女王の貫録と攻めの姿勢
Title:Madame X
Musician:Madonna
女性に対して年齢のことを言っては失礼かと存じますがあえて・・・昨年、ついに還暦を迎えたマドンナ。その事実だけでも驚いてしまうのですが、今の写真を見ても、そんな年齢を感じさせない美貌を維持している事実には「還暦」という年齢以上に驚いてしまいます。そんな彼女の最新作はサッカー少年の息子、デビッドに英才教育をさせようとポルトガルに移住した彼女が、現地ポルトガルの音楽に影響を受けて作成した作品。息子のためにポルトガルに移住してしまうあたり、子ども第一のママさんぶりを発揮している点がほほえましいのと同時に、だからってあっさりとポルトガルに行けてしまう点にそのセレブぶりを感じてしまいます・・・。
そんな環境の中でリリースされた本作は、まずはマドンナの女王としての貫禄を存分に感じることの出来るアルバムに仕上がっていました。まず最大の特徴としてはアルバムの要所要所にちりばめられている、様々な音楽からの強い影響。例えば1曲目の「Medellin」はまさにポルトガルの音楽からの影響を強く感じるレゲトンの要素を入れたポップス。「Future」もレゲエ風のリズムが入っており、ここらへんもポルトガルに移住した影響でしょうか。ただ、それらの曲に加えて「Batuka」や「Faz Gostoso」など、全体的にはトライバルな要素を強く入れた内容に仕上がっています。
ただ、様々な音楽からの影響はポルトガル移住によるものばかりではありません。例えば「God Control」ではゴシック風なアレンジを聴かせてくれますし、「Killers Who Are Partying」のストリングスからは和風な要素すら感じます。ポルトガル移住の影響はアルバムの中で確かに感じられるものの、それはこのアルバムを形作る数多くのパーツのひとつにすぎません。また、そんな還暦を迎えた今となってなお、様々な音楽の要素を取り入れてくるあたり、彼女の年齢を感じさせない攻めの姿勢を強く感じます。
またどの曲もそうなのですが、どんなタイプの音楽の影響を加えようと、楽曲自体はあくまでもマドンナの曲に仕上がっていました。それはそれで様々な音楽的要素を入れるという攻めの姿勢に反して、いままでのアルバムと似た感じになってしまっているというマイナスの要素もあるのですが、どんな曲になろうと私は私、というマドンナの女王としての貫禄も感じさせます。ここらへんはさすがといっていいでしょう。
攻めの姿勢は作詞の面でも見受けられます。例えば「I Rise」はアメリカフロリダ州の高校で起きた銃乱射事件をモチーフとし、銃規制運動を先導した同校の生徒エマ・ゴンザレスのスピーチから曲が始まっていますし、「God Control」のMVでも銃犯罪の悲惨さをモチーフとして話題を呼んでいます。さらに「Killers Who Are Partying」では
「I'll be Islam, if Islam is hated
I'll be Israel, if they're incarcerated」
(もしイスラム教徒が嫌われるのなら私はイスラム教徒になろう
もし彼らが監禁されるのなら、私はイスラエル人になろう)
(「Killers Whe Are Partying」より Written by Madonna Ciccone / Mirwais Ahmadzai)
と歌い、この曲では世の中で不当に差別されている者や弱者に寄りそう姿勢を強く示しています。銃規制にしろイスラムの問題にしろ、アメリカでは特に騒がれるような論点であるため、そこであえて彼女なりの姿勢を表明する点でも彼女の攻めの姿勢を強く感じることが出来ます。
楽曲自体は前述の通り、様々な音楽性を入れつつも最終的にはいつもの彼女という部分が良くも悪くも見受けられるのですが、そこらへんを含めて女王の貫録と今なお続く攻めの姿勢を感じさせる作品に。還暦を過ぎてもまだまだ彼女の攻撃はおさまりそうにありません。
評価:★★★★
MADONNA 過去の作品
Hard Candy
Celebration
MDNA
Rebel Heart
ほかに聴いたアルバム
The Rolling Stones Rock and Roll Circus/The Rolling Stones
1968年にローリングストーンズが作成した映像作品「ロックンロール・サーカス」。ストーンズのほかにはジョン・レノン、エリック・クラプトン、The Whoなど大物ゲストが参加し、作品としては完成させながらも、その後、世に出ることがなく封印され「幻の作品」として知られていました。それから30年近くが経過した1996年にようやくVHSとサントラ盤がリリースされ、日の目を見ることになりました。
その後、2004年にはDVD化。個人的にはこちらのDVDを見ているのですが、このたびBlu-rayを含めて再発。その際にライブCDも同時にリリースされました。基本的に映像を前提とした作品なのですが、ただ音源だけを聴いても60年代当時の貴重な空気は伝わってきます。長く封印された理由としてストーンズ本人がその演奏に納得いかず、かつ直前のThe Whoの演奏の出来が良かったため、The Whoの演奏の前にストーンズがかすんでしまうため、という理由が語られていましたが、確かにThe Whoの「A Quick One While He's Away」は圧巻。その力強いパフォーマンスに惹きつけられます。ただその後のストーンズの演奏が悪いか、と言われると決してそうではなく、今となっては60年代の貴重な演奏として聴く価値が十分にある出来になっています。映像作品のためまずはDVDなりBlu-rayなりをチェックしておきたいのですが、ライブCDも非常に聴きごたえある内容でした。
評価:★★★★★
The Rolling Stones 過去の作品
Shine a Light: Original Soundtrack
Some Girls LIVE IN TEXAS '78
CHECKERBOAD LOUNGE LIVE CHICAGO 1981(邦題 ライヴ・アット・ザ・チェッカーボード・ラウンジ・シカゴ1981)(MUDDY WATERS&THE ROLLING STONES)
GRRR!
HYDE PARK LIVE
Sweet Summer Sun-Hyde Park Live
Sticky Fingers Live
Blue&Lonesome
Ladies & Gentlemen
ON AIR
Voodoo Lounge Uncut
Honk
Die A Legend/Polo G
今、シカゴのラップシーンで最も注目を集めるラッパーPolo Gのデビュー作。同作ではいきなり全米チャートで6位を獲得。まさに人気上昇中のラッパーと言えるでしょう。ジャンル的には「ドリル・ミュージック」と呼ばれ、トラップ・ミュージックと似たような、不穏で重いビートにシカゴの治安の悪化に影響された暴力的な歌詞を乗せているのが特徴だそうです。確かにトラップ・ミュージック的な重いビートが特徴的な本作ですが、それと同時に非常に悲しげで、でもメロディアスな雰囲気を感じるトラックも魅力的。ラップも歌うようなラップが多く、シカゴの現状を嘆くかのような悲しい雰囲気が伝わってくるよう。不穏な雰囲気を感じつつも、意外と聴きやすいポピュラリティーを両立させており、デビュー作のヒットも納得の傑作でした。
評価:★★★★★
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