスト100」って日本だとロケノンがやってもミューマガがやっても強い「癖」のついたリストが出来上がるので、それに比べても幾分はマシかもしれませんし・・・。

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